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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第四章 改運編
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第80話 一人と世界の悩み

「しかし、良くこれを運んできたな……

 それに、お前達、これを着るつもりだったのか?」


 俺は目の前に横たわっている魔気動甲冑をぺしぺしと叩きながら、竜人達に尋ねた。


 これは外装に反衝撃と減魔法耐性を持たせた素材を使っているので、バハディアやエルフィーでも闇魔法で重さを軽減して運ぶというのが難しい代物だ。

 それに全長7m重量15tもあるので、形状はまだしも明らかに鎧と勘違いするような物には見えないと思うのだが……

 まだ、希少種の全身金属で出来たゴーレム系の魔物の方が、認識する物としては合ってる気がする。


「なんか、バハでも持ち上げられなかったから、エルフィーにゲート開けて貰って、コロに引っ張ってもらってここまで運んだの」


 と、リーティアは運搬方法を説明してくれた。


 なるほど……ここ最近、日中にちょいちょい神殿に居ないと思ったら、そう言う事だったのか。

 コロの奴は最近リーティア達に餌付けされてる所為か、簡単な頼みなら引き受ているようだな。

 

「てっきり、着る者に合わせて大きさが変化する鎧なのだとばかり」


 との、レイディアの勘違いは仕方のない事かもしれん。

 ダンジョンに放流してある装備は、そういった物が多いし、形状だけを見れば、装飾を施してある全身鎧にそっくりでもあるしな。


「主様。甲冑と言うからには、身に着ける事が出来るのではないのですか?」


 と、エルフィーが尋ねてきた。


「着るというより、乗り込むといった形になるな。

 あの胴体部を開けると中に座席が有って、そこに座って内部から操る事ができるのだが……」


 俺はそう説明しながら魔気動甲冑を解析してみると、表面は損傷も経年劣化も少ない様だが、補助動力源の魔力と気が枯渇してるようで、完全に活動を停止しているのが分かった。

 この状態であると、乗り込んでちょっと動かしただけで大抵の者は魔力と気が全て吸い尽くされて昏倒する事になる。


「そうですか……」


 と、俺の説明を聞いたエルフィーは少しだけ残念そうに言った。


 おや……?

 エルフィーがこんな物に興味を持つとは意外だな。

 リーティアやアダムならまだしも――


「主様ー、これどうやって開けるのー?」


「父上ー、俺も乗ってみていいかー?」


 と、俺が動甲冑に興味を示しそうな者を思い浮かべていたら、案の定その二人が胴体部に登っており、そう聞いてきた。


「……胴体の脇にある丸い取っ手を回すと開くぞ。

 アダム、お前は無理だ。内部が狭すぎる」


「まるい取っ手?……これかな?」


 俺がハッチの開閉方法を答えると、リーティアは俺の言った開閉スイッチの取っ手を回した。

 すると、胸部の胸当ての様な形状をしたコクピットハッチが胸下側へとゆっくりと開いていき、内部が露わになった。


 内部には体全体を包むバケットシート状の搭乗席があり、その座席の手を置く部位に球状の魔石が備え付けてある。


 あの座席は俺の神像である人間とドワーフとエルフ用に作られているので、搭乗席に座れるのは身長180cm程度までが限度だろう。

 身長2m近い筋肉モリモリマッチョマンのアダムでは、到底、中に入るのも座るのも無理だ。


「……むー……尻尾と羽が邪魔で座りにくい……」


 と、人よりも体のパーツが多い竜人達にもあの座席は座り難いらしく、一番に乗り込んだリーティアが唸った。


「ふむ……リーティア。

 座席の形を座りやすいように変えるので、外に出なさい」


 俺はそう言い、彼女と入れ替わりに中へと入ると、背もたれの上に羽を収納するスペースと下に尻尾を後ろに伸ばせる穴を作り、ついでに補助動力源の魔石へ数時間程度は動かせる魔力と気を補充し、内臓火器類の機能を停止して駆動部の出力制御を弱めへと変更してから外へとでた。


「よし、これで座りやすくなっただろう」


「ありがと、主様!

 それで、これどうやって動かせば良いの?

 この魔石?」


「まて! まだ、動かすな。近くに居る者達が離れてからだ。

 あと、この辺は建物も多いから、遊ぶなら向こうの広い方でしろよ?

 皆、少し離れてろ! 近くに居ると危ないぞ!」


 操縦席へと座ったリーティアは、さっそく魔気動甲冑を動かそうとしたので、俺はそれを慌てて止めて、周囲の者達に離れるようにと叫んだ。


「簡単に操作したいなら、そこの手を置く場所にある魔石を通して、ゴーレムと魔力を繋げて直接操作する時と同じような感覚で動かす事が出来る。

 それと、この装甲は開けたままにしておけよ、外が見えなくなるからな」

 

 と説明し、俺は下にスライドしている胸部装甲をコンコンと叩いた。

 まぁ、ちょっと遊ぶだけなら簡易操縦でも十分だろう。


 俺が動甲冑の胸部から降りると、リーティアはぎこちない動きながらも、動甲冑を立ち上がらせる事に成功した。


 俺が、こいつ動くぞ……と心の中で呟き、ゆっくりと歩いて行く動甲冑と、それを追いかけて行くちびっ子達や大人達を眺めていると、その場には俺とエルフィーだけが残された。


「……主様。先程、簡単に操縦したいなら、と仰っておられましたが。

 その他の方法もあるのですか?」


 と、俺の隣で皆を見送っていたエルフィーが尋ねてきた。


「ん? ああ、本来はあの装甲を閉じて、あれと一体化して普通の肉体と同様に動かすのが本来の操縦法だな。

 イメージとしては……魔力と気で、あの動甲冑内に自身の体を疑似的に大きくした物を生み出して、着させると言った感じか」


「魔力と気で……ですか?」


「お前が偶に使う、分身の魔法があるだろう?

 あれを巨大化して、自身で着込む感じだな」


「なるほど、分身を魔力と気で作り疑似神経として、肉体代わりの物質面の方は、あの甲冑を依り代とする訳ですか」


「そうだ。……それにしても、あれに興味があるのか?」


「興味と言いますか……頑丈そうと感じてまして」


 俺が疑問に思っていた事を尋ねると、彼女はそう答えた。


 頑丈そう……?

 ああ、それでか。


 エルフィーは万象の指輪に込められている、身体の魔素化法を習得してからメキメキと強くなったのは良いのだが。

 今度は、それに身体の方では無く、身に纏う服や武具の強度が耐えられなくなってきているのだ。


 なら、耐えられる物で武具を作れば良いだろうという話になるのだが、そういった物は基本的に重い。

 なので、基本的な身体能力が低いエルフの彼女では、生身で居る時に逆に枷となってしまい悩ましい事となる。


「たしかに、頑丈ではあるが……あの大きさだからな。

 日常でもダンジョンでも使える代物ではないだろう?」


「そうですね……何かのヒントになればと思ったのですが」


 と、少し残念そうにエルフィーは言った。


 うーん……


 まぁ、さして問題という程では無いのだが、全力を出すたびに衣類がボロボロになるというのは面倒な事ではある。


 万象の指輪には、彼女の性格を考慮して便利そうな機能は色々と仕込んだのだが、リーティアやシルティアが持つ指輪のような、衣類を出すなんておしゃれ機能は持たせてなかったんだよなぁ……


「ふむ……何か、私がお前の衣類を仕立ててもいいぞ?

 武具類も色々と使ってない物があるしな」


「いえ、主様にそのような些事をお頼みする訳にはまいりません。

 それに、幻影を纏うか気を付けて動けば問題無い事ですから」


 日頃、色々と俺の為に動いてくれる彼女になら、お返しとしても大した事ではないのだが、エルフィーはそう言い断った。


 どうにも、彼女は自身で物事を解決しようとする癖があるな……

 悪い事では無いのだが、自身ではどうにもならない事に直面した時に壊れてしまいそうで怖い部分でもある。


 まぁ、そうならないように見守るとするか……


「そうか……では、日もだいぶ高くなった事だし。

 そろそろ、見回りの散歩に行くか」


「はい。お供致します」


 俺は気を取り直し、エルフィーを連れて日課である朝の散歩へと歩き出したのだった。



 俺は世界樹を反時計回りにぐるりと回りながら周辺を見て回り、南側にある大祭壇へと向かった。


 大祭壇の正面側へ行くと、そこには大陸側の第三世界樹の根本へとつながる常時開放してある空間ゲートが有り、俺はそれを通って大陸側の大樹の町へと行った。


 第三世界樹の根本は、人間、獣人、ドワーフといった能動的な種族が多く移り住んでいった事も有り、島よりも全体的に少し乱雑とした雰囲気が漂う。

 逆に島の方にはエルフが多く残った為、こちらとは違い長閑な感じだ。


「主様ー! おはよーございまーす!」


 と、俺に声をかけながら、寝坊したのか合同で朝食を作っている炊事場へと駆けて行く者や


「おい! 早く行くぞ! 今日こそは大物を捕るんだからな!」


 と、朝食を食べ終え、ここから少し離れた所の狩場へと向かう若者達などが、そこかしこに居る。


 島ののんびりとした雰囲気も好きだが、こちらの活力に満ち溢れる雑多な感じも悪くは無いな。


 こういった賑やかさは、島よりも人口が多いという所にも依るだろう。

 島の人口1000人に対して、大陸側の人口は7000を超える。

 その全てが第三世界樹の根本で暮らしている訳では無いが、それでもかなりの人数が此処で暮らしており、それも日々増え続けている。


 人の増加と過密具合で、それなりの問題も起きては居るが、皆は知恵を出し合いそれに対処しており、大きなトラブルはそうそうには起きない。


 多少のいざこざ等が起きた場合は


「主様。おはようございます」


 と、俺に挨拶をして通り過ぎて行った、各族長の取り仕切る屈強な者達が町の中を巡回しており対処している。


 こうした社会秩序における役割を担う者達とルールが出来始めたおかげで、ここ最近では俺が表立って何かを手助けするという事は少なくなり、散歩ついでに目に付いた物事に少しだけ手を貸す程度の事しかしていない。


 まぁ、影では色々としてはいるが、それは集団からはぐれて生活する者達の救済や、皆では感知できない危機への対処などだ。


「主様。今朝方お聞きした物々交換の事なのですが。

 そろそろ、食料の供給方法も見直す事になるのでしょうか?」


「それは、まだ早いとは思うが……

 たしかに、準備は初めても良いかもしれんな」


 周囲の者達と挨拶を交わしながら歩いていると、エルフィーは食料事情の事を言ってきて、俺はそう答えた。


 彼女には前に話したのだが、物々交換、いわゆる価値の変動や移動といった事が始まると、今の状態ではかなり偏った事になるのだ。


 価値というのは、何かを必要とする者が居て、それを供給する相手が居て生まれるが、人々にとって一番に必要になる物となると「食料」これに尽きる。


 文明が発展していけばエネルギーも重要になっては来るが、それはまだまだ先の話であり、エネルギーの価値も世界全体で見れば食料の価値に付随した物になる事が殆どだ。

 勿論、貴金属や珍しい物品や趣向品なども、命に関わり根底に位置する食料には到底及ばない。

 俺の記憶の中にある地球の近代社会では、食料が過剰生産されていたので食べ物への価値観が低く見られていた風潮があったが、あれも一世紀か、早ければ半世紀も経過すれば、世界人口とのバランスが崩壊し、昔の様に食料へと全体的な価値のシフトが起こる試算が出ていた。


 そして、今この世界では、皆の食糧生産の割合は2割程度しかない。

 それも、皆の趣向品に近い物を狩猟や自然にある物から調達してくると言った程度で、農業のように自ら生産を行っている物に限定すると1割にも満たない。

 残りの8割は、全て俺が供給している物が主なのである。


 つまりは、このままだと人が第一に見据えなければならない食料に価値が生まれにくく、別の物へと移行していき、生命の根底にある生きるという部分からかけ離れた方向へと皆の価値観が進んで行きそうだ、と言うのが俺とエルフィーの見解であった。


「価値の生まれる順番か……」


 たしかに、その流れを作る時期が来ているのかもしれないな。

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