ゆりゆらら?
『数字が取れれば、手段は何でも有りっ!!』
ですよねー……。
そう言うと思いましたよと、ひなは一つ大きなため息をつく。
しかしその言葉にどこか安心している自分がいる事に気付いてしまった。
結論として言えば、マネージャーO公認でひなとかえは百合営業をすることになった。
「でも、なんで私だったんですか?なつ先輩でも良かったんじゃ……」
百合営業をする相手だったら幼馴染のなつでも良かったはずなのに。
隣を歩くかえに向かい言葉を投げかける。
現在、早速百合営業をしようというかえの提案で、二人でお出かけしている最中だ。
「なつなー……あいつは時々キモいからなんかやだ」
なつがキモいのはまぁ……。
否定は……しない……。
何故なら配信中もひな達を見る目がいやらしいことがあるのだから。
「それに演劇の主役とヒロインの百合営業だぞ。話題性バッチシじゃん?」
そう言いながら、うへへへとかえは悪そうな笑みを浮かべる。
うん、これは何か深い意味があっての百合営業じゃない。
この人もマネージャーOと同じく数字が。
人気が欲しいのだという事を思い知らされる。
はぁ……なんかドキドキして損した。
ひなは心の底で深いため息をつく。
と、同時になんだか少し空虚な想いが訪れる。
あれ……なんでだろう?
ぼんやりとかえの横顔を見つめながらひなは歩を進める。
「ん?なんか私の顔についてるか?」
その様子に気付いたのかかえがひなに問いかけてくる。
「あ、いえいえ。何でもありません」
慌てて手を振り振り否定する。
そう。
あれは自分の思い違いだったのだと同時に否定するように。
あれは一時の心の迷いだったのだと。
「それで、具体的には百合営業って何するんですか?」
「そりゃまぁ……あれだ。……手でも繋いどくか?」
少し恥じらいながらかえはひなに向かって片手を差し出してくる。
ひなも頬を朱色に染めながらかえの手を握る。
ふに。
握ったかえの手のひらは子供の様に柔らかくて。
そしてとても温かくて。
ふと、ずっとそうしていたいなと思ってしまった。
だーかーら、これは営業。
え・い・ぎ・ょ・う。
百合、営業なんだから。
本気になっちゃだめだ、だめだ。
そう思えば思うほど。
自分の頬が火照ってくるのが分かる。
そんなひなの様子を見つめながらかえは意地が悪そうににひひと微笑む。
そして。
「よーーーし。今日は命一杯、遊ぶぞー!!」
「……は、はい」
二人は手に手をとりあって駆け出しはじめる。
その日から。
二人の緩い百合営業が始まりを告げた。
そんな二人の姿を、こっそりとつける影が一つ。
「うへへへ……百合営業……それでも尊い……」
サングラスをしてよだれを垂らす残念ななつの姿がそこにあった。
―――
「あなたの願い、叶えてあげる……」
舞台の上に立つひなは囁くように、男装のかえにそう告げる。
「あなたの<夢>を犠牲にして……ね……」
クスリと闇を背負った笑みを浮かべるひなの姿に物怖じもせず。
かえは台本通りこう告げる。
「ぼくは叶えたい願いがあるんだ!!その為なら<夢>なんて要らないっ!!」
小さな体全体を使い表現する。
その姿に舞台上にいるひなですら見惚れてしまうほどだった。
さすが元子役……。
私の演技なんてかえと比べるとまだまだお遊戯会レベルだなと自覚してしまう。
ひなは台本を握り締め、かえに負けないようにと。
ひなは更に役に没頭する。
「いいよ。それじゃあ……」
そう呟きひなの頭に手をかざす。
「これであなたの願いは叶った……」
クスクスと妖しい笑みを浮かべながら。
ひなは心の底から笑う。嗤う。
かえの。
少年から奪った<夢>を見つめながら。
ひなは舞台でクスクスと笑みを漏らし続けた。
クスクスクスクス……。
「カーーーット!! 良いね! 良いよ! その表情っ!! 二人とも良い演技だっ!!」
「「ありがとうございますっ」」
舞台上の二人の役者の声がハモる。
「特にかえ。やっぱりいいねぇ。さすが元子役。少年役も板についてる」
「それほどでもないんだぞっ★」
先程までのボーイッシュな雰囲気とうってかわって、キャピキャピ口調に戻るかえ。
役作りに役作りを重ねるのは大変だろうなと、ひなはかえを見つめながらぼんやり思う。
いや。
でも少年役のかえは、自然体の役を作っていないかえに近いのか。
そう言う意味では、舞台に上がっている時より、今ウィング先生と話している時の方が役を演じていると言えるのかもしれない。
「ひなの願いを叶える少女役もハマってる。もっと妖しい雰囲気作っちゃって良いよー」
「わかりましたっ」
もっと、妖しく……か。
うーん……どこをどうすれば良いかなと思いながら、台本に目を移す。
移そうとしたところで。
「そんなに難しい顔しなくても大丈夫だよ★からひなっ★」
そんな言葉と共にぽふんとかえが抱きついてくる。
「ちょ、先輩っ」
急にかえに抱きつかれてひなは体の重心が傾いてしまう。
「え、ちょっ……」
座っていた椅子から崩れ落ちそうになる所をかえに抱きとめられた。
ひなの目の前にはかえの大きな瞳。
お互いの吐息が。
息遣いが感じられる距離。
ぽかんと見つめるひなとそれをじっと見つめるかえ。
あ……れ……。
これってどういう状況?
沈黙の中でひなの思考がぐるぐる回転し停止していく。
「おっ! いいねいいね、そのシチュエーションっ!! 台本修正したくなってキターーー!!!」
ウィング先生の言葉にハッと我に返り、お互いにササッと距離をとる。
「……」
「……」
再び訪れる沈黙。
ほんのり顔を朱色に染めてひなは、少し距離をとったかえの表情を伺う。
けれど、かえは微妙にひなから視線をそらしていて表情は伺い知ることができない。
かえは今どんな表情をしているのだろう?
そんな思いがひなの胸に去来する。
「いいねいいねー。本当に百合って素晴らしいね!!」
ひなの想いを知る由もなくウィング先生は冷やかし気味に言葉をかける。
これも百合営業。
百合営業だ……。
そう思いながらも高鳴る鼓動を隠せずにいるひなだった。
読んでくださってありがとうございます!
ゆるゆりななりあがりシスターズ。
ブクマ感想等つけてもらえるとうれしいです。
今後ともよろしくお願いいたしますm(__)m




