第32話 3時のおやつ
かなり厄介な問題が判明したが、厄介すぎて解決策が思い浮かばない。
だが何とかせねば……
「皆、あの海は危険なので、私が良いと言うまでは近寄らないように」
とりあえずは、一緒に来ているエルフィー達へとそう教えると
「危険……なのですか?
たしかに、妙な匂いがしてましたが……」
「でも、あの海って主様のお話で言ってた海なんだよね?
海に入って溺れたりとかで危険なのは分かるけど、近くに行くのもダメなの?」
と、神妙な面持ちでエルフィーとリーティアは聞き返してきた。
「なんと言えばいいか……
前に、この世界に大雨を降らして海を作ったと話をしたな?」
「えーっとぉ、たしかその後、私達が生活できる環境?を作る為に、この島へ世界樹を植えたって言っていましたねぇ」
と、シルティアが思い出して補足してくる。
「うむ。その世界樹の働きが未だ海へとは及んでいない様なのだ。
いや、それもまだ分からんか……
私は天界に戻り、少し海の状態を確認してくる。
皆はその間、昼食と休憩をしててくれ」
俺はそう言い、全員に食べ物を渡してから天界のパソコン前へと戻った。
さっそく、視点移動で海を映し島付近の海底などを見てみると、そこには様々な海藻類が普通に繁殖していた。
だが、島から離れるにつれその数は減っていき、100km程度離れた沖では皆無となっていたのだった。
あんな海で植物が繁殖できているのも不思議だが、おそらくは世界樹の加護か力の影響範囲だからなのだろう。
しかし、島を中心に100km程しか届いていないのか……
いや、海の問題だけではないのか。
海があの様なのだ。
恐らく大気や土壌も世界樹付近以外の場所では壊滅的なはずだ。
太古の海では植物性プランクトンが大量に繁殖したからこそ、酸素などが作られて他の動植物が生息可能な大気が作られたのだったか……
それはそれで、地球の全球凍結なども招いた原因になったと何かで見た気もするが、それでも生物が生息できる環境、もしくは生まれえる環境ではあるのだ。
この世界は、その前段階でさえ達していない可能性が高い。
そして、そこまで達するのに何年掛かるかも分からない。
世界樹をもっと設置するか、でなければ植物なりが地表の全域に繁殖してから、皆を生み出さなければならなかったのか?
これでは、最初に生み出したアダムも直ぐに死んでしまうわけだ……ん?
そういえば、アダムは数日間は生きてたな……
餓死などで死んだにしても、窒息死などでは無いのか?
もしかして、この世界の皆は酸素などを必要としない生命体だったりするのだろうか?
もう1回、何処かの大陸で試して……いや、ダメだな。
もうゲームのキャラなどとは思えないのだ。実験動物扱いなど出来ない……
……お手上げ状態だな。
リセットボタンでもあったら……って、これも、なおさら出来ない。
もうこの世界で生きている皆を知ってしまったのだ。
画面の視点を移動させて、川の付近でうろちょろしているエルフィー達や世界樹付近で生活している皆を眺める。
この画面ではドット絵でしかない彼等も、下の世界では皆生きている。
リセットボタンなんてあったとしても、俺は押したくない。
こんな時、地球の神様はどうしたんだ……
俺みたいなバカな世界の作り方はしなかったんだろうが、よくあんな完璧に世界を作り上げたもんだ……
いや、そうでもないか?
完璧というにはほど遠い部分が多々あった気がするし、それに大洪水か何かで地上を一掃したなんて話もあったな……
……まてよ?
その大洪水だかの時に、地上の人や動植物を避難させたりしてたはずだ。
たしか、箱舟だとかいう大きな船を用意したんだったか?
リセットは出来ないが、世界の環境が整うまで……
何か、皆を一時的に避難させる事は出来るかもしれない……
……だが、この方法は、かなりの覚悟を決めねばならないな――
俺が考えを纏めて地上に戻ると、近くにはエルフィーとリーティアがいた。
どうやら、ここに来るまでの間で損耗した衣類などの修繕をしていたらしい。
「御帰りなさいませ、主様」「おかえりなさーい」
「ただいま。
他の三人は何をしているんだ?
天界から近くを歩き回っているのは見掛けたが……」
「シルティアとレイディアは、近くに衣類などの素材を探しに行ってます」
「バハも、何か面白い食べ物が無いか探しに行ったよ」
と二人は教えてくれた。
今度は川ではなく、植物などで珍しい物でもないかと探しに出掛けたようだ。
ちょうど良い、現在の植物もこれからの長い年月で変化したり失ったりしてしまう物が有るかもしれないし、それらの保存の為に俺も調査と収集もしておこう。
「そうか、なら午後は私も周囲の探索を――」
そう言いかけると、少し離れた所から
「主様ー!」
と、バハディアが大声を出しながら、何か長細い植物を持って小走りで戻って来た。
「主様! 少し森に入った所に生えていたんですが、何か甘い匂いがしますし、これは食える物ですよね?」
そう言い、彼は両手に持った物を見せて来た。
見てみると2m程の長さの太い茎の所々に節があり、その節の辺りから葉に包まれたような太くて長い何かが6本ほど実っていた。
これはトウモロコシか?
「また面白い物を見つけて来たな……それはトウモロコシという物だ。
その節の部分に実ってる部分は焼いて食べると美味しいぞ」
「おぉ、やはり食える物でしたか!」
彼から受け取って葉に包まれた種子部分を剥いで見ると、黄色や白だけではなく、紫や緑色の種子がぎっしりと付いたトウモロコシだった。
見たことの無い品種だが、トウモロコシで間違いないようだ。
「これの有った場所に、他にも同じものが生えてたか?」
「はい、あちらの森の方に木々が無くひらけた場所があるんですが、そこに沢山あります」
群生してるかも?と思い尋ねてみたが、やはり密集して生えているようだ。
これは後々の主食候補としても有用そうだな。
「少し試食してみるか。
俺とエルフィーは焼く準備をするので、バハディア、お前はレイディアとシルティアを呼んできてくれ。リーティアはたき火を頼む。」
皆にそう指示して、さっそく準備に取り掛かる。
準備と言っても焚火を用意し葉を剥いたトウモロコシを枝に刺すくらいなもので、直ぐに終わった。
数分もすると、焼く為のたき火もちょうどよい感じになり、そこへバハディア達三人も帰って来た。
後は皆に教えながら、焦げ過ぎない様に焼くだけだ。
焼きあがった物をさっそく食して、感想を聞いてみると
「これは、栗や芋とも違うが美味いな!」
と、発見者のバハディアや皆にも高評価だった。
俺も美味いとは感じたが、やはりタレとまでは言わないが、少し塩気の味が欲しいとも思ってしまうな。
しかし、海があの状況では当分の間は塩を生産するのは無理か……
岩塩系も駄目だろうし、いっそGPで作り出してしまうか?
いや、GPは今後の事を考えて節約せねばならないし、それに1GPでとんでもない量の塩が出てきそうだし、やっぱ止めておこう。
「――……甘いね!」
「えぇ、ここまで甘い味は初めて」
「わたしはぁ、まわりの実よりも、この芯の部分の味が好きかもぉ」
俺が塩に思いをはせていると、そんな女性陣の会話が聞こえた。
あー、たしにトウモロコシの残った芯の部分も味がするよね。
俺も、子供の頃とかここも食えるんじゃないの?なんて考えた記憶が有るな。
「というか、実よりも芯の方が甘いな」
「だな、栗とは違ってちまちま食べなくても、全部食えるのは良いな!」
……エルフィー達は芯をちゅうちゅう吸っているだけだったが、強靭な顎を持つレイディアとバハディアは芯の部分までバリバリと食っていた。
というか、芯の方が甘い?
その言葉を不思議に感じ、俺も芯の部分の味を確かめてみると確かに甘かった。
いや……え? なにこれ? 甘すぎない?
実よりも芯の方が甘いって、どうなってんだ?
まるでサトウキビの様な甘さだ。
サトウキビの事が頭に浮かび、俺は、はっとして、トウモロコシをもぎ取った後に捨てた茎の部分を探す。
近くに落ちていたので、それを拾い折って茎の中の部分の味を確かめると、草の様な青臭さはあったが、これも甘かった。
「これは……ふふっ」
この世界の植物の生態は前から奇妙だとは感じていたが、トウモロコシとサトウキビが合体したヘンテコ植物なんて物が有るとは……思わず笑ってしまった。
「どうしたのですか?主様」
と、俺の様子が気になったらしいエルフィーが聞いてくる。
「いやなに、バハディアはずいぶんと面白い物を見つけて来たもんだと思ってな」
彼女にそう答え、俺は今後の事で気落ちしていた気分が少し回復したのだった。




