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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第二章 出楽園編
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第36話 光を灯す石

 世界の惨状の片鱗を感じて、エルフィー達と世界樹の元へと帰った日の夕方。


 俺は世界樹の方で帰りを待って居た皆に、お土産のサトウモロコシを渡し、簡単な調理法を教えながら皆と一緒に夕食を取った。


 その後、エルフィー達は遠出の疲れからか直ぐに寝入ってしまった。


 皆が寝静まったのを確認してから、俺は急ぎ海などの状況を再確認する為、一人で夜空へ向かって飛び立った。


 先ず、海へと再度行き水質を調べる。


 やはり懸念してた通り、海は強酸性で異臭を放っており、島から離れれば離れる程にその度合いは酷くなっていた。


 海の状態を確認し、俺は次に空気を調べた。


 これも世界樹から離れる程に酸素が薄くなるらしく、遠くの場所では木片などに火を付けようとしてもサッパリ燃えない。

 魔法で火は出せるが、魔力供給を絶てば即座に消えるといった感じであった。


 やはり植物性プランクトンが生まれても居ない状態では、酸素も生まれないか。

 それと、俺の身体は呼吸を必要としないらしいな……


 それらの事を確認し終え、島へと戻って川辺を歩いていると、皆で海に向かう途中で川の水が綺麗過ぎると感じた違和感、それも何となくだが判明した。


 植物以外の生物が居ない所為だという事に、今更ながら気が付いたのだ。


 この川も海と同様で、魚はもちろんの事、昆虫や微生物も生息していないのだとしたら、川の水が濾過した水の様な透明度をしているのも頷ける。


 これは、土壌や植物などの環境も調べなおした方が良いか。


 世界樹に宿っていた時には気にもなっていなかったが、やはり人の身になってみると、身体的な感性や感覚、視点の違いなどからか気が付くことが多いな。


 それらの事を思慮し、俺は皆の生活や植物の生態を改めて別方向から観察する事にしたのだった。



 俺は朝日が昇り切る前に世界樹の元へと帰ると、皆と朝食を一緒に食べた。


 その後、エルフィー達は工作広場で急ぎ作りたい物が有るとの事だったので、俺は一人で世界樹周辺の、皆の生活エリアを中心に調べ始めた。


 先ず確認してみようと考えたのが、微生物関係の確認だ。


 汚い話になるが、皆の排泄物の様子や、木から落ちた果物がどう腐るかなどである。


 大抵の生物は、生きていると周囲の環境を汚す。


 まぁ、自然しかないこの世界で何をどう汚せるのかというのも疑問だが、水質なり土壌なりには痕跡が残るはずで、木々から落ちた果実や葉なども、種子は別としても地面に堕ちれば、いずれは腐り土となる。

 そして、その処理で活躍するのが、大抵は小型の昆虫や微生物だ。


 だが、今までそれらの痕跡を見た事が無かったので、調べる事にした。


 結果、分かった事は、排泄物は世界樹に近い場所なら数分で地面と同化して消えていき、離れた場所でも数十分で土に戻るといった奇妙な謎現象だった。


 排泄物よりも速度は遅いが果物や葉や枝なども同様で、地面に落ちても腐る事無く、暫くすると土と同化して消えていた。


 世界樹から離れれば離れる程、その土と同化して消える速度は遅くなるらしい事と、種などの部分は土に戻る速度が遅いという事も分かった。


 これは微生物などによる分解などではなさそうだが、世界樹による環境構築の能力の一部なのだろうか……?


 もしかして、あの世界樹はSFチックなナノマシンでも散布しているのか……?

 なにかの拍子にバグって、星全体が包まれて灰色の惑星になったり、ラスボス化したりしないといいな……



 一通りの観察を終えるとエルフィーが昼食に誘いに来たので、俺は工作広場へと行き昼食をとる事にした。


 そして、工作広場でミカンを食べつつ、皆の作業場の風景を眺めていると、妙な事に気が付いた。


 皆が作っている衣類なども植物で出来ているというのに、木から落ちた果物や枝葉などとは違い、地面に置いて暫く放置しても地面に取り込まれていないのだ。


 作成途中の衣類などは、翌日まで地面に放置している事などがざらであるのに、それらは翌日になっても普通にその場に残っている事も思い出した。


 どうやら、衣類以外にも誰かしらが利用したらしい木の枝や栗ボールなども同様で、人の手が入った物か使用している物は分解されないのか、その速度が極端に遅くなるらしい。


 これは、明らかに何かしらの基準があり、分解して良い物か駄目な物かを判別しているっぽいな。

 しかし、こんなよく分からない謎現象があるのでは、微生物などが居るかどうかの判別がしにくい……


 仕方ない、この調査は一旦諦めよう。



 俺は気を取り直して、午後は植物の生態を調べる事にした。


 この世界には見覚えのある植物が多いのだが、見覚えがある形をしているだけで、その植生はかなり違う物が多い。


 木に実るスイカやメロン、サトウキビとトウモロコシが一緒になった様な物、自身の実を守る気の無いフワフワなクッションで包まれた栗、まるで山菜の様に森の中に生えている野菜等々……

 そのどれもが、俺の記憶の中の物と味や食感は変わらなかった、いや、それどころか比べ物にならない美味さと品質な物が多い。


 世界樹の周辺や結界内では感じにくいが、この世界にも四季があり、それらの植物も四季に合わせて花を咲かせ実を実らせているのかと思えば、どうやらそうでも無いらしい。

 森や草原を見渡してみると、どの草花や木々も「季節なんて知ったこっちゃないね」と言わんばかりに、蕾と花と実が同時に付いているのだ。


 成長に関しては、普通の植物同様の速度で成長をしているのは世界樹に宿っていた時から知っていたので、その点は安心したのだが、受粉などに関わる生物がこの世界には居ない。

 風か何かで飛んで受粉しているか雌雄同株なのかもしれないが、これも世界樹の効果で繁殖しているのかもしれないな。


 そもそも、世界樹を植えておいたら何時の間にか発生した植物なのだし、植物としての機能や繁殖方法も常識的でない可能性が高いのか……


 そのおかげで微生物や昆虫、はたまた小動物などが居ないのにも関わらず、花や木々が繁殖出来ていたりするのだから問題は無いのだが……


 ……成長速度が、いたって普通なのが問題になってくる。


 世界樹の葉と周囲の食料となる植物の生産速度が、人口増加に追いつかなくなるのが目に見えているからだ。


 地上の皆の健康状態や成長は、どれも完璧に保たれており、種族間の違いや老いなどの差異はあれど、病気などはもちろん、肥満なども見受けられない。

 その完璧に保たれている所為で、人口増加の速度も早くなってきているのだ。


 皆が主に食しているのは、世界樹の葉と周辺に実る果物や草花なのだが、それらが皆の体を健康に保っているのだろう。


 それらをアイテムボックスに入れて確認すると、世界樹の周囲にある食物はどれも『世界樹の祝福』という効果が付属されている。

 世界樹を中心として半径100mほどの範囲に生えている植物は、どれもがその祝福効果が付いていており、おそらくだが、その効果と世界樹の葉が皆の身体に必要な栄養素を供給しているのだと思う。

 でなければ、皆には普通の栄養成分が必要無いのかのどちらかだ。


 必要が有るか無いかを試す事も考えたのだが、それはほぼ人体実験になるので結局は断念する事にした。


 どちらにしろ、今後やる予定である世界環境の再構築が無事に済めば、問題は無くなるはずだ。


 そして、それが間に合わない内に人口が増えすぎた場合、答えが自ずと判明してしまう事になるだろう……


 なので、時を稼がねばならない。


 方法はいたってシンプルで、環境再構築の第一段階は文字どおり『時を稼ぐ』という方法を俺は考えている。


 ノアさんの箱舟ではないが、皆を収容できる箱、というか建物を用意し、その中に皆を入れ、GPを使ってその中の時間を止めてしまおうという方法だ。


 皆の時間を止め休眠させている間になんやかんやしてしまおう大作戦である。


 ……作戦名はさておき、開始時期は食糧問題の片鱗が見えるか、もしくは人口が一定数に達したらと考えている。


 まだ、ある程度の時間的余裕は有ると思うが、それでも問題が何時訪れる分からないので、準備は早めに済ませておいて損はないだろう。


 建物の大きさや構造はどうしたものか……


 今の総人口は350人ほどなので、少なくとも、その全員が入れる以上の大きさにせねばならないし、できれば密閉状態に近い形にしたいので窓などは省略するつもりである。

 が、そうなると内部が真っ暗になるな……


 明かりは必要ないか?


 いや、さすがに真っ暗な建物の内部に大人数を入れるのは躊躇われる。

 それに、大まかな構造部分は世界樹の魔力で作るつもりだが、内装などに関しては中に入って作業をせねばならないだろうし、何かしらの光源は欲しい。

 でも、室内の様な空間で火を焚いて明かりを作るのは怖いしな……



 そんな事を悩みながら、エルフィー達の居る作業広場の端っこで、地面に「ああでもない、こうでもない」と俺が皆の収容施設の図面を描いていると


「主様、あれ出して! 宝石!」


 と、リーティアがそう言いながら、数人の女性達を連れてやって来た。


 急ぎ作りたい物があると言っていたが、どうやら川で取れた宝石を入れておく袋を作っていたらしい。

 それが完成したので俺が預かっている宝石を取りに来たようだ。


 俺がアイテムボックス内の「リーティアのもちもの」フォルダから、入れてあった宝石を取出して渡すと、彼女はにんまりした笑顔でそれらを受け取り、周囲の女性達へと見せながら、首かけ式の巾着袋に入れていった。


 彼女に続き、エルフィーとシルティアもやって来て、俺から宝石を受け取り同じ様な袋に入れて、次にバハディア、最後にレイディアに宝石を渡そうと取り出した時に、手に出した光属性系の魔石が目に留まった。


「ふむ……これなら」


 これを建物内の光源に使えないだろうか?


 記憶の中に有るファンタジー物の物語などでは、魔法や魔石は現代での電化製品に似た使われ方をしている事が多い。

 ランプや電球代わりに使われているのを、ちょくちょく見た気がするし、これなら密閉空間で物を燃やす事にもならないし安全そうだ。


「主様? どうされたのですか?」


「いや、お前の宝石を見て思いついた事が有ってな」


 手に出した魔石を見つめて考えていると、レイディアから声を掛けられ、俺は慌てて彼に魔石を返した。


「近いうちに川の上流へ、皆で宝石を探しに行くか」


 と、俺が言うと、宝石に群がっていた者達から歓声が上る。


 まぁ、色々と問題は山積みだが、一つ一つ解決していくしかないか。


 皆のその姿を見ながら、俺はそう思うのであった。

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