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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第三章 廻魂編
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第44話 目覚めの宴

三章 廻魂編

 周辺から様々な声が聞こえる。


 景色の変わり様に困惑する者の驚きの声


 周辺の広さや世界樹の巨大さに怯える者の怯えた声


 その者達の声に驚いて泣き出した赤子をあやす者の優しい声


 今まで見たことの無い広い草原を目の当たりにし、走り回る者の歓喜の声


 その様々な喧騒が、今の俺には懐かしく、そして心地よかった。


 皆の声や感情を感じるたびに、俺の中で凍り付いていた物が、春の日差しを受けて溶け始める雪のように、だんだんと暖かな物へと戻っていくのを感じる。


 皆が眠っている間ぷっつりと途切れていた、心の力の繋がりも再び紡がれ、まるで灼熱の砂漠を彷徨い、カラカラに干からび死ぬ直前に飲む水の様に、心身に染み渡っていく――



 ――そして今、その心の力が俺の斜め後ろに居る一人の者から、ぎゅんぎゅんと妙な勢いで注がれていた。


「そろそろ許してくれないか……?」


 そう言い、俺はその方向へと顔を向ける。


 そこには、怒りを湛えた鋭い目つきで睨みながら、俺の身に纏っているローブの端を握りしめるエルフィーが居た。


「許す? 一体何の事でしょうか主様?

 別に私は怒っておりません」


 と、彼女は言うが、俺は心の中で「うそだーーー」と叫んでいた。


 顔の表情もだが、GPの流入と共に、めっちゃ怒りとか不満とかの感情が感謝の念と共に流れ込んできてるんだよ?

 初めてだよ、こんな感覚を味わうのは。


 今、エルフィーから流れて来ている量は、他の者の100倍以上はある。

 その流入量のせいか、彼女の感情まで伝わってくる程だ。


 割合的には、感謝5に対して、怒り1、不満1、と言った程度だが、今までエルフィーからそういった感情なんて殆ど感じた事が無かったので、俺はどうしたものかと心の中で頭を抱えていた。


 だが、まぁ……


 自責の念などの感情を持ってもらうよりかは、怒りの方が幾分ましか……


「……そうか、それならいいのだが。

 さてと……皆! 私について来てくれ!」


 と、俺は周囲の皆に言い、全員を連れて世界樹の南側へと向かった。



 世界樹の幹に沿うように、皆を引き連れて歩いていると、旅行の団体客を引き連れたバスガイドになった気分だ。


「主様ぁ。あの白と黒のはなんですかぁ?」


「あれは『ウシジカ』だな」


「ひゃっはー!」


「ガウ、あそこで走り回ってるヒューガを捕まえてくれ」


「主様。あちらにある白い建物はなんです?」


「あれは『犬小屋』だ」


「あーるーじーさーまー!

 なんか変なの見つけた!」


「それは『ハニータンクビー』だ。

 蜜を集めてくれている最中だから、放してあげなさい」


 ……いや、遠足での先生の方が近いか。


 この感覚も懐かしいな。

 皆を川へと連れて行って以来だ。


 まぁ、皆が興奮するのも仕方ない。

 今の世界は皆にとって、目新しい物が多いのだ。

 その最たる物は、所々に居る生き物達であろう。


 とある出来事で、世界には大小様々な生物が溢れる事となり、この世界は人だけの楽園ではなくなった。

 その結果、この島にも多種多様な生物が生息する様になったのだ。


 とはいえ、昔の、人と植物しか存在しなかった世界よりかは、今のこの世界の方が俺は好ましく思う。


 人とは異なる存在に伴う困難も起こるだろうが、それと共に可能性も増えると俺は信じているからだ。



 十数分ほど歩き、俺が皆を連れて来た場所は池だった。


 この池は、位置的には昔あった池と同じ様な場所にあるのだが、実際には別物である。

 前の池は世界樹が大きくなり、その根に飲み込まれてしまい、今はもう無い。

 なので、急遽、昨日ここに作り上げた物だ。


 一応、今後の皆の水飲み場としての役割も考えて作ったので、多少サイズも大きくして、水生の植物なども植えておいた。


 これなら違和感なく、皆も使えるだろう。


「皆、この池の周りに集まってくれ」


 俺は皆にそう言うと、池の中心へ向かって歩みを進めた。


 池に足を踏み入れると、その足を受け止める様に、水面へと丸い大きな葉が水中から伸びてきて足場となる。


 俺がそのまま、進もうとすると


「え……?」


 と、エルフィー困惑の声と共に立ち止まり、握っていた俺のローブを軽く引き、俺の首が少し絞められた。


「ぐッ……エ、エルフィー、乗っても大丈夫だ。

 私についてきなさい」


「は、はい……」


 俺は彼女を連れてスタスタと順々に浮かんでくる葉の上を歩き、池の中心まで行くと、ひと際大きな葉を水面から浮かび上がらせて、俺とエルフィーの二人を少し高い所まで持ち上げた。


 まぁ、普通に水面の上を歩いたり、浮いたりしても良かったのだが、気が散っている皆の注目や意識を向けさせる為にした、手品みたいな物だ。

 こういった小ネタを挟むと、飲み会や披露宴などでの進行役をする際、皆の目と耳の注意を集めるのに便利なのだ。

 ついでに、エルフィーの怒りの波動も驚きにより少し弱まった。


 皆の視線が俺に集まり、少しざわめきも収まったのを確認して


「さて、皆、分からない事や驚いている事も多いだろうが、今から説明する――」


 そう言い、俺は皆へと神語を使い説明を始める。


 世界がまだ不完全であった事。


 それを解決する間、皆には眠っていてもらった事。


 その間に世界に何が起き、どの様に変わったか。


 ようやく世界に安定が訪れたので、皆を起こしたという事を。


「――という訳だ。

 そして、この世界であれば、皆は自由に何処にでも行けるし、己の力と知恵で成したい事を成せるはずだ。

 昔、話して聞かせた話の様に、遠くの大地へ旅するのも、広大な海を渡るのも、聳える山を登るのも、全てがだ。

 だが、そこには危険も伴う――」


 話ながら俺は思った……


 ……話が長い。


 これじゃ、全校集会などでの校長先生のお話みたいだ。

 朝っぱらから延々と長い演説みたいな話を聞かされるなんて苦行は、せっかく起きた皆を、また夢の世界に誘いかねない。


「――色々な困難も待ち受けるだろうが、

 どうか皆には頑張ってもらいたい。

 では、新しい世界を祝して宴といこう!」


 そう思った俺は、説明を早々に切り上げる事にして、皆を囲む様にアイテムボックスから食べ物と飲み物を取出して配置した。


 まだまだ注意事項や説明などが有ったのだが……


 まぁ、それは追々すればいいだろう。


「さて、私達も朝食としようか」


 と、言い、俺はエルフィーを御姫様抱っこで抱えた。


「えっ!?」


 彼女から少し驚いた声が上がったが、そのまま抱えて、池のほとりへと軽く飛んで降り立つ。


 ふふ……感じる、感じるぞ

 エルフィーの怒りのボルテージが下降していくのを。

 さすが、全女子憧れの御姫様抱っこだ。


 まぁ、立場的に曾孫を抱いている図みたいな物なので、効果が在るのかは疑問だが、多少は驚きで怒りが薄まった様だ。

 これなら、あともうひと押しといった所だろうか?



 その後の皆の反応と行動は、俺へと気になる事を質問しに来る者達と、俺が出した食事に夢中になる者達と二分した。


「あるふぃふぁま。

 この木の実?くだもふぉ?は何れふか?」


「それは『パン』だ。

 サーリ、ちゃんと飲み込んでから喋りなさい」


「うおー! これはキウイのジュースか!?

 なんて贅沢な使い方を」


「おいヒューガ! 飲み過ぎるなよ!」


「主様、わしらの道具とかは何処にあるんですかの?」


「小さい物に関しては時の箱舟の各自の部屋の中に置いておいたはずだが、場所を覚えてないなら後で案内する。

 大きい素材などは1階の倉庫部屋だな、外に出すのは後で私がやっておこう」


「主様、このペラペラで固いやつ変な味がするよ」


「ふむ? それは『旨味』と『塩味』だな。

 苦手なら食べなくてもいいぞ」


「うんん、美味しいから、後で作り方教えて」


 と、俺は、皆へと対応するのに大忙しとなった。


 皆を眠らせている間も忙しい時は有ったが、やはり、こんな忙しさの方が楽しい物だな。


 だが……


「エルフィー?

 片手では食べにくくないか?」


「むぐッ……いいえ、大丈夫です主様。

 さして食べにくい物は有りませんし。それにどれも美味しいですから」


 と、エルフィーは未だに俺のローブを片手で握り、もう片方の手には蜂蜜を浸み込ませてあるパンを持ち食べている。


 俺の考案した、食事になればいい加減手を放すだろう作戦、は見事に失敗していた。


「そ、そうか……これも飲むか?

 ミルクティーなんだが」


「頂きます」


 俺の用意した物を飲み食いするたびに、感じていた怒りや不満などは消えていき、今では喜びや感謝という感じの物しか感じなくなっているのだが、一向に彼女は俺の着ているローブの裾を放してはくれない。


 これは、最終兵器のケーキなどのスイーツ系を出すしかないか?

 さすがに、スプーンなどを使わねば食べるのが大変な物を出せば……


 ……いや、これはちゃんと話して解決すべき事か。


「エルフィー。

 私はお前や皆を眠らせたが、なにも一人で世界を直していた訳では無いのだ。

 お前達は眠っていても、常に私と共にあった。

 皆が世界に居る事を感じていたからこそ、私は、こうしてやり遂げる事ができたのだ」


「ですが……主様が御一人で行う必要は無かったのではないでしょうか?

 問題は多々起きたかもしれません……

 ですが、私達と共に成す事は出来たのではと思うのです。

 やはり……私の……私達の力不足が、主様を長い時の間、御一人にしてしまったのではと思わずにはいられないのです」


 と、彼女は食事の手を止め話す。


「いや……お前達の力不足からでは無い。

 これは私がしたかったから……我が儘からした事だ。

 私は皆に、世界はもっと広く、そして彩りが有る事を見せたかった。

 あんな、限られた楽園では無く、皆が自由に己の意思でどうとでも出来る世界をだ。

 それが、あの時の私の望みだったというだけの事だ」


 そう言った所で、俺は周りがやけに静かな事に気が付いた。 


 周囲の皆が食べる事を止め、俺に向かって片膝をつき俺の話を静かに聞いていたからだ。


「……だから、気に病む事は無い。私は私がしたい事をしただけだからな。

 そして、これまでも、これからも皆と私は共にある。

 眠っていても、己の為だけに生きていても、それでも皆は私に力と喜びを与えてくれている。

 だから安心して、この世界を楽しんでくればそれで良い。

 皆は、常に私と共に、この世界に居るのだからな」


 そう締めくくると、エルフィーは握っていたローブをそっと放し、皆と同じく姿勢を正して、俺に頭を垂れたのだった。

現GP:5

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