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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第三章 廻魂編
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第48話 いざ!ダンジョンへ その1

 ダンジョン。


 それは人の好奇心をくすぐり、訪れた物を飲み込む魔の巣窟。


 ファンタジーや冒険に憧れを持つ者なら、心惹かれ、一度は行ってみたいと思う場所TOP3に入るだろう。


 そこにはどんなドラマが待ち受けるのか。


 そして、その最深部で彼らが見た物とは――


 ――さて、ありきたりな脳内ナレーションはここまでにして。



 彼等の目指すダンジョンの入り口は、世界樹の根元から約35kmほど西に行った所にある。


 其処にたどり着くには、休火山と化したあの山を越えるか迂回し、次に、高さ7~8mある壁を乗り越えるか崩れている場所を探して進むしかなく。

 そして、その壁で囲ってある森の中心部にあるダンジョンの入り口を探さなければならない。


 その行程の殆どは森の中を進む事になるので、ただの平坦な道を進むのとは訳が違う。

 『リターンクリスタル』は島内であれば何度でも使えるので帰りは楽だが、行きに関しては大変な道程になるだろう。



 それに果敢にもチャレンジするのは


 言わずと知れた竜人4人の竜人チーム。

 ダグとドグをリーダーに据えた、ドワーフチームの6人。

 ムートを筆頭にエルフィーなどを入れた、エルフチームの7人。

 次世代の獣人筆頭のヒューガとバルゥが集めた獣人が12人。

 同じく次世代の人族筆頭であるウアルが率いる人族が8人。

 そしてエルフのローイ少年を中心に何故だか集まった、ウア、サーリ、ガウ、ザンジの混成チームの5人。


 この、総勢四十二名の者達だ!



 まず最初に森に駆けて行ったのは獣人の若者達で、ヒューガとバルゥを先頭に2つのチームに別れて森の中を西へ向かい疾走していった。


 それに負けじとウアル達、人間の若者チームも森へと入って行き


「それじゃエルフィー、サーリ、先に行ってるね。

 何か見つけたら連絡するから」


 と、リーティア率いる竜人達も大空へと飛び去って行った。


 しかし、残されたドワーフ、エルフ、混成の3チームは直ぐには向かわず、なぜか俺の方へと戻って来た。


「どうした? 行かないのか?」


 と、俺が彼等に尋ねると。


「いえ、ダンジョンの場所などを聞いておこうと思いましてな」


 と、3チームを代表してウアが答えて来た。


 なるほど、さすが族長達を含むチームである。

 ちゃんと情報収集を怠らないとは、老獪というか知恵が回るな。

 重ねた年齢は伊達では無いと言う事か。


「ダンジョンの入り口は、ここから、あの山を挟んでちょうど反対側だ。

 山の先にある森には木々と同じくらいの高さの壁の残骸が有る。

 その壁は、昔ダンジョンの入り口を中心に作ったので、その囲ってある中心付近を目指せばいいだろう。

 そこに大岩に開いたダンジョンの入り口が有るはずだ。

 ダンジョンの内部は――」


 と、俺からの一通りの説明を受けると、彼等は徒歩で向かって行った。


 俺は皆を見送った後、残った皆へとキビボールと味と食感だけは同じに作った普通の黍団子を入れた巾着袋を配りながら、各チームの様子を見守る事にした。



 ――ヒューガ獣人チーム――


 彼等は1時間ほどで10km近く走り、全チームの中でも一番進んでいる。

 だが、地形などに左右されてか、少し南側へと進路がずれている様だ。


「ん?ウアルもだが……バルゥの奴らの姿も見えなくなったか?」


 と、先頭を走るヒューガが後ろを振り返り言った。


「森も深くなって視界も悪くなってきたからじゃない?」


 彼の直ぐ近くを並走している猫の獣人のミーニャがそれに答える。


「ヒューガよぉ、このまま進んで大丈夫か?

 こっちで方向は合ってんのか?」


「昨日のリーティア達の話だと、こっちのはずだ。

 山の向こうの森とか言ってたからな……

 ……一応、真っ直ぐ進んでいるか確かめるか。

 ミーニャ、頼めるか?」


 犬の獣人のバグゥの疑問に、ヒューガは答えながら少し悩んで、立ち止まった。


「じゃ、ちょっと木の上から見て来るよ」


 とミーニャは言うと、近くの木の枝へと飛び乗り、どんどん上へと登っていく。


「どうだー? 方向は有ってるかー?」


「山から少し左に逸れて来ちゃってるみたーい!

 あっ!まって! レイディアと……リーティア達が居るよ!」


 ヒューガの問いかけに、木の高い所へと行ったミーニャはそう答える。


「なに!? どっちだ!?」


「あっちー」


 ヒューガが慌てて聞くと、ミーニャは北側をぶんぶんと指さす。


「よし! あいつら向かってる方向へ行くぞ!

 ミーニャ! 奴らの進行方向に先導してくれ!」


 と、ヒューガ達は駆けだし、木の上のミーニャは木々の枝を飛び移りながら移動を始めた。



 ――竜人チーム――


「ん?山の向こうの森に行くんじゃないのか?」


 レイディアは、先頭を行くリーティアとバハディアにそう尋ねた。


「うんん、先に山の頂上に行こうかなって」


「昨日行った、あの山の頂上からの景色は壮観だったからな。

 お前達にも見せたいと思ってたんだ」


 と、リーティアとバハディアは答える。


 どうやら竜人達は寄り道をして行くらしい。

 そうとは知らず、彼等を追跡する事にしたヒューガ達が哀れでならない。


「そこからぁ、ダンジョンが見えるのぉ?」


 と、今度はシルティアがそう尋ねる。


「……壁は見えるよ。

 昨日は、それで見つけの」


 リーティアはそう答えるが


「えーとぉ……二人とも、ダンジョンの場所は知ってるのぉ?」


 シルティアは見逃さない。

 彼女の質問でリーティアとバハディアの表情が一瞬硬直したのを。


「知らないのねぇ……?」


 二人に確認をとりながら、シルティアの顔の影が濃くなる。


「そ、それは頂上に到着したら、主様に伺えばいいんじゃないか?」


 と、そこにレイディアの助け舟が入った。


「そ、そうだよね! あははは……」


「頂上に行ったら、さっそく主様に念話だな!」


 と、リーティアとバハディアは、シルティアからのお叱りを全力で回避しようと頑張るのであった。



 ――エルフチーム――


 彼等は徒歩で向かうらしく、まだ先を進む獣人の若者達の半分の距離も来ていない。だが、そのゆっくりとした歩みのおかげか、俺の仕掛けた工作に気が付いた様子だった。


「森の木々が薄い所があるな……」


 先頭を歩くムートがそう呟き


「ええ、西に向かって木の生えている密度が薄く……道の様に伸びていますね」


 と、隣を歩いていたエルフィーがそれに答える。


 昨夜、地上を行くであろう皆が歩きやすい様にと、俺がダンジョンの入り口までのいくつかのルート上の木々を間引いておいたのだ。

 森に慣れているからか、はたまたエルフの特性からか、エルフィー達はそれに気が付き、その内の1本に上手く乗れた様である。


「向かう方向は合っていますし、このまま進みましょう」


「そうだな」


 エルフィーの言にムートも頷いた。


 このまま進めば、深い森の中をがむしゃらに進んで行った者達よりも体力の消耗は少なく済むだろうし、上手く行けば追い付く事も可能だろう。


「……しかし、誘っておいたなんだが……何故、来る気になった?

 お前は主様から離れて行動する事は無いと踏んでいたので、少々驚いているのだが」


 と、歩きながらムートはエルフィーに問いかける。


 それは俺も気になっていた事だ。


 彼女は寝ている時以外は、ほぼ俺の傍にいる事が多い。

 何かしようとしていると、率先して色々と手伝ってくれるので助かるし、近くに居る理由も分かるのだが……

 今回は俺が行くわけでも無いのに、エルフィーは自ら進んでダンジョンに挑戦しようとしている。


「私にも考えがあっての事ですので、気にしないでください」


 ムートの問にエルフィーは特に表情を変える事無く、そう答えた。


 ふむ……分からずじまいか。

 まぁ、帰って来たら直接聞けば良いか。



 ――混成チーム――


 次に気になるのは、ダンジョンへ向かっている中では最年少のエルフのローイ少年を中心として組まれた混成メンバーだ。


 このローイ少年は、キウイ酔っ払い騒動でザンジに殺されかけた少年である。


 彼は好奇心旺盛な少年で、その性格が災いしてあの事件が起きたのだが。

 あれくらいの事ではへこたれ無い性格でもある様で、今回も多分に漏れずダンジョンに興味を示し行く事にしたらしい。


 それにザンジが同行しているのが、俺は少し気になっていた。


 あの事件の罰というか償いで、ザンジはローイ少年の御付きみたいな事を数日する羽目になったらしいのだが、その期間はとっくに終わっている。

 だというのに、昨日の夕食の際もローイのパンを配る手伝いをし、今日もこうしてローイについて来ているのだ。


 それと、ウア達三人も同行してるのも謎だ。


 その元族長のウア、聖属性の魔法を操るハーフエルフのサーリ、獣人の長のガウの三名がローイ少年とザンジの後を付いて行くように歩いている。

 この三人は、皆の中でもそこそこ重要人物なのだが……どうしてこうなったのだろう?


「おい、ローイ。前の奴らと離れてきてるぞ。

 急がなくていいのか?」


「大丈夫だよ。

 森の中が道みたいになってるし、それに沿ってエルフィーさん達も進んでるみたいだから、見失ったりはしないさ」


 と、ザンジはローイを急かすが、彼はさして問題ないといった風にそう言った。


 ふむ、ローイ少年も森のルートに気が付いている様だ。


「そうかよ。見失いそうになったら、担いで行くからな」


「その時は頼むよ。

 ありがとう、ザンジ」


 と、ザンジの悪態をつく様な物言いに、ローイは朗らかな笑みでお礼を言う。


 殺されかけた相手にそんな笑顔を見せる事が出来るとは、なかなか優しく肝の太い少年の様だ。


 そんな彼の事がザンジも満更では無いらしく


「……てか、なんで爺さんはヒューガ達じゃなくて俺達について来てるんだよ?」


 と、照れ隠しのように、後ろに居るガウに急に話を振った。


「俺はお前の監視役だ。

 本当にキウイ絶ちをしているのかを見張りに来ただけだ」


 聞かれたガウは、堂々と胸を張ってそう答えてたが


「絶対嘘だ……ダンジョンに行きたかっただけだろ?

 ばあちゃんが怒ってたし」


 とのザンジの指摘に


「そんな事は無い、気のせいだ」


 と、若干目を泳がせながらガウは答えたのだった。


 まぁ、ローイとザンジが心配なのと、本人がダンジョンに行ってみたいという気持ちが半々といった所か。


「お、俺よりもサーリだ。

 お前は来てよかったのか?」


 と、今度はガウが話を逸らす様に、サーリへと話を振る。


「えっと、最近は皆さんが世界樹丸を持ち歩いてますので、私は結構暇なんです。

 だから大丈夫かなぁって」


 と、話を振られたサーリは答えた。


 『時の箱舟』を作ってる最中、彼女には大いに助けられたので、思う存分ダンジョンを楽しんできて欲しい所だ。



 ――ドグとダグのドワーフチーム――


 少々、彼らが参加したのが俺としては意外だった。


 物作り以外に興味を示す事が少ない彼らが、ダンジョンに一体何を求めて向かうのか気になるのだが、彼等は黙々と前を進むエルフチームや混成チームの後を追うだけで、口数が少なくその理由を判別するのは難しい。


 とりあえずは、順調そうではあるので、このままでも大丈夫だろう。



 ――ウアル率いる人族の若手チーム――


 彼等は獣人の若者達のチームを追い森へと駆けて行ったが、途中で降り切られてしまい、現在は北西方向に向かって行ってしまっている。


 このままでは迷子になりかねないな。


 まぁ、もう少し様子を見てダメそうなら手を貸せば良いだろう。



 ――バルゥ率いる獣人若手チームその2――


 彼等は、妙に力強い走りで突っ走っている……


 少しその彼等の身体能力に驚いたが、どうやら既にキビボールを食べて身体能力を上げたらしく、まるで森の中を風の様に走り抜けていた。


 だが、いかんせん、向かう方向が間違っている……


 そっちは南だ……


 まぁ、気持ち良さそうに走っているので、暫くこっちもほっとこう。

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