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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第二章 出楽園編
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第37話 獣の美学

「ほう……もう形を整え終わったのか」


 エルフィー達と朝食を食べていると、ドワーフのダグが彫像の件で相談したい事が有るとの事で呼びに来たので、俺は彼と一緒に彫像の作成現場に来ていた。


 作成現場と言っても、いつも俺がエルフィー達と朝食を摂っている場所のすぐ近くで、今の俺の身体の元となった岩の残りの部分で作られた祭壇が有る所だ。

 彼等は、そこの近辺を主な作業場としているらしい。


 俺の前には、元は巨木の幹であったであろう流木が、多少ついていた凹凸などが綺麗に削られて、シンプルな丸太状に整えられた状態で四つ並んでいた。


「はい。そろそろ、像の元の形となる者を決めて頂こうかと思いましての。

 それで、お呼びした次第ですわい」


 と、ドグが俺を呼び出した理由を教えてくれた。


「ふむ、次の像のモデルか……――」


 俺が即座に思いついたのは、獣人と竜人の二種族だった。


 ドワーフとエルフは体格や細かな差異はあれど、人間とそう変わらない外見をしている。

 なので、人の形はしていても、外見の特徴がかなり違う獣人と竜人の身体を体験してみたいなと思ったのだ。


 でも、竜人の四名は全員がまだ成人の体つきをしていない気がするんだよな。

 なら、獣人を先に作ってもらうとして、誰をモデルにするか……


 この体を作る時は、全員の長のような立場に居たウアにしたが、獣人の像もそれでいいかな?

 たしか獣人達のまとめ役は、ガウとキュイの夫婦だったか。


 ガウは虎の容姿をした男性の獣人だ。


 今は年老いて衰えたと本人や周りの者も言っているが、それでも身長は190cm以上あり、全身が虎の毛に覆われた肉体は相当な筋力量を感じさせるほどの盛り上がりと陰影を映し出している。

 獰猛な虎の顔と鋭い牙や爪も合わさり、かなり凶暴そうな外見をしているのだが、平時は穏やかで昼寝を好む性格だったりする。

 しかし、獣人達がトラブルを起こすと即座に駆けつけ、その膂力と身も震え上がる咆哮をもってその場を収めるという、頼もしき人物でもある。


 その彼の妻であるキュイは兎の獣人で、真っ白な髪からピンと伸びた兎耳をもち、太ももの半ばから下が白い毛でおおわれているが、その他の外見は人間と大差はない。

 今は老齢の所為かそうでもないが、昔はかなりのグラマラスな体形の美人さんだったらしい。

 獣人も竜人と同じく、男の方は人の形をした獣と言った感じで、女の方は人に獣の要素が付加されている感じである。


 何故、肉食系筆頭である虎のガウと草食系の代表格である兎のキュイが夫婦になったのかが気になり、前にキュイの方に尋ねた事が有るのだが。


 両名が若い頃、ガウが何度も手を出そうと試みても、キュイは持ち前の素早さと聴覚の鋭さで彼の手から逃れていたらしい。

 だが、ある日、キュイが彼から逃げている最中に木の上に飛び乗り、その時に足を滑らせて地面へと落下し怪我を負った。

 怪我の痛みで動けなくなり、もうダメかと彼女が諦めた時、ガウは急ぎ世界樹の葉を取りに行き、彼女の怪我を癒したのだそうだ。


 その時、キュイは本能ではなく、心で彼を好きになったのだと語っていたな……


 二人の馴れ初めはともかく、俺はガウに模した像を作ってもらう事に決めた。


 理由としては、俺自身の精神的な性別が男性だと認識している事と、男性の獣人の方が人と特徴の差異が大きいからだ。


 それにカッコ良いしな。虎って。


「――……先ずは、ガウで頼むとするか」


 と、俺がドグにそう言うと


「ガウですか? 

 であれば……この、一番大きい物を使いますかの」


 彼は、一番大きい、長さ2m太さ1.5mほどの流木を指さしそう言った。


 だが――


「ドグよ、それで大きさは大丈夫かの? 奴めは、体が結構大きいぞ」


 と、ドグの指さした流木を見て、ダグの方が難色を示した。


 たしかにガウは背も高く肩幅も広い。

 獣人の中だけではなく、全員の中でも上位に入る立派な体格をしている。


 たしかに彼の身体のサイズを考慮すると、そこにある流木から削り出して作るのは、少し余裕がない大きさをしている気もするな。


「まぁ、ここで悩んでも仕方あるまい。

 ウアの時と同様に、本人を連れてきて寸法を測った方が早かろう。

 私が連れて来るので、その流木を立てて待って居てくれ」


 と、ドグとダグに言い、俺はさっそくガウを探しに行く事にした。


 ここ数日のガウ夫婦は、朝食を済ませた後はドッチボールをする若者達の近くでのんびり観戦しているはずだ。


 そこで、俺は像を作成している場所と世界樹を挟んで反対に有る、ドッチボールが盛んに行われている広場へと向かった。


 まだ朝方だと言うのに、元気の良い者達は既に遊び始めているらしい。

 世界樹の反対側に近づくにつれ、向こう側から聞こえてくる声援などの声が大きくなり


「おい! 後ろ気を付けろ!狙われてるぞ!」


 だの


「バハ! 早くこっちにボールよこして!」


 だのといった怒声が聞こえて――ん?


 ……どうやらリーティア達もドッチボールに参加しているらしく、その様子が世界樹の幹の影から見えて来た。


 片や獣人チーム、もう片方は竜人チームに分かれてやっているらしいのだが、現在の人気ルールが5対5形式の為か、竜人チームにはエルフィーも混ざっている。


 竜人チームは、内野にバハディアとエルフィーが居り、外野にレイディア、リーティア、シルティアの三人が居る。


 対する獣人チームは、内野に黒豹の特徴を持つしなやかなで引き締まった体格の男、茶髪から猫耳をのぞかせ腰に猫の様な尻尾がある女、ドーベルマン風の男の獣人の三人が居り、外野にはがっしりとして太めの肉体を持つライオンの獣人の男と、熊の耳と手足を持つ女の獣人がいた。


 見た所、内野に残って居る数が竜人チームの方が1人少ない。

 やはり、獣人チームの方に一日の長があるらしく、彼らは的確なパス回しや鋭い投球で、内野に残るバハディアとエルフィーの両名を積極的に攻めている様に見受けられた。


 その試合の審判役かトラブルが起きた時の対処の為か、試合場のコート――と言っても地面に棒などで線を描いた程度の物だが――から少し離れた所に、俺が探していたガウも居た。


 俺がその彼の方へと歩いて行くと


「おや? 彼らの様子を見に来たのですか?」


 と、腕を組み仁王立ちしているガウの方から先に声を掛けられた。


「いや、そうではないのだが……試合は始まったばかりか?

 竜人達の方が劣勢の様だな」


 エルフィーらの奮闘ぶりも気になったので、俺はガウにそう尋ねてみると


「いえ、結構な時間、熱戦が続いてますよ。

 リーティアとレイディアは出たり入ったりを繰り返してますが、エルフィー嬢が凄くてですな。

 まだ1回もボールに当たっておらんのです……

 まぁ、見てください」


 と言われ、改めて内野のエルフィーを注視すると、彼女は大きく動く事も無く、ボールの飛んでくる方向へ向き直る程度の動作しかしていない。

 それなのに、内外から彼女へ向かって飛んでくるボールは掠りもしないのだ。


 どうにも、エルフィーが避けているのでは無く、ボールの方がエルフィーを避ける様な動きをしている。


 これは……風魔法か何か使っているっぽいな。


「……魔法でボールの軌道を捻じ曲げている様だが……あれは良いのか?」


「えっ?……ダメなんですか?」


 反則くさく感じたので、ガウに聞いたのだが逆に聞き返されてしまった。


 改めて考えてみるとどうなんだろう?


 身体的に獣人より力やスピードが劣るエルフが、それらを補うために魔法を駆使して対処するのは正しい……のかな?

 海への出発前にも似た様な事を言った気がするし……

 これは、俺が普通のドッチボールを知っているからこそ感じる違和感なのかもしれん。


「いや……すまん、問題ない。

 別に暴力的行為に使用しているわけでも無いのだし、あの程度の事はしないと獣人の皆と遊ぶのは厳しかろう」


 逆に獣人達の投げるボールのスピードの方が暴力的なくらいだ。

 あれに対処するのは、普通の人間では至難の業だろう。


「そうですか。なら、続けさせましょう。

 それで、何用でこちらに?」


「おっと、そうであったな。お前に用が有ったのだ」


 ドッチボールに気を取られて忘れる所だった。


「この前運び込んだ流木の下準備が終わってな。

 次の像の作成を始めるのだが、その像は獣人を象徴として、お前の姿を元に作ろうと考えている」


「私を……ですか……?

 そういえば先日、全種族のを揃えるとかドグ達が言っておりましたなぁ。

 ですが、私でよろしいので?

 言ってはなんですが、私は体が大きいですから、作るのが大変では?」


「そこが、少し不安でな。

 用意した流木で事足りるか、ドグと――」


 ガウに、ここに来た用件を伝えていると、外野に居たリーティアが獣人チームの内野に居る猫耳の娘にボールを当てた。

 リーティアは、その交代で内野へと戻る際に俺の姿に気が付き


「あ! 主様だ!

 あるじさまー! 今のみてたー? わたしがミーニャを倒したのー!」


 と、俺に向かって手をブンブン振りながら言ってきた。


 その声で試合中の皆も俺に気が付き、試合が止まってしまった。


 俺は、邪魔するのも悪いと感じたので


「あ、ああ! 見てたぞ!

 良い試合をしている様だな!

 両チームとも頑張れよ!」


 と、慌てて声を掛けて試合続行を促した。


「すまんな。

 それで……ドグとダグの所で体の寸法を測る為に、お前を呼びに来たわけだ」


「そうでしたか……しかし、私よりも他の者の方が良いかもしれません。

 私の身体も若い頃と違い、衰えて弛んできたりしてますし。

 我等、獣人は本能的に力を尊く感じるところがあります。

 皆も像にそれを求めるはずです」


 改めてガウに用件を伝えると、彼はそう答えた。


「ふむ……。力……、力強さか」


 なるほど、獣人には獣人なりの美的感覚があるのだな。

 俺から見れば、今でもガウの身体は素晴らしい物に見えるんだけどなぁ……


「今でしたら……

 ちょうど、試合をしている、私の孫のヒューガか――」


 と、言いながら、ガウはコートの内野で頑張っている黒豹の男を指さす。


「――あそこで、試合を見ているバウの孫、いや、ひ孫でしたかな?

 あの、バルゥ辺りを元に作るのが良いかと思いますが」


 そう言い、次に、少し離れた所で試合を鋭い目つきで見つめる、シベリアンハスキー似の獣人、バルゥを指さした。


 たしかに二人とも、若さと力強さを感じさせる良い体と風格である。


 ヒューガは、試合での動きを見ても、誰よりも素早く動いているし、それを可能としている身体の形も素晴らしい物だ。


 バルゥにしても、ガウとも引けを取らない体格と筋肉を持ち、恐らくだが、ガウが彼を推したという事からも、今は彼の方が単純な力では強いのだろう。


 だが、一つ気になる事が有った。


「二人とも、お前の言う通り良い体をしている様だ。

 だが、若い頃のお前と比べるとどうなのだ?」


「若い頃の私?ですか……?」


 俺は70歳を超えた頃の彼しか見た事が無い。


 天界のパソコンでドット絵での若かりし頃の姿なら見た事はあっても、俺が世界樹に降臨した時に、そこで初めて皆のリアルで正確な姿を見る事になったのだ。

 その時にはもう、最初に生み出した者達は、全員が74歳の姿をしていた。


「うむ。昔のお前の身体は、それは素晴らしい物だったとキュイから聞いたぞ」


 そのせいで、逆に本能的な恐怖を感じてしまい、彼女は逃げ回っていたらしいのだが……


「キュ、つ、妻がですか!?

 それは……たしかに、若い頃の私の身体でしたら、彼らにも引けを取らないでしょうな」


 どうやら、彼は照れているらしい。


「であれば、若い頃のお前の姿を知っている者達と協力して、その姿を像に再現すればよいのだ。

 今の私のこの姿も、若い頃のウアに似ているらしいしな」


 と、俺は結論付けた。


「……わかりました。

 私も、喜んでお手伝いさせていただきましょう」


 すると、ガウもニヤリと笑い、そう承諾してくれたのだった。

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