第37.5話 激闘!竜人VS獣人
※サブ話です
今回はリーティア視点になります
「主様、彫像の事で相談があるんじゃ。
後でこっちに来てくれんか?」
私達が主様と一緒に朝ごはんを食べていると、ドワーフのダグが主様の所に来てそう言った。
「ふむ?分かった。ちょっと待ってくれ。
すぐ食べるので一緒に行こう」
主様はそう言って食べていたミカンを丸ごと口に放り込むと、モグモグしながらドグと一緒に彫像の作成現場に行っちゃった。
エルフィーが、その主様の姿を見て、驚いた感じの顔をしている。
「どうしたのエルフィー?
主様がどうかした?」
どうして、そんな顔をしているのか気になったから聞いてみると
「え? いえ、主様が珍しい食べ方をしたから、少し驚いただけ」
エルフィーの言う通り、たしかに主様にしては珍しい食べ方なのかも?
主様の食事の様子って、チマチマ食べてる事が多いし、なんで、いつもはあんな面倒な食べ方してるんだろ?
「ふーん……それで、今日は何しようか?
バハとレイが居ないから繊維の用意が出来ないし。
明日、川に宝石採りに行くって言ってたけど、何か用意する物あるかな?」
ちなみに、バハとレイは「おいレイ!ドッチボールやりに行こうぜ!」ってバハが言って、二人とも朝ごはんをさっさと食べて遊びに行ってしまって此処には居ない。
あの二人、糸づくりから逃げたな……
せっかく主様のおかげで、たくさん素材を取って来れたというのに……
私も誘えよ。
「んー、そうねぇ、沢山取れてしまうかもしれないし。
もっと大きな袋を作ったほうがいいかしらぁ?」
って、シルティが提案してきた。
「なるほど、たしかにそれは作っておいた方が良いかもしれないね」
昨日作った小袋じゃ、凄い大きいのが取れたら入らないかも。
私も主様みたいに、物を出したりしまったりできればなぁ――
――って、あれ? バハ達が帰ってきた……?
「どうしたの二人とも?
ドッチボールしに行ったんじゃないの?」
二人に戻ってきた理由を聞くと
「あぁ、そうだったんだけどよ。
ヒューガの野郎が、二人だけのチームなんかとはやらねぇって断りやがって」
「数も少ないうえに貧弱な竜人は見物してろ、とも言ってたな」
って、バハとレイは答えた。
「は? なにそれ?
ヒューガの小僧にそんな事言われて帰ってきたの?」
あの黒豹の小僧め、なまいきな口を……
あいつは、体が大きくなって私達より背が高くなり始めた頃は、ちょっかいを掛けに来る奴らのリーダーみたいにな奴だった。
「それは、ちょーっと、カチンときますねぇ……」
あ、シルティも笑顔のまま怒ってる……
これはけっこう怒ってる時の反応だ。
「で、そのまま帰って来たってわけ?
殴るか、なんか言い返すかしなかったの?」
私ならそうする。
「あぁいや、その場にガウさんが居たからな。
即座にヒューイの頭に拳骨が飛んで来てたんで。
私達は何も出来なかったというか……暇がなかったというか……」
レイが苦笑いしながら、その時の状況を話してくれた。
ガウさんは獣人の中でも良い人で、言葉を話せない頃から私たちの事を助けてくれた事が多かった。
あの人は私達、竜人が嫌っている獣人の中でも、特別に好きな人の一人だ。
「そんでガウさんが、せめて五人集めて来いって言うからよ。
お前達を誘いに来たんだ」
と、私達の所に帰って来た訳をバハが言う。
なるほど、それで戻ってきたのね。
私もドッチボールって、少しやってみたいと思っていたし、行ってやろうじゃない。
「よーし! それじゃ、ヒューガ達を、栗ボールでボコボコにしに行こう!」
さっそく向かう事にして、私とシルティはさっき主様がやってた様に、残ってた朝食の果物を丸ごと口に放り込み噛み砕いて飲み込んだ。
「がんばってね。
私も食べ終わったら応援しに行くから」
「え?何言ってるのエルフィー?
ほら! エルフィーも早く食べて!」
エルフィーも主様みたいな食べ方するから、何時も食べ終えるの遅いんだよね。
「え……? 五人って私も入ってるの!?
え、いや、ちょっとやめ……――」
仕方ないから私とシルティとで食べるのを手伝って、エルフィーの口へと残りの果物を詰め込んであげてから、彼女の手を引っ張って連れて行く事にした。
「きてやったわよヒューガ!
覚悟しなさい! 今日こそ竜人の怖さを教えてやるわ!
勝負よ!」
ドッチボール広場に着くと、私はさっそくヒューガを見つけ出し、指を突き付けてそう言ったやった。
「お?もう戻って来たのかよ。
てか、メンバーがリーティアとシルティアなんかで――え? あれ……?
あの? エルフィー先せ……さん、もやるの……んですか?」
ヒューガは私達を見ると、最初は不敵な顔をしながら話していたけど、こっちのチームメンバーを見て怖気づいたらしい。
なんか、エルフィーの参加が予想外だったらしく、しどろもどろになってる。
「えぇっと、そうらしいです。
よろしくお願いしますね」
って、エルフィーは答えてたけど
「そ、そうなんですか。
ちょっと待っててくれ……じゃなくて、ください」
ヒューガ達はそう言って、私達から少し離れて仲間たちと相談を始めた。
「おい、どうすんだよ!? エルフィー先生もやるって言ってるぞ」
「あんたがバハディア達に絡んだから連れてきちゃったんでしょ!
なんとかしてよ! 先生に勝てるわけないじゃない!」
「なんとかって、なんて言えばいいんだよ?
先生は反則だからダメですとでも言うのか?」
「俺はもう先生の雷魔法くらうのは嫌だぞ!」
「それは大丈夫……なはずだ。
ルールで相手に魔法を使うのは禁止だし……
いやまて、エルフィー先生ってエルフだし、体力は無いはずだ。
内野で狙いまくって疲れさせればいけるんじゃないか?」
少し聞こえてくる内容からすると、ヒューガ達はエルフィーが怖いらしい。
そういや、あいつらって、エルフィーのやってた言葉の授業とかで色々と怒られたり、作成途中の服とかを勝手に持ってってお仕置きされてたりしてたっけ。
「ねえ! やるの?やらないの?
それとも逃げるの?
さっさと決めてよ」
あいつらの話し合いが、なかなか終わりそうになくイライラしてきたから、わたしがそう催促すると
「ちょ、ちょっと待て!
……確認するが、いや、しますけど。
リーティア達もだが、エルフィーさんも、ドッチボールのルールって分かってます?」
って、ヒューガが聞いてきた。
「私は知っていますけど……
リーティとシルティは大丈夫?
レイとバハは知ってるんだよね?」
エルフィーにそう聞かれて気が付いたけど、
そういえば、ドッチボールのルールって知らなかった……
てなわけで、私達は遊び方の説明を受ける事になった。
ヒューガの説明では分かりにくかったため、途中からエルフィーと交代して説明してくれたんだけど、エルフィーの説明だけでは不十分だったらしくガウさんからも説明を受ける事になった。
エルフィーが最後に「簡略化されたドッチボールのルールに、魔法の類での相手への干渉、接触は禁止というルールが足されているんですね」と締めくくって説明は終わった。
「おーけー、ルールは分かったわ。
さっそくやりましょ!」
要は、内野に居る奴ら全員に、栗ボールをぶち当てれば勝ちと言う訳だ。
なかなか面白そうでワクワクしてきた。
私達は、内野に私、バハ、エルフィー、シルティを、外野にはレイを配置した。
ヒューガ達は、内野にヒューガ、バグゥ(ドーベルマン男)、ミーニャ(猫女)、ガオン(ライオン男)、外野にキュー(熊女)が配置された。
私とヒューガが、コートのハーフラインを挟み睨み合う。
「せめてものハンデだ、最初はそっちにボールを持たせてやるよ」
と言って、ヒューガの奴は栗ボールをぽんっと放り投げてきたので、それを私は受け取った。
「いいの?それじゃ……くらえーーーッ!!」
わたしは受け取った栗ボールを、即座に奴の鼻面めがけて全力投擲した。
「ちょ、ま――ガッ」
奴は直ぐ近くに居たからか、それとも私の投げたボールの速度があまりにも早かったからか、なんの反応も出来ずに顔面でボールを受けた。
奴に当たり跳ね返って来たボールを私は再度キャッチする。
「ふふん。これで一人目ね!」
「まてーーいッ!
おま、まだ開始の合図をしてないだろ!?
それに顔面は、狙っちゃいけねーんだよ!
説明聞いてたのかよお前!」
ヒューガは、大してダメージは無いらしく、そんな事を言い返してきた。
「あれ?そうだったの?
初心者だからわからなかったー」
私は、一応とぼけてそう答える。
ふふん、私達の事を貧弱だとかちっこいとか言った罰よ。
ま、言われたのはバハ達だけど、バハ達に言ったという事は私達に言ったも同罪よ。
ぷくくっ、あいつ顔面で受けたから、少し涙目になってやんの。
「さてと、それじゃ始めましょうか!」
そこからは激しい戦いが始まった。
私達のチームは最初の内こそ防戦一方だったが、エルフィーが私達全員に力が湧いてくる魔法を掛けてくれたので、ドッチボールをやり込んでたヒューガ達ともなんとか戦えるようになった。
それにエルフィーは魔法を駆使し、飛んでくるボールを全て避けてしまうので、実質、私達のチームには全滅の恐れが無かった。
だけど、主様とは違い、エルフィーの魔力には限界が有るだろうし、そんなに悠長にはしていられない。
この勝負……
エルフィーの魔力が先に無くなるか、ヒューガ達の体力が先に尽きるかの勝負と言ってもいい。
いや、それだけでは無いか……
やり慣れているヒューガ達とは違い、こっちは全員が初心者だ。
ボールの投げ方や受け止め方が、奴らと比べると格段に下手だ。
でも、だからこそ、そこに勝機が有る!
私達が下手なのは、いままでドッチボールをやった事が無かったからだ。
つまり、その分、伸びしろが有る。
今はエルフィーの魔法のおかげで、体が軽く力も強くなっているので善戦できている。
そこに、ヒューガ達の動きや連携とかの方法を見て学び、それらを私達が即座に応用していけば……――
私が外野から投げたボールが、内野にいたミーニャに当たった。
「よし!」
だんだんとコツを掴んできたから、今では内野と外野の出入りの頻度がヒューガチームと同じくらいになってきた。
これならもう少し、私達が上手くなれば逆転できそうだ。
私が急いで内野に戻ろうとすると、私達の戦いを見守っていたガウさんの隣に、いつの間にか主様が居るのが見えた。
「あ! 主様だ!
あるじさまー! 今のみてたー?
わたしがミーニャを倒したのー」
って主様に手を振ると
「……ああ!見てたぞ。
良い試合をしている様だな!
両チームとも頑張れよ!」
と、主様は言ってくれた。
むぅ、わたし達だけを応援しに来てくれたんじゃないのか……
でも、主様が見ているなら、元気もやる気も段違いだ!
私もすぐに内野へと戻り、試合を続行する。
主様が来たからエルフィーのやる気も漲っているみたいだけど、それでも、そろそろエルフィーの魔力は限界に来てると思う。
何か、いい方法は無いかな……主様が見ているってのに負けたくない。
ん? 主様が見ている?
て事は……
わたしは、バハの近く行き
「バハ! 主様が見てるんだから、あれが使えるよ!」
とバハにそう言った。
「あれ?……そうか!!」
バハも即座にその事に気が付いたけど、そこにヒューガの投げた剛速球が迫る。
しまった! 二人して動きを止めてちゃってた!
「バハッ!?」
バハにボールが当たると思った、その瞬間――
――バハの姿が私の目の前から消えた。




