第3.5話 地上の人々1
※サブ話です。主人公視点ではありません。
そこは楽園だった。
人々は本能のままに、その楽園を謳歌していた。
そこは、寒くも無く、熱くも無く、食べ物も豊富で苦しみとは無縁の世界。
人々は突如として世界に生れ落ち、意識が覚醒してから本能のままにその楽園で生活を営んでいた。
生きるためには食べる事が必要だと本能で感じ、周囲にある物を食べ、喉の渇きをいやす為、水を飲んだ。
声を発し、相手に行動の仕草を見せ、相手の体を触るなどで自身の意思を相手に伝える事も経験を経て悟った。
初めて経験する嵐では、豪雨と強風が吹き荒れ、それが何故起きているのか、なぜ自分の身に降り注ぐのか理解できぬまでも、生まれた時に最初に目を奪われた巨大な樹木の元に身を寄せ合い耐え抜いた。
時折襲い来るその嵐や大地が揺れる地震などもそうして徐々に経験し、本能的な恐怖も慣れていく事で克服していく事が出来た。
気の向くままに食べ、そして眠り、子を産み仲間を増やしていき、数十年が経ったある日、聞いた事も無い轟音と大きな振動が彼らを襲った。
皆が轟音の鳴り響いた方向を見上げると、彼方にある巨大な山の頂上から赤い光と煙が立ち登りのが見え、それに続き頻繁に大地が揺れるようになった。
数十年間生きてきて、経験した事の無い光景を目の当たりにし、頻繁に起こる大地の揺れに再び強い恐怖を感じた彼らは、生まれた時から変わらず雄々しく聳え立つ巨大な樹木に縋る。
その木は、木と表現するにはあまりにも巨大であり、幹は周囲に見える木々を全て束ねた物よりも太く、生い茂る枝葉も空を覆うほどに広く豊で、そして天を突くほどに高かった。
その大樹は、空から降り注ぐ雨がどんなに強くとも、その枝葉でその雨を全て受け止め、木陰の下には優しく滴を落とした。
世界を吹き荒れる風がどんなに強くとも、何故かその大樹の近くでは優しいそよ風へと変わった。
彼らはそれを体験し、その木が自分達を守ってくれる存在だと感じていたのだ。
それだけではない。その木は皆に恵も齎した。
時折、落ちてくる大きな葉は、食べると瑞々しく辺りの木に実るどんな果物よりも美味であり、それどころか、どんなに体調が悪くとも、怪我をしていても、その葉を食べたとたん、たちどころに皆の身体を癒したのだ。
そうして、その大樹は彼らの安心と恵の象徴となったのだった。
彼らにとって今まで経験したことの無い災害に遭遇し恐怖した時、一番に頼りにするのはその大樹であり、子が親などに頼るのと同じように、恐怖と混乱する心と体の救いを求めたのだった。
その時、大樹が突如淡く光だし、徐々にその光が強くなり
――神が宿った――
突然の事に驚き混乱する彼等の頭の中に、今度は不思議な声が響いた。
『なんじゃこりゃ!?』