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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

放課後カラオケ 〜僕は…〜

作者: 俺のソウルは500円なんだぜぇ

うーっす

放課後カラオケ

それは僕が勝手につけたあだ名みたいなものだ。



それはいつもの放課後、いつもメンバーで行く、いつも通りのカラオケだ。僕はそのメンバーの一人だ。



他のメンバーは僕を含め3人。

オダ君とリンさんだ。

いつもこの3人でカラオケに行く。



普通カラオケは歌いに行くものだと僕は当たり前に思ってたんだ。

でも…




でも…




でも僕にとっては違うんだ。僕の当たり前はカラオケに行って歌うことじゃない…



そう…それは金だ。

カラオケボックス…公共の店なので当たり前だが料金がつく。

1時間5000円だ…5000円なんだ。





僕にとってはそれは…いつの日か…




いつのまにか、たったの5000円なんだと思えるようになった。

そして僕はいつも通り…



いつも通り







いつも通り、サイフから金を出す。

全部僕が払って…

















ーーそれはある日の学校生活のこと、

僕は高校1年生。



クラスに馴染めず1人ぼっちだ。

誰も話しかけてこない。

むしろ君悪がれてるんじゃないかと、僕は思う…

そう思う。



それはたった少しのきっかけだった…




「おーーい!みんなでカラオケ行かねーかぁ!?」



名前はまだ覚えてないが、明るくてクラスの中心人物らしき人がみんなに呼びかける。




「えー、めんどくさーい。」

「どうしよっかなぁ。」

「なあなあ、それより隣のクラスのしろちゃんまじ天使じゃね?」

「おっ行こうぜ行こうぜ見に行きにさ!」




みんなに呼びかけても、誰も絶対行くなどと返事しない。おのおのが喋りたいことを話したいことを言う。



( そりゃ、当たり前でしょ…みんな一年生。急にカラオケみんなで行くとか…馴染めてないし、むしろ他人だし…)



そう僕は考える。もちろん口には出さない。そんなこと言ったら火に油みたいなものだ。この先の結果はわかってる。




「ちぇ…つまんねーの。おい!リンちゃん、しゃーねーからまた二人で行こうぜ。」

「う、うん…わかった。」




ようやく諦めたようだ。

まあ無駄だったんだろうな…

僕は関係ないから教室から出ようとする…

が、






「おっ!お前!ぜってー暇だろ!カラオケ行こうぜ!」











そう、この一言から始まったんだ。僕の…僕だけの放課後カラオケが…









彼の名はオダ。そしてもう一人がリン。僕はそうとしか覚えてない。顔はわかるけど…名前はまだ覚えられないんだ。



オダの一言から僕は放課後にカラオケに行くことになった。



なぜ断らなかったって?

別にカラオケ好きだから行きたかったわけじゃない…

断れなかったわけじゃない…

ただ…








なんとなく、そうしなきゃいけない気がしたんだ。
















ーーーカラオケ室にて

「戦国ぶーしょ♫戦国ぶーしょ♫イェア」

「オダいいねぇーサイッコーー!!」



二人は大いに盛り上がっていた。

僕はというと部屋の隅でタンバリンを叩いているだけ…



僕は歌を歌うことは苦手なんだ。

そう二人に伝えたら、




「あそ、じゃタンバリンで適当にやっといてー」




とリンさんから無愛想に言われた。

オダはそれを気にせず、じゃあレッツ戦国武勇伝!と声を高めて言った。






冷たかった。たった一言が僕を傷つけた。






そして、ようやく1時間が経ち、帰り時になる。

部屋にコールがなる。

1時間経過の合図だ。




「じゃーそろそろ帰るか」

「そうだねっ。オダ帰ろ。」




やっと終わったと思った。

タンバリンを叩きすぎて手が赤みをおびていた。

でも…



「あっ!ごめん!金持ってくんの忘れたー」

「えーーあたし、オダが持ってると思って家置いてきちゃったぁもー。」




どうやら二人は財布を忘れたと言っている。

そんな二人が僕に視線を向ける。



わかってる…






払えってことだろ。



『二人とも忘れたんだ…じゃあ僕が代わりに払うよ。ちょうど1万円あるし。』

「おーサンキュな!」

「たすかるー。」




入り口にあるレジへ行き金を払う。

1万円を渡したら、5000円が手元に戻ってきた。

半分だ。サイフに戻すと重さ的に変わりないが、

少し軽くなった気がした。





でもこれが間違いだった。重かったんだ。







「じゃまた明日なー」



オダは、帰路へと足を運ぶ。

僕に、僕たちに背を向けて。



僕とリンだけ残ったカラオケ店前の道。

リンに声をかけずに即帰ろうとする。



「ねぇ、待ってよ。」

『………』



僕は背を向けたまま、立ち止まる。



「調子にのんなよ?わかってるよね?」

『…わかってる。』



その言葉を交わした後、僕たちはそれぞれの方向へ帰り道を歩む。



リンが言ったあの言葉。

何を意味してるかわかっていた。わかりきっていた。




そう。僕は…






僕は犠牲になったのだ。

そして僕は気づいていた。二人とも…




財布を忘れずに持ってきていることに。

わざわざ手に持って…そんな状態で財布を忘れたと僕に言ったんだ。




なぜ指摘しなかったって?

そんなのできるわけないだろ…僕は弱いから。

僕そんな力はない。そしてそれはオダとリンにもわかられている。




そう…僕は弱いんだ。
















ーー自宅にて


僕は父と二人暮らしだ。

母は僕を産んだ時亡くなったそうだ。



悲しいかどうかなんてわからない。

でも父さんがいるから。

悲しくは…無いと思う。




「最近、…学校どうだ?勉強ちゃんとしてるか?」

『うん。ちゃんとしてる。』




父さんはいつも僕を心配してる。

男手一つで僕をここまで育ててくれたんだ。

だから僕は父さんが誇らしい。

でも…




「学校は楽しいか?」

『う、うん…楽しい。友達できたし、うまくやってるよ。』

「そうか…そりゃよかった。おかわりいるか?」

『うん。』






僕は平然と嘘をつく。

これはいい嘘だ。



うまく言ってないし、ひとりぼっちだし、クラスに馴染めて無いなんて言えない。

いい子にしないと余計に心配されるからだ。



でも本当のこともある。オダとリンと友達になったんだ。



学校では二人とも僕のところへ行き、

ノート貸してやら、宿題見せてなどという。

友達だからこそ、こういうことができるんじゃないかと思うんだ。




でも違う。違うって理解していた。それだけしか言ってこないし、リンに至ってはオダと一緒じゃないと話しかけることすらしない。



それが正しいと僕は思う。

僕はクラスに馴染めてないひとりぼっちだから。そんなやつに話しかけるとか、必要である時以外はないだろう。



これが本当だ。でも僕がいう本当に少し違う点があるかもしれない。

リンとオダと友達になったんじゃない…









友達に…なってしまったんだ。















ーーとある日の放課後


今日もオダとリンで、放課後カラオケする。

そう、また行くんだ。



いつも通り誘われて行く。そしていつも通り歌い終わったら財布忘れたと僕に言い、いつも通り代わりに僕が金を払う。







何回目だろうか…数えるなんてどうでもよかった。ただただこの時間が早く終わればいいのにと思った。




でも一つ変わった点があった。

いつもは1時間きっちりでカラオケを終えるが、今回は、いや今回から…









2時間になった。

1時間5000円だから、倍の1万円。



当然僕の、僕の金で払う。

財布が重くなった。

いつも以上に重くなった。



なぜかはわかっていた。

これは僕の金だけど、僕の金じゃない。





これは僕の…罪だ。



















ーー自宅にて


「おい。今月分のおこずかいだ。大切に使えよ。」



僕は父さんからおこずかいをもらっている。

月に1万円もだ。

ゲームとかしないし、服とか安めで十分という僕はその1万円は多すぎた。

でも。いつの日かこう思わざるおえなくなったんだ。





(たったの1万円か…足りないな。)





そう、僕は毎回金を払うが故に、とうとう僕のおこずかいがそこを尽きていた。

昔から、あまり金を使わないため小さい頃からコツコツと溜め込んでいたお金も、




今では0だ。あっという間に…0だ。




(…金が足りない…どうしよう。)




僕は焦っていた。

明日も放課後カラオケあるんだ。

だからいつも通り、僕が払わないといけないんだ。



ふと…いいことを思いついた。




(金がない…父さんの財布からもらおうか。)




以前の僕はこれを悪いとわかっていて絶対にしない。

でも今の僕は、わかっていても…わかりきっていても…







そうせざるおえないんだ。

そして僕は夜中にこっそりと父さんの財布から何万か抜き取り僕の財布に入れる。

全部じゃなく、少しだけだ。




財布がより重く感じた。

重さ的には軽いんだ。でも僕はそれを重いとしか感じなかった。













ーーまたとある日の放課後


いつも通り、3人で放課後カラオケする。

今日も少し変化があった。




いや、大きな変化の間違いだった…



ここ、カラオケ店にはドリンクバーや食事を提供してくれるサービスがあった。



そして2人は当たり前かのごとく、飲み物や食べ物を注文する。

昨日まではしてなかったのに…



「お前なんか頼む?」

『いや、水だけでいいよ』



水はセルフサービスだ。金はかからない。

でも2人がする注文は金がかかる。



(僕の…金なのに。)



本当は僕の金じゃないのに、僕の金だと言い聞かせた。



2人は平然と歌い、食べ、2時間過ごす。

もちろん…一万円以上だ。




「フゥ…満足満足!」

「オダ食べすぎ〜。」




2人は満足したかのごとく店を出る。

そして僕は当たり前かのごとく財布から金を出して支払う。全部。



そう、財布を忘れたと言ってこないのだ。

まるでもう支払ってるかのごとく。



なんでとは僕は言えない。

それが当たり前なんだと言い聞かせる。




使うお金が多く、あっという間に財布が軽くなるのに、

僕はその財布からお金を取り出しても取り出しても、何度も何度もしても…重い。





重く感じるんだ。




そして2人は一緒に手を繋いで帰る。

僕はそんな2人の姿を後ろから。






後ろからずっと見る。無表情で。











そう、僕の当たり前は、

お金を支払う、夜中に父さんの財布から金を取る。そしてまた金を払い、夜中に父さんの財布から金を取る。そしてまたお金を支払い、夜中に………





今までは罪だの何だのと考えたが、今はそんなこと思わなくなった。



そしていつのまにか、重く感じた財布も放課後カラオケを繰り返すうちにどんどん軽くなっていく…




僕はもう悩むことも苦しむこともなくなったんだ。




時々、父さんの財布から


【金は自由にとっていい。だが何かあるんだろう?相談でもなんでもいい。話してみろ。】



と言うメモ用紙が入っていたこともあった。

そのメモを見る限り、父さんは僕がこんなことしているのに、何も注意しないし、気づかない。







そして僕の目には。自由にとっていいと言う文章しか目にうつらなかった。

















ーーまたある日の放課後


いつも通り3人で放課後カラオケする。



僕はなぜか楽しみだった。



財布に10万円も入れていつでも金を出せるようにしていた。



だが……






「すまん。今日用事あるから!無理だわ」

「えーー!どいひー。」

『………』




今日は珍しくオダが用事でカラオケにいけないようだ。

と言うことはリンと2人で行くことになる。

だが僕はわかっていたからこう言う。




『僕も用事あるから行けないや。』

「あぁ。そうなんだ。」




特にこれといったリアクションなく、言葉を返すリン。



だがリンは手のひらをこちらに差し出していた。

なぜ?




「ん。あたし1人で行くから。ん。」




僕はすぐさま財布から1万円を取り出し、リンの手のひらに置く。

受け取ったリンは、何も言わずに教室から出て行く。






僕は、初めてだった。

初めてだったんだ。







カラオケ以外の場所で人間に金を渡すなんて。

僕は、今日いつも通り、3人で行きいつも通り僕が最後に残って金を払う予定だった。いや決まりだった。





なのにあの人間は今ここでこんなところで、

金を出せと言ってきたんだ。




どうして?





ドウシテ?





今の僕には嬉しさよりか、なぜか変なものが頭を、全身をこみあがらせていた。















いつも通りじゃない。こんなの違う。



その日その時その瞬間。

僕は……………







ボクハ…………




























ーーある日、自宅にて


【報道ニュースの時間です。先日、〇〇高校の生徒ら2名男女が何者かによって刺殺されました…これに対して校長は………】



「お前の高校か。お前の同級生のやつじゃないか…怖くなったもんだな。」




ある日の夕食、父といつも通り食事をとっていたらとあるニュースが流れた。




「お前大丈夫か?いつもより元気だからまあ大丈夫に見えるが…」

「うん!」



父さんがいう大丈夫は何が大丈夫かわからなかったが、僕は迷惑がかからないだろうという大丈夫だと確信していた。



僕は最近、元気だ。クラスにも馴染めて本当に友達ができたんだ。

そう頭で考えつつ、父に言う。




「ねぇ父さん!」

「ん?なんだ?」




僕はツヅケテ、イウ















「ボクハ、モウ、ダイジョウブダカラ。」


















その日。僕は父の血の味を知った。

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