第68話 精霊の誕生
毎度の事ながら俺の肉料理の朝食は一瞬で終わり、食後の玄米茶を飲みながら皆の食事が一段落するのを待ち、その後、種族の代表者からの相談会と言う名の雑談が始まった。
「――最近は遠出に付いて行こうとするちび達が増えてなぁ。
森とか海に行きたがる奴らは遠くでなければ連れて行ってもいいんだが、ダンジョンに付いて行こうとする奴らは、やんちゃで困る」
「そりゃあんたが、今でもやんちゃだからじゃないの?
もう少し、子供達の手本となる様に生活しなさいよ」
先日族長に就任したばかりのヒューガが、元族長のガウとバウの監視の元、最近の懸念事項を話していると、リーティアが食後のリンゴジュースを飲みながら彼の痛い所を的確に突いた。
だが、そこにレイディアとバハディアの二人がヒューガの援護に回る。
「そう言ってやるなリーティ。
私も、それは多くなったと感じていたが、子供達の間で植物系の魔物の実や蔓の需要が増えたのが原因ではないか?」
「この前持ち帰ったウォーターハンマーウィップの実だが、あれを欲しがる子供達が増えたな。
他にも、バインドアドヘシッブの葉や蔓も俺達がダンジョンへ行くたびにねだられる事が多い」
二人はリーティアとシルティアの思いつきに振り回される事が多いので、お前もさしてヒューガと性格はかわらんだろうと言外に示しているのかもしれない。
あの水風船の様なウォーターハンマーウィップの実は、そのまま風船として使えるだけでは無く、輪切りにすれば輪ゴム、ひも状ならゴム紐として使えるので、玩具として子供達に大人気アイテムとなりつつある。
素材としても丈夫なので、子供たち以外にも衣類を扱う者達も興味を示し始めており、あれのボス個体の大きな実は、シルティアやサーリがウォータークッションとして使っているなんて話も聞いたな。
バインドアドヘッシブと言う植物系の魔物は、全体の表面が粘着性を帯びており、その葉は両面テープみたいになるし、蔓は遠くの者にいたずらをするのに最適なカメレオンの舌の様な、ひっつく鞭として使える。
と言うか、先日、俺が使われた。
まぁ、子供は珍しい物や変な物が好きだから仕方ない……
「それよりもぉ、ダンジョンへ行った人たちが……武勇伝って言うのかしらぁ?
それを子供達に話してしまうのがダメなんじゃないかなぁって、私は思うのぉ」
と、シルティアは皆の食器を回収しながら、別の視点からの子供達の行動原因を指摘した。
俺も彼女と同様の考えだ。
ダンジョンや海のお土産が子供達に人気なのもあるが、なにも自身で取りに行かなくても、年長者や年上の兄弟が毎日持ち帰ってくるのだ。
その際に行われる土産話が、子供達の冒険心や興味を引き付けて、その地に行こうとする行動につながるのだろう。
「魔物の実や葉なら私達がたくさん取って来れば良いだけですけどー……
子供達にお話をしないように……ってのは難しいですよねぇ。
どうすればいいんでしょう?」
「連れて行ってしまえば良いのではないか?
一度、危険な目に会えば、無理に行こうとはしなくなるだろう」
サーリがヒューガと竜人達の意見を聞き悩まし気にしていると、獣人の長老の一人、バウがそんな解決策を言った。
可愛い子には旅をさせよという方針だな。
現状では、子供達に学ばせる方法が確立していない事が多々あるので、経験させるのが一番だという風潮が出来つつある。
それに加え、事故などで命の危険が生じても俺が構築した救助システムでほぼ自動で助かるので、言葉が喋れて自発的な行動が出来る様になっている者なら放置しても良いという考えが蔓延しつつもある。
俺の保護と皆の放任が合わさった結果とも言え、今はいいが、将来的には如何にかしないといけなくなりそうだ。
それにしても、こうして皆で話し合い問題の提起と解決に向けて協力するようになってきたので、俺は眺めているだけでいい事が増えて来たなぁ。
「主様、お茶の御代わりはいかがですか?」
と、俺が皆の話を聞きながら考え込んでいると、エルフィーが俺の湯呑が空になっている事に気付き、お代わりを勧めてくれた。
「む?……そうだな、貰おうか」
「そういえば……主様
お食事の前に仰られていた、お楽しみになさってた事とは何だったのですか?」
彼女が湯呑に玄米茶を注ぎながら尋ねてきて、俺もその事を思い出した。
「おぉ、そうだったな。
今日は、新しい種族を誕生させる予定なのだ」
と、俺がそう答えると、食卓に居た皆の注目が一気に俺の方へと向いた。
「新しい種族って、わたし達が生まれた時みないな事をするの?」
「ああ、後で他の長達も呼んでから行うので、皆も見ていくと良い」
俺の言を聞いたリーティアは、いの一番に尋ねてきて、おれは食卓の周りに居た者達へとそう答えたのだった。
その後、ウアを筆頭に原初の皆と族長を招集すると、物珍しさから見物に来た者達も合わさり百人近くになってしまった。
これ以上観客が増える前に、さっさとやってしまおう……
集まった皆に少し場所を空けてもらい、俺は皆に囲まれて中央に立つ。
「なぁ、主様が新しい奴らを生み出すってどうやるんだ?
主様って女なのか?」
「さぁ? 私もぉ見た事が無いのよねぇ。
気が付いたらぁ皆が目の前に居たしぃ」
「これ! お主ら、少し静かにしておれ!」
「新しく生まれる者達は、混乱している事が多いのよ。
余計な刺激を与えない様に、静かに待ちなさい」
といった感じで皆が期待と困惑からざわざわと話をしていると、ウアが皆に向けて一喝し、アーウが注意をしてくれたので周囲が静まった。
ウアとアーウの存在は俺としても助かるな。
俺自身も、目の前で種族の生成を見るのは初めてなのだ。
どんな風に生まれるのかも分からないし、どんな状態になるのかも不明だったので、皆の中で一番多く種族の誕生を見て来た、あの二人は助産婦の様な役としては適任だ。
二人の行動に心の中で感謝をし、俺は自身の内奥に意識を向け生成の能力を呼び起し、そこにGPを注ぎ込む。
そのエネルギーが質と存在を変貌させ、俺の望んだ物へと生まれ変わるのを感じ、それを柔らかく包んだ手の内から外へと送り出した。
それはゆっくりと俺の手から離れて漂って行き、囲んでいる皆の輪の中央へと辿り着くと、そこから様々な色をした膨大な光の奔流を周囲に放つ。
その光は、大地も、草木も、周囲の皆の体も、全ての物をすり抜けて広がり。
やがて、その極彩色の光の奔流は全ての影を消し去りながら織り重なり合い、色合いが薄まり純白へと至ると、最初の一点へと向かって急速に集まった。
そして、世界に、また新しい存在が生まれた。
ものの数秒程度の出来事だったが、その宇宙の誕生をも思わせる光景が収まると、その発生地点には、青みを帯びて輪郭がぼやけた玉の様な物が浮かんでいた。
こいつが純精霊か。
今回、最初に生み出したのは、無難そうな属性から選び水の精霊にした。
水の属性を持たせたので、水精霊とでもしとこう。
水で出来た人の形をした妖精の様な物かも?と俺は想像していたのだが、それとは違い、外見としては水属性の魔力で出来た丸い球状をしている。
それが、特に動きも見せず、ふわふわと中空に浮かんでいた。
ステータスは……
名前: 属性:水 種族:純精霊
SID:1207 Lv:1 状態:正常
HP:0 SP:0 MP:20
STR:0 DEF:0 VIT:0 DEX:10
AGI:10 INT:10 MND:10 LUK:10
と、ステータスはかなり独特な物だった。
HPとSP、それにいくつかのステータスの数値が0だ。
1という数値なら見た事があるが、0というのは初めて見たな。
おそらく物質的な物を備えていないせいなのだろうが、HPも0とは……
こいつは生き死にの概念が他の者達とはかなり違うのかもしれない。
いや、そもそも無いかもしれん……
体は魔力で出来ているのだが、それが本体と言う訳では無さそうだ。
その魔力を成型し押し留めているエネルギーが……――
「新しく生まれた子はどこ?」
と、俺が水精霊を観察していると、そんな事をリーティアが言った。
「そこにぃ、浮かんでいるのがそうなんじゃないかしらぁ?」
「浮かんでいる……? 何処にだ?」
と、シルティアは水精霊の居る場所を指さして言っているが、その隣に居るレイディアやヒューガ、その他の者達の殆どは見えていない様だった。
「主様、その……そちらに浮かんでいる……
ぼんやりとした玉が、新しく誕生した種族なのですか?」
と、エルフィーも見えているらしいが、確信が持てない様子で尋ねて来た。
「ああ、そうだ。こいつが水の精霊なのだが……
すまんが、この水精霊が見えている者は手を上げてくれるか?」
周囲の者達にそう頼むと、エルフィーとシルティア、それに水を得意属性とするLvが高めのエルフの数人だけしか視認できていない事が分かった。
手を上げた者達に詳しく聞き取り調査をすると、はっきりと何か有ると視認できているのは、視覚強化をしているエルフィーとシルティアのみで、その他の者達は薄っすらとしか見えていない様だ。
うーん……純精霊は物質的な体を持たない上に、構成している魔力量も少ない為か、皆が普通に感じ取るのは難しいみたいだな。
とりあえず、せっかく集まった者達に申し訳ないので、周囲に居る全員に水属性の魔力を見れる様にピントを合わせた視覚強化の補助魔法を掛けてやると、まるで動物園や水族館の珍しい展示動物でも見るかのように、皆は生まれたての水精霊を眺め始めた。
しかし、共存以前に感じ取れない者達が大半となると……
この先、双方の関わり合いがどうなるか不安だなぁ……
これは、しばらく注意して見守る事にしよう。
GP:99




