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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第二章 出楽園編
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第29話 光の道

 流木を拾い終え、再度海へ向かい歩き始めてから数分後、歩いている最中に奇妙な感覚が有り、俺は思わず立ち止まってしまった。


「ん……?」


 俺達は川辺を普通に歩いていただけで、風景は変わらないのに、いきなり全然違う別の場所に来た様な感じがしたのだ。


 なんだ? 何が起こった?


 一緒に歩いていた皆も感じたらしく、戸惑い気味に周囲を見渡している。


「主様……、なんでしょう……? 何か……変な感じがします」


 隣に居たエルフィーが俺のローブを少し掴み、不安げにそう言ってきた。


「あぁ、そうだな……急に辺りの空気が変わった感じがした」


 なんともふんわりとした表現になってしまったが、そんな感じがしたのだ。


「なんか、少し暑くなった感じがするよ主様」

「それに……なにかぁ、この川とは別の水の匂いもしますぅ」


 今度はリーティアとシルティアが感じた事を言ってきた。


 たしかに、リーティアが言った様に、気温が上がり少しむっとした空気になったか?

 シルティアの言う別の水の匂いと言うのは海の匂いだろうか?

 そっちは俺にはまだ分からないな……


 しかし、急に変わった原因はなんだ?


 天候なども変化は無いし……

 記憶の中で、似た様な経験があった気もするんだが……


 ……少し戻ってみるか。


「少し上流へ戻ってみよう。

 そうすれば何が変化したのか分かるかもしれん」


 俺は皆にそう言うと、歩いてきた川辺を戻る事にした。


 すると歩いて数十秒の所を通り過ぎた時に、気温などが少しだけ下がった感覚が有った。


「ここを境に、気温や湿度が違う感じがするな」


 まるでエアコンを効かせた快適な室内に入った時の様な感じだ。

 なにか憶えがあると思ったら、お店などで自動ドアをくぐった時などに感じる、空気の変化に似ていたからだな。


 しかし、なんでこんな事が起きたのか?と考えると1つだけ心当たりが有った。


 災害から皆を守る時に張った、あの結界だ。


 そういえば、あの聖域の境目はこの辺だったな。


「ここに何が有るんでしょう?」


「あの火山の噴火の時に張った結界だ。

 中と外とで少し気温などの差が有るようだな」


 嵐の日などでは中と外との様子がガラリと変わるので視認できるが、今日みたいに晴天な日だと透明なので気が付かなかった。


 前に、結界の中から出られないかもと少し考えていたのだが、なんて事は無く、すんなりと出られて拍子抜けした気分だな……



 気を取り直し、また下流へ向かって1時間ほど歩くと、片側が川に削られ崖の様になっている小高い丘が見えて来た。

 空を見上げると、暁に染まり始めており、夕方になりつつある。


 今日はこの辺までにして、あの丘を登った所でキャンプにするか。


「そろそろ日も暮れる。

 あの丘を登ったら、そこで今日は休もう」


 俺はそう言うと、皆に先立って丘を登る始めた。


 丘はそれほど高くも無く、数分で頂上まで辿り着き、その頂上からは海へ向かって真っ直ぐに伸びる川と、その先には広大な海原が見渡せた。


「お……? ここからだと海が見えるな」


 世界樹に宿っている時は毎日見えていたが、この体になってからは初めてだ。

 あと4~5kmといった所か?


「あれが……海……」


 海を初めて見たエルフィーの呟くような声が聞こえる。

 遠くに見える海に魅入られている様子だ。


「……」


 レイディアは言葉も発さずに海を見詰めて感動しているな。


「おぉ! あれが海か! でかいな!」


 バハディアはレイディアとは対照的に、はしゃぐ様に喜んでいる。


「すごく……大きいですぅ……」


 うん? シルティアの台詞は何処かで聞いたか見た事が有ったような……

 まぁ、素直に海の大きさに驚いているのだろう。


「うわぁ……遠くで空とくっついてる……」


 水平線を見たリーティアは、目の前の景色をそう表現した。

 なかなか面白い感想だ。



 暫くの間、皆で時を忘れて丘の上から大海原を眺めていると、辺りが暗くなり始めてしまった。


 その後は、急ぎアイテムボックスに入れてあった小さめの流木を取出し、それを薪にして火を熾し、その焚火を皆で囲んで夕食を食べる事にした。

 その間、皆は海の感想や質問を話し、賑やかな夕食となった。


 夕食を終え腹も満ちると、俺とレイディア以外の四人は今日の疲れからか早々に眠りにつき、残された俺と彼の二人だけが消えかかりそうな焚火を眺めながら静かに会話をする事になった。


「お前も寝ても良いのだぞ?

 私は寝る必要が無いからな。私に付き合う必要はない」


「いえ、まだ気が高ぶっていると申しますか……まだ眠気を感じないのです。

 それに……主様にご相談したい事も有りまして」


 悩み事相談とは、いつも気丈に振る舞う彼にしては珍しい。


「ふむ? 悩み事か……遠慮せずに言ってみろ」


「はい……その、私には魔法は使えないのでしょうか?

 皆が魔法を使う時に感じるという、体の中に有る魔力は私も体内に感じ取る事は出来るのですが、皆と同じ様にしても使えないのです……」


 と、俺が促すと、彼はそう答えた。


 あぁ、そういえば彼とバハディアは、まだ魔法を使った事が無いのだったか。


 魔力を感じる事が出来るというのなら使えると思うし、彼のステータスを確認してもMPはそこそこな量がある。


 となるとリーティアの時の様に属性の問題か。


「お前でも問題なく使えるはずだ。

 だが、お前達の種族、竜人族は使える魔法の属性が限られておるのだ」


「属性……ですか?」


「そう、属性だ。お前の場合は光に特化している」……と思う。


 彼の体が白い鱗で覆われているから、そう判断しているだけだ。


「光……」


「先日、お前達と森に素材を取りに行った帰りに、日が暮れて暗くなったので私が光球を出した事があっただろう?

 あれと同じような魔法なら、お前にも使えるはずだ」


 俺はレイディアにそう言うと、手の平に小さな光球を出して見せた。


「それが光の魔法なのですか……」


「丁度良く焚火も消えて暗くなった事だし、練習してみるといい」


 そう促してみると、彼はさっそく練習を始めた。


 元々、彼は魔力の把握と神語の習得は出来ていたので、数十分程度で小さな光球を出す事に成功した。


「ふむ、上手くいったようだな」


「はい! ありがとうございます主様。

 ですが……私の力はそれほど役に立ちそうにありませんね……」


 と、レイディアは魔法が使えた事には喜んだのだが、使えるようになった魔法自体には不満が有るようだった。


「ふむ? 何故そう思うのだ?」


「シルティアの水は色々と生活の役に立ちますし、リーティアの火に至っては扱いを誤らなければ食事どころか、この光の代わりにもできます……

 ですが、私の魔法は夜に何かを照らす事しか出来ないとは……」


 と、彼は残念そうな雰囲気を漂わせる。


 たしかに彼等は皆、夜になると直ぐに寝てしまう生活を送っているので、夜に光源が有るというだけでは有難味が薄いのだろう。

 文化が発展していき、生活や娯楽などでやる事が増えて行けば便利かもしれないが、今はさほど役に立つ魔法では無いかもしれん。


 まぁ、光量をもっと増やし指向性をもたせたり出来れば、レーザーみたいな事も出来るのだろうが、現状では宝の持ち腐れか。


「ふむ……お前の持つ力や使い道は、今すぐ答えを出す物でもないだろう。

 明日も予定が有るのだし、今日はもう寝なさい」


「そう……ですね。

 それではそう致します」


 と、俺は問題を先延ばしにする事にして、彼を就寝させた。



 皆が寝た後は暇になったので、俺も少し魔法の練習をする事にした。


 レイディアの光魔法やリーティアの火魔法などは何となくで使えたのだが……

 バハディア……彼の属性だと思われる闇の魔法は、俺も今まで使ったことが無かったのだ。


 今後、彼もレイディアと似た様な悩みを持つかもしれない時の為に、先に練習して置こうと思ったわけなのだが……――


 ――……結論から言って、闇魔法は扱いが難しかった。


 やはりというか、闇の力は重力的な物を操る事が出来るみたいなのだが、これは魔力を籠めすぎるとブラックホール的な物を生み出しかねないっぽい……


 物体の重量軽減や引力の掛かる方向を変えたりと、色々と使い道は有るかもしれないが、どれも扱いを間違えると惨事を起こしかねない。

 それに他の魔法よりも魔力の消費が多い気がする。


 だが、上手く使えば……空~を自由に~飛べそうだな♪と考え付いた。


 そして夢中になってあそ……練習をしていると、何時の間にか東の空が明るくなってきており、皆が寝ている上空でその様子を眺めていると、遥か彼方の地平線から太陽が覗き世界に朝が訪れようとしていた。


 その僅かに登って来た太陽から、こちらへ光が差してきて遠くの海もキラキラと光を反射しはじめる。

 その反射した光が段々と伸びて来る様と、眼下を流れる川を見た俺は


「これは……良い景色が見れそうだ」


 と独り言ち、地上へと急ぎ降りたのだった。


「皆、起きろ! 良い物が見られるかもしれんぞ」


 俺は地上へと降りると、スヤスヤと眠っている皆を起こす為に声を掛けた。


 気持ち良さそうに眠っているのを起こすのは心苦しいが、皆に見せたい物はかなり限定した条件でないと無理なのだ。


「う……? 主様?」


「ふあぁぁ……どうしたの?主様?」


 そこそこ大きな声で起こしたはずなのだが、起きたのはエルフィーとリーティアの二人だけだった。


「おはようエルフィー、リーティア。

 すまんが皆を起こすのを手伝ってくれ」


 そう二人に頼むと、エルフィーは近くで寝ていたシルティアを優しく揺すって起こし、リーティアはレイディアとバハディアの背中をガシガシと蹴って起こした。


 うーん、対照的な起こし方だなぁ。

 俺が起こしてもらう時はエルフィーに頼む事にしよう。

 眠る事が有ればだが……


 おっと、そんな悠長に考えてる時間も無いのだった。


「皆、起きたか? そろそろ、彼方の方から朝日が昇る。

 海から登る太陽はなかなかに綺麗だぞ。

 それと――ん? もう見えて来たな……」


 東の方向を指さして皆に朝日の昇ってくる方向を教えながら話していると、丁度遠くの水平線の向こうから朝焼けに染まった太陽が昇り始めた。


 最初、寝起きで頭が働いて無かった皆は、その様子を静かに見つめていた。


 段々と太陽が高くなるにつれて、海が反射する光がこちらに向かい伸びてくる。


 やがてその光は川に差し掛かり


 そのまま川を真っ直ぐに反射光が登っていき――


 ――光の道が現れた。


 その様は、太陽から真っ直ぐに伸びる一本の真っ白な光の道だ。


 周囲の景色も太陽の光を受けて明るくなり始めているが、光の柱を立ち上らせて燦然と輝く真っ直ぐな川の様子はことさら幻想的で美しかった。


 最初は静かに眺めていた皆も、その変わりゆく景色に驚き、目を見開き感嘆の声を上げている。


 その中でもレイディアは、その輝く景色を見ながら目に涙を浮かべていた。


「レイディア……これが光のなせる業の一つだ。

 太陽とまでは言わないが、お前が諦めず努力と工夫を凝らせば。

 この景色にも勝るとも劣らない事が出来る様になるかもしれんぞ」


 そう彼に話しかけると


「はい……主様。

 この景色と主様の御言葉、しかと胸に刻み付けておきます」


 と、彼は力強く頷きながらそう答えた。

この現象と言うか景色は、地球でも見る事が出来る場所があります

太陽が昇る位置と川などの角度が季節的に合えば見れるとかなんとか

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