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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第三章 廻魂編
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第56話 進め!ダンジョン!! その2

「なにここ? 地面がさらさらしてる」


 大部屋に足を踏み入れたリーティアは、足に伝わる感触をそう表現した。


「そうだな……あそこに似てないか?

 ほら、海の……砂浜か。あそこの地面に」


 と、バハディアは足元の砂地を見て、先日、四人で行ってきたらしい海の砂浜を思い出した様だ。


 竜人達は、部屋の地面が全て砂漠の様な砂に覆われている、少々特殊なボス部屋を見つけていた。


 この手の環境改変系の事をするモンスターやボスは、せいぜい第5階層まで行かねば出てこないはずなのだが……


 うーん……先のエルフチームが見つけた宝箱の出現と言い、少々ダンジョンに異変が起きている様だ。

 皆が変な所に迷い込まない様にと少し弄ったのだが、その調整が甘かったのかもしれん。


 しかし、砂地を作る奴か……

 危険度は低いが、皆には面倒な相手かもしれんな……


 いや? 逆にその面倒さがラスボスとしては適任か?

 場所も皆を誘い込むのにちょうど良さそうな位置だし……


 ふむ……少々、利用させてもらうか……


「地面が砂になっている以外は何も無いようだが……

 む?あの奥の砂山は怪しい気がするな」


「そうねぇ。今のうちに凍らせた方がいいかしらぁ?

 えーいっ!」


 レイディアが周囲を見渡し、少し盛り上がっていた砂山を見つけると、それをシルティアは即座に凍らせた。


「……やったか?」


 おおっと、バハディア。その台詞は一種の呪われた言葉だぞ。


 御多分に漏れず、砂山は凍り付いた部分を残し崩れ去るが、それと同時に竜人達を囲む様に4つの砂山が盛り上がり出現した。


「む? 囲まれたか?」


「これも魔物なの?」


 バハディアとリーティア達は、その砂山を見て気を引き締めて身構える。


 その砂山はみるみる内に形を変えると、それぞれが対する者と同じ姿へと変貌を遂げる。


「ッ!? これは……私達なのか?」


「えー……わたしぃ、こんなに体太くないわよぉ」


 レイディアは形を変えた砂山を見て、何を象ったのか気が付き、シルティアは自分とは違うと抗議の声を上げる。


 シルティアは羽が生えてからというもの体格が大人っぽくなってきており、太いというよりグラマーな体形になりつつある。

 リーティアが、新しく作る服のために彼女を採寸をしながら「ぐぬぬ」といった表情をしている事が多いのだが、俺としてはどちらも悪くないと……


 おっと、戦闘が始まった。


「でーいッ!」


 と、リーティアが自身の姿になったサンドゴーレムが動き出す前に、先手必勝とばかりに軽く助走をつけた飛び蹴りを食らわせる。


 その彼女の攻撃を胸部に受けたゴーレムは、攻撃に耐えられずにあっさりと砂を撒き散らしながら崩れ去った。


「――ぺっぺっ……うえ、これ全部砂だぁ……」


 ゴーレムとは言え砂の塊に突撃したリーティアは、全身が砂まみれになり口に入った砂を吐き出しながら愚痴るが、彼女が倒したと油断しているその背後で、崩れた砂山が形を整える様に盛り上がり


「リーティ! まだ――」


 その砂山が彼女へと腕を伸ばすのを見たバハディアは、声を上げながら彼女の元へと向かおうとする。


「――ぐッ!?」


 だが、そこへ自身の姿を模したサンドゴーレムが体当たりをかましてきて妨害されてしまう。


 二人を助けようとしたレイディアとシルティアも同じく妨害に会い、そこからは竜人達とサンドゴーレムとの乱戦が始まった。


 さて、四人はどこまで頑張れるか……



 ――エルフチーム――


「何か音が聞こえないか?」


 ムートは、通路を進みながら隣を歩くエルフィーに話しかける。


「はい……これは、誰かが戦って――リーティの声?

 行ってみましょう」


 エルフィーは、通路の先から聞こえてくる音の正体に気が付き、足早にその場所へと駆けつける。


「んもぅ! こいつら、どうすれば倒せるの!?」


「数も増える一方だしぃ、きりがないわねぇ」


 エルフチームが音のする場所へと到着すると、そんな事を言い合いながら十数体のサンドゴーレムに囲まれ戦っている竜人チームが居た。


「止まってください! この部屋には入らないで。

 あれは……ゴーレム系の魔物? でも、倒しても復活している……?」


 エルフィーは部屋の目の前でエルフチームの全員を止めると、竜人達の戦闘の様子を見て分析を始めた。


「さほど危険そうではないが……助けなくて良いのか?」


「あ、そうですね。『砂よ』――ッ! な!?」


 そこにムートがエルフィーへと忠告し、彼女もそれに気が付き土魔法を唱え部屋に有る砂へと干渉を試みる。

 だが、その魔法は砂自体がエルフィーの魔力を弾き返し中断する事となった。


 魔法が弾かれた事に彼女は一瞬驚くが


「これは? となると……『水よ包め』!

 みんな! 私がそいつらの動きを止めるから、飛んでこっちへ来て!」


 と、直ぐに別の方法を考えて実行に移し、水でサンドゴーレム達を覆いながら戦っている四人へと指示を出す。


「エルフィー!? 分かったわ!」


 彼女の声と水に覆われていくゴーレム達を見て、リーティア達は部屋の入口に居るエルフチームに気が付き、エルフィーの言に従い部屋の上へと飛ぼうとする。


 しかしサンドゴーレムは水に覆われ動きが鈍くなりはしたが、まだ竜人達を捕まえようと襲い続ける。


「これならぁ……『凍てつけ』」


 そこへ、皆の足が地面から離れたのを見たシルティアが、自身を中心に凍結の魔法を発動した。


 エルフィーの魔法で水を十分に吸い込んだゴーレムは、その魔法で全身が凍り付き動きを完全に止め、その隙に竜人達は、羽を使い飛び上がり包囲網を抜けて、エルフィー達の居る部屋の入り口まで退避した。


 ふむ……良い連携だ。

 これなら表面だけを凍り付かせるのとは違い、内部の砂の動きまで止める事が出来るので、あの砂は使い物にならずゴーレムは即座に復活は出来ないな。


「ふぅ……助かったよエルフィー。ありがと」


「取り敢えず部屋の外へ出て、入り口を塞ぐから」


 と、無事に部屋の入口へと到着したリーティアは、エルフィーへと礼を言い、彼女は四人を部屋の外まで出すと、大部屋の入り口を分厚い氷で塞いだ。


「これで大丈夫かしら?

 それで、どれくらいの間――いえ、何体くらい、あの魔物を倒したの?」


 と、エルフィーは竜人達へと尋ねる。


「10以上は倒したと思うが……あれは倒したと言えるのか……」


「いくら壊しても直ぐに元に戻って、しかも増えていきやがる」


 レイディアとバハディアは全身に降り掛かっていた砂を払いながら彼女へとそう答えた。


「そう……やはり、ゴーレムが本体では無く、あの砂全てが本体なのか……

 それとも、別に潜んでいるのか……」


 エルフィーは二人の話を聞き、再度、この部屋の事を考え始めた。


「ここには、他へ続く道も見受けられない様だが……

 無理に倒す必要も無いのではないか?」


 ムートは部屋の入り口に張られた氷の扉の向こうを見渡し、そう提案するが


「いえ、リーティア達が私達と反対の方向から回り込んで此処に到着したという事は、ここが次の階層へと続く場所の可能性が高いのです。

 そうよね?リーティ」


「んーと……ここに来るまで、分岐は少なかったし……

 途中の部屋には強かったり大きい魔物も居なかったかな。

 でも、ここの砂の奴ってボスなの?

 部屋は大きいけど、砂の魔物は大きくも無いし強くも無いよ?」


「あのゴーレムは小さいけれど、さっき私が部屋の砂を魔法で操ろうとしたら出来なかったのよ。

 もしかしたら……この部屋にある砂、それが全部魔物の身体か、一部なのかなって思ったの」


 と、エルフィーはムートとリーティアに、考えていた事を話した。


 そしてその考えは、ほぼ当たっている。


 この大部屋が第二層の唯一のボス部屋であるし、俺が少し前に、皆が其処へ辿り着き易い様にとこっそり通路を弄ったので、エルフィーの予想通り第二層は円環状になっている。


 あの部屋の魔物はゴーレム系統のボスの一種で、自身の砂を部屋に敷き詰め、その砂で様々な形を象ったサンドゴーレムを作り、それで侵入者を攻撃するといったモンスターだ。


 その出現したゴーレム自体を攻撃しても殆ど意味は無く、この部屋の砂の中の何処かに隠れている拳大程の泥団子の様なコアを見つけ出し、それを破壊しない限りは倒す事が出来ない。


 ゴーレム自体は、いくら相手の形を真似ようが強い魔物の形になろうが、その強さや能力を再現する訳では無いので、対処はそこまで難しくは無いが……

 そのゴーレムと戦いながらコア探しを行わなければならない上に、次の階層へと進む道なども砂で埋められているので無理やり突破する事も難しいという、ひたすらに面倒なボスなのだ。


「えー……それって、この部屋の砂を全部どうにかしなきゃダメって事?」


「たしかに、それならサイズ的にはボスと言えるが……

 どうすれば良いんだ?」


 エルフィーの考えを聞き、リーティアとレイディアは解決策が浮かばないといった感じだった。


 だが――


「バハのブレスならぁ……砂を消しちゃえるんじゃないかしらぁ?」


 と、シルティアが、さらっと恐ろしい提案をした。


「え……さすがにそれは……この量は無理なんじゃ……?」


「大丈夫よぉ。

 世界樹丸をどんどん飲んでぇ、どんどん撃てばぁ、わたしはやれると思うなぁ」


 バハディアはシルティアの提案に、ちょっとした体育館並みの広さの砂地を見て弱々しい抗議を言うが、それは無慈悲に却下される。


「ブレス?って……あの口から吐くブレスですか?」


「なんだそれは?」


 その竜人達のやり取りを見ていたエルフの面々は、何をする気なんだ?といった表情で聞くが


「えー……と、説明するより見て頂いた方が早いかと。

 あ、皆さん、此方へ来て姿勢を低くしててください」


 と、レイディアはシルティアを止めるのは無理そうだと察したのか、エルフチームを安全地帯まで離れさせて事の成り行きを見守る事にした様だ。


 そうして、バハディアの固定砲台による部屋の砂の掃除作戦が決行される事となった。



 闇のブレス、それは消滅力の変わらないただ一つのブレス。


 俺はその光景を見て何処かで聞いた事が有る様なフレーズが頭に浮かんでいた。


 バハディアが部屋の入り口から闇のブレスを一発撃つと、すぐ後ろに居るリーティアとシルティアが世界樹丸を1粒取出しバハディアの口へと放り込んでいくという、まるでわんこそば状態な流れ作業だ。


 小一時間もすると大部屋に敷き詰められていた砂の大半は消え去り、ボスサンドゴーレムのコアは残り少ない砂の中を必死に逃げ回る状態に陥っていた。


 これはひどい。


 うーん……思ったよりも早く倒されてしまいそうだなぁ。

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