表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第三章 廻魂編
78/95

第67話 候補と三位一体の朝食

 俺が竜人の神体を鍛え始めてから2ヵ月が過ぎたとある日、素の身体性能がエルフィーや竜人達を追い抜いた。


 俺が主にLv上げを行っていたホッカイドウ大陸の魔物は、数も獲得できる経験値も多いというのもあるが、のんびりやっていた割には、早かったなと言うのが俺の感想だ。


 そして、時を同じくしてGPの量が100に到達していた。

 それに気が付いた俺は、ある思いが沸き立つ。


 何なんだ、この胸のざわめきは……


 そうだ……生み出せる……! 今は生み出せる……!


 皆を休眠させた間はGPの回復手段が無かったが……妖精、ハイエルフ、ティターン、エンシェントドラゴンも……!!



 俺は時の箱舟から皆を目覚めさせたら、やりたかった事が一つあったのだ。


 そう、それは新たなる種族を生み出す事である。



 過去に生物や無機生命体などといった動物やモンスターが、ダンジョンから色々と生まれた訳だが、天界パソコンのユニット生成で生む事の出来る種族やカテゴリーの中で、一部、ダンジョンからでは発生しない種族があった。


 人と精霊のカテゴリーに分類される種族達に、高い知能を有すると思われる上位種、そしてアンデット系列の中のゴースト系などである。


 アンデットはまだしも、精霊や上位種といった者達は生み出したいと俺は思っていたのだが、いかんせんGPが少なく、度々起こる惑星規模での災害に備える為にも、それらを生み出すのは断念していたのだ。


 だが今は100GPもある……


 100とは言わないまでも、数体くらいなら良いんじゃないだろうか?


 てなわけで、今日は夜に行っている竜人神体の鍛錬を早めに切り上げ、新しく生み出す種族の選定をする事にした。



 うーん……どれにしたもんか……


 出来れば、皆と共存できる種から試したいとは考えているが、どのあたりが無難なんだろう?


 精霊カテゴリーの中でもハイエルフやエルダードワーフといった、人カテゴリーの近親種か上位種っぽい者達であれば、おそらく共存も可能だと思う。


 だが、生存に関しては大丈夫なんだろうか?


 現環境がその者達の生存に適しているのかは未知数だ。

 森の中でないと生きられないとか、特殊な食べ物が無ければダメなど、色々と考えられる。


 俺はそんな事を考えながら、天界のパソコン画面のユニット一覧とにらめっこを続けて小一時間。一つの種族が目に留まった。


 精霊カテゴリーの中の純精霊類のエレメントである。


 設定できる項目に火水風土といった様々な属性があり、代わりに生き物っぽい要素の年齢や性別などの項目が無い。


 イメージとしては、肉体を持たず、その属性に合わせた物に宿るか、その現象を引き起こす種族なのだろう。


 しかしだ……その生態と言っていいのか分からないが、在り方が不明すぎる。


 何を食べ、どんなエネルギーが必要なのか?

 自我があり、意思疎通が可能なのか?

 どんな事が出来て、何をしたがるのか?


 生物の範疇からかけ離れた存在な分、色々と予想が付かない所が多いため、最悪もりもりと増殖して魔物の大氾濫の様な事態を起こしかねない。


 まぁ、悪い面だけを考えても仕方ないな。


 良い面も有るかもしれない。


 生命と言えるかは不明だが、別の方向性を示してくれる存在かもしれない。

 他の皆と仲良くなり、助け合い、共に歩める存在であるかもしれない。


 それに……新たなる未知や可能性に触れるのも久々なのだ……



 俺が新しく生み出す候補を決め、不慮の事態への方策を練り終わると、ちょうど島が朝を迎えていた。


 俺は人間の神体に宿って地上へと戻り、その神体の置き場所である犬小屋神殿の中から寝ているコロの巨体を押しのけて外に出ると


「おはようございます、主様」


 と、神殿の前ではエルフィーが待っており、挨拶をしてきた。


 最近は、こうしてエルフィーが朝食を誘いに来てくれる事が多いな。


 どうやら、感覚器官の強化法を身に着けた所為か、俺の気配がある程度探れる様になったらしい。

 いや、単に俺の行動が読まれているだけかもしれん。


「おはよう、エルフィー」


 俺は挨拶を返し、彼女と一緒に朝食へと向かう。


 すると、眠っていたコロもむくっと起き軽く伸びをしてから欠伸をし、頭をプルプルと振り寝起きの動作を一通り終えると俺達の後をついてきた。


 こいつが起きるという事は、今日は獣人曜日か。


 曜日は去年辺りから皆の間で浸透し始めた。


 皆の生活環境や行動範囲が広がった事もあり、何か問題や不平不満が出て無いかを、朝食の際に日替わりで各種族の族長と長老を招いて、そこで報告と相談を受けいたのだが、それが各曜日の呼び名となったのだ。


 人間の長老であるウアとアーウと、族長であるウアルを招く日は人間曜日

 獣人の長老であるガウとバウ、先日、族長になったヒューガの日は獣人曜日

 ドワーフの族長のドグとダグを招く日はドワーフ曜日

 エルフの族長のエルとルルの日はエルフ曜日

 そして、族長を招かない日は竜人曜日だ。


 一週間は、その五日のサイクルで巡る。


 俺達の居る惑星アークは360日で一年が経過するので、俺の中では6週間で一ヵ月、12ヵ月で一年とカウントしていたりする。


 コロが獣人曜日に起きるという理由は簡単だ。

 ここ最近、獣人曜日には俺達の朝食に肉料理が出るからである。


 俺の今までやって来た食に関する啓蒙活動により、皆の食生活に徐々に変化が表れ始めた。

 以前は直火で焼く程度の事しか行われてなかったが、今では煮るや炒める行為をする者が増え始め、食材はもちろんの事、味の面でも塩味や辛味を楽しむ者達が出始めた。


 とりわけ、変化が大きいのが俺達の朝食で。

 一ヵ月程前からエルフィーとリーティアとサーリの三名が、俺が出している夕食を食べながら次の日の朝食と昼食に作る物を相談し、日が昇る少し前に起床するとエルフィーの部屋のキッチンへと集まって、料理の練習と試行錯誤を兼ねて朝食と昼食用のお弁当を作り、それを朝食の食卓で披露するという事をしている。


 それで偶に肉料理も作られるのだが、その肉料理に忌避感や好き嫌いを示さなかったのが主に獣人達だった為、肉料理が出る日は獣人曜日となった訳である。


 それを学習したコロは、俺の後ろをウキウキの様子でついてきて――


 ――いや……俺とエルフィーを置いて、さっさと先に行ってしまった。


 その様子を眺めながら、エルフィーと並んで歩いていると


「……? 主様、何か喜ばしい事でもございましたか?」


 と、エルフィーが尋ねてきた。


「ふむ? その様に見えるか?」


「はい。なんと申しましょうか……

 御身体が纏っている輝きが、いつもより多く見受けられます」


 顔がにやけてでもいたか?と思い、俺は顔をさすりながら聞き返すと、彼女はそんな事を言った。


 輝き?


 あぁ、なるほど。

 俺から漏れ出ている魔力や気が見えているのか。


 彼女の瞳を見てみると、いつもの青色では無く金色に変化している。

 どうやら、感覚強化法の訓練を日常でも欠かさず続けているみたいだな。


「嬉しい事というよりも、楽しみな事が有ってな。

 まぁ、それは朝食の時にでも話そう」


 そんな事を話ながら歩いていると、トマトソースの良い匂いが漂ってきた。


 匂いが漂ってくる先には、少し前にドワーフ達が作ってくれた総大理石製のテーブルがあり、そのテーブルをサーリと獣人と竜人達が囲んで座っており、俺達より一足早く到着していたコロが俺の指定席の後ろに陣取っておすわりをしていた。


「すまないな、遅くなった」


 揃っていた皆に一言謝り、挨拶を交わすと、給仕を主に担当しているレイディアとシルティアが皆の前に朝食を並べていく。


 先ず、全員が好き嫌いなく食せるパンと果物類が入れられた籠が中央に置かれ、次に大きめの深皿に入った料理が全員に配膳された。


 深皿の中には、溶けたチーズで包んである四角い何かが入っている。


「今日は、わたしとエルフィーとサーリの合作なんだよ!」


 と、朝から元気いっぱいなリーティアが、その俺の皿の中の物に、トマトの鮮やかな赤と香りを湛えたソースとスープの中間の様な物をたっぷりと掛けてくれた。


 ふむ……三人で一品を作ったのか。


 トマトベースの若干ミネストローネ風のスープはリーティアの手による物だろう。トマトを使った料理は彼女が得意だったしな。

 しかし、そのスープにひたひたに漬けられチーズでコーティングされた物体が分からない。


 むむ……この料理の先駆者たる俺を試そうというのか。


 透視や解析を行えば一発で分かる事ではあるが、そんな物を多用していると日常のワクワクやドキドキ感が薄れる。ここは普通に楽しむとしよう。


 倍以上も大きいコロ用の皿も用意されているという事は肉料理のはずだ。

 コロも興味深げにその皿の中身を、フンフンと鼻を鳴らして匂いを嗅いでいる。


 ステーキやハンバーグにしては大きすぎる気がするな。

 20cm四方の箱形をしているので、確かにこれ一品で朝食としては十分なボリュームがあるが、中身が全部肉だとしたら量が多すぎるだろう。


 それに、エルフィーとサーリの二人も参加しているらしいが、サーリは肉料理に関しては、食べる事はまだしも作る事は苦手としていたはずだ。


「こちらをお使いください」


 と、今度はエルフィーが、さすがにこの料理を手掴みで食べるのには向いていないと判断したのか、スプーン、ナイフ状の木べら、それとフォークの代わりらしい二股の串を用意してくれた。

 それが全員に配られ朝食の準備が整い、配膳をしていた者達も着席する。


 未だにマナーや食事前の「いただきます」などの決め事は皆無なので、そのまま各々は食事を始めた。


 俺もそれに倣い、さっそく木製のナイフを使い、深皿の中の料理へと切れ込みを入れる。すると、手には肉の触感ではなく、ふわっとした感覚が伝わって来た。


 この感覚はパンだな。

 パンをチーズで包んだ物だったのか……?


 いや、さらにナイフを進めると、別のふわりとした物の感触もある。


 ナイフで切れ込みを入れた部分から見える断面は、パンの下に卵焼きの層があり、その下にはまたパンがあるというサンドイッチ状になっていた。


 これは、厚さ的に、さらに下にも層が有るはずだ。


 そう思い、下まで切れ込みを入れると、パン、卵焼き、パン、分厚いハム、パン、野菜が多めのコロッケっぽい物、パン、これまた分厚いベーコン、パン、という多層構造をしていた。


 なるほど、チーズで包んだのは、この中のパンにスープが必要以上に浸み込ませない為のものだったのかな?


 切り分けた上の層のパンと卵焼きを串で刺して口へと運ぶと、トマトソースの程良い酸味と甘み、それにウシジカのチーズの濃厚なうまみ、それらを受け止め、さらなる味の深みと食べごたえを生み出すフワフワの卵焼きとパン、その全てが混然と合わさり、複雑とも単純ともとれる美味さが口の中に広がった。


 次は分厚く切り分けられたハムの層だ。

 ハムとチーズとトマトソースの組み合わせで美味しくないわけがない。


 ハムはダンジョンの中層辺りに出没するサイの様な角をもった、リノボアファングというイノシシに近い魔物の肉を使い、程良い香辛料と塩味が効かせてあり、それを分厚く切り分け軽く炙ってある様だ。

 口に入れると、たしかな肉の噛みごたえと共に、炙った事により、うまみの詰まった肉汁と油の甘みが溢れだす。


 さらに食べ進め、コロッケ風の物とパンを串に刺す。

 ちょうどこの辺から、リーティア特製のトマトスープに浸っており、その豊かな味わいがパンとコロッケにじんわりと浸み込み、数種類の野菜の優しい甘みを楽しめる。


 む……? まて、このスープうまみは野菜だけではないな……


 スープの味を強く感じる層に到達した事により、俺はその事に気が付いた。

 もしやと思い、その下の層の分厚く切られたベーコンを見て見ると、こちらも火が通ってはいるが、焼いたのではなく煮てある物の様だ。


 なるほど……このベーコンをブロック状のまま、トマトベースのスープと煮込み、その内包する味を利用したのだな?

 それを先に取出し、一番下の層に持ってくる事により、食べ進めるとスープの具材の一つとして加わり、スープの真の姿が完成するという訳か。


 てっきり、他の層の物を引き立たせる為に野菜を主軸としたソース的な味付けをしたのかと思っていたが、そんな事は無い。

 リーティアはしっかりと、脇役かと思われたスープも自身の自信作として仕立てあげていた訳だ。


 スープとしては濃い目な味付けだが、それはサーリの手製だと思われるパンとコロッケが程良い味にまで和らげてくれるし、エルフィーによる卵焼きとハムとベーコンの味わいも素晴らしい物だ。


 洋風ながらも、和物の丼に通ずる発想の料理で、複雑ながらもシンプルな物と感じさせる。


 たしか、これと似た様な料理がスペインだかポルトガルにあった気がするが、こんな感じの物なのだろうか……?


 などと考えながら、俺が一通りの層を食べ終えると


「どうですか?主様?」


 と、サーリが感想を尋ねてきた。


「うむ。味、食感、ボリューム、そのどれをも満足させる素晴らしい逸品だ。

 ここまでの物が作れる様になったのなら、もう私から教える事は無いかもしれんなぁ……」


「そんな事は御座いません。

 まだまだ私達には拙い所がございます」


 俺が料理の感想と思った事を述べると、エルフィーはそう謙遜をした。


 そうは言うが、ここまでアレンジの効いた物を作れるのであれば、十分じゃないかね?

 三人で協力したとは言え、普段、俺が作っている物よりも出来も良いし手の込んだ料理だ。


「そうそう。それに栄養バランスとか、皆の好みの違いなんて――あ」


 と、リーティアが言いながら俺の方を見て声を上げた時だった。


 俺も同時に気付き、しまったと思ってももう遅い。


 いち早く自分の分を食べ終えたコロが、俺の皿の中身を一口で全部食べていたのだった。

GP:100


似た料理というのはフランセジーニャというポルトガルの料理です

似たというより、まんまですね

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ