第30話 魔石
「では、皆の様子を見に行ってくる」
早朝の壮観な景色を眺めた後、俺は全員に朝食を配ってからそう言い残して、天界を経由して世界樹の方へと降臨した。
世界樹付近の者達はまだ寝ている者が多かったが、近くで寝ていたらしい種族の長達は俺の降臨の際の光で目が覚めたらしく、直ぐに起きて集まって来た。
「皆、おはよう。
昨日はあれから問題は起きて無いか?」
「おはようございます、主様。
あのドッチボールで少し喧嘩などは起きましたが……
それ以外は大した事はありませんでしたぞ」
と、俺が尋ねると、ウアが報告してくれた。
まぁ、多少暴力的なスポーツでもあるし判定やらでの揉め事は起きるか。
それでもトラブルが起きる時と場所が分かり易くなっただけでも、彼らの負担が多少は和らぐだろう。
「そうか、では引き続き留守を頼む。
それと、雪花石膏の岩は川の下流の方では見つからなくてな。
その代わりとなる物は見つけたので回収しておいた」
「おぉ!? 何を見つけたのですか?」
流木の事を伝えるとドワーフのドグとダグの二人は、寝ぼけていた頭から急に切り替わり生き生きとした表情で聞き返してきた。
「うむ。取り出すので……皆、少し私から離れてくれるか?」
俺はそう言い、ついでに渡してしまおうと考えたのだが、ちょっとした問題に気が付いた。
今まで世界樹に宿っている状態でのアイテムボックス操作をやった事がなかったので、正直、何処から物が出現するのかが分からなくて不安なのだ。
人間形態の時は手へと出していたが、この世界樹形態だと手なんて物はない。
最悪100mくらい上の方の枝葉の場所から出現して、そこから木材が落下するなんて可能性もある。
なので皆が十分に離れたのを見計らってから試す事にした。
好きな所へと出現させる事が出来るかもしれないが、変な所から出た場合は風魔法で吹き飛ばそうと心構えをしつつ、最初は小さ目の流木からにした。
開けた場所の地面へ意識を向けて試してみると、数十cm程度の誤差はあったが大体は狙った位置へと無事に取り出す事が出来たので、俺はほっとした。
これくらいの誤差範囲なら十分だろう。
大丈夫そうなので、しまってあった流木をどんどん出していくと
「これは木ですかの?
同じような物は川で見かけたことが有りますが、ここまで大きいのが有ったとは……たしかにこれなら主様の像を作る事も出来ますな」
大、中、小と分けて積んだ流木の山を見て、ドグは満足そうにそう言った。
一通り渡せる分の流木を出し終えると、さっそく加工関連に興味がある者達が群がり品定めを始める。
「後日、川の上流の方へも行く予定ではあるが、そこで雪花石膏の岩が見つかるかはまだ分からんのでな。
その流木なら有る場所の予想が付くので、今後も調達し易いはずだ。
なので、先ずはそれを代用品として使ってくれ。
小さい物に関しては皆で好きにしてくれて構わんが……仲良く分けろよ?」
「かしこまりましたわい、主様」
「では、私は向こうへ戻る。
何かあった時は昨日言った通りにしてくれ」
そう言い俺はエルフィー達の方へと戻る事にした。
そして、天界へと戻り、パソコンの画面で海までの地理などを軽く確認してから石像の方へと降臨したのだが。
俺が神像へと宿ると、またもやエルフィー、リーティア、シルティアの三人が俺の神体像を真近くで見ていたらしく、降臨の際の閃光を至近距離で受けたせいか、目を抑えながら蹲っていた。
「……何がそんなに珍しいんだ?」
彼女等に神体像の何が気になって見ていたのかを、回復魔法を掛けつつ尋ねてみると
「うぅ……見える様になってきたぁ……
だって、主様の服とかも全部石みたいになってるんだもん」
と、最初に回復したらしいリーティアが答えた。
へ? 俺の身に着けている草花の服やローブまでも石像の一部になってるのか?
「それとぉ……作った時に使った石とは違う物になってる気がしますぅ」
「ええ、あの雪花石膏は少し透明感のある白い石でしたが……
主様の御身体になってからは透き通った感じが無くなり、真っ白な物に変化しているんです」
シルティアとエルフィーの二人も目の眩みが治ったらしく、至近距離で観察していた理由をそう答えた。
なるほど……色々と変化が有るらしいな。
そりゃ確かに気になって観察したくなるわけだ。
俺も今度、世界樹の所に帰ったら見てみよう。
「ふむ……まぁ、明日か明後日には一旦、世界樹の方へと帰るのだし、その時にでもじっくり見せるので、それまでは近くで見るのは止めておきなさい」
回復魔法や世界樹の葉などで治せるかもとは言え、あまり強い光を見るのは目に良くないからな。
「ん……? レイディアとバハディアは何処だ?
近くに居ないようだが?」
ふと気が付いたのだが、二人の姿が見当たらなかったので、俺は彼女達にそう尋ねた。
「二人でしたら私達と交代で、下の川で水浴びをしております」
「んーと……もう戻ってくるみたい」
と、エルフィーが二人の行先を答え、リーティアは俺達が居る丘の川側の切り立った崖下を覗いて、二人が戻ってくると言った。
「そうか、では二人が戻って来たら出発するか」
先に水浴びを済ませたらしい女性三人を注意深く見てみると、たしかに髪などが少し濡れている。
しかし、エルフィーの方は大分前からだったが、リーティアとシルティアも彼等とは別々に水浴びをしたのか。
もしかして、彼女等にも恥じらいみたいな感情が芽生えてきているのかね?
そういや、俺も水浴びとかした方が良いのだろうか?
こんなお年頃の女の子達に「主様くさい!」とか言われようものなら、数日間は凹む自信がある。
でも、この体って汗とか出ないんだよな。
気分的には風呂に入りたいが……
なとど考え事をして少し待って居ると、二人が小走りで丘の上まで戻ってきた。
「上で光が見えたのでもしやと思ったのですが、やはり御戻りでしたか」
「主様、こんな物を見つけたのですが……これも雪花石膏ですか?」
そう言いながら二人は、透き通る二つの小石を俺に見せて来た。
レイディアの手の平の上に有る石は少し水色を帯びた透明な鉱物で、バハディアの方は薄いピンク色の透明な石だ。
両方とも表面は傷だらけで曇ってはいるが、磨けば透き通った綺麗な物になりそうである。
「これは水晶……いや、形状からしてトパーズ……か?
ふむ……少し調べさせてもらっても良いか?」
俺がそう言うと二人は快く二つの石を渡してくれた。
手に取り見てみると形状は四角形に近く、大きさは両方とも3cm前後だ。
アイテムボックスに収納して材質を見てみると、やはり両方ともトパーズであったのだが「属性」という項目が有り、水色の方には水、ピンクの方は火と書かれてている。
さらにはMPの表記とその現存量と最大値も表示されていた。
これはもしや、ファンタジー物で良く見掛ける魔石などという代物だろうか?
使い方は不明だが、MPの表記が有るという事は魔力の出し入れや、魔法自体の発動が出来るのかもしれない。
色は皆の髪や眼と同様に属性で変化しているのか?
他の宝石系の物でも同じ様な物が有るのだろうか?
いずれにせよ、これは興味深いな……
「ふむ……ありがとう二人とも。
これはトパーズという宝石だ。
だが、普通の宝石ではなく、それらの内部には魔力が宿っているな。
魔石とでも言っておくか」
二人に魔石を返しながらそう説明をすると、突如、女性陣が興味と興奮を瞳に宿しつつ二つの石を見つめ始めた。
「これが……主様の御話で出て来たあの宝石という物なのですね……」
エルフィーは感慨深くそう言い
「すごい! 宝石って本当にあったんだ!」
と、リーティアは興奮し
「探しに行きましょう主様!
レイ達でも見つけれたんです!
もっと有るかもしれません!」
シルティアにいたっては、いつもののんびり口調さえ忘れて俺を説得してきた……
うん……俺としては魔石というフレーズに興味を持って欲しかったんだが。
彼女達は御伽噺に出て来る財宝や、キラキラとした宝石への興味の方が強かったみたいだね。
まぁ、俺としても何個か欲しいと思っていたところだ。
海は逃げるわけでもなし、彼女達に付き合って少し探してみるか。
「そうだな、では少し探してみるか」
俺がそう了承すると、レイディアとバハディアはシルティアとリーティアに手をぐいぐいと引っ張られながら見つけた場所へと案内させられ、俺もエルフィーに手を引かれながら少しワクワクしつつその後を追いかける事となった。




