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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第一章 創世編
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第7話 少女の祈り

 桃の果汁で手がベタベタになりました。


 そりゃ嬉しかったからといって、勢いで桃を手掴みで丸のまま食ったら、こうなるよね……


 もちろん、ティッシュもハンカチも何も持って無い。

 仕方ないのでズボンで拭く事にした。


 まだ少しペタペタするのと桃の良い香りが漂ってくるが、これで我慢しよう。


 しかし、桃はたいへん美味しかったし、大満足だったのだが……

 どうやらGPは増えないみたいだ。


 やはり皆から受け取った時点で力の源は吸収し終わっているらしく、食べても力の流入などは感じなかった。

 でも、久々に物を食べる感触を味わえたので、もう少し何か摘まんでいこう。


 俺は画面に映る世界樹の周辺で生活している皆の様子を眺めながら、今度は失敗から学び、蜜柑や葡萄などの食べても手がベタベタになりにくい物を選んで取り出した。


 もうゲームだとは思えない感じがするが、こんな感じのシミュレーション物を何か軽いものを食べながら眺めてるのは心落ち着くものがある。


 少し無茶を言うなら、ジャンクな感じの現代的な食べ物と飲み物も欲しいが。


 それと座布団だな。

 座椅子でもいい。


 柔らかな草が生えてる草原とはいえ、そこに直に座ってる状態なので、ちょっとクッション性が足りないのだ。


 などと、些末な事を考えながら画面を見ていると、世界樹の近くで「!」みたいなマークを表示させている人物が居る事に気が付いた。


 なんだ?

 まぁ、クリックしてみれば分かるか。


 「!」のマークをクリックしてみると、『供物を受け取りますか?』と書かれたポップアップ表示に、供物を捧げに来ているエルフの少女の名前(名前は無いらしく空欄)とアイテムキウイらしいの情報と『受け取る』と『受け取らない』の2つのボタンが表示された。


 こっちでもこうやって供物を受け取れるのか。

 とりあえず受け取っておこう。



 それから暫くの間、パソコンの前で皆の観察をしていて、自分の身に起きている変化にもう1つ気が付いた。


 ワールドエディターの時間進行速度を等倍速にして観察していたので、経過時間が体感時間ではなく正確に把握出来たのだが、もう既に20時間も経過している。


 その間、さっぱり眠気や疲労感などを感じる事がなかったのである。


 特に疲れ様な事をしている訳でもないが、それでもやってる事は皆のステータスなどを見たり、たまにやってくる供物を捧げる者から果物などを受け取ったり程度の単調な事しかしていない。

 普通なら明らかに眠気や疲れなどの体調や精神の変動が起きそうなものだが、これといって感じるものが無いのだ。


 やはり、体の構造的な所から記憶や精神的な物まで、色々と変化がある様だ。


 さすがに、自分自身を解剖とかして調べるのは怖いし無理だ。

 こればっかりは、この世界と何故ここに居るのかを解明しないと分かりそうもないな。



 そして二日ほど、のんびりと単調ではあるが心休まる時間を堪能していると、妙な供物が捧げられた。


 今まではどれも果物だったのだが、今回はアイテム名が「雪花石膏」となっている。


 何かの鉱石だったかな?


 しかし、何でこんな物を?

 食べられる様な物には見えないと思うのだが……


 まだまだGPも2しか溜まってないし、一応受け取っておくか。

 今は少量でもありがたいしな。


 だが、これで供物は食べ物じゃなくても受け取れるという事が判明した。

 あっちで面白そうな物を見つけたら、こっちに持って来る事も可能という事だ。


 しかし……この供物を持って来てる名無しのエルフ少女。

 この娘は、この二日間の間に何度も来てる気がするな。


 何か有るのだろうか?

 少し気になるので、下に降りて確かめてみるか。


 けど、まだ地上に降臨するのに慣れて無いから、降りる時、股の辺りがキュッとするんだよな……我慢して行くか。


 俺はトントンと心臓の辺りを叩き、少し気合をいれると、世界樹へと降りた。


 世界樹に降臨すると、また皆が俺の事を注目している。

 やはり、俺が下りて来たのが分かるのだろうな。

 話せるようになったら、何故なのか聞いてみよう。


 それよりも、あの供物を頻繁に持ってくるエルフの少女だ。


 名前が無かったからSIDで判別するしかないか……

 たしか……SIDの番号は178だったはずだ。


 と、探すために周りのエルフを探していると、1人のエルフの少女が手に黒い石を持って、小走りで近寄って来た。

 その少女のステータスを確認してみると


 名前:   性別:女 年齢:14 種族:エルフ

 SID:178 Lv:4 状態:健康

 HP:56 SP:19 MP:35

 STR:9 DEF:11 VIT:10 DEX:13

 AGI:13 INT:19 MND:16 LUK:14

 技能:神語1


 SIDが178、どうやら、これが彼女らしい。


 見た目は、青い瞳に長く膝くらいまである銀髪で、背は150cmくらいだろうか?

 他のエルフ同様に体形は細身で、長く伸びた耳が特徴の可愛いエルフっ子だ。


 そのエルフの少女が嬉しそうな表情でこちらの根本までやって来て、持っていた拳大の黒い石を頭上に掲げ、必死な感じでぴょんぴょん飛び跳ね始めた。


 供物を受け取れる感覚を感じたので、念じて受け取ってみると、エルフの少女は俺の事を真剣な眼差しでジッと見つめてきた。


 これはやはり、何かしらの意図があるみたいだ。


 少し聞いてみるか?

 聞ければだけど。


「そこの供物を捧げたエルフの少女よ、私に何か用があるのか?」


 脅かさないように優しく尋ねてみると、エルフっ子はぶんぶんうなずいた。


 何か求める事が有るのは分かったが……

 この先はどうしよう……


 しかたない、イエス・ノー形式の連想ゲーム風に聞いてみるしかないか。


「それは、私にしか出来ない事か?」と問うと少女はうなずいた。


 うーん、俺に出来る事ってそんなに無いんだけど……


「何か問題が起きてるのか?」


 と聞くと、エルフっ子は少し悩んだ後に、斜めに首を振った。


 これは判断が出来ないって事か?

 独自の表現をするとは、こやつ、やりおるわ。


 次に問う内容を考えていると、少女が何か喘ぎ声のような声を上げ始めた。


「お……お……あ……。ほぉ…お…あ」


 おおあ? ほおあ?


 何だ?


 何を伝えようとしてるんだ?


 いや……伝えようとしている?

 それも声で?


 これはもしかして――


「言葉を喋りたいのか?」


 と、聞いてみると、少女は勢い良く頭を縦に振った。


 なるほど、言葉を話せるようになりたいのか……


 ……しかしだな、俺は先生などをやった事がある記憶は無いんだが、どうしたものか。


 だが1つだけ、手っ取り早く簡単に話せる様にする方法はすでに考えてはある。


 パソコンで地上を眺めながら、ぼんやりと考えていたのだが、GPで何とかできるかもと思いついたのだ。


 しかし、GPを使って人に何かをしてみるというのは、少し不安な部分もある。

 上手くいけば良いが、失敗した場合、あんな強力な結界を作ってしまう様な力だ、何が起こるか分からない。

 それにGPは残り2しかないし、0になったら、たぶん俺はまた意識を失ってしまうだろう。


 大丈夫だろうか……?


 色々思う所はあるが、そろそろ誰かと話をしてみたいとも思っていた。

 さすがに、こう何日も誰とも言葉も交わさず、一人で考え事をしているのもつまらないと感じていたのだ。


 なら……試してみるか。


 よし、GPを1だけ使い、失敗したりして何かが起こったら、残りの1ポイントを使い何とかしてみよう。


 今度は籠める力の量を制御しなければならない。

 慎重に自身の中に宿る力に願いを籠める。

 込める願いは、彼女に俺と自由に意思疎通できる言葉と知識を習得させる事。


「エルフの少女よ、汝の求む言葉の知識を授けよう」


 俺は彼女に優しく告げ、願いを籠めた力を開放する。

 すると、エルフの少女の体の周りが淡く光り、その光が彼女に吸い込まれるように消えて行った。


 そして少女は突然、倒れたのだった。


 え……?

 ちょ、死んだのか!?


 と驚いていると、遠目から見ていた者達も何事かと集まってきてしまった。


 い、いや、これは違うんだよ?

 わざとじゃないんだ、事故なんやこれは!


 えっと、こんな時の対処法は、えーっと人工呼吸か?

 いや俺は今、木だから無理だ。

 それじゃ心臓マッサージ!

 も無理だ。どうしたらいいんだ!


 こうなればGPを使って……

 いや、その前にステータスの状態の確認が先か、どうなってるんだ?


 名前:   性別:女 年齢:14 種族:エルフ

 SID:178  Lv:14 状態:気絶

 HP:50/67 SP:19/24 MP:35/80

 STR:11 DEF:12 VIT:13 DEX:15

 AGI:16 INT:54 MND:26 LUK:17

 技能:神語10


 と、なっていた。


 なんだ……気絶しているだけか。

 びっくりさせおって。


 とりあえず、皆に説明だけしておくか。


「この者は、少し眠っているだけだ。

 大丈夫だから安心しなさい」


 と、皆に言い聞かせると、気絶している少女を心配そうに抱く男女二人のエルフを残して、他の者は周囲に離れて行った。


 残ったこの二人は少女の親なのか?

 目が覚めるまでの世話は任せて大丈夫かな?

 尋ねてみるか。


「お前達二人は、その者の親なのか?」


 と、尋ねると、その二人は頷いた。


「その者が目を覚ますまでの世話を頼めるか?」


 次にそう聞いてみると、二人はまた頷いて、父親の方は何かを探しに行った。


 父親のエルフの様子を見ていると、近くの地面をきょろきょろと見回して、何か分厚い大きな葉を地面から拾い上げ少女の元へと戻って来た。


 何の葉っぱだろうと思ったら、あれは世界樹の葉だな。

 あれを、どうするんだ?


 と、その様子を見ていると、父親は気絶している少女の口元まで世界樹の葉を持って行き、両手で絞ってにじみ出て来た汁を飲ませていた。


 なるほど、水の代わりなのかな?

 などと考えていたら、どうやら違ったらしい。


 その世界樹の葉のしぼり汁を口に含み、飲み込んだエルフの少女が直ぐに目覚めたからである。


 ふむ?


 もしかして世界樹の葉には、RPGとかでも良く見かける様な完全回復的な効果とか、何か不思議な効能でもあるのか?


 まだ目覚めて間もない少女のステータスを確認すると、HPが満タンに戻っており、状態も健康となっていた。


 よかった、無事に起きて。


 これからは、人相手に力を使う時は気を付けよう……

残りGP:1

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