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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第三章 廻魂編
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第72話 転生への胎動

「それで……お前達の埋葬方式なのだがな。

 火葬、土葬、水葬、あと変わり種として宙葬とあるのだが。

 どれがいい?」


 ――……宙葬って何です?……――


「空の彼方に飛ばす方式だな。

 永遠と遠くの空へ向かって飛ぶ事になる」


 ――……焼かれるのはちょっと……――

 ――……海とか空は怖そうですねぇ……――

 ――……土葬でお願いします……――

 ――……日当たりの良い場所にしてください……――


 現在、俺はガウとキュイ、それとバウとチーの四人の合同葬儀を眺めながら、その本人達の魂と残された体の埋葬について話し合っていた。


 どうやら、焼いたり、海に流したり、宇宙の果てへと飛したりといった方式は、四人ともお気に召さないらしい。

 そんな感情がひしひしと流れ込んで来る。


 四人の葬儀は大祭壇で行われている真っ最中だ。

 そのピラミッド状の大祭壇の上部の平たい場所に四人の遺体が並べて寝かされており、そこへ皆が列をなして、花やら果物などのお供え物を遺体の傍らへと置いている。


 ――……主様、バルゥに酒も置いてくれと伝えてくれますか?……――


 ――……あ、ついでにヒューガにも、キウイジュースを持ってくる様にとお願いします……――


 と、バウとガウの両名が、お供え物のリクエストをしてきた。


 肉体が無くなったので五感も無いはずなのだが、どうやら自身にプレゼントされたお供え物の感覚や贈った者からの気持ちは伝わるらしい。


「わかった。それは後で伝えておく。

 その前に、埋葬場所を決めるぞ」


 俺はそう言い、四人の魂を引き連れ埋葬地の選定をしながら歩いていると、大祭壇の方からドグが小走りでやって来て、俺達の事を引き留めた。


「主様。こちらに居りましたか。

 四人のレリーフが完成しましたぞ!

 文字が合ってるか見てくだされ」


 と、ドグはガウ達の墓標代わりにと、大祭壇に用意する事にしたレリーフが出来上がったと報告した。


 彼に案内され大祭壇の側面へと行くと、作製に携わったエルフやドワーフ達が待っており、その背後の壁一面にガウ達四人の姿が、それぞれ夫婦セットで彫り込まれていた。


「おお、なかなかの出来に仕上がったな。

 名前も……うむ、これなら大丈夫だ」


 レリーフの下側には、カタカナでガウ、キュイ、バウ、チーとしっかりと彫ってある。


 昔、皆に漢字以外の文字を一通り教えたのが初めて役に立ったな。

 まぁ、あの頃は俺の体が世界樹だったのでエルフィーが主に教えてたんだけど。


 ――……主様、私にも見せてください……――

 ――……俺も、俺も……――


 俺がレリーフの出来栄えに感心していると、そのモデルの本人達も見たがったので、魔力で疑似的な視覚を再現して四人へと繋げてやる。


 精霊は対象物の魔力や気を感じて五感の代わりとして捉える事が出来るが、この四人はまだまだ本人達の能力も魔力量も低く、こうした補助が必要になる。


 だが、他の精霊よりは、ガウ達の方が視るという感覚を知っている分、魔力による疑似的な物でも直感的に理解できるという点では楽だ。


 ――……あらあら、ちゃんと若い頃の姿になってるわねぇ……――


 ――……うーん、俺の爪と牙はもっと大きくなかったか?……――


「なんじゃ?バウか?

 彫る前に下書きを見て、お前も納得してたじゃろうが」


 ――……あんた、なに文句言ってるの。

 勇ましい姿で作ってくれたんだから、良いじゃないのこれで……――


「それに、掘り直すにしても、全面の壁を取り換えねばならないんだぞ」


 ――……わ、わかった。俺が悪かったよ……――


 と、魂組と、ドグやエルなどの神語能力が高い者達同士で、日常の様な会話が始まってしまった。


 しかし、なんとも、元気のいい死人というか魂達だ……


 ガウ達は、通常状態では思考能力が低下し微睡んだ状態になっているのだが、魔力と気を供給してやると、こうして意識がハッキリとし、生前と変わらぬ程度には思考と会話を行えるようになる。


 まぁ、放置している時は他の精霊達より大人しいくらいだし、聞き分けも良い分、手間がかからず助かるが。



 そんなこんなで、葬儀と埋葬は本人達の希望に沿う形で無事に終わった。


 俺や神語スキルが高い者達を介せば会話も出来るという事もあり、そこまで悲嘆にくれる者も出ず、終始、和やかなムードで葬儀は幕を閉じた。


 そして魂が精霊となる様に世界構造を変化させてから、ガウ達以外にも死者の魂を宿した精霊が誕生した。

 昔、川や森などでの事故で死んだ者が数名居たのだが、その者達の魂も精霊として復活したのだ。


 その大半は俺が地上へと降りて来る前に亡くなった者だったので、面識のない魂が多かったが、島の中を漂っているのを見つけ親元へと連れて帰る事にした。

 魂だけとはいえ、再会する事が出来た親達もその事には喜んでくれたのだが、流石に長い年月を経ての復活なので、その魂達は記憶も意識も朧気で、俺が生み出した精霊達と大差ない状態になってしまっていた。


 しかしながら、その者達の魂の状態は、ある意味都合が良かった。


 生きている間はごちゃ混ぜとなって肉体に宿っている記憶や能力などを、魂だけの状態になっている間に安定した形にしておかなければ、次の段階に移り難いからだ。


 その次の段階とは、転生である。


 魂は、その本人が経験し記憶した事の多寡や獲得した能力によって、そのデータのデフラグにも似た安定化のプロセスの時間が延びるのだが、この復活した魂達はそれが既に済んだ状態だった。

 なので、後は適合する胎児へと宿るだけとなる。

 

 生まれる前の胎児へと宿る事になるのだが、妊娠1~2ヵ月程度までは体内の胎児に、SID、所謂、魂の指紋とも言えるナンバリングやステータスの表記が現れない。

 その胎児と肉体的な物や属性などの波長が合い、そして近くに居る精霊が安定状態になっているのであれば、その精霊は胎児に宿り転生する事が出来る。


 ガウ達の葬儀から三ヵ月程経過し、復活した魂の何体かが、一番波長の合う元の母親の胎児へと宿っているのが確認できたので、ここまでは成功だ。


 後は、経過観察を怠らない様にして、問題が出たらその時にでも対処すればいいだろう。



 魂から生まれた精霊達と転生の過程を見守りながら、いつもの日常を送っていた、とある日。


 前に朝食の議題に上がっていた、ダンジョンへと子達が行こうとする問題の対処の為のアトラクション施設、子供用ダンジョンを俺が作っている時だった。


「あるじさまー! まだー?」

「今度は何つくってるのー?」


「もう少し待て」


 と、俺がちびっ子達に囲まれながら、アスレチックのある一角に施設の入口の設置を行っていると


「なぁ、あれ、こっちに向かって来てないか?」

「いっつも白い所で寝てるのに、どうしたんだろ?」


 と、周りに居た子供達が急にざわざわと騒ぎ始め、俺もその子達につられ視線を移すと、遠くの方からコロが此方に向かって歩いてくる姿が見えた。


 肉関連の食い物が有るわけでも無いのに起きて来るとは珍しいな。


 子供達は近づいてくるコロの進路上から退避すると、犬小屋神殿の外でなかなか見ることの無いその巨体を、興味津々と言った風に眺め始めた。


「どうした、コロ?」


「ワフッ……」


 傍へと来たコロは軽く吠えると、北の方へと顔を向け何かを伝えようとする。

 

 コロが起きて犬小屋神殿の中から出て来る時は、いくつかのパターンがある。


 俺が肉を料理しているか食べている時はもちろんだが、俺が天界へと行くとついてくる事がある。

 それ以外では、大抵、魔物関係で何かが起きている時だ。


 島の近く、正確にはコロの縄張りのエリアに狂暴な魔物が来た場合は、コロは近寄ってきていた魔物を一人で勝手に狩りに行く事がある。

 ここ数万年は、魔物達も学習したのか、この島に近寄ってくる事が少なくなったので、この行動は見なくなって久しい。


 他には、ホッカイドウ大陸以外の場所で強大な魔物が生まれた時や魔物の氾濫が起きた時だ。

 この場合は「散歩に連れてけ」とばかりに、嬉しそうに尻尾を振って俺の所へとやって来る。


 今回のコロの行動はそれに近いのだが……どうにも様子が変だ。

 楽しそうというより、困惑しているという感じがする。

 俺自身も世界各地の異変は察知出来るので、そんな大事は起きていないはずなのだが……


 少し不思議に感じながら、コロの視線と意識が向いている方角を確かめてみると、ホンシュウ大陸にあるグンマーダンジョンと名付けたダンジョンで妙な事が起こっていた。

 ダンジョン周辺の地表の魔物達が全てダンジョンから離れる様に移動をしており、そのダンジョンの入り口からも内部に生息する魔物があふれ出す様に外へと出てきている。


 魔物の氾濫かと思ったのだが、それなら早期警戒術式システムに引っかかるはずだし、予測でもかなり先の事だったはずだ。

 それに、魔物達は一心不乱に遠くへと逃げている様にも見える。


「ふむ……?」


「どうしたの主様?あっちに何かあるの?」


「いや、グンマーダンジョンの様子がな――」


 と、答えながら気が付いた。


 ……この声はリーティアだ。


「グンマーダンジョン?

 あっちにもダンジョンがあるの主様?」


 その声の方を見ると、やはり声の主のリーティアと他の竜人達、それにエルフィーの5人が頭上の空中に浮かんでいた。


「お、お前達? ダンジョンに行ってたんじゃないの……か?」


「それがぁ、少し前からぁシヴァちゃん達が怖がり始めちゃいましてぇ」


「イフもなの、主様。

 だからサーリか主様に預けようと思って、一旦帰ってきたの」


 シルティアとリーティア達はそう言うと、下まで降りてきて彼女等の体にくっついている水精霊のシヴァと火精霊のイフを見せて来た。


 竜人達は単属性の魔力を放っている為、その属性の精霊達に好かれやすく、ここ最近はこうして連れて歩いている事が多い。

 おかげで、俺やサーリの負担が減って助かっているのだが……


「精霊達が怖がっている?

 エルフィー、どう言う事だ?」


 エルフィーの場合は、自身から放出する魔力の属性をコントロールする技量が有るので、俺やサーリ同様に全ての精霊を連れ歩く事が出来る。

 そして、皆の中で一番神語の能力の高いエルフィーなら、詳しく精霊達の感じている事を把握しているかと思い、俺は彼女に詳しく話を聞く事にした。


「申し訳ありません。私にも何が原因なのかは……

 トールもなのですが、何かに怯えているのは感じるのです。

 てっきり、ダンジョンの魔物を怖がっているのかと思っていたのですが、こちらに帰って来ても変わらず、どうにも違う様です」


 と、エルフィーも背中にくっついている雷精霊のトールを見せようと、体の向きを変える。すると、トールは俺から隠れる様にエルフィーの体の反対側へと移動してしまう。

 

 精霊が俺から隠れるなんて行動をするのは初めて見たので少し驚いた。

 だが、直ぐに俺からでは無く、北の方角から隠れているのだと気付いた。


 火精霊もリーティアの体を挟み南側の体表面に貼り付いているし、水精霊もシルティアの南側に隠れている。

 レイディアとバハディアの連れている光精霊と闇精霊も同様で、まるで方位磁石にでもなったかの様に、精霊達は南側の影へと隠れていたからだ。

 

 もしや……グンマーダンジョンでの異変を精霊達が察知しているのか?

 

 これは、急ぎ調べた方が良さそうだな……

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