これは密ですか?はい三密です。
緩くてふわふわ?な少女達のコメディー予定です。
楽しんでいただけたら幸いです。
何故こんなことになっているのか。
少女はノートパソコンの画面を凝視しながらもの思いにふける。
窓の外ではヒラリヒラリと桜の花びらが舞っている。
「えー……、それじゃあ、かえ。なつ。番組始めるよ?」
少女……ひなはノートパソコンの画面に映る二人の少女に声をかける。
「はいはーい、今日もよろしくねっ、お姉ちゃん★」
ツインテールの茶髪の幼い少女が、元気よく応え。
「うぇへへ……よろしくー、ひな姉、かえ姉」
黒髪ロングの大人びた少女はよだれを垂らしながら薄気味悪い笑みを浮かべていた。
ひなはそのよだれを垂らした少女の姿を見つめながら、これはないな……と心の底でぼやく。
ひとつ大きくため息をついて、心機一転。
ノートパソコンの再生ボタンをオンにする。
と共に、軽快な音楽が部屋中に鳴り響く。
「今日も始まりました、『なりあがりシスターズ』。長女の唐津ひなですっ」
精一杯の笑顔を作りながら、カメラに向かって微笑みかける。
……あー……ホント、なんでこんなことになっちゃったんだろう。
そう。
どれもこれも、こんな社会のせいなのだ。
そもそも何なのさ、緊急事態宣言って。
三密を避けろ?
外出自粛?
そんなの子供でも分かってるよ。
でもね、私たちの業界はそれじゃ立ち行かないの。
声優業は、何もナレーション、キャラクターボイス、洋画の吹き替えだけに限らない。
私達は、『表現者』だ。
だから舞台にだって上がる。
そこで朗読劇や演劇だってやる。
それなのに。
それなのにっ!!
二週間前に緊急事態宣言が発令されたことで、舞台の全ての予定がパァになった。
ひなにとっては初めての主演の舞台になるはずだった。
これから声優のスターダムにのし上がる物語が始まるはず(あくまで予定)だったのに。
「それじゃ今週も元気に行きましょう。『なりあがりシスターズ』」
「「「スタートですっ」」」
ひな、かえ、なつの声が綺麗にハモリ、番組がスタートする。
ひな達は今何をしているのか。
それは。
YOURチューブのチャンネルで生配信の真っ最中。
番組名は『なりあがりシスターズ』。
事の始まりは二週間前の緊急事態宣言発令の日。
そう……。
あの日から、ひなの運命の歯車はものすごい勢いで脱線を始めたのだった。
―――
「ひらひらと、ひらひらと、舞っていく」
憂いを帯びた表情の少女が一人、舞台の上で朗読する。
「花びらと共に、深々と雪が、積もってゆく」
スポットライトを浴びながら、少女は言の葉を紡いでいく。
その言の葉は、何もない舞台の上に、まるで雪の様に降り積もり。
「雪が……止まない……」
「良いねっ! 良いよっ! その表情っ! その台詞っ!」
脚本を持った男性が観客席から少女の演技に溢れんばかりの絶賛の言葉をかける。
少女は脚本家の言葉に、先程までの表情とは打って変わって満面の笑みを浮かべた。
「本当ですかっ!? ありがとうございます!」
少女の名前は、唐津ひな。
十八歳で今年の三月に高校を卒業したての声優の卵。
背丈も見た目も、そこら辺に居る普通の若者で特筆すべきことはないのだけれど。
けれど、ひなには一つだけ同年代の誰にも負けないと自負することがあった。
それは演技に対する努力。
ひなは幼い頃からアニメの声優になりたいと演劇の勉強をしてきた。
中学や高校では演劇部に所属して並いるライバルを押しのけて主演をはってきた。
そして高校卒業を前にして、声優事務所(あまり名前が売れていないけれども)にも所属することができた。
この朗読劇だってひなにとっては声優のスターダムにのし上がる為のステップに過ぎない。
……そのはずだった。
「おーい、今からなんか総理大臣が記者会見するらしいぞー」
そんな言葉を楽屋からやってきた劇団員からかけられる。
「おう。わかった。それじゃ、今から休憩にするかー」
脚本家の男性の言葉に従い、ひなは他の劇団員達と共に楽屋へと入っていった。
『……で、ありまして。今日の状況から、緊急事態宣言を出すこととなりました』
ひな達が楽屋へとやって来たその瞬間に、その言葉がテレビの中の首相から発せられた。
「は?」
あまりの唐突な言葉に、ひなの思考回路は一時停止する。
え? 何それ……。
緊急事態宣言?
聞いてないんですけど、そんな事。
私が主演の朗読劇どうなっちゃうの?
そんな単語がひなの脳裏に浮かんでは消えていく。
騒然とする楽屋の中。
ひなは呆然と一人立ち尽くすしかなかった。
―――
「演劇は?」
ひなはスマホとスケジュール帳を片手にマネージャーに問いかける。
「密です」
落ち着きはらったマネージャーの声がスマホから帰ってくる。
「ラジオのレコーディングは?」
「密です」
「アフレコは?」
「密です」
「アニメのオーディションは?」
「密です」
「……」
ええと……。
ええっと……。
声優の仕事……。
ひなは自分が受けている仕事やオーディションの予定が書き込まれたスケジュール帳にペンを走らせる。
これもダメ。
あれもダメ。
こっちもダメ。
ああああっもうっ!!
駄目じゃんっ。
全然駄目じゃんっ。
「私の仕事の予定、全部白紙じゃないですか……」
ひなはバツ印だらけになったスケジュール帳を見つめながら頭を抱える。
「密集! 密閉! 密接! 声優業界は三密だらけなんです」
「……つまり、私に出来る事は?」
涙声交じりにひなはスマホの向こうのマネージャーに問いかける。
「家で大人しく自宅待機しておいてください」
こうして、ひなの引き籠り自宅待機生活が始まった。
週二ペース位で更新出来れば良いなと思いつつ……。
楽しんでいただけたら幸いです。
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タイトルロゴはふーみん様より頂きました!
ありがとうございます!
ふーみん様の作品もぜひぜひ。
『蟲の勇者は地底に眠る。』
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