はじめて!
オーディションは事務所の客室の一室を貸し切ってやることになっていた。
ひな達は事務所の同僚達と共に、廊下の座椅子に間隔をあけて座っている。
間隔開けて座っているので、すぐ隣のかえとも世間話をすることもできない。
だがたとえ近くにいたとしても今のひなには世間話をする余裕などなかったのだけれど。
周りの同僚の声優達のピリピリとした雰囲気にすっかり飲まれていた。
それぐらいひなも緊張しきってしまっていた。
次々に同僚の声優達が呼ばれて部屋に入っていく中でひなはじんわりと吹きだす汗を拭う。
あ、次が私の番だ、どうしよう。
どうすれば……。
「からひなっ」
今から台本を読みなおすかな……。
うーん……でもしかし……。
「おい、からひなっ」
いつの間にか隣に来ていた、かえに小声で話しかけられていた。
どうやら順番が来ているのに気付いていなかったようだ。
「おまえ、緊張しすぎ。もっと気楽にいってこい。どうせクレジットにはのらないんだし」
そう言いながらニシシとかえはひなに笑いかける。
そしてひなの手をゆっくりと両手で握りしめて。
「ひなならできるよ」
そう言って背中をぽんっと押して送り出してくれた。
結果を言えばオーディションはかえの言葉で緊張がほぐれたのか、自分でもびっくりするぐらい、上手く演じることができた。
審査の人も『キミ初めて?』と訊ねてくるくらい上手くできた。
会場から出ると中の様子を心配そうに伺っていたかえと顔があったので。
「かえ先輩のおかげでばっちりでした」
と小声で、伝える。
その言葉にかえは嬉しそうにしながらも。
「ま、お前だけおちるのはシスターズとして恥ずかしいからな」
そんなことを言いながらツンとそっぽを向いて会場へと入っていった。
素直じゃないな、ホントに。
そう思いながらクスリとひなは微笑んだ。
「ひなちゃんとかえちゃん、またいちゃいちゃしてる……ぐへへへぇ……」
二人の姿を遠目に見つめながらなつは台本によだれを垂らしていた。
―――
三人はオーディション終了後、お疲れ様会を兼ねて、近場の定食屋に来ていた。
「とりあえず、今回の仕事もらえたら、当分お金に困らないなー」
「え、そんなにお金入るんですか?」
「ん……まぁワード単位で払ってくれる会社だから、結構な額になると思う」
そうなのかー……。
18禁の端役といえど侮れないなぁ……。
そしてお金の事と言えばと、ふとひなはかえが以前入って行ったビルの事を思いだす。
「でも、かえ先輩、そんなにお金に困ってるんですか?」
「んー……あー……。まぁ、ちょっとなー……」
かえはひなの質問に言葉を濁す。
「かえちゃんは、仕送りとか一切なしだからねぇ……」
「ま、兄妹も多いししょうがないんだけどな」
「それもあるけど、かえちゃんにはもう一つ理由があるでしょー……」
なつはかえを促すように言葉を続ける。
「かえちゃんもいいかげん妹離れしないとね」
「え……。かえ先輩、妹さんいたんですか?」
「なんだよ、そのとっても意外だっていう視線は。いちゃ悪いか?」
「いや、だって……」
かえ先輩は端から見ると疑似ロリっ子だし。
とっても妹がいるようには見えない……とは言えないひなだった。
「うちのひきこもニートの話は良いから、そろそろ帰ろうぜ」
「え、ニートなんですか?」
「そ。学校にも行かずに引き籠り。しょうがないっていえばしょうがないんだけど」
「なつ。それ以上、うちの事情喋ったら絶交な」
「は~い……」
もっとかえ先輩の事を詳しく知りたかったけど、本人が言いたくないならしょうがないかな。
かえ先輩に嫌われたくないし。
そう思いながらひなは席を立つ。
そしてその日はまだちょっと事務所に用事があるからという理由で、その場で解散となった。
後日。
送られてきたオーディションの結果は無事、採用との事だった。
かえやなつも採用でシスターズは三人そろって出演することとなった。
名前がクレジットされないゲームの、だけれども。
でも、これは進歩だと思う。
今まで、声優という仕事をできていなかったのだし。
だから、これをバネに頑張っていこう。
そう心に決めるひなだった。
読んでくださってありがとうございます!
次回から視点が変わるかもな?ななりあがりシスターズ。
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今後ともよろしくお願いいたしますm(__)m




