おといれ。
ひなは今、トイレの個室に籠っていた。
「せ……狭い……」
「我慢しろ、我慢っ」
ひなは花を摘むためにトイレの個室に入ったわけではない。
かえと一緒に、その場しのぎの為にトイレの個室に籠っているのだ。
「……どうしましょう……先輩……」
「どうしましょう……って言われてもなぁ……」
ひなとかえはコソコソと顔を寄せ合って話をする。
「いつまでもここに立て籠ってるわけにもいかんだろ……」
「ですよねー……」
ひな達からは見ることはできないが、トイレの外には仲良く話すなつとあゆみの姿。
「でさー、あのシーンのかえちゃまって、本当に可愛いのっ」
「だよね、だよね……尊いよね……じゅるり」
あー……。
早くどっか行ってくれないかなぁ……。
あの二人……。
そう思いながら、ひなは小さくため息をつく。
いや、かえと密着してるこの状況は、どちらかというと嬉しい状況なのだけれども。
このご時世、密閉、密集、密接の三密状態は非常にまずい。
まずすぎる。
こんな事態がばれたらマネージャーOに怒られてしまう。
それだけは避けなければならぬ。
避けねばならぬのに。
「そもそも、な、ん、で、あゆみ達が舞台の見学に来てるんだよ……」
「さぁ……何ででしょうね……」
なつはシスターズのメンバーだから、まぁマネージャOの許可を取って見学にきたのだろうけれども。
何故、一緒にあゆみまでいるのかが謎だった。
そもそも問題、なぜこういうことになっているのか。
経緯はこうである。
演劇の稽古が終わり、顔を洗おうとトイレに入った所で、かえと一緒になった。
その後すぐに、何故か聞き覚えのある声が聞こえてきたので、かえにトイレの個室に引っ張りこまれた。
かえはともかく何故自分まで隠れる必要があったのか?
それはひなには知る由もない。
そして、現状に至る。
ドアの外からは楽しそうに話す、なつとあゆみの声が響く。
「ていうか……、我慢の限界なんだけど……」
「はぃ!?な、何の我慢ですかっ!?」
ボソリと呟いたかえの言葉に思わずひなの声のトーンが高くなる。
「シーーーーっ!!! 声が大きいっ、気付かれるだろっ!」
「は……そうでした、すみません……」
かえに口を塞がれながらももごもごと、ひなは謝罪する。
どうやらドアの外の二人はお喋りに夢中で個室のひなたちの事は気付いていないらしい。
「何って……トイレでやることなんて……。決まってるだろ……」
……は。
そうだった、ここはトイレの個室だった。
そしてやることと言えば、一つしかない。
『花摘み』
そう。
花摘みだ。
「わ、私は後ろ向いてるので、用をたしちゃってくださっても結構ですよっ、先輩っ」
「……一度ぶん殴ってやろうか、この野郎」
思いっきり冷たい瞳で見つめられた。
ですよねー……。
こんな密閉空間で、後ろ向きとはいえ他人のいる前で用なんかたせませんよねー……。
そういう話をしていると。
「それじゃ、かえろっか、なつ」
「そうだね、あゆちゃん」
そんな言葉が聞こえてトイレから二人の声がトイレから遠ざかっていく。
「……行ったか?」
「そうっぽいですね……」
トイレの外の様子を音でうかがいながらひなは答える。
「じゃあ、早く出ろっ。今、すぐにっ!!」
顔を真っ赤にしながらかえはひなにそう告げる。
「は、はいっ。すいませんでしたっ」
ひなは別に何も悪い事はしていないのだけれど(そもそも連れ込んだのはかえなのだから)、ひなも顔を真っ赤にしながらトイレの個室から飛び出した。
そして……。
「はぁ……。や、やばかった……」
「それは良かったです……」
ひなとかえは二人でトイレからでた所で、身を潜めていた二人組に出くわした。
言わずと知れたなつとあゆみである。
「二人とも……先程はめちゃくちゃお楽しみでしたね……じゅるり」
「もうっ、私もかえちゃまと密閉、密集、密接したいーーーっ♪」
そう言いながら、あゆみはかえに抱きついてくる。
「うわっ!! やめろ!!! 放せっっ!!! あゆみっっ!!!」
かえはものの見事にあゆみに捕まり、頬ずりをされる。
その光景を見つめため息をつきながら、ひなはなつに問いかける。
「……気付いてたんですか?」
「そりゃそうだよ、劇場におトイレ一個しかないもん」
結局、おトイレに籠っていた意味は、全くなかった。
読んでくださってありがとうございます!
不健全な方向にむかいつつあるなりあがりシスターズ。
ブクマ感想等つけてもらえるとうれしいです。
今後ともよろしくお願いいたしますm(__)m




