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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第三章 廻魂編
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第49話 いざ!ダンジョンへ その2

 太陽が真上に登り、天を覆う世界樹の枝葉から降り注ぐ木漏れ日を受け。

 俺が子供達と共に、お昼ご飯の黍団子を食べていると


「(あるじさまー、だんじょんのばしょってどこー?)」


 と、リーティアから念話が届いた。


「(そこから昨日見たという壁は見えるか?

 あの壁が囲っている中心付近に入口が有るはずだ)」


「(かべ……ちゅうしん……あれかな?

 あの大きな岩みたいなのがそうなの?)」


 場所を説明すると、リーティアは直ぐに探し当てた。


「(それだ、その岩に入口がある)」


「(はーい、ありがとーあるじさまー……あんなの昨日あったかな……?)」


 との、お礼の言葉の後に彼女の疑問が伝わって来た。


 昨日は無かったから、彼女がそう思うのも当然だ。


 実際の世界樹の挿し木で発生するダンジョンの入り口は、地面にぽっかりと空いた穴だけで、遮蔽物などが有ると遠くからでは発見が困難だったりする。

 なので昨夜の内に、皆が見つけ易いようにと、ちょっとした岩山を設置して置いたのだ。

 森の木々よりも大きい岩山なので、これなら他の皆も近くに行けば発見は用意であろう。



 ――竜人チーム――


「あそこの岩山に入り口があるってさ」


 と、リーティアは山の頂上付近の切り立った断崖の上に立ち、森の中から頭を覗かせている岩山を指さした。


「あれか……かなり距離があるな。

 此処が中間地点くらいか?」


「なら夕方までには着きそうだな」


 レイディアは岩山を眺めながら距離を測り、バハディアは到着時間を予想する。


「んー……バハに頑張ってもらえばぁ、もう少し早く行けるんじゃないかなぁ?」


 と、そこにシルティアが、バハディアの闇魔法での補助を念頭に入れたプランを提案してきた。


「そうだね! 

 それに、後はあそこに向かって降りるだけだから、もう少し早く着くでしょ。

 それじゃ、お昼にしよっか」


 リーティアがそう締めくくり、四人は鞄から各々昼食を取出し、山頂からの景色を楽しみながら食べ始めた。



 ――ヒューガ獣人チーム――


「ぜぇ……ぜぇ…………

 おい……奴らが……何してるか……見えるか?」


 リーダーのヒューガは荒く息をしながら、近くに寝転がる様にぐったりして息を切らせている仲間達へと問いかける。


「ちょっと……はぁはぁ……まって」


 と、ミーニャは鞄から世界樹丸の入った小瓶を取出し、中から一粒手に平に乗せ飲み込み


「はぁ……ふぅ……

 えーっと……リーティアが向こうの森を指さしてる……」


 800m程離れた崖の上に居る竜人達を見ながら、そう言った。


 他の皆も彼女に倣い世界樹丸を飲み一息つくと、ミーニャの言う方角を見やり、森の中にある壁と岩山を発見する。


「あれか?

 あの岩山が怪しいな……行ってみるか」


 ヒューガはそう独り言ちるが


「その前に何か食べようよー、私お腹空いたー……」


 と、熊の獣人のキューが言い、獣人達も昼食となった。


 竜人と彼等の居る山は標高が3500mを超えるので、高山病の心配を少ししていたのだが……彼等の様子を見る限り、ただ走り疲れたという様子だな。

 リーティア達も特に変調はなさそうだし、ヒューガ達も世界樹丸を飲んだら息切れも改善した様なので大丈夫そうだ。



 ――エルフ、ドワーフ、混成チーム――


 彼等は世界樹から15km地点に有る、細く水が流れる沢の所で昼食を食べながら休憩をしていた。


 彼等に関しては、昼までに10kmくらい進めばいい方だろうと考えていたのだが、思ったよりも距離を稼いでいるな。

 リターンクリスタルに籠めてある常時微量回復効果の所為だろうか?


 全員、特に疲れた様子も無いし、この調子なら夕暮れ前には壁の近くまでは辿り着けそうだ。



 ――ウアル人間若手チーム――


「あれ……? あっちに世界樹が見える?」


 と、先頭を歩いていたウアルが言葉を漏らす。


 彼らは森の深い所を常に行っていた事もあり、完全に方向を見失って北に向かっていたのだが、頭上の枝葉が少し開けた空から世界樹の位置が見えて、ようやく進んでいる方向が間違っている事に気が付いたらしい。


 その後、メンバー全員が言い争いを始め暴力沙汰になりそうになったので


「(やめなさい)」


 と、俺は止める事にした。


 彼等は『神語』の練度が低く、俺へ念話での返答が出来ないので戸惑った様子を見せたが、とりあえずは争いは止まったので良しとしよう。


「(お前達は、ダンジョンのある西では無く北の方へと来てしまっている。

 まだダンジョンを目指すと言うのであれば、一旦リターンクリスタルで世界樹の元まで戻り再度出発するか、そこから山を目指し森の木々が少なくなる所まで登り、山を迂回して西を目指すのがいいだろう)」


 そう助言をし、しばし様子を窺っていると、彼等は話し合いの結果、山を目指す事にした。



 ――バルゥ獣人若手チームその2――


 彼等は、その……なんと言っていいのか……


 視界に映った海が気になったらしく、当初の目的を忘れ海に向かって全力疾走していた……


 うーん……まぁ、本人達が満足しているのならいいか。




 そして数時間が経ち


「こうして、水を含ませると砂は固くなる。

 後は砂を削るか魔法で操作して形を整えるんだ」


「おー、あるじさますっげー」


「あるじさまー、見て見てートンネルできたー」


 と、俺が子供達の土魔法などの練習用にと作った砂場で一緒に遊んで……魔法の練習をさせていると、竜人チームが壁の残骸を飛び越え、ダンジョンの入り口の近くのエリアまで迫っていた。



 ――竜人チーム――


 先頭を行き、闇魔法で皆の飛翔速度を上げていたバハディアは


「なんだ……これは……」


 と、言葉を漏らす。


 ダンジョンの入り口となる岩山の周辺は、今までの森や山とは別世界であった。


 大地は赤土で覆われ、そこから生える木々は枯れ木の様に朽ちていながらも奇妙な果実や木の実をぶら下げており、所々にある沼は紫や緑に染まり泡立っている。


 あたりに漂う空気も薄っすらと赤みがかった霧を漂わせ、その霧を纏い中央に聳える岩山は、まるで巨大な怪物が睨み付けるかの様な眼を想像させる不気味な窪みと、大口を開けた顎の様な穴がぽっかりと開いており、来訪者を今にも飲み込もうとしている禍々しい形をしていた。


 その光景に竜人達は戸惑い、ダンジョンの入り口を見渡せる位置で滞空し止まってしまう。


「これは……まるで主様の御話で聞いた、ダンジョンに向かうまでのモモタロウ達が通り過ぎた風景を思わせる禍々しさだな……」


 レイディアは目に映る光景に、俺が話したアレンジ昔話での情景を思い出したのか、そう言葉にする。


「え?てことは、もしかして……

 あの変な色の沼とかって……毒だっけ?毒沼とかなの?」


「たしかぁ……周辺の草木も、行く手を遮るみたいにぃ、妨害してくるんじゃなかったかしらぁ」


 レイディアの話でリーティアとシルティアも思い出したらしく、アレンジ昔話の中でモモタロウ一行が遭遇した様々な苦難を口に出す。


「それで、どうする?

 このまま進んで大丈夫なのか?」


 と、バハディアが問いかけると 


「んー……私達がダンジョンに行くのをぉ、主様が止めなかったって事はぁ、そんなに危険は無いんじゃないかなぁって私は思うのぉ」


 と、シルティアは妙な理論を答えた。


「なるほど……それは一理あるかもしれんな」


「そうだよね!

 たぶん、主様は私達なら何とか出来ると思ってるんだよ」


 シルティアの意見にレイディアとリーティアも納得の様子だ。


 まぁ、皆が俺を信じてくれているのは素直に嬉しいし、それにシルティアの考えも、あながち間違いではない。


 そこに見える禍々しい風景の品々は、実を言うと俺が全て用意した物だからだ。


 この島に出来たダンジョンは、世界樹の接ぎ木をした木の直ぐ隣で生まれた物なので、さほど変な代物ではなく、逆に有益とも言える動植物を生み出すダンジョンだった。

 なので、俺は皆の期待に沿うべく、昨夜の内に一帯の大改修を施した訳である。


 地表に元々有った植物や鉱物は他所へ移して更地にし、毒々しく見えるが入っても飲んでも無害な沼を作り、冒険にはちょっとした困難も必要であろうと、障害となる物を色々と他所から持って来て飾りつけをしたのだ。


「それにさ、あの毒沼とか変な木なんか、このまま空飛んで岩山の上に行っちゃえば関係ないでしょ」


 と、リーティアは言い、竜人達はさっそく岩山へと向かって飛んで行った。


 しかし、その無防備に飛ぶ四人へ向けて、下から茶色い弾丸が襲い掛かる。


「むあ! なんだッ!?」


「いたたたッ! 痛い!いたい! 

 ちょ、痛い! もど、一旦戻ろッ!」


 その弾丸をバハディアとリーティアは全身に食らい、急いで先程居た場所へと引き返し、シルティアは即座にレイディアの影へと隠れ水魔法で薄く壁を作り、レイディアと水壁を盾としつつ、ゆっくり後退してきた。


「はぁはぁ……何あれ?

 あの木の上に付いてる変なのが、何か飛ばしてきたけど……」


「これはぁ……種?かしらねぇ」


 と、シルティアは水で絡め捕っていた物を指先で摘まみながら言う。


 それは俺が木々の上の方に巻き付けておいた『ガンシードプラント』の種の弾丸だ。


 植物系のモンスターの一種で、木に巻き付いた蔓の体に口の細長い花瓶の様な種の詰まった実をつけて、その細長い発射口から接近する者に向かって種の弾丸を飛ばすモンスターである。


 まぁ、今回用意したのはそれほど大きく育った奴では無いので、ちょっと痛いくらいだろう。


「おいおい、それを飛ばしてくる奴が、岩山近くの木の上に大量にあるぞ……」


 と、バハディアはダンジョンの入り口付近の木々を眺めながらそう言った。


 ふっふっふ……ちゃんと対空防御も万全なのだよ。


「私とバハは、それほど痛くも無いかもしれんが……

 あの数をシルティとリーティを守って抜けるのは、少し難しいな」


「俺とレイだけで先に行って、あれを木から取って遠くに投げちまうか?

 それで数を減らしてから二人を連れてけば……」


 と、相談を始めた竜人達を遠くから見つめる者達が居た。



 ――ヒューガ獣人チーム――


「あいつら、何をしてんだ?

 またこっちに戻ってきたが……」


 ヒューガは森の中にある壁の上に立ち、遠くの竜人チームの様子を眺めながら言った。


「なんか、慌てて戻って来たのは見えたけど……

 ちょっと遠くて詳しくは分からないにゃあ……

 あ! なんか、4人とも下に降りたよ」


 と、隣に居るミーニャにも、竜人達の身に何が起きたかのか詳しくは把握できていない様子だ。


 しかし、この娘は「にゃあ」って語尾を言う事が有るのか。

 猫の獣人としての性なんだろうか?


「ともかく、奴らが止まってるんだ。追い抜くチャンスじゃないか?」


「そうだな。よし、行くぞ!」


 獅子の獣人のガオンの意見に、ヒューガは頷き号令を出すと、五人は岩山の方へと再度走り始めた。


 その後、一時間と掛からずに、獣人チームは竜人チームの近くまで辿り着き


「ん?止まってくれ。竜人達の匂いがする……

 近くに居るはずだが……あそこだ」


 と、ドーベルマンの様な特徴を持つ獣人のバグゥが、持ち前の嗅覚で森の中に居る竜人チームの存在を捕らえ、木々の影から白く目立つ色をしているレイディアの姿を見つけた。


「休憩ってわけでも無さそうだな……何か話し込んでいるが……

 上は無理? 下から行こう?

 ……奴らは、少し休憩したら入り口に向かうっぽいな。

 この隙に俺達が一番乗りと行きたいとこだが……

 あいつ等が先に行けない何かってのが気になるな」


 ヒューガは持ち前の鋭い聴覚で竜人チームの会話を聞き、少し悩んだ。


「ダンジョンなんだろ?

 主様の御話で言ってたみたいなのだとしたら……

 オロチの眷属?ってのが邪魔してくるんじゃなかったか?」


 そこに、獅子の獣人のガオンがそう言い


「だったらさ、主様から貰ったキビボールを食べてみようよ。

 これ食べれば力が湧いてくるんでしょ?

 そんでブワーって眷属ってのを蹴散らして行けば良いんじゃない?」


 次はキューが、妙案を思いついたと言わんばかりに、そんな提案をした。


 それを聞いたヒューガは


「キビボールか……ダンジョンの中まで取って置きたかったが……

 此処から岩山まで、そんなに距離も無いしな。

 よし、そうするか!」


 と、答えたのだった。

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