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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第三章 廻魂編
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第63話 水風船と黄金の瞳

 昼食を終えた俺達は第32層へと向かった。


「ここはぁ、あの水の入ったぽよぽよしたのが居る所かしらぁ」


 と、目的地の先に居る魔物の事をシルティアが言った。


 水の入ったぽよぽよとは、丈夫な水風船みたいな実を蔓の先に付けて振り回して攻撃してくる魔物、ウォーターハンマーウィップの事だ。

 水風船で殴られると聞くとそれほどの脅威には感じないだろうが、こちらの頭部に向かって的確に高速で振り回されるそれは、大の大人が一撃で昏倒する威力を持つ。


 いわゆるブラックジャックやサップといった武器による攻撃に似ていて、その打撃の重みや衝撃を体内へと効率よく伝えて来るので、見た目に反して強力な攻撃なのだ。


「あれに攻撃されて、バハが気絶した事無かったっけ?」


 と、リーティアが言う様に、高い防御力を持つ竜人の男性でも一歩間違えれば危険な魔物と言う訳である。


「皆、その魔物の、水の入った実の部分が必要になるので。

 そこを傷つけない様に、集めてくれ」


 エルフィーと竜人達にそう言うと、俺も収集へと向かった。



 第32層のウォーターハンマーウィップの実を集め始めてから小一時間が経過し、目標の100個を超えたので収集作業は終わりとした。


 個々人での収集数は


 エルフィーが25個

 レイディアが17個

 バハディアが16個

 リーティアが14個

 シルティアが19個


 そして、俺が15個の、計106個である。


 ふぅ、危ない危ない……

 なんとか最下位にはならなくて済んだ。


 え?

 リーティアと1個差しかないし、ほぼ最下位だろだって?

 いつ如何なる時でも、わずかでも勝っていればそいつが勝者だ!


 なに?

 お前が、最後の一個を取った所で終了の合図を出したんじゃないのかだと?

 はは……御冗談を……


 まぁ、別に競争をしていたわけでは無いし、気にする事でもないのだが。


 ここ数日で俺のLvも20まで上がったとはいえ、それでも3年近くダンジョンへ挑み続けているエルフィーや竜人達とのLv差は三倍以上あるのだ。

 ステータスでもGPのボーナス分が上乗せされているとはいえ、それでも二倍くらいの差がある。


 向こうが鼻歌交じりにやっている事でも、こっちは全力である。

 まるで、白鳥が水面下で足をバタバタさせている気分だった。


「それで、この集めた実をどうするのですか?」


 レイディアが集めたウォーターハンマーウィップの実の使い道を尋ねてきたので、俺は皆に説明を始めた。


「中身の水を少し抜いて邪魔にならない大きさにしてから、これに取り付けて頭と胸部の心臓付近に着けてくれ」


 そう言い、竜人の四人に頭に巻くバンダナと、頭を通して胸だけを覆うゼッケンの様な物を渡した。

 それらは水風船を取り付けられる様になっており、手本を見せながら俺も装着してみせる。


「あとは、この『寸護のアミュレット』だ。

 これは首にでもかけてくれ」


 金と銀に輝く二つの魔石を嵌め込んである小さなプレート状の物で、それを首に掛ける紐に付けてある。

 機能的には、身に着けている者への攻撃が寸止めされるお守りで、事故防止の為の物だ。

 内包魔力で数時間ほど、ある程度の威力の攻撃までは全て防いでくれる。


「ルールは簡単だ。

 その頭か胸の水風船を破られたら、負け。

 私の水風船を破れば、お前達の勝ちだ。

 まぁ、ちょっとした模擬戦だな」


 ここ最近ダンジョンや島中への冒険が盛んになった所為か、ちびっ子連中もそういった場所へ興味を示し始めており、その子供達にアスレチック以外にも冒険やダンジョン探索に役立つ勉強や遊びを提供する試みの一つとして考案した物だ。


 丁度良いので、本運用前のテストも兼ねて、竜人達と俺とで試してみようと思い至った訳である。


 だが――


「模擬……戦……?

 えっと、それは、主様と俺達とで……互いに攻撃をしあうという事ですか?」


「え……?

 それって、わたし達も主様に攻撃するって事??」


 と、バハディアとリーティアは困惑気味に聞き返してきた。


「ん? そうだが、何か問題があるか?」


「えーっとぉ……

 わたし達がぁ、主様にぃ攻撃をするというのはぁ、ちょっとぉ……」


「このアミュレットを付けていれば安全だと言うのは分かるのですが……

 その……我々には、心情的に難しいかと……」


 と、俺が尋ねると戸惑いの理由をシルティアとレイディアが説明してくれた。


 あー、なるほど。


 となると……


 俺だけが攻撃して、竜人達は防御や回避のみをするという事になるけど……


 まぁ、それでもいいのかな?

 レイディアとバハディアの防衛力の為の訓練なのだし?


「ふーむ……では、お前達の防御と回避の訓練にするか。

 私がその水風船を攻撃するので、それを可能な限り防ぐか避けるかしなさい。

 弱い攻撃しか行わないので、寸護のアミュレット以外の自動防御は発動しないから注意しろ」


 と、訓練の内容を変更する事にしたはいいが、俺が水風船を付けてる意味が無くなってしまったな。


 そう思い、俺が身に着けていたバンダナと胸の布を外そうとしていると


「主様。私も参加してよろしいでしょうか?」


 と、エルフィーが願い出て来た。


「ん? エルフィーもか……うむ、いいだろう。

 私のは必要なくなったので、これを使いなさい」


「ありがとうございます」


 彼女に水風船バンダナと胸の布と寸護のアミュレットを渡し、俺も訓練の準備と重要な部分の説明を始めた。


「さて、これから皆は私の出す様々な攻撃から、その水風船を守る事になるのだが、その為に必要な事が一つある。

 それは、見る力だ」


「見る力?」


「皆は、体中に魔力や気が流れているのは感じるだろう?

 それを操り魔法や装備の効果を使っているのは良いのだが、それはなにも力の具現や強化にしか使えないわけではない。

 目や耳など、他の感覚の強化にも流用できる」


 MPである魔力やSPである気は、体内の心臓を中心として血液と同じ様に体を廻っているのだが、それは力を運ぶだけでは無く神経の特性も持ち合わせている。

 なので、意識して強化したい部位や感覚器官に多めに巡らせれば、それらの感覚なども鋭敏に出来るのだ。


「とりわけ、お前達竜人で強化すべきは、その黄金の瞳だな。

 その目は、本来、全てのエネルギーの流れや在り方を捕らえる事が出来る、万能の目だからな」


「万能の目?

 なんでも見えるって事?」


 と、リーティアは不思議そうに聞き返してくる。


「うむ、そうだ。

 魔力や気の動きだけでは無い。

 音や、普段は見えない光さえも見る事が出来る様になる。

 試しに魔力でも気でも良い、やりやすい方を目に集中してみなさい」


 そう皆に言うと、5人はさっそく試し始めた。


 竜人達が瞳に魔力を込め始めると、四人の瞳の金色の輝きが若干増し始めた。


「……特に変化は……ん?

 これは……周囲が少し明るくなったか?」


「なにかぁ……レイの体からぁ、光球に糸みたいのが伸びてるわねぇ」


 目に魔力を込めたレイディアがそう言い、その彼の姿を見たシルティアは、現在レイディアが発動している頭上に浮かぶ光球の魔法と、彼との間に繋がる魔力の繋がりが視認できたらしい。

 レイディアは、自身の魔法の余波を見て明るくなったと感じた様だ。


「なんか、わたしの着ている鎧とかからも、変な光が出てない?」


「そうだな。

 む? 俺のは変化が無いな……」


 と、リーティアとバハディアも成功した様だった。


 エルフィーに関しては、同じ事を数日前に教えてあるので、似た様な事が出来る様になっている。


「その見る力を養えば、相手の強さや攻撃の危険さなども判別できる様になるはずだ。

 今回の訓練は、その目の使い方を意識して頑張ってくれ」


 俺は皆にそう言い、自身の準備をする。


 この竜人の体では魔法関連に制限が有るので、それを補わなければならない。

 体と瞳の色が銀色なので、使用可能な魔法は理力系か純魔法系統のみなのだ。

 それでも、さほど問題は無いのだが、訓練内容としては不十分になるので装備で補う事にした。


 下位万象術の首飾りとフォースブーストの腕輪に、振撃の具足と魔獣技の小手……おっと、幻影結晶とも持っておこう。

 武器は……いらないかな?

 と言うか、彼等が俺と武器を打ち付けあうのを躊躇いそうだしな。


 んー……こんな物でいいか。


「よし! では、始めるぞ! 準備は良いか?」


「「「「「はい」」」」」


 俺は五人の返事を聞き皆から少し離れると、ダンジョン部屋の中央に陣取っている五人へと向けて、おもむろに右手を上げ、その手のそれぞれの指先から、全員の頭部の水風船へと向けて、光魔法のレーザーを撃つ。


 腕を上げただけで、魔法的な貯め動作や、体外への魔力の漏れなどを極力排して発動したので、エルフィー以外の者達の水風船はパシャッとあっけなく割れる事となった。


「……え?」


 と、リーティアは呆けた声を出す。


「みんな、油断し過ぎよ。

 今のがレイのブレスみたいな攻撃だったら、皆死んでいたわ」


 と、エルフィーが俺の代わりに皆を戒めてくれる。


 彼女は事前に、自身の前に防御系の魔法フィールドを展開していたので無事だ。


「エルフィーの言う通りだ。

 下層に行くと、こんな風に突然攻撃される事も増えるし、それが速度も速く防御を貫通してくる事もあるので気を付けなさい。

 さ、次だ。割れた水風船を交換したら再開するぞ」


 俺はそう言い、四人が水風船を交換するのを待ってから、次の攻撃を開始した。



 俺は五人へと手を変え品を変え、様々な攻撃を行う。


 見えにくい風の刃、一瞬だけ地面を揺らしその不意を突いての一撃、部屋全体を霧で覆い視認しにくくしての攻撃、幻影を出しての全方位からの一斉射。


 竜人達は最初こそ油断していたが、気を引き締めた後は段々と動きや反応が良くなり、目の使い方にも慣れ始めたのか、避けたり防いだりといった行動の成功率が増えていった。


 まぁ、Lvとステータス的にはもっと動けるはずなので、まだまだ限界にはほど遠いが。

 この分なら、夕方までには、それなりの技術を得そうだ。


 俺はそんな事を考えながら、攻撃の手数をどんどん増やしていき、ついでに皆の成長や装備を観察していた。



 五人の先頭に立つレイディアとバハディアの装備は、ダンジョン産の物やドワーフとエルフ達の手製による装備で様々な強化がなされている。


 レイディアは、エメラルドの様な大きい魔石が埋め込まれた銀色の小型の盾とも大型の小手とも見える物を左手に装備し、右手には薄い紫色の騎士の持つような円錐状のスピアを持ち、俺の出方を窺っている。


 あの小手とスピアは、ダンジョン産の物だな。

 たしか風系統の盾を作り出す小手と、攻撃した物に電撃をくらわす槍だ。


 バハディアの装備は、なんと表現すれば良いか……群青とも黒色ともとれる色合いの巨大で分厚い鉄板を大剣っぽく両手で構えている。


 鉄板の片側の隅に指を通して握れる様にと穴が開けてあり、無骨で頑丈な大剣の様にも見えるが……あれはもしかして、アダマンタイトの鋼材か?

 時の箱舟の素材倉庫に置いておいたはいいが、加工の難しさと重さの所為で皆が扱うのを断念していた物だ。


 どうやら、闇魔法で無理やり軽くして使っているらしい。

 たしか数トンはある代物のはずだが……無茶な事をする奴だ。


 そして、その二人の身に纏っている鎧や防具なのだが、それらは主にドワーフ達やエルフ達のお手製の様だ。


 最近、物作りをしている者達の一部が、魔法での金属加工に挑戦し始めているのだが、その試供品的な物を使っているらしい。

 アダマンタイトやミスリルなどの、魔力の籠った金属の加工はまだ無理な様だが、鉄や銅といった魔力を帯びていない普通の金属であれば、なんとか加工が可能になってきている。


 大まかな造形はドワーフ達が、細かな調整や加工はエルフ達がと、色々な役割分担らしきものが生まれ始めてもおり。

 その作られた物のテストを兼ねて、あの二人や一部のダンジョン挑戦者達が装備しているらしい。


 その所為か、前に二人が身に着けていた光竜の鎧と黒竜の鎧は、今日もまたシルティアとリーティアの二人が装備している。


 竜人達は、個人の所有物という考えが薄いのか、こんな感じでちょいちょい装備が入れ替わってる事が多いな。


 いや、そうではないのか?


 防御性能の高い物を、リーティアとシルティアに優先的に装備させているのかもしれん。


 エルフィーは、ダンジョンで手に入れたミスリル製の胴鎧とサークレット、それと細剣を装備しているが、それ以外は万象の指輪が一つあれば十分との事で、軽さを重視した装いだ。


 彼女のLvとステータスが上がるにつれ、万象の指輪の能力も徐々に機能制限が解除されて来ている。


 あの指輪は、ステータスが一定ラインを超えると、内包されている機能の発動ワードが順々に分かる仕組みになっており、様々なスキルや魔法、適性や各種強化、遠近での攻防に対する備えなどなど、多岐にわたる機能や能力が使える様になる物だ。


 エルフィーはその解放された指輪の機能により、現在は全属性系の魔法適正に加え、理力や純魔法といった上位属性の魔法も一部使える様になってきている。

 このまま順調にいけば時や空間などの魔法も使える様になるかもしれないな。


 しかし、エルフィーの水風船だけはさっぱり割る事が出来ない。


 彼女は全ての攻撃を最小の動きで避け、的確な防御法で防いでくる。

 フェイントと死角からの攻撃の複合パターンにも、しっかりと反応している様だし、これは凄いな。

 何が凄いって、見えているとはいっても、意識加速などがまだ使えないにも関わらず、それが出来ているという所がだ。



 その後、三時のおやつ休憩をはさみ、さらに訓練を行い、そろそろ夕飯の準備をしなければならない時間となったので、訓練は終了となった。


 割れた水風船の数は


 レイディアが14個

 バハディアが16個

 リーティアが7個

 シルティアが11個


 そしてエルフィーが0個である。


 思ったよりも割れた数は少なく、集めた数の半分以上が余る結果となった。


 まぁ、余った物は、ちびっこ達へのお土産にでもすればいいか。


 かなり丈夫な風船なので、栗ボールの中にでも入れれば、柔らかく安全な球を作る事が出来るだろう。

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