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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第三章 廻魂編
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第52話 ダンジョン突入!! その2

 昼になり、俺は昨日の夕食にと作った梅おにぎり(皆にはかなり不評だったので大量に残った)を食べながら、砂場とシーソーで遊ぶ子供達を眺めていた。


 その光景を見ながら、まだ何か足りないと感じたので、今度は滑り台も追加するかと考えて、どんな感じにしたもんかと悩んでた頃、ダンジョンの方ではちょっとした騒動が起き始めていた。



 ――ヒューガ獣人チーム――


「なんだ? そこから先が広くなってるな」


 先頭を行くヒューガは立ち止まり、光を放つ魔石を頭上に掲げて進む先を照らして、そう言葉にした。


「妙な匂いもする……俺達に似てはいるが少し違うな。

 それに何か光ってないか? ほら、小さな光が……あれは目か?

 俺達みたいに目が光を反射している? てことは、中に誰か居るぞ」


 と、バグゥが暗闇の中にチラチラと光る物を見て、確信した様に言った。


「誰かって、リーティア達か?

 いや、それなら向こうも明かりを持ってるはずか……

 おい! そこに居るのは誰だ!」


 バグゥの推測を聞き、ヒューガは数m先の暗闇へと向かって声を荒げて発する。


 その瞬間、暗闇の先に居た者達が一斉にヒューガの方へと顔を向け、光を反射させていた目の数が倍増した。


「お、おい。何人いるんだよ?

 ……ん?って、あれは……ウシジカじゃないか?」


「ほんとだ……ウシジカだねぇあれは。

 なんでこんな所に居るんだろ?」


 と、少し後ろから眺めていたガオンとミーニャが、闇の先の空間に居る物の正体に気が付いた。


 ウシジカは草食系のモンスターで、白と黒のホルスタインの様なツートンカラー模様をした鹿だ。

 なぜか雄雌関係なく乳を出す大きな乳房をもっており、なかなか良質な牛乳……ではないな、牛鹿乳が採れるので重宝しているモンスターの一種である。


「なんだよ、ウシジカか。

 森でたまに見かけるが、ここがこいつ等の住処なのか?」


 そう言いながらヒューガは安心したように前進を再開したが、残念ながら此処はウシジカの住処では無く発生エリアだ。


 その部屋の中で発生した子供のウシジカは周りのウシジカの乳で育ち、部屋の中の頭数が20前後を超えると数匹ずつ外へと出て行き、ダンジョンの中を少し彷徨った後に、やがで外界へと出ていく。


 森の中やダンジョンの通路で出会う分には問題無いのだが。

 この発生エリアの場合は中に入ると――


「結構な数が居るな……

 外でこんなに群れてるのは見た事――がふッ!」


 部屋の中へと足を踏み入れたヒューガは、近くに居たウシジカに頭から激突され部屋の外へと叩き出され、吹っ飛んできたヒューガを後ろに居たガオン、ミーニャ、キューの三人が咄嗟に受け止めた。


 ――と、この様に攻撃される事になる。


 ウシジカの角は鹿と同様に鋭い部分があるので、俺も当たり所が悪そうならこっそり防ぐつもりで見守っていたのだが、彼は持ち前の反射神経で角は回避し、掠り傷と打撲程度で済んだ様だ。

 それに、最初の一撃で部屋の外に叩き出されたのも運が良かった。

 吹き飛ばされた先が部屋の中だった場合は、中に居る15匹のウシジカにそのまま袋叩きにされていただろう。


「な、なに!? あいつら襲ってきたの!?

 ちょ、大丈夫?ヒューガ!?」


「大丈夫だ……くっ、油断した。

 ダンジョンはこんなだって話だったじゃねえか」


 キューはぶつかって来たヒューガを抱え起こすと、ヒューガは彼女の手を掴んで立ち上がると、迂闊だった自身を戒める。


 そして、その彼等を部屋に入れまいとする様に、大きなウシジカ達が入り口付近へと集まりバリケードを作り始めた。


「この先へは通さないって事か?

 どうするよ?」


 その様子を見てバグゥが少し身構えながら、皆に尋ねる。


「そりゃ、叩きのめして先に進むしかないだろ?」


 そう言い、獅子の鬣を纏う首をコキコキ鳴らしながらガオンも前に出て


「そうだな……主様の話と同じ様な展開になったんだ。

 てことは、この先にモモタロウ達が手に入れた様な宝も有るって事だろう?

 なら……道を開けてもらうしかないだろ!」


 と、ヒューガは臆せずに部屋の中へと突入し、それに他の四人も続くのだった。



 ――ドワーフチーム、混成チーム――


「む? 何やら先に広くなっている所があるのう」


 と、先頭を歩くドグが通路の30mほど先に広い空間が有るのを発見していた。


「え? よく見えますね?」


 彼等と一緒に行動していた混成チームのローイ少年が、ドグの言葉に驚いて聞き返す。


「はて? 何で分かったんじゃ?

 おいダグよ、おぬしも見える……というのも違うのう……感じんか?」


 と、尋ねられたドグも不思議な感覚に戸惑い、隣のダグへと尋ねた。


「言われてみると確かに……

 少し進んだ先に広い場所が有るのが……わかる、わかるぞ?」


 ダグもドグと同じく、まだ視界も開けてない所の空間を把握した様だ。


 彼等が感じているのはドワーフ特有の無機物を感じ取る能力『構造解析』による物だ。

 これを鍛えると、暗闇の中でも洞窟や土や石で出来ているダンジョンの構造を把握できるだけでは無く、埋まっている鉱石や鉱脈、金属などで作られている物の内部構造の透視といった幅広い用途に使える様になる。

 俺もドワーフの神体で取得しており、色々と重宝している能力の一つだ。


 覚える為には、視界が悪く土や石に囲まれた所に行くのが手っ取り早い。

 鍛えるのだとしたら、一番良い方法は、明かりを一切持たずに数年くらいダンジョンの地下深くで生活する事だろう。


「それに、何だ……?

 おやじ、何か動いてないか?」


 と、構造解析の技能が皆の中で一番最初にステータス欄に追加された、ダグの息子のダグダが言った。


 ふむ? 構造解析で感じ取ったという事は……

 ある意味、彼等には厄介な相手かもしれない。


「とりあえず、進んで確かめてみる他あるまい」


「そうじゃな」


 ドグとダグは、そう結論付け再度進みだした。


 やがて、ガウやザンジが持つ光の魔石のロッドの光に照らされて部屋の内部が見えてきた。


「なんじゃ……? 誰かおるのか?

 おい、おぬし――ッ!?」


 と、部屋の内部に居た者に気が付き、それへと話しかけたダグは息をのむ。


 そこには五つほどの、泥で出来た溶けた人形の上半身の様な物が有った。

 完全な人型ではないという事は、マッドゴーレムの下位種、レッサーマッドゴーレムだ。

 近寄ると襲ってはくるが、タフなだけで動きは遅く攻撃力も低いので、そこまで危険なモンスターではない。


 だが、それは、そうと認識出来ていればの話だ。


「な、何じゃお前は!?

 どうした?何が有ったんじゃ?」


「誰なんだ? 誰かが泥だらけになっているのか?

 もしや――ヒューガ達かッ!?」


 と、やはり彼等は、人の形に似ているマッドゴーレムの事を、敵やモンスターといった危険物との認識をしなかった。


 見えていた泥人形が5体だった事もあり、先に入ったヒューガ達かもしれないと勘違いしたガウはレッサーマッドゴーレムに駆け寄ってしまい、それに釣られ、他の者達も小走りに部屋の中に入ってしまう。


 彼等には出発前の説明で、ダンジョン内の広くなっている所ではモンスターが居る事が多いと伝えてあったのだが……

 出会ってしまった物が物だけに簡単に騙されてしまい、周囲に泥の塊状態で潜伏していたレッサーマッドゴーレム達に、全員は囲まれてしまった。



 ――竜人チーム――


「ん?あそこも部屋になってない?

 さっきのとこみたく明るくないけど……広くなってるよね?」


 途中の分岐でエルフチームと別れた竜人達も新しく部屋を見つけていた。


 四人は、先にハニービータンクの巣の部屋を経験してしまった事もあり


「あの蜜のあった部屋よりは広いが、ここは何も無いみたいだな……」


「そうねぇ、だたの暗いだけの部屋なのかもぉ?」


 と、部屋の中を見回しながら、他の者達と同様に油断しきって部屋へと入ってしまう。

 だが、運が良いのか悪いのか、この部屋は次の階層へと続く道が有る部屋の一つだった。

 こういった所には、ダンジョンではお約束の物が待ち構えている。


「あっちに、下に行ける穴が開いて無い?」


 と、リーティアは少し離れた所にある穴を見つけ、その穴に向かって歩き出すが、薄暗い所為か彼女にはその穴の後方に有る物が見えていなかった。


「穴……? ッ!?

 まて!止まれ! リーティ!!」


 バハディアは、彼女が向かっている先の壁に張り付くように潜んでいた存在に気が付き、慌てて叫び、彼女の事を止めに走ったが既に手遅れだ。


 リーティアがその声に反応し「え?」と声を発しバハディアの方へ振り向いた、その時、壁に張り付いていた物が身震いをし、リーティアの足元の地面から幾本もの蔓が飛び出し彼女の全身を絡め捕った。


 その蔓は、リーティアだけでは無く、彼女の元へと走っていたバハディアも、その少し後ろで同じように走り出そうとしていたレイディアとシルティアの足元からも飛び出し、竜人達全員を雁字搦めにしてしまう。


「な、なにこれ!? ぐッ――!?」


 と、縛られたリーティア達は驚きと苦悶の声を上げ、その蔓で絡め捕った四人を睥睨する様に部屋の主が姿を現した。


 レイディアが頭上へと浮かべていた光球の光に照らされ、全体を露わにしたそれは、木の幹を思わせる太さの茎の至る所から地中に向けて触手の様な蔓を這わていおり、その太い茎の上には巨大な壺の様な実を付けていた。


 その巨大な実の先端をゆっくりと一番近くに居るリーティアへと向けると、その先端には銃口を思わせる六つの穴が開いていた。


「こ、こいつは!?

 あの種を飛ばしてきた――」


 と、その実の射出口を見たバハディアは、気が付いた。


 そう、こいつはダンジョンの入り口で竜人達が苦戦した、あのガンシードプラントのボス個体だ。



 ――エルフチーム――


「なんだ?あれは?」


 と、他のチームの者達と同じ様な第一声をムートは言った。


 まぁ、ダンジョン内のモンスターを見るのが初めてだと仕方ないか……


 エルフチームの七人の居る部屋の中央にあるそれは、白く濁った半透明のゼリー状の小山だった。


「スライムですね」


 と、エルフィーはその正体を即座に看破する。



 そして四か所で、それぞれのチームの戦いが始まったのだった。



 ――獣人チーム――


 彼等は、ヒューガを先頭に両脇をバグゥとガオンが固め、その後ろにミーニャとキューが付いて行き、部屋の中へと突入した。


 相手が襲ってくる物だと認識した獣人チームは、そこからは油断は無かった。


 入口を固めていたウシジカをヒューガはアッパーカットの様に頭を殴り

 バグゥは突進の勢いを乗せて蹴りつけ

 ガオンは二匹の首を掴んで押し返し

 その出来た隙間をミーニャとキューがすり抜けて行く。


 入口のウシジカ達のバリケードを突破したミーニャは、後ろに居たウシジカ達の胴体をまるで木々の枝を飛び移る様に蹴り付けながら攻撃し

 キューは部屋の中央付近まで行くと、近くに居た一番大きいウシジカの角を両手で掴んで捕まえて、力任せにジャイアントスイングの様に周囲に振り回し始めた。


 女性とは言え熊の獣人であるキューは、獣人チームの中で一番の怪力の持ち主であり、その彼女の振り回す一番大きいウシジカの身体に周囲にいたウシジカ達は弾き飛ばされて、壁に激突しそのまま動かなくなる。


 そして、キューが大半のウシジカを行動不能にしている間に、他のメンバーも残りのウシジカを動けなくして、獣人メンバーの五人は奥に有る出口から悠々と出ていくのであった。


 獣人チームの初めてのモンスターとの戦闘は、上層の魔物相手とはいえ、思っていたよりもあっさりと幕を閉じた。


 ふむ……


 獣人達は、常日頃から取っ組み合いの様な遊びをしている事も有り、なかなか手慣れているな。

 まぁ、このまま無事に進めるかは、まだ分からんが……



 ――ドワーフチーム、混成チーム――


 彼等は人数も11人と一番の大所帯であったが、それを囲むレッサーマッドゴーレムの数は35体と三倍以上の数だ。


 それに加え、不完全とは言え人の形を模しているモンスターの為、皆は混乱し攻撃に躊躇いが見られた。


 そして運が悪い事に、ヒューガ達の戦った動物型と違い、ゴーレム系の魔物は体のどこかにあるコア部を破壊するか、体の大半を吹き飛ばすかまでしないと動きを止める事が無いので、皆の躊躇いがちな攻撃では意味をなしていなかった。


「ガァァ!!」


 と、ガウも勇ましく声を上げ太い腕と鋭い爪を振り回し、周囲のゴーレムへと攻撃を加えているが、狙うのは体の表層のみで殆どダメージは負わせていない。


「こやつら、殴っても殴っても向かってくるぞ!?」


 ダグも、土魔法で作った即席のこん棒を振り回し応戦しているが、全力を込めて攻撃してはいない。


「う、腕を、ち、ちぎってしまった!?

 さ、サーリ! 彼に回復魔法を――」


 と、ウアにいたっては相手のレッサーマッドゴーレムの腕を攻撃し、その腕を切り落としたはいいが、その事に逆に精神的なショックを受け混乱してしまっていた。


 やはり、俺が懸念していた事が起きてしまっている……

 俺も昔、初期の魔物の氾濫の折に、同じ事を経験していたので分かる。


 彼等は、相手が魔物であろうとも、致命傷となる攻撃が出来ないのだ。


 ヒューガ達もウシジカと対峙した際、相手が動けなくなる程度の行動に留めていたが止めまでは刺さなかった。

 彼等は喧嘩慣れしていて、相手が普通の生物に近い事もあって事なきを得た訳である。


 だが、このゴーレム系の様な、完全に倒して……殺してしまわないと、相手を無力化できない魔物と対峙した時、ヒューガ達も同じような状態になる可能性が高いだろう。


 今まで、世界には命に係わる敵や脅威といった物が無く、命を奪う物とは、全てが事故に近い物のみだった。

 その状態で長年過ごしてきた皆は、生き物としても、人としても不完全な状態なままなのだ。

 俺がやってきた事の結果が、今、皆に降り掛かっているのである。


 それを解決する為に、俺が皆に、自身を守る事や何かを成すには殺す必要があると言うのは簡単だ。

 そうすれば、皆は戸惑いながらも対峙する魔物の命を奪う事は出来るだろう。

 その手段も力も持ち合わせている。


 だが、それでは駄目だ。


 人とは、食う為や生きる為以外でも、生き物を殺せる存在だ。


 力を誇示する為、守る為、享楽の為、裁く為、邪魔に感じた為、楽をする為、未来の為、復讐の為、と多種多様な目的で命を奪う。


 だが、それらは己自身の確固たる意志によって行わなければ、命を奪った者に対しても、奪われた者に対しても、何の意味も無くなり、只の現象や事故と変わらない物になり果てる。

 法や秩序、もしくは社会的なインフラが整っている時代であれば、自身の意図に関わらずに行われる事もあるが、この世界の皆にそれが訪れるのはまだまだ先の事であり、いずれ来る世界へと旅立つ際にも必要になる心構えだ。


 このダンジョンへの挑戦で、皆にはそれを自覚しないまでも、感じて欲しいと俺は思っていた。


 なので、命のやり取りに関する事は黙って送り出したのだ。


 彼ら自身の冒険心や好奇心で挑み、その結果、魔物と言えど命を奪う事になっても、俺はそれを責める事無く祝福する。


 彼らの優しさや弱さが影響し、それが出来なくとも、俺はそれも責める事無く祝福する。


 それはどちらも、人としての意思による結果であり、そしてその経験は今後、遠い未来になるかもしれないが、人と人、人と他の生き物との関わり合いに必要になってくる事だからだ。


 そして、それを経験した彼等には、他の皆の元へと必ず帰って来て貰わねばならない。

 過剰とも言える機能を盛り込んだリターンクリスタルを渡したのは、その為だ。


 その経験した事、感じた事を、他の皆にも伝播してもらう必要があるからだ。


 それと……


 こんな目に合う事を分かっていながらも、送り出した事を謝らねばな……


 そんな事を思いながら俺が戦っている皆を見守っていると、ついに一つの転機が訪れた。


「ぐぁ!?――がッ」


 逃げ道は無く3倍以上の数の敵に囲まれ、その包囲網が狭まる中。

 混成チームのエルフの少年、ローイがレッサーマッドゴーレムの攻撃を受けて激しく地面に叩きつけられる。


「ロイッ!!――」


 彼を守りながら戦っていた豹の獣人ザンジが、そのローイが地面に倒れ伏した光景を見た瞬間――キレた。


「――ガアアァァァアアァァァ!!!」


 と、ザンジは獣の雄叫びを上げ、ローイを攻撃したレッサーマッドゴーレムの頭頂から胴体にかけて、その獣の手でもって真一文字に切り裂く。


 そこからは一方的な展開となった。


 ザンジは近くに居るレッサーマッドゴーレムを手当たり次第に、その爪で切り裂いて行く。


 十数匹を屠った辺りで、ザンジの右手が、力の入れ過ぎか、はたまた攻撃の仕方が悪かったのか、ひじの辺りで妙な方向へと折れ曲がったが、それでも残った左手と足を使い取り囲んでいるレッサーマッドゴーレムへと攻撃を続けた。


 ザンジは、呼吸も、力加減も、自身の安全もさえも考慮に入れず、只ひたすらに目に付く敵を攻撃し続け、10分も経たない内に部屋の内部に居た全てのレッサーマッドゴーレムを殲滅した。


 彼は無理やり肺に空気を送り込むかの様な荒れた呼吸のまま周囲を見渡すと、もう敵が居ないと悟ったのか、前のめりに地面へと倒れ伏したのだった。


 そして、そのザンジを包むように柔らかな白い光が覆い――


 ――彼の姿は皆の前から消え去った。

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