第79話 家と太古の神兵
朝食の後、俺は竜人達が見つけたという鎧を鑑定する事になった。
何やら、その鎧というのがなかなかに大きい物らしく、彼等の家の外に置いてあるとの事で、そこに竜人達四人とエルフィー、それにアダムを連れて、俺達は彼等の家へと向かった。
彼等の家とは、島の世界樹の東側の草原に新たに設けられた居住区画にある、一軒家の事である。
ここ半世紀で島と第三世界樹付近とそれ以外にも自然以外の色どりが増え、それらは日々変わり続けている。
場所によっては家屋が立ち並ぶ村のような物が出来始め、それらを繋ぐように道も伸びて行った。
世界樹の加護のある地域以外に、そういった集団生活の場が生まれ始めた理由は様々だ。
安心して住む為であったり、近くに狩りをするのに最適な場所があったり、作りたい物の材料が豊富に採れる場所であったり、はたまた多すぎる人々から離れる為であったりと、人々はそれぞれの求める物に従い移り住み、そこに住居を作り始めた。
一から作るのは難しかろうと、最初は俺がそれらの住居の用意をしようと思っていたのだが、その心配は杞憂であったらしく、皆は魔法を駆使して独自の家を既に作り始めていた。
どうやら、俺の時の箱舟の建造を見ていた事や、魔法の練習にと用意した砂場などでの土魔法の練習が功を奏したらしく。
土魔法が得意な者やドワーフ達は、ある程度は見よう見まねで物を作れる様になっていたので、数人程度が住む土製の家なら量産が可能となっていたのだ。
大陸に関しては、そうして住居が立ち並ぶ場所が増えて行ったのだが、島に家々が出来た理由は別にある。
何故、島の東側の草原に新たに家々の立ち並ぶ居住区が出来たかと言うと、前に使っていた時の箱舟の埋まっている場所が、じわりじわりと大きくなる世界樹の幹に圧迫され始めたので、少し東側に移設させたのが事の始まりだった。
時の箱舟は食料や素材倉庫しても使っていたので、それに合わせて皆の生活エリアも少し東側に移動した。
そこまでは、さしたる変化は無かった。
だが、とある日――
「主様。家、という物を箱舟の近くに作っても宜しいでしょうか?」
と、レイディアとバハディアの二人が俺の元へと来た。
「家? また何故――」
俺は不思議に思い、そう聞き返した。
大陸側では魔物や動物の被害から安心して暮らす為に、皆が独自の住居を作り始めていたが、島の方では必要な物でも無い。
それに、彼等は時の箱舟を住居として使っていたはずだ。
あそこ住んでいるのは彼等竜人の四人とエルフィーとサーリ、それと数人の者達だけで、他に空いている部屋など大量に余っている。
現に彼等やエルフィー達は、空室をダンジョンから持ち帰って来た物をしまって置く倉庫として別室まで使っていたので、住居が手狭になるなんて事も起きにくいはずなのだが……
……はッ! もしや!?
子供か!? リーティアかシルティアのどちらかが妊娠でもしたのか!?
それで、あの閉鎖的な空間では子育てをし難かろうと、愛の巣を外に作る気になったのか?
「――だ? お?おぉ!?
家か! うむ、いいぞ! 私も手伝おう!」
「え? 主様がですか?
そんな恐れ多い事を頼むわけには――」
「いやいや、お前達は初めてだろうしな!
ああいった物は先々の事も考えて作らんといかんのだ」
「そ、そうなのですか?
では……ご助力願えますでしょうか?」
「うむ、任せておけ」
と、俺は竜人達の初子の為に、彼等の家を作る事にしたのだった。
俺は張り切りさっそく物作りに適したドワーフの神体へと体を切り替えると、二人と共に家の建設予定地に向かった。
そこにはリーティアとシルティア、それにエルフィーとサーリの四人が時の箱舟からいくつかの家具を運び出しながら
「――も、体が大きくなるとぉ。
やっぱりぃ、もっと広くしないと不便になるんじゃないかしらぁ」
「そうだね、別に部屋も作った方がいいのかな?
あれ? 主様?」
と、なにやら子供部屋の事で話し込んでおり、リーティアが俺に気付き声を掛けてきた。
「手伝いに来たぞ。どの辺に建てるかは決まっているのか?」
と四人に言うと、レイディアやバハディアと同じ様に「え?いいの?」といった反応を彼女達もしたが「任せろ」と俺は力強く答えたのだった。
俺はリーティア達が「この辺に作りたい」と言った場所を、ささっと平らに整地すると土台を作り上げた。
家の間取りはどうするか……
彼等は今まで大きめの部屋で、一緒に暮らしていたはずだが……
とりあえず、住む当人達の意見を聞いてみるか。
「土台はこれで良いとして、お前達、何か要望は有るか?
部屋の大きさでも、形でも何でもいいぞ」
俺がそう竜人達に尋ねると
「そうですね……
とりあえずは、私やバハの体でも十分に動けるように、入り口や廊下は広めに作ろうとは考えてはおりました」
「俺としても、子供達が数人はしゃぎ回っても大丈夫な広さを確保できれば、十分です」
と、レイディアとバハディアの男性陣が答え
「わたしは、広いキッチンがあると便利かなぁ……
あ! あと、服とかを並べて置く場所も!
そろそろ部屋に入りきらなくなるそうだし」
「それとぉ、エルフィーの所にあるぅ、お風呂もあったらいいわねぇ」
と、リーティアとシルティアの女性陣が要望を出してきた。
ふむふむ……なるほど。
たしかに、レイディア達は体が大きくなり、時の箱舟の通路や部屋の入り口程度の大きさでは狭いかもしれんな。
その辺りを考慮して余裕を持ったサイズで設計をするとして。
バハディアの要望の子供部屋も、どれだけ増えるかがまだ予測が付かないので、広めにしておくか。
リーティアの要望であるキッチンは元から設置する予定であったが、服を並べる所か……これは、大きめのウォークインクローゼットを作ればいいだろう。
それらは何の問題も無いのだが、シルティアの言った風呂が気になった。
何時の間にそんな物を……
「エルフィー。風呂を作ったのか?」
「はい、申し訳ありません。
その……空き部屋の一室に作ってしまったのですが……」
「いや、責めたい訳ではなくてな、シルティアの要望に応えるのに参考にしたいのだ。どんな感じの作りをしているのか教えてくれると助かる」
と、作った当人に尋ねると、どうやら自身で生み出した岩で湯舟を作り、そこに熱湯を出す魔物から取り出した魔石を利用した給湯設備を付けた物らしい。
ふむ……シンプルな作りではあるが、なかなかの物のようだ。
魔物産の魔石を利用する事で、使える魔法属性が限られている竜人達にも配慮されており、竜人の子供達がどんな属性をもって生れて来るかも分からんが、それなら問題無く利用できそうだ。
問題は魔物産の魔石は消費限度があるという点だが、それは俺が術式を仕込んだ天然魔石に置き換えれば解決できるな。
「よし、では作るか」
俺は頭の中に設計図を描くと、ぱぱっと二世帯住宅風の家を作り上げた。
外見は、耐火性の魔法を施した木枠の柱や梁の間を、強化を施した土壁と白い漆喰で覆ってあり、ちょっと西洋風の外観をしている。
形としては、二つの二階建ての家が一階部分にある共有の居住区画を通して繋がり、正面には大きな玄関を備え付けてある。
窓などに関しては、ガラスを使用しようかと少し悩んだのだが、割れた際の子供達への危険度を鑑みて木製の物にした。
内部は、竜人の男二人や子供達が大きくなっても大丈夫なように出入口や間取りを広く取り、リーティアとシルティアから要望のあったダイニングキッチンとウォークインクローゼット、それに広くゆったりとした風呂場もちゃんと用意した。
それに加え、竜人達は空を飛ぶ事も多いので、二階からでも出入りがしやすい様にと大きめのバルコニーも取り付けてある。
「ふむ……こんなものだな。
後は、部屋の各所に魔石を取り付ければ完成だ」
と、俺が皆の方へと振り返ると、驚きとは別の妙な雰囲気が漂っていた。
「……主様? えっと……なんでこんな大きなのを作ったの?」
と、リーティアは尋ね。
「あ。もしかしてー、わたし達の分のお部屋も作ってくれたんですか?」
と、サーリは言い。
「あぁ、なるほど。それで……ありがとうございます、主様。
大切に住まわせて頂きます」
と、エルフィーがお礼を言った。
あれ? これだと大き過ぎたのか?
でも、子供が生まれて、その後の事も考えると、これくらい余裕を持った部屋数と広さが妥当だと思うのだが……
「う、うむ。まぁ、誰がどの部屋を使うかは相談して決めなさい」
と、俺が少し戸惑い気味に答えると、リーティアが妙な事を言った。
「はーい。それじゃ、バハとレイが最初に決めちゃいなよ。
元々は二人の家の予定だったんだしさ」
んん? バハディアとレイディア二人の家の予定だった?
「俺達はどこでも構わんぞ」
「そうだな、入るのに四苦八苦してた入り口や部屋の広さは解決したのだし。
皆が、先に使う部屋を決めてくれ」
と、その二人は答えて、それを聞いた女性陣達は一足先に新居を見に中に入って行った。
あれ……もしかして、引っ越しの原因って……
竜人の男二人の体格じゃ、時の箱舟内部では狭くなってきたからだったのか?
いや、でも、バハディアが子供部屋の事を言っていた気が……
「これで時の箱舟の中で迷子になる子供達も減るといいが。
それに、俺達の部屋も、さすがに子供が数人来ると窮屈だったからなぁ」
「バハ。とりあえず、シルティとリーティの家具も運び出しておこう」
「そうだな。その前に俺達のを入り口の脇に退かしておくか。
主様、有難う御座いました」
「この様な立派な住まいをご用意していただけるとは。
有難う御座います、このレイディア感謝の念に堪えません」
「あ、ああ。私は内部で魔石を取り付けているので、何か変更して欲しい場所が有ったら言ってくれ……」
と、二人は俺に礼を言うと、家具の移動を始めたのだった――
――と、まぁ、俺が勘違いして彼等の家を作ったのだが。
それを見た、物作りと趣味とする者達が興味を持ち、その周辺に家を作る様になったのが、島に居住エリアが出来た原因だ。
そんな事を思い出しながら歩いていると、前方に件の家が見えて来た。
それと、そこには妙な人だかりが出来ているのも見えた。
「ん? 人が集まっているが……あそこに鎧があるのか?」
「はい。昨日、北の地から運んできたのですが、箱舟の中にも家の中にも入れるのが難しい大きさだったので、あそこに置いてあります」
と、俺が尋ねるとレイディアが答えた。
「ふむ……? 北の地で、と言う事は、ダンジョンで見つけた物では無いのか?」
朝食の時に言っていた着用の仕方が分からないという点も気にはなっていたが、ダンジョン以外でそんな物が見つかったという事の方が俺は引っ掛かりを感じた。
「最初に見つけたのは私なんですけどぉ。
北に行った所のぉ、雪原の中に埋もれていたのを見つけたんですぅ。
キラキラと光ってたんでぇ、何かの宝石かなぁって思ってたんですけどぉ
ちょっとぉ、期待外れでしたねぇ」
と、シルティアが見つけた場所と状況を簡単に説明してくれた。
相変わらずシルティアは光物に目が無いなぁ……ああ、いや、それよりも見つけた場所は、どうやらホンシュウ大陸のホクリク地方らしい。
もう10月になろうかという頃合いなので、あの辺りは既に雪に覆われ銀世界となっているので、その何処かだろう。
しかし、あの辺は未だに誰も足を踏み入れた事の無い地域のはずだし、何かの魔物がダンジョンから偶然持ち出した物とかだろうか?
「ふむ……」
「それと、着用の仕方が分からないという事も不明な点ではあるのですが。
その鎧は全身を覆う形をしていて、しかも、かなり大きいのです。
サイズとしては、私やバハディアよりも……いえ、それどころか主様の竜人の御身体よりも巨大です」
「どこの部位も外せないし、私達の鞄にも入らないしで、昨日はその鎧を掘り出すのと運ぶので大変だったんだよ」
と、レイディアが鎧の特徴を言い、リーティアが付け足して言った。
俺は、そんな大きな全身鎧を作った覚えは無い……無いのだが……
……ただの鎧でないのだとしたら、一つ心当たりがあった。
俺はちょっとした嫌な予感と共に歩き、人ごみの前へと到着すると、そこには全長7m程の青銀の全身鎧のような物が地面へと寝かせてあった。
「やはりか……これは鎧ではない。私が昔使っていたゴーレムの一つだ。
いや、ゴーレムと言うのも違うか……」
「主様の?」
「うむ……『魔気動甲冑』という物の試作品だな」
と、俺は彼等に神語で教えても良さそうな部分だけを教えた。
要は魔力と気で動かすロボットみたいな物で、昔、魔物の氾濫期にホッカイドウ大陸で遠隔操縦で使っていた物の一体のようだ。
あの頃は、地も空も海も魔物が溢れており、強大な魔物も数多く、それらの対処の為に、こうした物で戦力を増やして対処していた時期があったのである。
なんと言うか、子供の頃に作ったプラモデルが見つかった気分だな……
と、目の前に横たわる物を見ながら、俺は思うのだった。




