第58話 連合チームVSヤマタノヒュドラ?
「それで、どうしようか?」
リーティアはヒューガの失態をひとしきりからかうと、同じ防壁に隠れているエルフィーへと声を掛ける。
「いくつか案はあるけど……
その前に、あれの正体を探らないと、決めるのは難しいわね」
尋ねられたエルフィーはそう答えたが……今、正体と言ったか?
「正体? あの御話に出て来たヤマタノヒュドラじゃないの?」
「そうかもしれないけど、違うかもしれないの。
形も少し違うし、攻撃方法も砂だったし、あの体も砂で作られている様だった。
だから姿がヤマタノヒュドラなだけで、中身はさして変化が無いのかも」
と、彼女は先程までの様子を分析して述べる。
なんだ……モンスターとしての正体の事か……
ボスコアと俺の作ったゴーレムとが、すり替わっている事がばれたのかと、一瞬ドキッとした…………
しかし、さすがエルフィーだ、なかなか良く見ている。
あのヒュドラは、表面を着色して外見をリアルに造形しただけで、中身は砂のままなのだ。
まぁ、大きくなったのと、攻撃手段が増えた程度だな。
「なるほど……
ねぇヒューガ。あんた、さっきあいつの首を蹴り付けながら飛び越えてたよね?
その時の触った感触はどうだったの?」
「触った感触?……言われてみれば、足元の砂が固まった様な感じだったな」
「なら中身は変わってないっぽいね。
なら――」
と、リーティア達が作戦会議をし始めた辺りで、俺は彼女等の様子を見るのを止め、ゴーレムの方へと知覚を移した。
さすがに作戦を聞いちゃうのは卑怯ぽいしな。
さてと、ここからはゴーレムの力だけで対処するか。
削っても削っても再生される土の防壁の所為で、少し膠着状態になってしまったので、俺は砂のブレスでの攻撃を一旦止めた。
何か別の方法で攻めねば――おっと、その前に出入り口を塞いでしまうおう。
場所によっては、そういった罠もあるし、それにラスボス戦とはこういった物だからな。
「しまった!? 入口が閉じてるぞ!」
と、俺が弄って出入口を塞いだ事に気が付いたエルフチームの者が叫ぶ。
さて、これで逃げ道は塞いだが……
バハディアという厄介な兵器があちらには居るので、まだ安心はできない。
そこで俺は、砂のブレスをホースから放水する様に放物線を描き、防壁の上から皆の頭上へと砂を大量に撒いた。
もちろん嫌がらせではない。その砂を使って
「なんだ?俺達を埋めるつもり――
む!? 気を付けろ! 振って来た砂がゴーレムになっていくぞ!」
と、皆に雑魚ゴーレムをけしかける為だ。
これで防壁の外へと皆を押し出せば砂のブレスで狙い撃ちできるし、ついでに厄介なバハディアの妨害も行える。
うん、まるで嫌がらせみたいだ。
しかし、なかなか攻めて来ないな……
そろそろ何かしらの遠距離攻撃くらいはして来ても良さそうなものだが、皆は雑魚ゴーレムに襲われても防戦一方だ。
バハディア以外の竜人のブレスでもそれなりの貫通力はあるので、運良くコアにでも当たれば一撃で倒される事になる。
まぁ、世界樹丸を飲ませる暇さえ与えなければ連発できる代物では無いので、そこまでの脅威ではないが――などと考えていると、防壁の影から虹色の光が薄っすらと漏れている事に俺は気が付いた。
あれは、おそらくエルフィーかサーリの補助魔法だな。
それを全員に掛けているのだろう。
その光が収まると、ガウを筆頭に、獣人達全員が防壁の影から飛び出して、バラバラに向かって来た。
補助魔法の恩恵も有るのだろうが、これはキビボールも食しているか?
全員が通常の倍近くまで身体能力が上昇しており、かなりの速度で砂上を疾走して此方に向かってくる。
俺は、向かってくる獣人達の進行方向を塞ぐ様に砂のブレスを撃つ。
いくら彼等の力が上昇しているとはいえ、それでもブレスを避ける為には足場の悪い砂地を蹴って、避けるか飛び越えるかの対処をせねばならない。
その動きが鈍った所を、左右から生えている首を使って薙ぎ払った。
ブレスに当たる者は居なかったが、首での攻撃で全員を元居た辺りまで吹き飛ばす事に俺は成功した。
が、その際にガウとザンジとヒューガの三人は、逆にカウンターで首へと攻撃を仕掛けて来た。
「ぐッ!……やっぱり、中身は砂か。
おい! あいつの中身は砂で出来てるぞ!」
と、吹き飛ばされたヒューガがエルフィーへと報告している。
なるほど、だから薙ぎ払いを避けようともしないで、攻撃を仕掛けて来たのか。
まぁ、ばれても問題は無い。
一番厄介そうなバハディアには多めにサンドゴーレム達を群がらせ妨害してあるし、それを引き剥がそうとリーティアも必至だ。
それに獣人達が前に居る以上、ブレスを撃ってくる事も無いだろう。
獣人達は諦めずに何度も突撃を繰り返してくるが、彼等にはこのヒュドラの巨体をどうにか出来る手段に乏しいので、適度にあしらっていれば良いか。
と、足元をうろちょろするヒューガ達を相手取っていると、俺は地面に妙な光のゆらぎが映っている事に気が付く。
しまったと思い頭上を見上げると、そこには水魔法を得意とする者達が作り出した巨大な水球が幾つも浮かんでいて、それが形を崩しながら落下してきていた。
くっ! こしゃくな! 回避が間に合わん。
獣人達の無謀な行動もこれの為の陽動か!?
幾つかの水球を砂のブレスで散らす事は出来たが、その中のエルフィーとシルティアの物だと思われる水球は水量も多かった為に、迎撃も空しくまともに浴びてしまい、全身の砂が水を吸って動きが鈍くなってしまった。
「よし! 次は凍らせるんじゃ!」
それを確認したウアが、皆に向かってそう叫ぶ。
その声に従い、ムートを中心に水魔法が得意なエルフチームの面々が水を吸った砂を凍り付かせ始めた。
いくら色々と知覚などを制限しているとはいえ、こんな手にサクッと嵌るとは……だがしかし、ラスボス戦とはこんなに簡単に終わる物ではない。
私には……コアの残存魔力的に、あと1回の変身が残されている!
まぁ、変身と言っても新たに砂を生み出して姿を変えるだけだが……
こちらの動きが止まった事に安心したのか、獣人達が近づいてきてた。
そこに、ピシッといった音が断続的に鳴り響き始める
「な、なんだ!?」
と、その音に気が付き ヒューガ達は立ち止まった。
そして、音の発生源であった氷の彫像と化していたヒュドラは、氷が割れる音を響かせ内部から爆砕し、辺りにその欠片を撒き散らす。
それと共に砂が濁流の様に周囲に溢れていき、そのまま大部屋全体を覆いつくした。
「むッ、ぐぅッ! う、うごけん!?」
近寄ってきていた獣人達は逃げる事もままならず肩まで砂に飲まれる事となり、防壁の近くに居た者達も腰まで砂に埋まる。
そして、俺はその砂を操り全員の身動きを出来ないようにした。
砂や水など流動系物質のゴーレムは下手な形をとるより、こういった不定形な状態の方が実は厄介なのだ。
新たに砂を生み出す魔力はもう残ってないが、これで部屋に居た全員を捕縛する事が出来た。
くっくっく……ふふふ……ふはははは!
俺の気を逸らせ、凍り付かせたまでは見事だったが、まだまだだな!
どうだ! 動けまい?
これからじわじわとなぶ――おっと、そうじゃない。
スクリーンを通して観戦している子供達が「ばはでぃあーがんばえー」だの「
にいちゃん負けるなー!」と声援をしており、その声で俺も役割を思い出した。
えーと……
どうしよう……
このまま皆を捕縛していても埒が明かないし、かといって痛い攻撃する事も憚られるし……
とりあえず、砂で蛇でも作ってペチペチ叩いておくか?
と考え、埋もれている皆の近くに大蛇を作り出した時に俺は気が付いた。
幾人かの姿が見えない……?
エルフィーと……
レイディアとシルティア
それにドグもか?
ドグは常に防壁の後ろに居たので分からないが、エルフィー達は水球を浴びせて来た時までは居たはずだ。
だが今、そこではバハディアとリーティアの二人が、砂に絡め捕られてもがいているだけだった。
エルフィー達であれば空中に逃げる事も可能だが、そこにも居ない。
他の防壁付近にも居ないし、もしかして、砂に押し流されて埋もれたか?
生き埋めになってるとまずい、早く探さねば――と思い、部屋全体を埋め尽くしているゴーレムの身体の感覚を調べると、先程まで竜人チームが隠れていた防壁の裏がわの地面に穴があり、そこからトンネルが続いている事が判明した。
なんだこの穴は?
ここに避難したのか?
そのトンネルの途中まで流れ込んでいた砂から、1匹の大蛇を触手の様に奥の方まで伸ばしていくと、その先にわずかな光球の光が見えた。
その光球の光に照らされ、先ほどまで行方不明だった四名の姿が浮かび上がる。
四人の無事を確認し、俺がほっとしていると
「ここじゃ、この真上におるぞ」
ドグがそう言いトンネルの天井へと×印をつけた。
「わかった、では離れてくれ」
と、レイディアは言い、一人その場に残り、エルフィーとシルティアとドグの三人はそこから距離を取った。
何をして……はっ!
ここは?
この位置は!?
コアの――
彼等の意図に気が付いた瞬間、レイディアの口から光のブレスがドグの付けた印の位置へと放たれる。
その光の奔流は、トンネル内を強烈な光で真っ白に染め上げたかと思うと、天井を貫通し、その真上の砂の中に有ったゴーレムコアをも蒸発させたのだった。
どうやら、他の皆がゴーレムの注意を引いている内に、ドグとエルフィーがトンネルを掘って真下まで接近して、ドワーフの構造解析の能力でコアの位置を特定し、貫通力に優れる光のブレスで狙い撃ちする作戦だったらしい。
「主様、今の光は何ですか?」
と、俺の隣に居たアーウが聞いてくる。
「あれはレイディアの放った『光のブレス』だな。
あの砂を操っていた魔物は、今の攻撃で倒された。
皆の勝利だ!」
霧のスクリーンを通して見守っていた者達に俺が連合チームの勝ちを告げると、皆はそれを祝う様に歓声を上げたのだった。




