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あったかも知れない桃太郎

作者: 雪国竜

 むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。

 おじいさんは山へしばかりに、おばあさんは川へ洗濯に向かいました。

 やがて、日が沈みだして来たので、山を下りるおじいさん。

 家へと帰る途中何処からか、赤ん坊の泣き声が聞こえました。


 おじいさんは周りを見回しますが、何処にも赤ん坊を見えません。

 ですが、声だけ聞こえます。

 おじいさんはその泣き声が聞こえてきた方へと、足を向けました。

 一歩進むごとに、赤ん坊の泣き声は大きくなってきました。


 そうして歩いていると、一本の大きな桃の木が目に入りました。

 その大きな桃の木は見事な大きさで、おじいさんの身長よりも遥かに高く、幹もおじいさんよりも太かったのです。

 おじいさんはその見事な桃の木を見ていると、また赤ん坊の泣き声が聞こえてきました。

 よく聞いてみると、どうやら桃の木から聞こえてきました。

 おじいさんは桃の木の所に向かいます。そして、桃の木の所に着くと、赤ん坊の声が何処に居るのか声を頼りに探しました。

 

 探していると、木の根元のうろの所に、産着を着せられた赤ん坊が泣いていた。

「よしよし、捨て子だな。可哀そうに」

 おじいさんは赤ん坊を持ち上げてあやした。

 すると、赤ん坊は途端に泣き止みだした。

「よし、今日から儂らの子供にしよう。名前は……ふむ」

 おじいさんは桃の木を見上げました。

「よし、今日からお前は桃太郎じゃ」

 おじいさんは桃の木の根元で拾った事から赤ん坊を桃太郎と名付けました。

 家に帰ったおじいさんは桃太郎を拾った事をおばあさんに言いました。

 おじいさんの話を聞いたおばあさんは快く桃太郎を自分の息子として迎える事にしました。

前々から自分達夫婦には子供が居ない事を嘆いていたので、これも天の御恵みだと思ったのだろう。



 やがて、幾つもの季節を越えて、桃太郎はすくすくと成長しました。

 五歳になった桃太郎は家を出て外で遊んでいると見慣れない子供が桃太郎を見ていました。

 桃太郎が居る村では見た事がない子の上に、赤銅色の肌をして髪色も赤茶色でした。

 更に瞳が青かったのです。

 その子はジッと桃太郎を見ています。

 桃太郎は一緒に遊びたいのだと思い、その子に声を掛けました。

「いっしょにあそぼう」

「……ウン」

「おいらはももたろう。おまえは?」

「オガ」

「おがか、かわったなまえだな」

「ボクモソウ思ウ」

 二人は笑いながら日が暮れるまで遊びました。

 その次の日も、その次の日も仲良く遊びました。

 

 やがて、半年が経ちました。

 ある日、桃太郎とオガと遊んでいると、オガと同じ髪色をした大人の人がやってきました。

 桃太郎は誰だろうと思い見ていると、オガは聞いた事もない言葉でその大人に話しかけにいきました。

 大人の人はオガの頭を撫でると、何事か話しだしました。


 オガは何か話していますが、大人の人は首を横に振ります。

 やがて、オガは項垂れながら、桃太郎の下に行きます。

「どうかしたのか?」

「……ゴメン。今日デオ別レダ」

「えっ⁉」

「ダディガ別ノ土地ニ行クッテイウカラ、モウ行カナイト駄目ナンダ」

「だ、だでい?」

「ダディ。ウ~ン、簡単ニ言エバ、父サンノ事ダヨ」

「あ、ああ、そっか。異国の言葉か」

 桃太郎はオガと長く遊んでいたので、オガがこの国の人ではなく南蛮という国から来た人だという事を聞いた。

 家族は母は居ないが、父が居るという事を聞いていた。

 

「……そっか、それでどこへいくんだ?」

「山ヲ幾ツカ越エタ所ニアル村ダッテ」

「とおいな」

「ウン」

「……もう、あえないかな?」

「ワカラナイ」

「そっか、じゃあまたあえることをいのって、ゆびきりしよう」

「ユビキリ?」

 オガは初めて聞くのか意味が分からないような顔をしていた。

「こゆびだせよ」

「……ウン」

 オガは小指を出した。

 桃太郎はオガの小指に自分の小指をひっかけた。

「おいらにつづけていえよ」

「ウン」

「ゆびきり~げんまん~」

「ユビキリ~ゲンマン~」

 オガは桃太郎に続けて喋る。

「うそついたら、はりせんぼんの~ます」

「ウソツイタラ、ハリセンボンノ~マス」

「ゆびきったっ」

「ユビキッタッ」

 桃太郎は小指を離した。

「これで、もういちどあえるよ」

「ホントニ?」

「ああ、ほんとうだ」

「ワカッタ。ジャア、モウ行クネ」

「ああ、またいつか、あおうなっ」

「ウン、マタ会オウネ」


 オガは手を振りながら、大人の人と一緒に歩き出した。

「ぜったいだぞ! またぜったいあおうなっ」

「ウンッ、マタ会オウネ!」

 オガは何度も振り返り、手を振った。

 桃太郎は二人が見えなくなるまで手を振り続けました。



「……うっ、夢か……」

 桃太郎は揺れる小舟の中で、何時の間に眠っていた。

(懐かしい夢を見たな。それにしても、どうして今頃、昔の夢を見るのだろうか?)

 内心、不思議がる桃太郎。

 そう思っている桃太郎に、誰かが声を掛けてきた。

「桃太郎の兄貴、そろそろ島が見えますぜ」

 桃太郎に声を掛けたのは、桃太郎のお供として付いてきたさるきちという者だ。

 三人のお供の中で一番おしゃべりで、お調子者だ。

 桃太郎を含めたお供の三人は同じ村の出身なので、幼なじみと言えるだろう。

 その中で一番年下なのが、この猿吉だ。

「猿吉。お前の準備は良いのか?」

「勿論だぜ。兄貴」

 猿吉は自分の得物である樫の木を削って出来た棒を見せる。

 長年使い込んでいるのか、所々削れていた。


「兄貴も無茶はしないでくれよ」

「誰に言っているんだ? と言うよりもお前の方が無茶するなよ」

「俺っちが? そんな無茶するわけないだろう」

「嘘つけ。お前の場合、無茶するだろうが」

「その通り」

 桃太郎と猿吉との会話に誰かが入り込んできた。

 桃太郎達はその割り込んできた者を見る。

「お前もそう思うだろう。けんぱち

 話しに割り込んできた者の名は犬八。

 猿吉と同じく、桃太郎達と同じ村の出身だ。桃太郎と同じ年なので、実の兄弟のように仲が良い。

 三人のお供の中でも一番冷静だ。

「それはそうと、犬八。後どれくらいで、島に着く」

「恐らく、後数刻掛かると思われる。そうだろう。きじ

 犬八は丸木舟の後方で櫂を漕いでいる者に声を掛けた。

 その者は、桃太郎を含めた者達の中で、唯一の女性だった。

 この雉子も桃太郎達と同じ村の者だ。

 三人のお供の中では、一番大人しい性格だ。

「ええ、潮の流れと風の強さから、それぐらいだと思うわ」

 漕ぎながら答える雉子。

「そうか。疲れたら、言ってくれ。漕ぐのを代わるから」

「はい。分かりました。桃太郎さん」

 雉子がそう言うので、大丈夫だと思い桃太郎は前を見る。

 何故、桃太郎達が船に乗っているのかと言うと、これには訳があった。

 

 桃太郎がオガと別れてから、十数年の歳月が経った。

 十数年の歳月を経た事で桃太郎は立派な青年へと成長していた。

 そんな桃太郎が、家の畑仕事をしていると村人達がやっていてこう言いました。

「今、みやこで鬼が二鬼現れて、家に押し入って物を盗みをはたらいているそうだ。で、都はその鬼に懸賞金をかけているそうだ」

「へぇ、じゃあ、その鬼はもう捕まったのかい?」

「いやぁ、その鬼は足が速い上に、海に浮かんでいる小島を根城にしているから、都の検非違使も懸賞金に釣られた者達も捕まえる事が出来てないそうだ」


「ほぅ、それはまた」

 と話しを聞いて、桃太郎は思いました。その懸賞金を自分を育ててくれたおじいさんとおばあさんに育ててくれた感謝の為にあげようと考えました。

 その夜、家に帰った桃太郎は、おじいさんの前に出ました。

「しばらく、家をあけたいのだけど?」

「うん? どうかしたのか?」

「都で鬼といわれている者をこらしめようとおもって」

「そうか。勇ましいことだが、一人でか?」

「村の友達に声を掛けるつもりだ」

「ふむ。少し、まっていなさい」

 そう言って、おじいさんは立ち上がり、何処かに行ってしまいました。

 少しして、おじいさんは蓋つき箱をを持ってきた。

 おじいさんが箱を開けると、中には幾つもの甲冑があった。

 他にも鉢巻、陣羽織、刀、弓矢などがあった。

「おじいさん、これは?」

「昔、戦場跡地で拾ってきた物だが、何かに使えるだろうと思い拾ってきてよかったのぅ」

 おじいさんは埃被っている鎧に息を吹きかけて、手で拭う。

「どれが、合うか分からんから、明日にでも友達を呼んで適当なのを着てみなさい、鬼をこらしめるのだから、武装ぐらいはせんとな」

「……ありがとう、おじいさん」

 桃太郎は頭を下げた。

 翌日。桃太郎は友達である。犬八、猿吉、雉子に声を掛けみました。三人は快く承諾してくれたので、桃太郎は家に招き、身体に合った鎧を着させました。

 得物は刀と弓矢しかなかった。刀は桃太郎に、弓矢は雉子に渡されました。

 犬八と猿吉の得物は、自分の家にあった槍と棒にした。

 そして、装備を整えた桃太郎達。いざ、鬼が住んでいる島に向かうとしたら、おばあさんが呼び止めました。

「道中、遠いと思うから、これを持っておいき」

 おばあさんは、団子を渡してくれました。

「本当なら、むすびを持って行った方が良いのだけど、今年は不作だったからね。団子を作る分しかないの」

 家にある米を潰して団子にしたのだろう。

 桃太郎達はおばあさん達に感謝しながら、家を後にした。


 村を出て、数日歩き鬼が住んでいる島の近くにある漁村に着いた。

 その漁村に船を借りて、桃太郎達は舟を出した。

 波に揺れながら、漕ぐ者を交互に交代しながら進んで行く事、数刻。

 ようやく、島の沿岸に着いた桃太郎達。

「ついに来れたな。兄貴」

「ああ、そうだな」

「桃太郎、どういう順番で行く」

「俺が先頭、その後は猿吉、桃太郎、最後に雉子という順番で良いと思うぞ」

「じゃあ、そうしましょう」

 犬八が提案した順番で、桃太郎達は島へと進みだした。

 

 島の中へと進んでいくと、木材を井桁のように重ねて積み上げて出来た家があった。

 鬼が住むとしたら、少々文明的な造りであった。

 桃太郎達の頭の中では、洞窟や岩石に穴を開けて作った家なのかと思えた。

 だが、その家から煙が上がっている所を見ると、どうやら鬼が居ると思われた。

「……どうやら、居るようだな」

「漁村に暮らしている人の話だと、この島には鬼しかいないそうだぜ」

「鬼しか居ない島か、正に鬼ヶ島だな」

「どうする?」

「とりあえず、声を掛けてみるか」

 桃太郎は息を吸う。

「たのもうっ、たのもうっ」

 玄関先で大声をあげる桃太郎。

 しかし、反応がないのでもう一度声を掛ける桃太郎。

 そうしたら、ようやく人が出てきた。

 いや、多分人だと思われる者であった。

 顔を鬼の仮面を被り、頭には角を二本ある。身体には粗末な衣服で身を包んでいるが、鬼は女性なのか、女性の象徴といえる物があった。

 手には大きな金棒を持っていた。

「お前が都を騒がす鬼か?」

 犬八がそう訊ねると、鬼は頷いた。

 それを見て、皆得物を構えた。

「悪いが、都まで来てもらうぞ」

「……断ワル」

 鬼はそう言って、金棒を振り上げた。

「行くぞ。お前等っ」

 桃太郎は犬八達にそう言って、刀を構えて駆けだした。

 犬八達もそれに続いた。


 桃太郎達と鬼との戦いが始まった。

 桃太郎と犬八と猿吉の得物が鬼との金棒と鍔迫り合い、雉子が援護の為に矢を放つ。

 戦いは数時間に及んだ。

 その長い時間の戦いを制したのは、桃太郎達であった。

 鬼は地面に大の字になって倒れていた。

 身体には何処かしら傷がついていた上に、仮面にもヒビが入っていた。

 勝った桃太郎達も鬼とそれ程変わらない状態であった。

 犬八は槍で身体を支える事で、ようやく立っていた。猿吉は膝をついて肩で息を吐いていた。雉子は岩にもたれながら息ついていた。

 桃太郎も、荒く息を吐きながら倒れそうになっているのを刀で杖のようにして立っていた。

 ようやく、息が整えると、桃太郎は鬼の傍に行く。

 疲れで足元が若干ふらついているが、鬼の傍に行く事が出来た。

 そして、桃太郎は鬼の首に刀を当てる。

「俺達と一緒に都に来るか、それとも首を刎ねられるか、どちらか選べ」

「……………」

 桃太郎がそう問いかけても、鬼は何も言わなかった。

 どうしたものかと考える桃太郎。

 すると、鬼がつけていた仮面が音を立てて割れた。

 鬼の顔が露わになった。

 桃太郎はどんな顔なのかと思い、ジッと見る。

 その顔を見ていると、昔の記憶が思い浮かんだ。

『ゆびきり~げんまん~』

『ユビキリ~ゲンマン~』

『うそついたら、はりせんぼんの~ます』

『ウソツイタラ、ハリセンボンノ~マス』

『ゆびきったっ』

『ユビキッタッ』

『これで、もういちどあえるよ』

『ホントニ?』

『ああ、ほんとうだ』

『ワカッタ。ジャア、モウ行クネ』

『ああ、またいつか、あおうなっ』

『ウン、マタ会オウネ』

 幼い頃に約束した記憶。

 その者と指切りをした記憶を思い出した。

 何故、思い出したのかと言うと、その鬼が幼い頃、桃太郎と指切りをした友達のオガと同じ顔をしていたのだ。

「……オガ?」

「? ドウシテ、アタシノ名前ヲ知ッテイル?」

「俺だよ。桃太郎だ‼」

「エッ⁈」

 驚くオガ。それは桃太郎も同じであった。


 後日。

 桃太郎はオガにどうして都を騒がしているのか事情を尋ねた。

 

 桃太郎の村から離れたオガ親子は、何処に行っても、厄介者扱いされた。

 それだけなら良いが、仕事も碌な事をさせてもらえず、オガ親子は食うにも困る生活となった。

 そもそも、オガ親子が何故この国に居るのかと言うと、元々南蛮の船に乗っていた乗組員親子だったが、嵐に遭い、船は沈没。オガ親子はこの国に流れ着いた。

 

 その所為で、お金と言える物は持ってはおらず、その上言葉も通じないので、何時の間にかオガ親子は鬼と言われて、追い払われるようになった。

 やがて、親子は空腹に困るあまりに、食べ物を盗んでしまった。

 それ以来、親子は盗賊として生きる様になった。

 盗賊として活動する事で、ようやく食うに困らない生活を送る事が出来たオガ親子。

 とはいえ、盗みはしても人を殺すような事はしなかったそうだ。

 ちなみに、何故鬼の格好をしていたのかと言うと、この格好をすれば、皆怯えて逃げ出して盗むの楽になるそうだ。

 だが、その生活も長くは続かなかった。

 1ヶ月前に、父が病に罹り亡くなった。

 父が亡くなってしまい、オガはこれからどうしたものかと悩んでいた。

 そんな所に、桃太郎達がやって来た。

 桃太郎はその話しを聞いて、どうしたものかと考えた。

 犬八達とも話した結果。

 

 桃太郎達はオガ住処にある盗んだ物は探した。

 オガの話だと、殆ど食料品で貴金属あるがそれほど多くないそうだ。

 それなりの量の財を持って、桃太郎達は都に上がった。

 血が付いて切り取られたオガの髪を持って。

 その髪と奪われた財を持って帰って来た事で、朝廷は桃太郎が鬼を討ち取ったものと判断して、掛けられていた懸賞金を渡した。桃太郎達はその懸賞金を四等分した。

 そして、四人は村へと戻った。

 既に村には、鬼を討ち取った話は伝わっていたようで、村人達は歓声で桃太郎達を出迎えた。

 その歓声を身で受けながら、自分の家に戻る桃太郎。

 家には、おじいさんとおばあさんとだけではなく、もう一人オガも居ました。

 桃太郎達はオガの事情を鑑みて助ける事にしたのだ。行く宛てのないオガは桃太郎が預かる事になった。

 そうして、桃太郎はオガとおじいさんとおばあさんと仲良く暮らすようになりました。


 めでたしめでたし。

  











後日。

実は桃太郎の事が好きだった雉子も桃太郎の家に居座る様になった。

日々、文字通りの修羅場が勃発していた。

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