二人の時間。
真夏の日差しが照り付ける水面。
テラス席の日陰でぼんやりと海を見つめながらひなは呟く。
「暇ですね」
「暇だなぁ……」
デートの最中だというのにそんな言葉が出てしまった。
決してつまらないという訳ではない。
緊急事態宣言が明けて間もないので、お店があまり空いていないのだ。
どこかの水族館に行こうかという話にもなったけれど、水族館はなつ達に見つかる危険があるそうな。
なんでも、なつが水族館好きで今頃あゆみと二人でまわってるんじゃないのかと。
そんな訳で、適当な所で、海辺の景色の良い喫茶店のテラス席に座って世間話を始めたのは良いのだけれど。
すぐに話題が尽きてしまった。
何故なら、ここのところ二人で居る事が多かったうえに、共通の話題はこの数か月のユニット活動で話しつくしてしまった。
ので、改めて話すような話題が無くなってしまったともいう。
何か話題はないかなと思い、かえに視線を移すと。
真正面から見つめているかえと視線が交錯する。
「あ……。えっと……、顔に何かついてますか?」
「いやー? ただ、からひなは可愛いなと思って見てた」
可愛い……。
その言葉にひなは顔が真っ赤になってしまう。
ずるいな、かえ先輩は。
いつもそういう事を言ったりして私の心を惑わしてしまう。
ひなは仕返しをしてやろうと思い。
「かえ先輩だって可愛いですよ。ちっさくて」
海の方を見つめながらそう呟く。
「小さいはよけいだ……」
ひなの可愛いという言葉に特段照れもせずにかえは『にひひ』と笑みを浮かべながら反論してくる。
そして再び訪れる沈黙。
細波の音が聞こえてくるくらい静かな沈黙。
二人の間に言葉はなかったけれど。
けれど、それがどこか気持ち良くて。
こんな時間がずっと続けばいいなと思ってしまう。
思ってしまった。
「からひな、何で声優になりたいと思ったんだ?」
そんな空気が流れる中、ふと思ってもみない質問をされた。
声優になりたい理由……。
それは……。
「それは、私の小さい頃からの夢……、だからですかね」
「そっかー……夢かー……。ならしょうがないな」
「そうですね、しょうがないんです。夢は、諦めたくないですし」
風に揺れる水面を見つめながら、ひなは自分に確かめるように言葉を口にする。
ゆらり揺れる水面はそんなひなの言葉をゆっくりと飲み込んでいく。
「……かえ先輩は、なんで声優になりたいんですか?」
初対面の時にひなに言った理由は、確か『声優だったらこのロリボイスでいつまでもチヤホヤしてもらえるから』だったか。
でもそれだけじゃない。
そんな理由だけじゃ声優を目指さないはずだ。
「……かえかー……かえはなー……」
同じく水面を見つめながらかえはポツリポツリと言葉を紡ぐ。
「かえは女優志望だったんだ……。でもこんなチンチクリンで童顔な女優なんて誰も望んじゃいない」
ポツリポツリと悔しさを吐露するように。
「でも演じる事はやめたくない。やめたくなかった。だから声優になろうって決めたんだ」
ゆっくりとゆっくりと時間が流れていく。
かえの言葉を聞きながら……。
ひなはぼんやりと思う。
私とかえ先輩は同じなのだと。
スタート地点は例え違っても。
目指すゴールは同じ仲間。
同じユニットの仲間。
ひなはゆっくりと席を立つ。
そしてかえの手を掴むと。
「私達のステージはこれからですよっ。だから前を向いていきましょう!」
「……そうだな……。何せかえたちは『なりあがりシスターズ』だからな」
ひなが握った手を見つめながら。
かえはひなの手を強く握り返すとにひひと悪戯ぽく笑顔を漏らす。
そして二人は手に手をとりあってテラス席を後にした。
―――
「はぁぁぁ尊いよー……。時代はひな×かえだねー……じゅるり」
「かえちゃま、かえちゃま、かえちゃま~……」
離れた席で、がっしりとあゆみの手を掴んで、なつはぐへへとよだれを垂らしていた。
読んでくださってありがとうございます!
百合営業中ななりあがりシスターズ。
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