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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第三章 廻魂編
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第51話 ダンジョン突入!! その1

 昨日の夕方、ヒューガ達獣人チームとリーティア達竜人チームがダンジョンへ一番乗りを果たしたが、結局は両チームともその日の探索は断念する事となった。


 何故かって?

 そりゃ全員、おねむの時間になったからだ。


 日が昇れば起き、日が沈めば眠るのサイクルが身に染みている皆は、襲い来る眠気に抗えるはずも無く、俺が差し入れた夕飯を食べた後に半数以上があくびをしだし、気が高ぶっていたリーティアとヒューガを除いた全員にそれがうつり、二人を残して眠りに入ってしまった。


 その後、リーティアとヒューガ、それと叩き起こされたバハディアを連れて、三人だけでダンジョン内部を少し見た後、戻って来てから三人も就寝したのだった。


 まぁ、他のダンジョンの場合であれば、入り口やその付近のエリアで眠る事は危険なのだが、この島のダンジョンの場合は安全エリアなので大丈夫だろう。



 そして、彼等がダンジョン探索へ出発してから、二日目の朝を迎えた。


 今日は、皆に色々な選択が迫られる事が起きるだろう。


 少し注意しておかねば……



 ――竜人、獣人チーム――


 空が明るくなり始め、いつもと変わらない時間帯に九人は目覚めた。


 彼等の居る位置は、東にある世界樹と山とに遮られているので朝日は当たりにくいのだが、それでも起床時間が変わらないのを見ると、皆の体内時計はかなり正確なようである。


「それで、どうするか決めたの?ヒューガ」


 と、リーティアは朝食を食べながら、同じく朝食中のヒューガに話しかける。


「ぐむぅ……昨日の提案を飲む事にする……」


 尋ねられたヒューガは、若干悔しそうな表情でそう答えた。


 昨夜、リーティア、バハディア、ヒューガの三人で内部を少し探索に行った時に、ダンジョンの構造や規模が何処まで広がっているのかが彼等には把握できなかった。

 そこで、リーティア達から探索に必要になる光の魔石、それと飲み水などの確保に必要となる水の魔石を譲り受ける代わりに、何かあったら協力をしろとリーティアから言われていたのだ。


「それじゃ、後でレイとシルティから魔法を込めてもらうか、足りない分の魔石を受け取っておいてね」


「わかった……」


 リーティアがそう言うと、ヒューガも渋々とだが了承したのだった。


 その後、両チームとも朝食と準備を済ませると、さっそくダンジョン内部へと入って行った。


 入り口の奥には地下へと伸びる階段があり、それを降りるとそこから先はダンジョンとなる。


 このダンジョンの内部は洞窟を思わせる土や岩の壁で出来ており、人が三人程度は並んで歩ける広さの通路が四方八方へと伸びて迷路を形成している。


 その所々に塊茎の様に広い部屋があり、その部屋の内部は大抵の場合はモンスターの発生場所か住みとなっており、それに混じり下層へと続く道が有る部屋がいくつか点在している。


 オーソドックスな構造と機能を有した、初心者向けとも言えるダンジョンだ。


「で、最初の分岐だけど……何か匂いとか音で分かったりしない?」


 最初の分岐点に差し掛かり、リーティアはヒューガに尋ねる。


「……右から、変な音が聞こえるな。

 これは……虫の羽の出す音か?

 バグゥ、匂いはどうだ?」


「右は甘い匂いがする。

 この匂いは……あのハニータンクビーっての同じだな。

 羽の音もそれじゃないか?」


 と、獣人の二人は音と匂いで、右側の通路の先に居る物を見事に言い当てた。


「前に、主様が蜜を集めてるって言ってた奴かぁ……

 よし、それじゃ私達が右に行くわ。

 そっちで何かあったら念話で連絡してね」


 リーティアは意気揚々とそう告げて、右側の通路へと進みだし、そこで竜人チームと獣人チームは分かれる事となった。



 竜人達は、光球を頭上に浮かべるレイディアとリーティアを先頭に通路を進むと、しばらくして


「たしかに、甘い匂いがしてきたな……

 ん?先に明るい所があるぞ」


 と、レイディアが、通路の先に僅かな明かりが有るのを発見した。


「光が差してるって事は、外へと通じてるのか?」


「こっちはハズレだったのかしらねぇ」


 後ろを歩くバハディアとシルティアがそんな事を言うが


「行ってみれば分かるでしょ」


 と、リーティアは気にも留めず歩む速度を速めて、どんどん先へと向かった。


 そして到着した先は、壺の様なハニータンクビーの巣がいくつもある、俺が養蜂場として使っている部屋の一つだった。


 天井に少しだけ開いた地上に続いている穴を通し、ほのかに光が差し、地面には柔らかな草が絨毯の様に広がっている。

 部屋の所々には高さ50cmくらいの壺の形をした巣が十数個ほど有った。


 その巣へと、ハニータンクビーの雄が天井の穴を通り、蜜を貯めて持ち帰って来たり、また蜜を集めに行ったりとせわしなく出入りしている。


 上層に多くいるモンスターは比較的おとなしいのが多く、ハニータンクビーもその一つだ。

 外見は10cmもある大きな丸っこい蜂の様ではあるが、大群で群れる事は無く、4~5匹程度で蜜を貯める壺の様な巣を起点として生活するモンスターだ。


 巣の中に居る雌にさえ危害を加えなければ、攻撃してくる事も無いし、攻撃と言っても、腹には針の代わりに蜜を貯めるタンクの様な器官があるだけで、口で噛みつく程度の事しかやってこないので攻撃力もさほど無い。


 かなり大人しく温厚なので、巣の中に溜まっている蜜を多少貰っても文句も言わない可愛い奴らである。


「おぉー……」


 その光景を見たリーティア達は感嘆の声を上げる。


「これが巣なのかしらぁ?

 中に何か溜まってるわねぇ」


「それが蜜なんじゃない?

 それと中に1匹だけいるの、少し他のと形が違うね」


 と、シルティアとリーティアは近くの巣の中を見て言い


「どれ……お?

 これは甘いな……サトウモロコシの汁より甘いぞ」


 バハディアはその巣の中の蜜を指で掬い、さっそく舐めてそんな感想を言った。

 その反応を見た三人も、同じ様に巣の中の蜜を舐め始めた。


「ほんと? それじゃ私も……あまっ!?」


「……これはぁ美味しいわねぇ」


 リーティアとシルティアはハニータンクビーの蜜を気に入った様子で、何度もぺろぺろと舐めていると


「ふむぅ……この味は主様の作ったパンや菓子についていた味と似てるが、どの巣も同じ物が入ってるのか……?

 ん?……んん? これは……巣によって微妙に香りと味が違うな」


 と、レイディアは、なかなか気が付きにくい事に気が付いた。


 ハニータンクビーは雌によって好みの味が有るらしく、雄はその味の花の蜜のみを採取して持ち帰ってくる性質が有り、そのおかげで、巣によってそれぞれ巣の蜜の風味が変わるのである。


 ちなみに俺はリンゴの花の蜜を集めてくる巣の蜂蜜が好きだ。


「この香りは……桃かな?」


「こっちは葡萄かしらぁ?」


 と、今度は、四人とも巣の蜜の舐め比べを始めたのだった。



 ――ヒューガ獣人チーム――


「ねぇ……ヒューガ。

 ここ、さっきも通らなかった?」


「……やっぱりそうか?」


 ミーニャの問にヒューガはそう答える。


 彼等は8の字状の道が連なってる区画に入ってしまい、迷子になっていた。



 そして、俺がダンジョンに向かった皆を遠隔で見守りながら、昨日作った砂場の近くに「砂場だけでは物足りないな……」と感じ、近くにシーソーを作り始めた頃



 ――エルフ、ドワーフ、混成チーム――


 エルフィーを先頭に進む18人の集団が、ついにダンジョンの入り口付近のエリアへと到着した。


 竜人と獣人チームは半ば無理やり突破した感があったが。

 さて、こっちはどうするのか楽しみだ。


「これは……なんとも奇妙な光景だな。

 このまま進んで大丈夫なのか?」


「草木の様相もだが、大地も池も見た事のない色をしておるのう」


 と、エルフのムートとドワーフのドグが、目の前に広がる景色を見て言う。


「……なるほど。皆さん聞いてください。

 リーティア達が言うには、此処に有る物は、草も、木も、地面も、そのどれもが危険なのだそうです。

 ですので、私が道を作りますから、その後をついて来てください」


 他の者達が目の前の光景に目を奪われてる間に、エルフィーは竜人チームから念話で情報を聞き出しており、皆にそう告げた。


「では、行きます」


 と、彼女は言うと、土魔法で自身の前の地面の土を操作し、生えている草やキノコを丸ごと脇へと追いやり、平らな道を作りながら進み始めた。


 足を払いのけて来る枝や頭上から木の実を落としてくる木々などは、近くを通る際に水で全体を覆ったかと思うと、そのまま凍結させて動けない様にし、地面にある流砂落とし穴は道を作る際に発見し塞いでいくという手際の良さだ。


 それらを同時進行しながら、エルフィーは平然と歩いており、その様子を目にした若い世代の者達は目を剥き、戦々恐々とエルフィーの作る道を歩いていった。


 今の所、魔法を同時発動できるのは俺を除けばエルフィーだけなのだが……


 なんというか、圧巻だな。

 用意した物がどれも子供だましの様なトラップばかりとは言え、さっぱり意味をなさずに排除されている。


 そして、十分程度でエルフィー達はダンジョンの入り口へと到着してしまった。


「ふーむ、内部はそう広くはないのぉ……暗いようじゃし、どれ」


 と、内部を見たドワーフのダグはそう言うと、土魔法で棒状の物を形成し、その先端に光の魔石を嵌め込んで、松明の様に辺りを照らせる道具を作った。


「エルフィー嬢は必要ないじゃろうが、光か火魔法が使えん者はこれを持っていけ。頭上から照らせば多少は見通しも良くなるじゃろ。

 さて、行くとするかの」


 彼はそう言いながら、数本同じ物を作りムートやガウ達に手渡し、皆はダンジョン内へと入って行った。


 ドワーフ達はここの所、大理石の加工する為の工具を作っている所為か、こういった道具作りはお手の物のようだ。なんとも、手慣れた感じである。


 一同は数分進むと、竜人と獣人チームが行き当たった分岐路にさしかかり、そこで分かれる事になり、右の通路へエルフチームが、左の通路へはドワーフと混成チームが進んでいった。



 ――竜人チーム――


 竜人達は、一通りのハニータンクビーの巣の味見を満足いくまで済ませると、今度は


「これ持ち帰りたいね」

「そうねぇ……」


 と、リーティアとシルティアの両名が、そんな事を言いだしていた。


「持ち帰るって、巣ごとか? 大きくて鞄に入らんだろ……」


 若干、呆れ気味にバハディアがそう言うが


「うーん、何か入れ物があれば……

 主様に瓶を貰ってくればよかったなぁ」


 と、リーティアは諦めきれない様子だ。


 俺がそんな様子を見ながら、言えば瓶ごと中身をあげるんだけどなぁ、などと思っていると


「ここは……あら?リーティ?に、皆も?」


「あ、エルフィー。もう到着したの?」


 と、部屋の入り口から、エルフィーとムートを先頭にエルフチームが合流したのだった。


 その後、エルフィー等はかくかくしかじかと部屋の説明を受けて


「えっと、瓶ならシルティが作れると思うけど……こうやって」


 と、エルフィーは手の平の上に氷で瓶を作り出した。 


「それは、氷だろ? 溶けるのではないか?」


 バハディアはその氷の瓶をしげしげと眺めながら、疑問をそう口にしたが


「大丈夫よ。

 主様から頂いた鞄の中に入れてしまえば、入れている間は溶けないし。

 蓋をしなくても零れないわ」


 と、エルフィーはそう答えた。


 おお? なるほど……たしかに、あの鞄は、中なら入れた物の時間を止め固定化して劣化を防いでいるので、そんな事が可能だ。


 それを聞いた一同は「へー」と、感心した様な声を上げ、氷で器を作り保管するという発想に、俺も同じく「へー」と心の中で言っていた。


 その後、一同はエルフィーの考案した氷の瓶で蜂蜜をたんまりと採取すると、一緒に部屋を出て探索を再開したのだった。



 そして、そろそろ昼になろうかという頃。

 俺が子供達に闇魔法での重さの軽減方法をシーソーを使って教えていると


「(あるじさまー、今日の夕ご飯?

 夕パンかな? は、パンが食べたい!

 です!)」


 と、リーティアから夕食のリクエストの念話がきた。


 どうやら、さっそく採れた蜂蜜を使いたいらしい。


 それなら今日は、ふわふわのパンケーキにするか。

 と、俺は夕食の献立を決めたのだった。

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