第55話 進め!ダンジョン!! その1
昨日は、夕方前に一番遅れていたウアルの人族若手チームもダンジョンの入口へと到着し、こうして向かっていた全チームがダンジョンの内部へと突入した。
俺は夕食にと、ふわふわパンケーキを差し入れに持って行き、その際にダンジョンに関するアドバイスを皆に送る事にしたのだが、各チームとも抱える問題がバラバラで、少々手間取る事となった。
先ず、ヒューガ達の獣人チームの五名だが、彼等は戦闘に関しては殆どの相手を軽くあしらえる身体能力と経験を有していたので何の問題も無い。
しかし、ただ気の赴くままに進むだけでは、迷路の様なダンジョンを攻略するのは難しいので、右側の壁か左側の壁を伝って進む方法を教えた。
ここのダンジョンの上層であれば、この方法でもある程度は進む事が出来るだろう。
次にドワーフチームと混成チームだが、こちらは11人と大人数の為に進行速度が遅い。
だが、その遅さと人数の多さが逆に慎重さと注意深さを産み、先の戦闘での経験もあり一番安定した集団となっていた。
なので、下に向かう為にはボス部屋を探す必要がある事を教えておいた。
エルフチームは、エルフィーが居るのでダンジョンに関しては特に教える事は無かったのだが、やはり宝箱や指輪の金属に関しての事を尋ねられた。
雷の指輪は、唯一雷魔法を習得しているエルフィーが付けるのが適任だと教え、ムート達には幾つかの金属の延べ棒をサンプルとして渡して、それがどんな物かを簡単に説明し、詳しい話はダンジョンから帰って来てからにしようと伝えた。
何故サンプルを渡したかと言うのは、現物を持っていれば宝箱を外に持ち出すなんて事は考えないだろうという打算からなのは内緒だ。
竜人チームだが、彼等は攻守ともにバランスよく能力も高いので大した問題は無い。
しいて言えば、新しく使える様になったブレスの扱いに困っているといった程度だったので、射程や威力などを把握させるために一時的に外へと連れ出し、思う存分練習させてからダンジョンの元居た場所へと帰した。
ウアルの人族若手チームは、まだ入り口付近のエリアなので、モンスターとの遭遇も迷路に迷ったりといった経験もしていない。
なので、特に詳しい事は言わず「がんばれ」とだけ言っておいた。
何も知らずに体験する事の大切さってあるよね。
そして皆が出発してから三日目の朝を迎えた。
俺が朝食の、梅おにぎり(まだまだ大量に残っている)を食べながら、今日はどんな遊具を作ろうかと考えていた頃
――竜人チーム――
「へー、そんなのがあったんだぁ。
いいなー、わたし達もさがしてみるー。
うん、それじゃねー」
と、リーティア達とエルフィーとの念話での会話が終わった。
リーティアは、未だに念話中の話し方が子供っぽいな。
あと念話の内容が声に出てしまっている。
「指輪かぁ。私も欲しいし、今日は宝箱を探してみようか」
「そうねぇ。宝箱があるって事はぁ……
もしかしてぇ、モモタロウが見つけた財宝みたいな物もあるのかしらぁ?
指輪も欲しいけどぉ、お話で聞いた天水のドレス?あれも欲しいわぁ」
と、リーティアとシルティアは希望する宝箱の中身を語り合う。
「指輪って指にはめるみたいだが、邪魔になるんじゃないか?
俺はあれだな、オロチの鎧が欲しいな」
「私は何だろうな……バハと同じく防具が良いか。
昨日の様な奴が他にも居るかもしれんしな。
さて、そろそろ探索の再開とするか」
バハディアとレイディアの二人は、昨日の戦闘での経験からかそんな希望を言い、朝食を終えた四人はダンジョンの探索を再開したのだった。
ふむ……指輪にドレスに防具か。
――獣人チーム――
昼になり、各チームがちらほらと昼食を取り始めた頃、獣人チームで一つの問題が発生……いや、発覚していた。
「ねぇヒューガ、食べ物分けてくれない?」
「あ、俺も頼む」
と、熊の獣人のキューと獅子の獣人のガオンがヒューガに言った。
「……俺も、そんなに残ってないんだが……。
おい、ミーニャ、バグゥ、お前達はどうなんだ?」
「私は……んーと、あと1食分くらいかなぁ?」
「俺は……焼き芋が1個と……あとはキビボールだけだ。
キビボールを食っても良いか?」
ヒューガに尋ねられた二人は、鞄の中を見てそう答える。
そう……彼等は食糧不足に陥っていたのだ。
色々と準備不足な者達だったので、こうなるんじゃないかなとは思っていた。
まぁ、周辺に食べ物が無い場所に来るのも初めての経験だろうし、これも仕方のない事か。
「キビボールはとっとけ。
……取り敢えず、昼は全員のを分け合うとして……
夕食は、主様の差し入れがあるから、何とかなるか?」
ヒューガは考えを整理して、皆に意見を求めたが
「でも、夕食を食べてー、寝てー、起きたらお腹空いててー
結局は主様の夕食を貰っても駄目なんじゃないかにゃー?」
ミーニャが指を一本一本折り曲げながら、その先をシミュレートし結論を言う。
「一回、外に出て何か採ってくるか?
道が分かればだが……」
「最悪リターンクリスタルを使うしかないんじゃないか?」
と、ガオンやバグゥも知恵を出し合うが
「それも有りだが……他の奴らに分けて貰う、のも無理だな。
何処に居るのかが分からん。
くっ、こんな事なら神語をもっと学んでおくんだった」
ヒューガはそう言い、悔しそうな表情を浮かべる。
彼は一応、獣人達の次期族長としての教育で、神語や念話をガウから教えられているのだが、まだ自在に使える程ではない。
神語のスキルが高い族長クラス達であれば、話している相手の位置がなんとなく掴めるのだが、彼には無理だろう。
「あ、そうだ! 主様から夕食を多めに貰えばいいんじゃない?
一人三食分くらいをさ。
そうすれば――あれ?なんか良い匂いがしない?」
そこにキューが、妙案を思いついたとばかりに考えを言いかけたのだが、その途中で何かの匂いを察知した。
「む……? 言われてみれば……これは栗か芋を焼いてる匂いか?
バグゥ、方向は分かるか?」
「ちょっと待て……こっちだ!」
ヒューガは匂いの正体を言い当ててそう言うと、バグゥは匂いの漂ってくる方向へと皆を引き連れて走り出したのだった。
――ドワーフ、混成チーム――
両チームは、ようやく見つけたボス部屋の近くの通路で、焚火を囲みながら昼食を食べていた。
「あれは、どうしたもんかのぅ……」
と、ドワーフのドグは、焚火で焼いている芋を棒でつつきながらぼやく。
「………ふぅ。分かったぞい。
あれはスライムという魔物らしい。
昨日、エルフィー嬢達が遭遇したそうじゃ」
「エルフィー嬢か……俺達の参考には出来そうにもないが……
どの様に倒したと言っていた?」
ダグはエルフィーとの念話を終えると、皆にボス部屋に居る魔物の事を伝えると、ガウが内容の詳細を聞き返す。
エルフィーじゃなくても、暇な俺に聞けばいいのに……
昔はそうでも無かったが、最近、皆は大した問題で無い場合はエルフィーの方へと相談に行く事が多い気がするな。
親離れをしていく子供の様で、微妙に寂しさを感じるのは気のせいだろうか?
「雷魔法だそうじゃ。
それで中に浮いている、あの丸いのを攻撃してと言っておったのぅ……」
「……一応、弱点は判明したと喜ぶべきか……
しかし、あの妙な水みたいな部分を何とかせねば、俺達には攻撃する手段が――む? 何か向こうから走って来るぞ!」
ダグの返した答えに、ガウは微妙そうな表情をし方策を考えながら話していると、遠くからこちらに向かってきているヒューガ達の足音に気が付いた。
「ローイとサーリは後ろに下が……ん?
あれは、ヒューガ達じゃないか?」
「なんじゃ? あ奴らは、まだこの辺におったのか?」
ザンジは戦闘力の乏しい二人を庇う様に前へと出ると、通路の先から向かってくるヒューガ達の姿を確認し、ドグ達もそれに気が付いた。
「お! 爺さん達じゃないか! こりゃついてる。
おーい、食い物を分けてくれー!」
「あいつらは……食料が尽きたのか?
まったく……」
遠くから駆けて来る五人の元気な姿を見たガウは、あきれた様な言葉とは裏腹に表情は安堵した様な表情をしている。
「わしらみたいに、此処に来る道中で集めもしなかったんじゃろ」
「ま、わし達もエルフィー嬢の助言が無ければ同じ目にあってたかもしれんがな」
と、ドグとダグ達は立ち上がるのを止めて、地面へと座り直した。
「よかったぁ、ここでじっちゃん達に会えてぇ。
何か食べさせて」
「もうお腹ペコペコだったのぉ。
あ、わたしは栗が欲しい」
出迎える様に居たガウに、ミーニャとキューの二人はそんな事を言う。
「かまわんが、栗はもう少し待て。
まだ焼いてる最中――ん?これは丁度いいかもしれんな……
おい、お前達。食い物は分けてやるから、この先に居る魔物退治を少し手伝え」
と、ガウはスライム退治をヒューガ達にも手伝わせる事にしたのだった。
その後、総勢21名となったドワーフ、混成、獣人チーム連合は、小一時間かけて小山の様な大きさのボスコラーゲンスライムの身体を全員で徐々に削り、最後にザンジがスライムのコアを破壊して、無事に下へと降りる事が出来たのだった。
――エルフチーム――
エルフチームは順調に第二層も進んでいる。
チームの先頭をエルフィーが歩き
「あれは、大きいですが『リス』ですね」
そう言い、弱い雷の魔法でナッツマーモットの集団を気絶させ
「あのひらひら飛んでいるのは『蝶』の魔物かと」
と説明しながら、ファイアバタフライの大群へ吹雪を吹き付けて、地面へと全て叩き落とし
「それには近づかないでください、植物系の魔物だと思います」
脇道に生えていたウィッププラントの蔓を凍り付かせ無力化した。
と言った感じで、ゴリゴリと攻略していく。
その彼女の後ろを、ムート達6人は「ほー」「へー」といった感じで大人しく付いて行く。
その光景はまるで、美人ガイドに連れられた観光客の様だった。
――竜人チーム――
一方その頃、同じく第二層を進んでいた竜人達は、一つの大部屋の前へと到着していた。




