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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第三章 廻魂編
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第61.5話 聖女の妙な一日

サーリ視点でのサブ話です

 昨日は主様の新しい体の完成を祝った盛大な宴でした。


 私も何か料理を作って主様にお出ししようと考えて、栗を粉にしてパンを焼けないかと考えたまでは良かったのですが……

 どうにも上手くふわふわに焼く事が出来ませんでした。


 私がそれで悩んでいると、そこにリーティアさんがやって来て手伝ってくれたおかげで、なんとか上手に焼く事が出来て、主様にお出しする事が出来ました。


 私とリーティアさんとで作ったパンを、主様も美味しそうに食べてくださり、私もすごく嬉しかったです。



 夜が明け、今日はいつもの日常に戻ります。


 宴の次の日の朝は、そこかしこに二日酔いでうなされて顔色の悪い人達が転がっています。

 私は、その人達を踏まない様に気を付けながら目的地へと向かいます。


 目指す場所は世界樹の日の昇る方にある、小さな祠です。


 私達がダンジョンへ初めて挑戦し帰って来てから数日後、主様が再挑戦が楽になるようにと建ててくれた祠で、一定の階層まで到達した人だけがこの祠に入って利用出来ます。


 無理やり中に入ろうとすると、透明な壁に阻まれて入る事が出来ないみたいで、前に、やんちゃな子が走って向かって行き跳ね返されてました。


 主様の説明によりますと


「そのリターンクリスタルは最初は透明だが、持ち主がダンジョンをどれだけ下の階層まで行ったかで色が変わるようになっている。

 青、水、緑、黄、橙、赤、銅、銀、金と色や質感が変化していくのだが。

 そのクリスタルが青色を帯び始めた辺りから、そこの祠に入る事が出来るようにしておいた」


 との事でした。


 私はちゃんと、黄色に輝くリターンクリスタルを持っているので大丈夫。


 祠の中に入って、ダンジョンの行きたい階層を念じてクリスタルを使うと、光る扉が現れて、今まで行った事のある階層の場所であれば、何処にでも行けます。


 その扉を通り、私はダンジョンの入口へと出ました。



 私のダンジョンでの活動は、皆さんとは違って少し特殊です。


 普通は仲の良い人達で4~5人のパーティーを組んで挑むのですが、私の場合は、ほぼ一人で活動するか、臨時で組む事が主です。


 私と仲の良い人が居ないからではありません。


 なぜこんな事になったのかと言うと、緊急時の回復や肉体強化の補助魔法を使えるのが、私と主様とエルフィーさんの三人しか居ないのが原因です。

 前に私のパーティー加入を巡って、いくつかのパーティー同士で喧嘩が起きてしまい、その際、流血沙汰が起きてしまったのです。


 この事から分かる様に、断じて、私がぼっちという事では無いのです。

 逆に、ある意味、これはモテモテと言われる状態なのかもしれません。


 まぁ、主様はまだしも、エルフィーさんはどんどん下層へと行ってしまうので同行できる人が限られてしまい、残された私だけが皆さんの取り合いの対象になっただけなんですけどね……

 それに、皆さんが私へと接する態度は、妙に礼儀正しいというか、よそよそしい感じがするんですよねぇ……


 それはともかく、そんな事件がありまして、私をパーティーに誘いたい時はウアおじいちゃんの了承を経てから、一時的にお手伝いに行くという事が決められたそうです。


 お昼にその申し込みの期限があるそうで、それまで暇な私は、ダンジョンの第一階層から第十階層あたりを散歩する事にしています。


 その途中で会う初心者の人達に、補助魔法や回復魔法をかけてまわり。

 時折アドバイスなどをする活動をしているわけです。


 主様は、その私の行動を見て


「辻ヒールかぁ……」


 と、前に呟いておられてました。


 辻ヒールってなんでしょう?


 そのお散歩を終えると、昼食を食べながらウアおじいちゃんと念話で連絡を取って、ボス部屋挑戦などでの救援要請があれば、その人達の手助けに行くというのが主な日課です。



 先ずは、ダンジョンに入る前に、やらなきゃいけない大事な事があります。


 入口の近くに在る沼で、飲み水を確保するのです!


 そう、あの紫や緑といった色をした沼の水です。


 あの毒々しい色の水ですが、この前、人に言われて飲んでみたら美味しかったんですよねー。


 色に合わせた果物の香りと、すっきりとした甘みがあって。

 口の中ではじける感覚の水や、ぷるぷるとした食感が口の中で溶けていくという不思議な水が色々とあるんです。


 今日は、どーれーにーしーよーうーかーなー……

 うーん……しゅわしゅわ葡萄とぷるぷる苺にしよっと。


 竹という木から作った水筒に、その二か所の水を汲んで、昨日の失敗作のパンがあるので、これで昼食の準備も完了ですね。


 それじゃ、出発――おや?


 あれは、エルフィーさんと――主様?


 昨日の豪奢な物とは身に纏っている衣服が違いますが、あのキラリと光る色合いはレイディアさんでは無いはずです。


 何故か、簡素な衣類を身に纏っておられますし、それに、主様もエルフィーさんも歩いてダンジョンに来られるのも珍しい気がします。


 私が少し離れた所から見ていると、主様も私に気が付いたのか、軽く手を振ってくださりました。

 私が御辞儀を返すと、お二人はダンジョンへとすたすたと入って行きました。



 お二人の珍しい行動に気を取られ少し遅れましたが、私もダンジョンへと向かいました。


 ダンジョンの上層は様々な食材の宝庫なので、私はいつも通り足りなくなった物の採取を行いながら下を目指します。


 今日は宴の翌日の所為か、人が少ないですねぇ……

 だから主様が来たのかなぁ?


 と、のんびり考え事をしながら歩いていると、通路の先にあるウシジカの部屋の入り口に人だかりが出来ているのが見えました。


 あれはたしか……先日、クリスタルが青くなってきたって喜んでいた子達だったかな?


「どうしたんですか? 怪我人ですか?」


「ん? あ、サーリさん。

 あそこで主様が、ウシジカの集団と……

 戦っているというか……じゃれあっていると言うか……」


 何かあったのかとその子達に尋ねてみましたが、どうにも要領が得ません。


 少し場所を開けてもらい私も部屋の中を覗いてみると、そこでは十数頭のウシジカに囲まれている主様がいました。


 一体なにを!? と、私の心臓は跳ね上がります。


 ダンジョンの部屋の中に居るウシジカは狂暴で、あんな部屋の真ん中で囲まれた場合は、大けがを負ってリターンクリスタルが発動する事態になる事が多いからです。

 特に初心者の方々が陥りやすいのですが……

 それでダンジョンへの挑戦をやめてしまう人が、たまに居ます。


 いつもなら慌てて助けに入る場面なのですが、主様はあの新しい大きな竜人さんの身体で、全てのウシジカの攻撃を軽やかに躱している様子でした。


 あぁ! 後ろから大きなウシジカが突進してきてる!?


「主様!? 後ろ――」


 私は咄嗟に声を上げてしまいましたが


「ん? サーリか?

 今日も皆に補助魔法を掛けて回っているのか?」


 と、主様はいつも通りの優しい声で私に話しかけながらも、後ろから突進してきたウシジカの体を羽を使って軽く押しのける様に進路を変えさせて避けていました。


「え? あ、はい。そうです……けど……

 えっと……主様はここで何を……?」


「DEXとAG……んー、ちょっとした訓練みたいな物だな。

 久々の新しい体なので、こうして慣らしているんだ」


 と答えながらも、主様は四方八方から来るウシジカの角や蹄、体当たりなどを躱し、視線は私へと向けて普通に話してきます。


「は、はぁ……」


 と、私は主様のやっている事に呆気に取られ、そう返事する事しか出来ませんでした。


 そのまま主様は、私達と普通に会話を交わしながらウシジカの攻撃を躱し続け、その動きは段々と小さくなっていき、最後には、まるでその場に立っているだけなのに、攻撃をするウシジカが主様の身体をすり抜けていくかの様でした。


 暫くすると、ウシジカ達の方が疲れてしまったらしく、一頭一頭その場でへたり込み始め、全てのウシジカが動きを止めると主様は部屋の外へと出てきました。


「すまないな、場所を占領してしまって。

 私の用は済んだので、後は自由に使ってくれ」


 そう言い、主様はお一人で下の階層へと向かって行きました。


 あれ?


 そういえば、エルフィーさんは?

 たしか、入り口まではご一緒だったと思うのですが?



 その後、私が見回りを再開して第六階層へと行くと、また主様が同じ様な事をしていました。

 今度はカッターバットと言われる、羽が鋭い刃になっている魔物の群れに対して、空中で同じような事をなされています……


 この魔物の居る部屋も、不用意に入るとかなり危険な部屋なのですが……


「ん? サーリ。

 お前は一人でここまで来て、大丈夫なのか?」


 と、また普通に主様は話しかけてきてくれました。


「えっと、はい。

 第十階層辺りまでなら、いつも一人で行ってます」


 というか、全方位から襲われてる真っ最中の主様の方が大丈夫そうに見えないのですが……


 などと、主様に答えながら思っていると


「主様、サーリはそろそろクリスタルが橙になりますので、この辺りは一人でも大丈夫なはずです」


 と、急にエルフィーさんの声がして、私はびっくりしました。


 声のした方を見ても、そこには誰も居ません。


「ふむ、もうそんな所まで潜っているのか。

 頑張っている様だな。えらいぞサーリ」


「え? あ、ありがとうございます」


 主様に褒めて頂いて嬉しいのですが、私は今の念話でもないエルフィーさんの声の出所の方が気になって仕方ありません。


「ふーむ……やはり、羽のみでの飛行では回避の精度が落ちるか……

 どうにも、細かい動作や移動が難しいな」


「私からは、先程と遜色ない様に見えますが……

 理力魔法などでの補助は行われないのですか?」


「今日は肉体面の方が優先だからな。

 そちらは後日だ」


 と、主様は見えないエルフィーさんと普通に会話をしていますが、どういう事なのでしょう……?


「えっと、あの……この声は、エルフィーさんですよね?

 これは念話なのですか?」


「ああ、ごめんなさいね。

 今、そっちに行くわ」


 私がたまらず尋ねると、見えないエルフィーさんはそう答えてから、いきなり私の隣にスッと現れました。


「えぇ!?」


「主様を……の、動きを近くで拝見させて頂くために

 お邪魔にならないよう、姿を消していたの。

 サーリも、参考の為に主様の体の動かし方を見て学ぶと良いと思うわ」


 エルフィーさんは私にそう言うと、主様の方へと視線を戻しました。


 姿を消す?

 魔法かアイテムで透明になっていたって事でしょうか?


 主様の回避運動を参考にするのも無茶そうですが、エルフィーさんの方も参考にするのは私には難しそうです……


 それにしても、エルフィーさんの表情がどこか違う感じがします。

 ダンジョンに来ている時は、いつも張り詰めた雰囲気がしていたのですが、今日はどことなく柔らかい感じです。

 主様と一緒に居るからでしょうか?


 暫くするとウシジカの時と同様に、カッターバットが一匹また一匹と地面へと落ちていき


「そろそろ昼になるし、昼食にするか」


 と、主様は全てのカッターバットが動かなくなると、訓練を止めて部屋から出てきました。


 先程の部屋から少し歩いた先で安全な場所を見つけ、私達がそこで昼食を食べようとしていると、ウアおじいちゃんから今日は救援要請は無いとの連絡が私に来ました。


「今日は、お手伝いの要望は無いそうです」


「ふむ、そうか。

 ところで、それは昨日のパンと同じ栗粉で作った物か?」


 私がおじいちゃんと念話をしながら、お昼に食べようと思ってた昨日の失敗作の柔らかめのクッキーみたいになっちゃったパンを取り出していると、主様はそう尋ねてこられました。


「はい。上手く膨らまなかった失敗作ですけれど……」


「そうなのか……?

 それはそれで、上手く出来ていると思うぞ。

 使っている粉の量は同じなのだし、パンと違い鞄の容量の節約にもなるだろう。

 もう少し小さく作れば、食べやすくもなりそうだな」


「なるほど……そうですね!」


 そう考えれば、ダンジョンに持って行く食事としては、丁度良い物なのかもしれません。


「主様、午後はどうなさいますか?」


「そうだな……もう少し動きの速いのか……

 数が多いか、攻撃範囲が広い魔物の所に行くか」


 主様は、エルフィーさんの作ったらしいお弁当を食べながら、そんな事を答えています。


 どうやら、まだ難易度を上げるらしいです……


 先程のカッターバットの群れでも、私だったら装備をフル活用して即座に逃げるか、リターンクリスタルで退避する状態だと思います。


 何か、私でも使える攻撃系のアイテムでも見つかれば戦えるかもしれませんが、何故か私が見つける宝箱の中身は防御系の物が多いんですよねぇ……


 勝手に見えない盾が発生する腕輪や、毒や麻痺などの効果を無効にする指輪に、危険な物に近づくと音が鳴って知らせてくれる髪飾りとか。

 どうしてなんでしょう?


 もしくは、攻撃を担当してくれる人が居ればまだ――あれ?


「主様、ウシジカの時もカッターバットの時も、攻撃をしていませんでしたけど。

 どうしてなんですか?」


「ん? んー、訓練内容の順番で攻撃は後回しになっているから……だろうか。

 どうにも、私は攻撃に関する事は苦手……ではないな、嫌いと言うべきか」


 気になったので主様に尋ねると、意外な答えが返ってきました。


 主様でも好き嫌いする事があるんですねぇ。


「まぁ、あまり好きな事では無いから、後回しにしているというだけだな。

 む……? エルフィー、これは……唐揚げか?」


「はい。ダイノバードのお肉で作ってみました。

 ご賞味くださいませ」


 主様は、お弁当の中に入っていた唐揚げを見つけて、驚きの表情を浮かべています。


 ダイノバード……たしか、第45階層辺りにいる魔物だと聞いた事があります。


 そのお肉を使った?

 どういう事でしょう?


「おぉ……では、さっそく――」


 と、主様がその唐揚げを食べようと摘み上げた時です。


 主様の背後から、突如として巨大な獣が覆いかぶさる様に現れ、唐揚げを持った手に噛みつきました。


「な!?」


 私とエルフィーさんは、びっくりして声を上げ身構えましたが


「えぇ……食おうとしただけで来るのかぁ……」


 と、主様だけは残念そうな顔と困惑した様な声を漏らして、冷静に涎まみれになった手を巨大な獣の口から引き抜いていました。


「コロ……さん?」


 エルフィーさんの言った言葉で、私も改めて突然現れて襲ってきた巨獣をみると、あの犬小屋神殿で何時も寝ているコロさんだった事に気が付きます。


「私が料理していた時は、なんの反応も示しませんでしたので、大丈夫かと思っていたのですが……ダメなようですね……」


「そうみたいだな……」


 その後、主様はコロさんにお弁当の唐揚げを殆ど食べれられてしまい、少し落ち込んだ様子で昼食を終えていました。

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