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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第三章 廻魂編
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第54話 宝と宝と宝

 ダンジョンの方で皆の初戦闘が一通り終わり、一息ついた頃。


 俺が砂場の所に、滑り台を作っていると


「あるじさま。まだー?」

「これ、どうやって遊ぶのー?」


 と、周囲に群がっていたちびっこ達が急かしてきたので、俺は手早く最後の仕上げとなる滑る部分の板を土魔法で成型し取り付けた。


 そして簡単に遊び方の説明をして、さっそく試しに滑ってもらったのだが、どうにも上手く子供たちが滑っていかない。


 原因は、皆の衣類というか服に覆われていない肌面積の多さの所為みたいだ。


 まだズボンなどが無いこのご時世だと、子供達の剥き出しのもっちり肌が滑り台のつるつるの板にぺったりと引っ付いてしまい、滑りが悪くなってしまう。

 スムーズに滑っているのは、尻や足がもこもこの毛で覆われている獣人の男の子達だけだ。


 うーん……これは失敗だったかもしれん。

 何か滑りを良くする方法を考えねば……


 と、顎をさすりながら考えていると、近くで寝ていたザンジが目を覚ました。


「ん?起きたか?」


「主様? ここは……世界樹?

 何故、俺はここに……ッ、ローイ!? 早く戻らないと!」


「落ち着け、ローイも皆も無事だ。

 お前が此処に居るのは、リターンクリスタルがお前の危機を検知して、自動で発動したからだ。

 お前は魔物を全部倒した後、少々危険な状態になっていたからな。

 何が有ったかは覚えているか?」


「えぇと……ローイがやられて、その後……

 あの泥の化け物を全部……殺したのは覚えてます」


「ふむ? 覚えているのか……それなら問題なさそうだな。

 ザンジ、お前は今回の戦闘で強く成長したのと同時に『狂戦士化』の特技を身に着けた」


「狂戦士……化?ですか?」


 神語でサクッとどんな能力なのかを説明すると、彼は訝し気に聞き返してくる。


 能力的には、何かしらの感情と比例して身体能力が増し、それと共に生き物として必要な痛覚や恐怖、そして人として重要な理性も薄れてしまうといった物だ。


 元々、彼にはその能力の素養が有ったのだろうが、使いどころによっては強力でも、一歩間違えば諸刃の剣となりえる。


「うむ。狂戦士化すれば強力な力が手に入るが、それに意識が飲まれたとたん、敵どころか仲間や自分さえも傷つける危険性を孕んでいる。

 だが、お前は今回の戦闘中も、戦い終わった後も、周囲の皆の事を認識して行動していたし、あの状態での記憶も有るというのなら大丈夫だろう。

 お前なら、頑張れば上手く使いこなせるはずだ」


「……そう、ですか」


 と、俺が説明すると、ザンジは戸惑いながらも納得してくれた様だった。


 俺が獣人の神体で初めて発動した時は、数年間、理性を無くし暴れまわる事になったからなぁ……あれはやばかった。

 彼が最初からそれなりに使いこなせたのは、ローイを守るという気持ちが強かったのか、それとも好物のキウイ絶ちをして精神が鍛えられていたからだろうか?


 それはともかく、ザンジを向こうに送り届けてしまうか。


 リターンクリスタルの自動帰還機能で戻って来た者には、1回だけ、その場でコンテニュー制度を設けるつもりだったのだ。


「さて、それでは皆の所まで送ろう」


 俺はそう言い、混成チームの居るダンジョンの部屋へと空間ゲートを繋ごうとすると


「待ってください!

 あの……あそこにいた泥の化け物を……殺した事には、何か無いのですか?」


「ん? 私としては、お前は良くやったと思っているぞ?」


 それに――


 空間ゲートを繋ぐと、その向こう側ではローイを先頭に皆がザンジの帰りを待って居た。


「ザンジ!」


 ローイ少年は、いの一番でザンジに飛びついてきて、それに続いて他の皆も彼に歩み寄り次々にお礼を言っていく。


 ――この皆の反応を見れば分かろうという物だ。



「ザンジ。これはお前の物だ」


「これは、魔石か? なんでこんな大量に?」


 皆にザンジがもみくちゃにされていると、ガウがザンジへと土の魔石を渡していた。


 あれはマッドゴーレムの中に有った物で、ザンジが寝ている間に皆に集めておいてもらった物だ。


「茶色って事は土の魔石だろ?

 こんなに有っても俺には使い道がないぞ……」


 と、受け取ったザンジがボヤいたので、丁度良い機会だと俺は思い、モンスター産の魔石の使い方を皆にレクチャーする事にした。


「その魔物から採れる魔石なのだがな、天然の物とは少し違うのだ。

 それは魔法を得意としない者でも使う事が出来る。

 と言っても用途は限られるのだが……

 あのマッドゴーレムの魔石なら、あの魔物と同じ様な物をその場に出して使役……操る事が出来るな。試しにやってみなさい」


 俺が、そう説明するとヒューガは少し困った表情をし


「あの……俺は魔石の使い方が、その……分からないんですが……」


 と、申し訳なさそうに言ってきた。


 そういえば、あまり魔法を使わない獣人達は魔石の使い方を知らない者も多いんだったな。


「ふむ? そうか、なら他の者で――」


 と、他の者にやらせてみようと思い言いかけると、


「どれ、わしに貸してみい。……むお!? なんじゃ?」


 と、近くに居たダグが名乗りを上げヒューガの手から魔石を1個つまみ、さっそく試しに魔力を流し込み発動させた。


 すると、その魔石から泥が大量にあふれ出し、そのままダグの足元へと魔石と共に零れ落ちて、魔石を包む様にあふれた泥はすぐさまマッドゴーレムと同じ形状へと変身した。


「これは……たしかにあの化け物と同じ姿形じゃが……

 操るとはどうやるんですかの?」


「魔力がそれと繋がり吸い取られてるのを感じるだろう?

 言葉にしながらでも、頭の中だけでイメージするのでもいい。

 そのイメージを魔法を使う時の様に魔力に込めて送れば、それに従うはずだ」


「なるほど……手を上げろ。……おぉ!」


 操作の仕方を教えると、ダグは銃を突きつけた者の様な事を命令した。


 その指示に従いマッドゴーレムは、ぬちゃっと両手を頭上へと上げる。


「簡単だろう?

 だが、お前からの魔力供給が途絶えると、魔石内部にある魔力を使い切った後に魔石と共に消え去るので、そう長くは使えないのだがな」


 天然物の魔石は色々と出来て再充電できるバッテリーだとすると、魔物産の魔石は使い切りで用途も限られる使い捨てカイロみたいな物だ。


 自分であれこれと魔法の効果を発動させる必要が無いので、魔物産の魔石の方がお手軽ではある。


 そのゴーレムの生成を見ていたザンジは


「俺が持ってても使い道がなさそうだなぁ……。

 ほれ、ローイ。お前にやるよ」


「え?いいの?」


 と、持っていた魔石を全部ローイに渡してしまった。


「お前なら使えるだろ?

 何か有ったらそいつで身を守れ。

 その間に俺が何とかしてやるからよ」


 と、まるでイケメン男子みたいな事をザンジは言った。


 まぁ、豹の顔と特徴を持つ彼は、なかなかにカッコイイとは思うが……だが、相手のローイは男だ。


 エルフの少年なので、他の種族よりかは男の娘っぽい要素は高いけど……

 変な事に発展しなければいいな。


 などと思いながら、俺がザンジとローイの二人を見てると


「む? 主様、あれは何かの?」


 と、ドグが空間ゲートから見えていた滑り台を指さし尋ねてきた。


「あれか?『滑り台』という物だ。

 まぁ、今はただの遊具だな」


「はぁ、遊具ですか。一体何の道具なのかと思いましたわい」


 ドグはそう言い物珍しそうに滑り台を眺めている。


 砂場は土魔法の練習に、シーソーは闇魔法を楽しく学べる知育遊具として作ったのだが、現状では滑り台はただの遊具に過ぎない。

 だが、先ほどのザンジの魔石の使い方が分からないと言った発言でヒントは得たので、ちょっとした改造で滑り台もなんとか子供達の教育に役立てそうだ。


 さっそく、それに取り掛かろう。


「さて、そろそろ私は帰るとする。では皆、気を付けてな」


 と言い皆と別れると、俺は滑り台の改造を始めた。


 滑り台の上の手すりに風の魔石を埋め込み、滑る部分の板に細かな穴を大量に開けて風の魔石と繋ぐ。

 風の魔石に充填された魔力を風へと変換し、滑り板の穴に送り込む様に仕掛けを施して完成だ。


 原理的にはゲームセンターなどにある、空気でパックを浮かせて遊ぶエアホッケーの台と同じである。


 さっそく、近くに居た子供を何人か試しに滑らせてみると、肌が板に張り付かないようになり全員がスルスルと滑って行った。

 これなら、魔石への魔力の籠め方の練習にもなるし、滑り台としても合格だな。


 と、俺が満足して子供たちの遊ぶ様を見ていると、先行して第二階層へと降りていたエルフチームが妙な物を見つけていた。



 ――エルフチーム――


 彼等はボスコラーゲンスライムを倒し、それが塞いでいた下へと続く道を通り、第二階層へと来ていた。


 そして、暫く歩いていると、また新たな部屋を発見したのだが


「あれは……宝箱?」


 と、先頭を歩いていたエルフィーが呟き

 俺も彼女達が見つけた物を見て「えっ!?」と心の中で言葉を漏らす。


 俺が驚いた理由は、こんな浅い階層に宝箱が出現する事自体が稀であり、普通であれば中層付近まで行かねばお目に掛かれない代物だったからだ。


 咄嗟に「中身がアレな物だったらすり替えよう」と考え、内部を透視してみるとミスリル製の『雷の指輪』が一個入ってるだけだったので、俺は安心した。


 装着者に雷の得意属性を付与するという程度の物なので、さほど危険性も薄い物だ。


「宝箱? なんだそれは?」


 立場が逆転し副リーダーになりつつあるムートが、同じくリーダーになりつつある孫のエルフィーにそう尋ねる。


「えぇと……ダンジョン内にたまに有る、様々なアイテムといいますか、宝物が入ってる箱です」


「あれ中に宝物が……? 妙な化け物は居ないようだし、調べてみるか」


 エルフィーが簡単に説明を行うと、ムートはさっそく部屋の内部へと入って行こうとしたが


「あ、待ってください。

 罠があったり、あの宝箱自体が魔物が『擬態』した姿という事もありますので、慎重になったほうが良いかと」


 と、エルフィーは彼を止めて忠告をした。


 うーむ……エルフィーは宝箱の罠やミミックなどの知識まであるのか。

 スライムの事も初見で分かっていた様子だったし、彼女の中にはどの程度の知識が眠っているのだろう?


「擬態? あれが魔物の場合があるのか……」


「だとしたら、どうする? このまま見過ごすのも……」


 と、ムートや他の者達が頭を悩ませ始めると


「大丈夫です、ここから調べて開けてしまいましょう」


 エルフィーはそう言い地面へと手を付けると、宝箱の直ぐ近くの地面に土魔法で腕のような物を作り出して、宝箱をぺたぺたと触らせて調べた後に蓋を開けた。


 合理的な方法だとは思うが……

 ダンジョンの宝箱を調べるというドキドキワクワクイベントへの対処法としては、なんとも身も蓋もないやり方な気がするなぁ。


 かくして、宝箱が安全だと確信したエルフチームは部屋の中へと入り


「これは『指輪』……でしょうか?」


 と、エルフィーが宝箱の中にあった雷の指輪を摘まみ上げ、眺めながら言った。


 ここまでの流れは、俺としても問題なかったのだが


「この箱は……木と、周りを囲っている物は何だ?

 これは土なのか? その指輪も似た様な物で出来ているな」


 と、ムートや他のエルフ達は初めて目にした金属の材質に興味を持ったらしく


「ふーむ、これはかなり固いな……」

「そうだな、主様の土魔法で作られた物か、それ以上の物の様に感じる」

「これは持ち帰って調べてみたいな。ドワーフの皆も興味を持つのではないか?」


 と、宝箱自体を持って行こうかと画策し始めてしまった。


 しまった、箱の方に興味を持ってしまうのは盲点だった……

 実は、俺にとっては、中にあった雷の指輪なんかよりも宝箱自体の方が貴重な物なのだ。


 彼等が発見した宝箱は、等級としては一番ランクの低い物ではあるが、普通の木材の板で作った箱を、特殊な魔力と術式を練りこんだ金属で補強する様に随所を覆った物だ。

 つまりは……俺が作った物なのである。


 昔、ダンジョンの機能を調べている最中に、ダンジョン内で破棄した物はダンジョンへと取り込まれ、かなりの時間が経った後にダンジョン内の別の場所へと排出される事が判明した。


 その再度排出された物は、形が極端に変形していたり、呪いを帯びていたり、モンスターが装備していたりと多種多様な状態で見つかったのだが。

 そのどれもが元の物に何かしらの効果が追加された物に変化していたのだ。

 しかし、形状や効果があまりにもランダムすぎて、実用に耐える物は少なかった。


 そこで俺は研究を重ね、内部に入れた物を保護して形状変化をなるべく抑え、かつ良質な効果のみを取り込み易くする為の容器を開発した。


 それがあの宝箱の正体である。


 リサイクル機能として、内部が空になった物は暫くすると空箱が集まる部屋へと自動で転送される様になっており、中身が入ったままの場合でも放置されれば、またダンジョンへと飲み込まれて能力付与が再開される仕様となっている。

 だが、それはどちらも誰も近くに居ない状態で放置しないと発動しないし、ダンジョンの外へと持ち出されてしまっては機能しなくなり、ただの箱と化す。


 まぁ、無数に放流してあるので、数個程度なら問題無いのだが……

 他の者達も興味を持ち、外に持ち出す事が一般的になってしまうと面倒だなぁ。


 彼等を見つつ俺が少々悩んでいると


「鞄にも入らない大きさですし、その箱を持ち運ぶのは大変ではないでしょうか?

 この指輪と、その箱の補強に使われている材質は『金属』だという事は私にも分かるのですが……

 主様でしたら詳しく存じ上げていらっしゃるかと思います。

 夕食の際にでも尋ねてみてはいかがですか?」


 と、エルフィーが助け舟になりそうな発言をしてくれた。


「金属……? うーむ……

 たしかに、主様に尋ねた方が良さそうだな。

 他にも同じ物が有るかもしれんし、箱はここに置いて帰りにでも取りに来れば良いか」


 それにムートも賛同し、宝箱は助かる事となったのだった。


 ありがとうエルフィー。助かったよ。

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