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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第三章 廻魂編
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第70話 魂の枷

 夜、俺は一人佇み、精霊の揺り籠の中に居る水精霊を眺めていた。


 皆が寝静まり、触れて来る者も居なくなった所為か水精霊自身の精神活動も低下し、落ち着いた状態になっている。

 その様子は、まるで安らかにスヤスヤと寝ている赤ん坊の様だ。


 まだ生まれてから半日と少しだが、今の所は精霊の生存に関しては問題は起きていない。


 しかし、この先の事が俺は気になっていた。

 つまりは精霊の成長についてだ。


 能力の成長は、知性と精神のステータスが数時間前に微増したのを確認した。

 その二つが上昇するという事は、考える力と、それを行おうとする意思が有り、精霊には弱いながらも自我が存在するのだろう。


 その自我に、俺の様な制限が掛かっているのではないか?という事が気がかりだった。



 皆が時の箱舟で眠っている間、俺は地上の環境を整えるために奔走していた。

 とは言え、コロや世界樹の助けも有り、忙しかったのは十分の一程度の期間でしか無く、それ以外の時間は殆どが暇だった。


 ある程度は時間の経過速度を速めて生活していたのだが、俺はその暇な時間を使って、今後の事を考え様々な事を調べた。


 世界の構造や、その世界の深淵や外側の事。

 謎に満ちたエネルギーや、それで起こる現象。

 そして、自分自身の事を。


 自身の事を調べてみた結果、分かった事なのだが……


 俺の精神構造、とりわけ性格や趣味趣向に関しては、変化が起きない様になっている事が判明した。


 人の考え方や行動方針で、それを決定づけるのに内面的に関わるのが気質と性格の両方であるが、人間や動物の場合であれば気質の部分は生まれながらに決まっている事が多い。

 能動的であったり受動的であったり、楽観的か慎重に事を考えるか、一途であるか飽きっぽいかなどだ。

 気質は、体の機能に制限や衰えが起きない限りは、生まれてから死ぬまで変化しにくい資質である。


 しかし、性格の方は生まれてから経験した事で形成される。


 自信家であったり自己否定が強かったりするのは、成してきた事の成功の割合に左右されるし、慈愛に満ち他人を気遣う事を積極的に行うか、寛容さが無く利己的に行動するかは、周辺の環境や接してきた相手から受けた事象が影響する。

 あれが楽しい、これが好きだといった趣向も、それらが自身に良い経験を感じさせてくれたか、気持ち良かったり便利だったといった事が関係してくる。

 それらは、時を経て、経験が増え、その成否の比率が定まり、学ぶ事が苦手になる年齢に達すると変動が少なくなる。


 俺の場合はどうかと言うと、時間を止めてまで思考や思索に使える上、寿命という物も無く老化も起きないので、経験の量や成功の数なんて好きなだけ変える事が出来る。

 つまりは、それに付随する性格の変化は望む方へと導けるはずなのだ。


 しかし、そうでは無かった。


 それに俺が気が付いたのは、世界に今後必要になりそうな事を色々と研究していた時だ。


 人々の繁殖を望むのであれば、皆の理性を消し去って食欲と性欲のみを解放させてやれば良いし、人工培養でも良い。

 世界の繁栄を望むのであれば、俺の持つ知識や技術を教える事も、強力なエネルギーを与える事も可能だ。

 皆に幸せを感じて欲しいと望むのであれば、楽園を作り、どんどん新たに娯楽を与えれば良いし、そう感じる様に脳でも弄くり回してやれば良い。


 どれもこれも、俺の望む世界の方向へと導く物としては便利な物だし、楽な方法だと考え研究した物だ。


 だが、それがどんなに優れていても、良い結果をもたらす物だとしても、俺はそれらに忌避感を持った。


 最初は、自身の元の世界観からくる、倫理や良識から拒否反応が出ているのかと考えた。

 それなら、道徳から外れた行為でも続けていればその労力に見合った物が手に入るし、その内それに対する達成感や満足感も出て来るのではないか?と考え俺は続行した。

 俺の記憶の中に有る元の世界でも、技術の根底にはそういった行為があったし、それを行って成してきた者達が居たのを知っていたからだ。

 しかしながら、どんなに続けようとどんなに成果が良かろうと、俺にはそんな偉人達が感じていたかもしれない感覚を味わう事は、決して起こらなかった……


 そういった事があり、俺は自分自身の精神構造に疑問を持った。


 そして、自身の持つ能力や機能に関しては既に調べてあったのだが、それを使う『俺』という存在を調べる事にした。


 その結果、判明したのが、性格が固定化しているという事だった。

 思考をつかさどる部分の感情と性格が繋がる領域が、変化が起きない様にと強固に固められていたのだ。


 それを発見した当初、こんな物は取り除こうとしたのだが、結局は止める事にした。

 これを解除すれば最後、今まで研究してきた技術や手に入れた力を、ただ結果だけを求めて思うがままに振う事になりそうだったからだ。


 この処置は、おそらく俺をここに送り込んだ奴が世界がめちゃめちゃな方向へと進まない様にと施した、一種の安全装置なのだろう。


 それに、俺も今の性格を気に入っているしな。

 このままでも問題無いか。


 そう結論付けて、俺はそっと自身の内面への扉を閉めたのだった。


 その自身の研究の過程で分かった事は何も悪い事だけではない。


 構造や仕組みを調べ分かったのだが、どうやら俺は憑依型エネルギー生命体とでも形容すべき存在の様だ。


 魔物で言えば、ゴーレムに似ている。

 あれは、魔力で自身の体の物質の構造や機能を変化させて活動を行っているが、体を構成している物体や核が本体という訳では無く、核の部分に宿る魔力というエネルギー自体が本質的な本体だ。

 その魔力が魔石核の中に思考回路を形成し、尚且つ体となる土や水や火などを生み出しもするし、それを動かす原動力にもなる。

 そのゴーレムを構成している魔力を固定化し、そっくり同じ構造をした物体へと移してやれば、移植されたゴーレムはそのまま問題無く活動する。


 その物質から取り出したゴーレムの在り方は、俺と似通っている部分が多い。

 そして、神体から抜け出ている時の俺の構造と精霊の本体の作りも似ており、精霊の方はゴーレムより俺に近い形と物で構成されている様だった。


 それは良いのだが、精神構造に枷のある俺が生み出した精霊にも、同じ様な制限が掛かっているかもしれない、という不安が精霊を調べた結果頭をよぎった。


 俺自身の事はどうでもよいが、皆には自由に生きて欲しい。

 そんな思いから、俺は精霊の精神構造を調べ、縛り付ける様な物があれば取り除こうと考えていた。

 俺に掛けられている制限はある意味必要な物であるが、皆にとっては邪魔でしかないだろう。

 幸い、俺の精神構造の制限を取り払う方法も研究し確立してあるので、それを応用すれば簡単な事だ。


 それに、これを行うのであれば早い内が良い。

 別に長い時を経た後でも出来ない事は無いが、調べる過程でその者の記憶や内面まで見てしまう事になるからな。

 まだ赤ん坊とも言える状態でなら、自我も希薄なので、そんなプライベートな部分を覗き見する事も少ないだろう。


 俺は、数秒ほど水精霊を解析すると、特に異常や制限の様な物は精霊には無い事が分かりほっとした。

 それと水精霊が感じていた皆からの思いや感情も分かり、少し温かな気持ちにもなった。


 どうやらこいつは、俺やシルティアから向けられる魔力と心を気に入ったらしい。シルティアを母親か何かだと勘違いしている様だ。


 あいつは、お前の姉なんだけどなぁ……



 明けて翌日。


 俺は、今日はどれにしようかなーと、エルフの神体に決めて、それに乗り移り、次に生み出す精霊の候補を考えながら朝食を終えると、昨日は出来なかった、朝の見回りを兼ねた散歩に向かった。


 どうやら、今日はエルフィーやレイディアとバハディア達は、朝から忙しいらしい。

 何時もであれば、この朝の散歩と見回りにはエルフィーが同行する事が多いのだが、俺が食卓で朝食を食べようとした時には、彼女は既に食べ終えており、レイディアとバハディア、それとサーリと朝食に招かれていたドグとダグ達と共に、慌ただしく何処かに行ってしまった。


 その彼女の代わりに、その場に残されたリーティアとシルティアの二人が今日は俺の朝の散歩に付いて来る事となり、ついでに精霊の揺り籠の中から水精霊を拾い上げ、その三人と一体で行く事になった。


 珍しい事もあるもんだと思いながら、俺が水精霊を体にくっつけのんびりと歩いていると


「あれは……何を作ってるんだ?」


 世界樹の南側に差し掛かった辺りで、100人ほどの集団が、慌ただしく何か大きな物を作っているのが見えた。


「えーっとぉ……たしかぁ、レイ達は祭壇って言ってましたよぉ」


「みんな、今日はあれを手伝いに行ってるけど。

 主様が作るように言ってたんじゃないの?」


 と、シルティアとリーティアの二人が教えてくれた。


「いや、そんな物を発注した覚えはないが……祭壇?」


 そんな話あったっけ?と俺は首を捻る。


 祭壇なら犬小屋神殿の脇に、人間の神像を作った時に余った岩で作ったのが既に有るだろうに……小さいけど。


 結構大きな物を作っているらしく、時の箱舟の倉庫からバハディアと作業用ゴーレム達が、大理石などの塊などをせっせと大量に運び出している。

 それにドワーフ達が大まかな形成加工を施し、エルフ達が仕上げを行い、仕上がった物から順にエルフィーが土台の上へと組み上げている。

 その皆の周辺をサーリがちょこちょこと歩き回り、力仕事をしている者や疲れている者達に補助魔法を掛けて回っていた。


「これは階段の部分じゃ!

 ムート達の方に型があるから、そっちに持っていけい!」


「バハディア! その大きいのは上の部分に使う! あそこへ運んでくれ!」


 その皆の熱心さと気迫に「なんでこんの作ってるの?」とは聞けず、邪魔をするわけにもいかないので、俺達はその様子を眺めている事しか出来なかった。



 昼になると、簡素ながらも高さ5m程のピラミッドに似た形の祭壇が出来上がった。

 まだ、これで完成ではないらしいが、彫刻などの飾りつけは後日行うらしい。


 それと、皆が何故そんな物を作っていたのかも分かった。


 今日の昼に、また新たな精霊を生み出すからと皆と約束していたのだが、その光景を見物しに来る者達の人数が問題だったらしい。


「ふぅ、なんとか昼までに形に出来ましたわい。

 ささ、どうぞ主様、上の方へ」


 と、ドグに言われ、水精霊をシルティアに預けて祭壇の上に登り、周辺を見渡して納得した。

 周辺には島の住人のほぼ全員が集まっており、1000人以上の人々が祭壇に登った俺の方を見上げている。


 たしかに、この人数じゃ、昨日の様に行ったのでは見えない者達が出てしまうな。でも、少し上空でやってくれと言ってくれれば良かったのに……


 まぁ、せっかく皆が作ってくれたのだし、ありがたく使わせてもらおう。

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