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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第三章 廻魂編
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第76話 新大陸へ

 穏やかな風が吹き、天高く聳える世界樹の木漏れ日を受け、地表ではいつもの長閑な日常風景が繰り広げられていた。


 川のほとりでは衣類を作る者達が糸を紡ぐ為の繊維を取り出しやすくする為に、簡易な堰を作り、そこに草花や蔓などを沈めており。

 既に繊維へと分けられた物は、乾かす為に近くにある物干し竿へと並べて掛けてある。


 その川を挟んだ反対側では、陽気な歌を歌いながら、ある者は土魔法で器を作り、またある者は何かの金属を叩いて薄く引き伸ばしている。


 視線を遠くに飛ばせば、草原の中でラグビーの様にボールの取り合いで転げまわる若者達や、様々な遊具の合間を競争するように走り回る子供達の姿が見える。


 そろそろ昼になろうかという頃合いでもあったので、あちこちで炊事の煙をたなびかせて何かを焼いている者達も見られた。


 俺は、そんな風景を眺めながら白亜の神殿へと向かい、中で眠るコロの巨体を押しのけて中に入ると、ドワーフの神体から人間の神体へと乗り移った。


 乗り移る際に、神体から発せられる強烈な光が神殿の中を満たしたが、気持ち良さそうに眠るコロは微動だにしない。


 だが、もう一人の住人は違ったらしい。


「おぎゃーーッ! おぎゃーーーッ!!」


 と、けたたましい泣声と共に目を覚ましてしまった。


 その泣声を煩わしく思ったのか、コロはのっそりと頭を上げると、その体に包まれる様に収まっていたアダムの姿が見えた。


「すまん、アダム。びっくりさせてしまったな。

 だが、そろそろ昼だ。一緒に昼食を食べに行こうか」


 俺はそう言い、アダムを抱き上げあやしながら外へと連れ出す。


 のんびりと散歩するように、アダムに昼食の献立を説明しながら食卓となる大理石のテーブルの所へと向かって歩いていると、ドワーフのドグが俺の所へと来た。


「主様。昼食ですかの?

 ワシもご一緒しても宜しいですか?」


「ああ、かまわんぞ」


 こうして種族の代表格の者が昼食の時に訪れる場合は、何かしらの相談事の場合が多い。


 大理石のテーブルまで行きアダムを専用の椅子に座らせ、俺が昼食の準備をすると、一緒に来たドグも俺の近くへと座り、魔法の鞄から簡易なパン類と果物と何かが入っているらしい小型の壺を取り出した。


「それで、何か相談でもあるのか?」


「ええ、これの事なんですがの」


 と、彼は壺の蓋を取り、中を見せて来る。

 中を覗いてみると、どうやら葡萄のジュースのようだ。


「ふむ?美味しそうだが、何が問題なんだ?」


「前にエルフィー嬢に酒の作り方を教わりましてな。

 それで試しておったのですが、さっぱり上手く行かんのですわ。

 これは、何が駄目なんですかの? 何か足らん物でもあるんですか?」


 俺が中身を見て尋ねると、ドグはそんな事を言ってきた。


 なるほど、当のエルフィーがダンジョンに行ってて居ないので、代わりに俺の所へ来たのか。

 壺の中を満たす葡萄の搾り汁を調べてみると、やはりと言うか、酵母の働きが停止しているのが分かった。


「酒は、発酵させる必要があるって事はエルフィーから聞いているか?」


「それなら、聞いております」


「その発酵に関してなのだがな。

 酒へと変化させる発酵は、この付近では出来んのだ――」


 俺はアダムがお子様ランチ風幼児食を手掴みでモリモリ食べる様子を見守りながら、ドグへと説明をする事にした。


 この島の世界樹を中心として展開している聖域結界の内側では、人に対して毒性を含む物を排出する細菌や動物の働きは阻害されているので、当然アルコールを生成する酵母の働きも止まってしまう。

 つまりは、皆の生活圏となっているこの草原部では、酒は造る事が普通の方法では不可能なのだ。


 ちなみに、エルフィー達がパンを作る際に使用している酵母は、そう言った物が排出されない様に調整された、俺の特性酵母だったりする。


「――という訳だな」


「つまりは……森の中の方で作るしかないという訳ですか。

 それに、酒は毒なのですかの?」


「それは、摂取の仕方や量に依るな。

 飲みすぎたりせねば大した問題は起きにくい。

 それに世界樹の葉か、世界樹丸を飲めば消え去るしな」


 と、言ってやるとドグはほっとした表情になった。


 しかし、酒を造り始めたのか……


 酒ッ!飲まずにはいられないッ!どころか、作らざるにはいられない、といった習性でもドワーフにはあるのだろうか?


 時の箱舟倉庫の在庫の減りが早くなってきている事には俺も気が付いていたが、彼ら自身でその問題を解決しようと動いてくれている事には、動機はどうであれ、正直うれしい気分だ。


「では、午後にでも皆で森の中に運んでみますわい」


「あー……それとな

 森の中で作るのはいいのだが、ただ放置するだけでは問題が出るぞ」


 と、俺は酒造りに関する、もう一つの問題を思い出した。


「問題……ですか?」


「うむ、森に生息する動物やモンスター達がな。

 果物の汁の甘い匂いに釣られて、酒になる前の物を狙ってくる事があるのだ。

 果物類を好んで食べる動物や魔物には注意を払わねばならん」


 俺は自身の経験則を話した。

 昔、森の中の方に小屋を作り酒樽を放置しておいたら、熊などの動物や魔物にやられた事が有ったからだ。


 そんな事を思い出しながらドグに説明していると、不意に俺達の頭上に影が差し


「たーだーいーまー! あーるーじーさーまー!!」


 と、リーティアの快活な声が聞こえた。


 そちらに目を向けると、リーティアとシルティアの二人がこちらに向かって飛んできているのが見えた。

 その二人の少し後方の空を、なにやら10m以上はありそうな巨大なクリスタルの塊をエルフィーとバハディアの二人が一緒に運んで来ており、それをレイディアが先導している。

 その巨大な氷の塊のようにも見える物が空中を移動する様を、他の者達も好奇の目で追い、ちびっ子達は追いかける様に走ってそれを追従していた。


 あれは……ブラスタータートルの甲羅かな?

 どうやら、無事、ダンジョンの最下層近くの難敵を倒せたらしい。


「なんじゃありゃ!?」


「あうあー!」


 ドグもその様子を見て驚きの声を上げ、アダムも珍しく食事の手を止めてドグと同じ様に叫んだ。


 俺の近くへと着地したリーティアとシルティアの二人は、大物を仕留めた興奮か、それとも巨大な宝石を手に入れた嬉しさからか、ほくほく顔で


「見て見て! あの大きな亀の甲羅持ってきたよ!」


「運ぶのに苦労しましたわぁ。

 でもぉ、あれは何処に仕舞おうかしらぁ?」


 と言ってきた。


 まぁ、運んでいるのも苦労しているのもバハディアとエルフィーなのだがというツッコミはさておいて「よくがんばったな」と、俺は労いの言葉をかけた。


 そして、少し離れた所にブラスタータートルの甲羅が降ろされると、残りの三人も俺達の元へとやってきて、一緒に昼食を食べる運びとなったのだが


「――そしたらね、あの大亀の甲羅が光って、細いレイのブレスみたいなのを、たくさん出してきたの。

 しかも、その一本一本が私達を追いかけてくるわけよ」


「あれは避けるのが大変だったな。

 なんせ障害物も無いから、一つ一つ迎撃するしかなかった」


「ねーねー、えるひー

 びでおはないのー?」


「ごめんなさいね。

 指輪はあの時、別な事に使ってたから撮影はしてないのよ」


 と、魔物との戦いを語って聞かせるリーティア達と、それを聞く子供達、戦利品の結晶甲羅を見に来た者達で、俺の周りは一気にごった返してしまった。


「そう言えば、エルフィーは凄かったね。

 なんか羽を生やしたら、すっごい速さで飛び始めたの」


「あの動きは目で追うのも難しかったな」


 とうやらエルフィーも天翼を使って活躍できたようだな。

 まぁ、あれは膨大な魔力を持つ者でなければ、さして強力な物でもないのだが、彼女には適した能力だろう。


「それで、森の中に酒蔵を作るのは、どの辺が良いんですかの?」


「そうだな……さほど大きいのでなければ何処でも問題無いが……

 先ずは、小さいのを草原と森との境目あたりに建ててはどうだ?」


 俺はエルフィーや竜人達の会話に耳を傾けながら、ドグにも説明を続けた。

 ついでに、手で掴んでだと食べにくいプリンや汁物を、スプーンで掬ってアダムの口へと運んでやる。


「そうですなぁ、そうしますわい。

 では、わしは皆と酒蔵を作る場所を決めに行ってきます」


「ああ、構造に悩むようだったら呼んでくれ」


「ええ、有難う御座います」


 と言い、ドグは残った昼食を口に放り込むと、さっそく酒蔵を作りに向かって行った。


 しかし、酒かぁ……


 まだ農業などの一次産業が生まれてもいない内に、先に二次産業的な趣向品の生産が始まるとは……

 少々予想外ではあったが、文明や文化はその時々の者達が求める事から生まれる物であるし、食料などに不自由してない内はこういった逆転も起こりうるのか。


 いや、これは俺が料理や酒などの技術を先に伝えた結果によるものだな。

 今のところは問題は無いが……後々、変な歪みが起きそうだ。


 それに、問題が表面化しつつある事柄もある……


 肉食を始めた者達と、それを忌避する者達との生活エリアが離れ始めていたり、狩りやダンジョンへと行く事を生活の主軸にし始めた者と、平穏に生活したい者との価値観の相違からも、妙な軋轢が生まれ始めている。

 種族的な本能と生態から、好みも行動様式も違ってくるので、こればかりは如何ともし難い。


 人口が千人を超えた辺りから、そんな問題が見え隠れするようになったのだが、まもなく三千人を超えようかという人数にまで増えてしまっている。


 これは、そろそろかもしれんな――




「引っ越し……ですか?」


 翌朝、俺は朝食を終えると各種族の族長を全員集め、その事を話した。


「今直ぐという訳では無い。

 この島とも簡単に行き来できる様にする予定でもあるしな。

 先ずは、希望者からにしようかと考えている」


「何処に……いえ、何故なのですか?」


 と、エルフィーが混乱する皆の代わりに尋ねてきた。


「ただ、頃合いだと言うだけの事だ。

 人が増えてきたので、この世界樹付近の草原では手狭になってきたしな。

 それに、そう遠くない内に、この島全体でも足りなくなるだろう」


 そう説明をすると、人口が増えた事により起きていたトラブルの解決に悩まされていた族長達は、多少なりとも納得した表情になった。


「まぁ、場所も気になるであろうし、先に見せておくか。

 皆、ついて来てくれ」


 俺はそう言い、空間ゲートを開けると、先ずは島の北端にある高台へと皆を連れて行った。


「ん……? 雲が邪魔だな……これでよしと。

 皆、あの遠くに有る物が見えるか?」


 遠くの視界を塞ぐように入道雲があったので、俺はそれを退かし、その先に薄っすらと見える物を指さす。


「あれは……世界樹……?」


「それにぃ、大きな山も見えるわねぇ……

 あれってぇ、もしかしてぇ、前に私達が行った所ですかぁ?」


 と、竜人の持つ高性能な目で逸早く視認できたらしいレイディアは呟き、引っ越し先に気が付いたシルティアが尋ねてきた。


「ああ、あのグンマーダンジョンの南の方だが同じ大陸だ。

 あの世界樹は、この島の世界樹の子供みたいな物だな。

 そこの根本が引っ越し先の予定地となる。

 どれ、次は実際に現地に行くぞ」


 俺はそう答え、空間ゲートをホンシュウ大陸のトウキョウ平野にある第三世界樹の根本へと繋げた。


 空間ゲートを抜けた先は、草木が生い茂る広い平原と、それを囲むように様々な果物を実らせる森があり、その中心には聳え立つ世界樹があった。


「どうだ?見た感想は?」


 周囲を見渡す皆にそう聞いてみると


「えっと……向こうと、あんまり変わってないよ?主様?」


 と、リーティアは素直な答えを返してきた。


 ですよねー……


 彼女の言う通り、島よりも世界樹が小さく草原も少し狭いくらいで、そこまで違いはない。

 向こうと違う点を挙げるとすれば、俺や皆が作った建築物が無い事と、人の代わりに動物の楽園と化しているという部分くらいだろうか。


「……まぁ、そうだな。

 とりあえず、危険な魔物などは近寄らないようにしてあるので、こちらに来たとしても、そこまで生活に変化は無いはずだ。

 それと、ドグとダグ。

 ここでなら、世界樹の根本で酒を作っても上手く行くぞ」


「おぉ? それは良いですな!」


「美味そうな獲物も結構居るな……」


 と、酒造りに興味を示していたドワーフと、周辺を闊歩する獲物に興味を示した獣人達は引っ越しに乗り気になってくれたようで、俺は一安心した。





 そして、季節が過ぎ――



 いや、世界樹付近では季節の移ろいは感じないんだけど。

 

 感傷的な脳内ナレーションはともかく、月日が経過し、アダムが言葉で意思表示ができるようになり、自身の足で歩き回り始めた頃。


 引っ越し先へと向かう、第一陣の出発の日となった。


 島の北端の砂浜へと島の住人の殆どが集まり、それぞれ期待に胸を膨らませて談笑を交わしている。


「一番手は全員乗ったかー?」


 俺が歩きながら、周辺に声を掛けて確認をしていると


「主様。皆、乗車しております。

 それと、そろそろ出発のお時間です」


「そうか、では私達も乗るか」


 エルフィーが俺の元へと来て報告をしてくれたので、俺はそう答え客車のタラップへと足を駆けて車内へと入った。


 俺が皆の引っ越しの際に用意した物は、蒸気機関車などに使われていた少々古臭い雰囲気の客車車両だ。


 空間ゲートで送り出したほうが楽でもあるのだが、なんと言うか、エンターテインメント性という訳では無いが、多少は旅の様な物を楽しませてやりたいという気持ちからだ。

 まぁ、この列車での旅の説明を受けるか見るかすれば、好奇心旺盛な者達が飛びついてくるだろうという打算も少しある。

 おかげで、第一陣は1000人近くの希望者が集まった。

 今日はその者達を三回に分けて運ぶ予定である。


 俺はエルフィーと一緒に後方の車両から先頭車側へと、皆がコの字形の客席へと着席しているかを順々に確認しながら進む。

 車内に居る者達は、出発が待ちきれないという感じでそわそわしている者や、俺が配った簡素な駅弁を既に開けて食べている者などが、賑やかに出発の時を待って居た。


 先頭車両へと行くと、族長達とその関係者、それと新天地側でのまとめ役となる者達が乗っていた。


「主様! 出発するの?」


「ああ、もう時間だ」


 俺は、待ちきれないといった感じで尋ねてきたリーティアにそう言うと、近くで駅弁を美味しそうに食べているアダムが見えた。


「ん? アダム、それはバハディアの弁当ではないのか?お前の分はどうした?」


「たべたー」


「主様、お気になさらず。私も少しは食べましたので大丈夫です」


「……そうか、すまんなバハディア」

 エルフィー、そこに飛んでるガウ達を捕まえて、疑似視覚を与えてやってくれるか? 私は道を作ってくる」


 アダムの元気な返事を聞きバハディアに謝った俺は、車内をフワフワと漂っていたガウ達の事をエルフィーに任せると、先頭車両の一番前へと向かった。


 運転席という訳では無いが、前方が見渡せるようになっている一番前への所へ行くと、そこには機関車の代わりに客車に繋がれているコロが居た。


「さてと……『海よ! 割れよ! そしてこの者達を送り出す道となれ!』」


 と、俺は魔法を発動し、コロと客車の前に広がる大海原へと魔法を使った。


 すると、地鳴りのような重く体に響く音と共に海がゆっくりと二つに割れて行き

、やがて事前に整えてあった海底へと続くなだらかな道とレールが現れた。


 その光景を前に、見送りに来た者達や、客車の窓から身を乗り出して外を見ていた者達から大きなどよめきが起きる。


 海を割るだけならさほどの労は無いが、退かした水が他所に津波などを引き起こさない様に気を配らねばならない。

 島からホンシュウ大陸の間の海域の干潮の時間を選んだのだが、なかなかに微調整が難しいな……


 今日は、この割れた海の底を行く、一時間ほどの小旅行を皆に楽しんでもらう予定である。

 途中では海底トンネルならぬ、海水トンネルなども用意してある。


「それじゃ、コロ、最初はゆっくりと頼むぞ?」


 機関車ならぬ機関犬の役割を頼んであるコロに声を掛けると


「わふっ」


 と、コロは軽く吠えて、客車を引っ張り始めた。


 ガシャン、ガシャンと連結部が音を立てて後ろの客車へと力が伝わり、徐々に前へと進みだす。



 空が晴れ渡り、海風が気持ちいいな……


 さて、俺も久々の列車での旅を楽しむとするか。

 ―― 第三章 廻魂編 終 ――

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