おーでぃしょん!
「ま、オーディションって言っても、うちの事務所と契約してくれてるA社さんのソーシャルゲームの端役なんだけどね。だから、緊張しなくても良いわよ。普通にやってれば受かるから」
「どんな役なんですか?」
「それは後で資料送っとくから読んどいて。シクヨロー」
そんな言葉を残して配信室を出ていくマネージャーO。
そっか……。
ついに。
ついに声優デビュー……。
ソシャゲの端役だけど声優は声優だ。
その事実にひなは素直に嬉しかった。
この仕事をバネに更なる飛躍を……。
そう思いながら、うきうきした気持ちを隠せずにひなは事務所を後にした。
―――
「なんか嬉しそうだな、からひな」
帰り道、なんだかうかない表情のかえに声をかけられる。
「そりゃそうですよ。オーディションですよ? オーディション。声優の仕事が初めてできるかもしれないんですから」
「まぁそうだなぁ……。でもA社さんの仕事はなー……あれだからなぁ……」
「?? どういうことです?」
「まぁ……台本みりゃ分かるよ……」
「はぁ……そうですか……」
曖昧な言葉でお茶を濁されてしまった。
「それはそうと、今日は月が綺麗ですねー……」
ビルの陰から登ってきた月を見上げながらひなは呟く。
「は……?」
その言葉を聞いたかえは顔を真っ赤にして。
「からひな……。お前それ意味分かっていってる?」
そう問い返してくる。
はて、何の事だろうと思いながら、はっとひなは思い当たる。
そしてひなの顔もあっという間に朱色に染まる。
「うへへへぇ……お二人の愛の言葉しっかりといただきました~……じゅるり」
「……かえは何も答えてないぞ。ていうか、なつは帰り道違うのについてくんな!」
「いいじゃない、かえちゃん~……二人のいちゃいちゃで熱々な写メとりたいんだし」
「だから、それは営業だーーー!!! お前が撮るのは禁止っ!!!」
かえはなつの体をぽこぽこと軽く叩きながら抗議する。
はぁ……私達三人はこれから先もずっとこんな感じでやっていくんだろうな。
そう思いながらひなは、かえとなつの姿を見つめていた。
―――
「えー……と……これは……」
二人と駅で別れた後、電車を乗り継ぎ。
家に帰り着いて早速パソコンでマネージャーOから送られてきた台本を見てみると。
そこには、とても際どい台詞の数々が並んでいた。
ひなは無言で、マネージャーOに連絡をとる。
『あー。A社さんって18禁サイトにだしてるゲームもやってるから。だからまぁそういうことで』
「えーっと……」
『あんた達は端役だから、べつにそういうシーン無いから安心して良いわよ?』
「それはそうですけど……」
『それじゃ、シクヨロー』
その言葉と共にガチャリと通話が切られる。
窓の外で輝く丸い月を見上げながらひなは、はぁ……と一つ大きなため息をつく。
かえがうかない表情だったのはそういう意味だったのかと思いながら。
そりゃそうだよねー……。
18禁ゲームの端役で、うきうきなんてできないか。
数時間前の自分を呪ってあげたい気分だ。
ひなは陰鬱とした気持ちでオーディションの台本を見つめる。
まぁ……たしかに自分達が受ける役の台詞は別に何の問題もない。
問題も無いのだけれど……。
「18禁かぁー……」
それはつまり自分の役者歴にはのらない役になる。
それでも一応声優のお仕事はお仕事だ。
なら、それはしっかりと紳士に取り組まなければならない。
しかし……それはそれで、である。
結局のところ、18禁作品という所に引っかかってしまう。
おそらく、クレジットにも名前はのらない、もしくは偽名になるのだろう。
つまり、『唐津ひな』としての声優デビューはまだまだ先になるという事だ。
「はー……」
ぽふりと体をベッドに預け、枕に顔を埋める。
「かえ先輩……どうしてるかな……」
ぼんやりとグループラインを見つめていたら。
ポコンとメッセージが来ていた。
かえからだ。
『まぁ今回もまたしょうもない役だけど、がんばろうぜ』
「……」
きっとかえやなつはこれまでもこうした仕事をこなしてきたのだろう。
自分もわりきっていこう。
かえのその言葉で、ひなはそう思うことにした。
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18禁営業(仮)ななりあがりシスターズ。
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