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神体コレクターの守護世界  作者: ジェイス・カサブランカ
第二章 出楽園編
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第24話 禁忌の火

 俺とレイディアとバハディアの三人が山遊び……色々な物の採取を終えて作業広場まで帰ってくると、もう日が暮れて暗くなっていたのだが、エルフィーとリーティアとシルティアの三人が俺達の帰りを待ってくれていた。


「おかえりなさいませ主様。

 こんなに遅くなるなんて、何かトラブルでも御座いましたか?」


 俺達を出迎えてくれたエルフィーが、心配そうな顔で聞いてきた。


「いや、世界樹の近くに無い物を色々と見つけてな。

 それらを集めていたら遅くなってしまった」


 今まで食べていた物とは違う物が多く有り、ちょっと夢中になって集めていたら何時の間にか日が暮れていたのだ。


「あらぁ? レイ、素材はぁ?

 主様と一緒に何か採って来たのではないのぉ?」


「ん? あぁ、素材は主様が全て運んで下さったのだ。

 主様、もう日が暮れてしまっていますし、此処で夕食にしては如何でしょう?」


 と、シルティアと話していたレイディアが提案をしてきて


「おう、そうだな!

 リーティ、今日は主様のおかげで、色々と珍しい食べ物を沢山手に入れたぞ!」


「ほんと!? わたしも皆を待っててお腹空いてたの! 早く食べよ!」


 と、それにバハディアとリーティアも賛同した様だ。


 なら食事にするかと思ったのだが……――


「待ちなさいリーティア。主様達は体を洗うのが先です。

 三人とも泥だらけですし、シルティアはレイとバハの方を洗ってあげて。

 私は主様をお手伝いするわ」


 と、エルフィーに言われて、俺も自身の体の状態に気が付いた。


 俺は手足が汚れている程度だったが、レイディアとバハディアの二人は、体のあちこちが泥まみれだ。


「これは……そうだな。とりあえず、先に体を洗うか」


「主様、御召し物をお預かりします。

 お洗いして干しておきますので」


 俺がローブを脱ぐと服の方もエルフィーに脱がされる事になり、彼女はそれを持って少し離れた所まで行き、魔法を使い洗い始めた。


 彼女は色々と気が利くな。

 ちょっと、女の子達の前で裸にされるのは恥ずかしかったが……


 気を取り直して、俺が魔法で水を出して身体を洗い始めると、竜人の男二人もシルティアに連れられ、少し離れた所で頭から大量の水を掛けられていた。


 その光景を横目で見ながら俺が手足を洗っていると、一人だけ手持無沙汰だったリーティアが話しかけて来た。


「主様、森で何してたの?」


「ん? 最初は紐代わりに出来そうな物探していたのだが、それは直ぐに見つかったのでな。

 その後は三人で色々と食べ物を探していたのだ」


「食べ物って、さっきバハが言ってたのだよね?

 どんな果物?美味しいの?」


「果物もあったが、木の実や芋なども多かったな。

 森に有りそうにない物も色々と……

 リーティア、すまんが私の後ろの方を見てくれないか?

 まだ汚れているなら水を掛けてくれ」


 と話しながら、特に考えも無しに彼女にそう頼んだのだが、リーティアは困った様な表情になり、その後俯いてしまった。


「ん? どうしたリーティア?」


 あれ? なんかまずい事を言ったか?


「……ごめんなさい主様、それはできません」


 と、断られてしまった。


 彼女もお年頃の女の子だし、好きでもない男の体を洗う行為が嫌だとか?

 しまったな、図々しい頼みだったかもしれん……


「あぁいや、気にしないでくれ。

 嫌な事を頼んでしまったな、すまない」


 と彼女に言いながら、我が子から一緒に風呂に入るのを拒否られた父親の気持ちを少し体感していると


「違うの!主様!

 嫌な事じゃなくて……わたし、水が出せないの……」


 と、彼女は答えたのだった。


「ん? 水が出せない……?」


 そういえば、今まで彼女が魔法で水を出しているのを見た事が無かったか?


 食事の後や水浴びなどの時は、大抵シルティアかエルフィーと一緒に居て、彼女らが水を出していた気がする。


 いや、そもそもリーティアが魔法を使った所を見た事がなかったかもしれん。

 それどころか、レイディアとバハディアの二人も魔法を使っているのを見てない気がする。

 今もシルティアに水をバシャバシャかけられている最中だし、使えるなら本人達でやるはずだ。

 もしかして竜人達は、シルティア以外は魔法を使え無いのか?


 今現在、他の種族の者達は大なり小なり魔法を使い始めている。

 主に使っているのは水の魔法だが、風や土の魔法で遊んでいるのを見掛けたりする事もある。

 さすがに攻撃魔法の様な使い方をしている場合は、俺か各種族の族長が叱って止めさせているが……


「ふむ……? お前とレイディアとバハディアは魔法を使えないのか?」


「えっと、レイとバハは使えないみたい……

 わたしは……」


 彼女の答えを待っていると、俺の服とローブを洗って干し終えたエルフィーが戻って来て


「主様……リーティアは火の魔法しか使えないのです」


 と、答えを教えてくれた。


 リーティアはエルフィーの言った言葉を聞くと、びくりと体を震わせてからどんどん落ち込むような様相になってしまった。


 火しか使えない?


 まぁ、人には向き不向きも有るし、最近では皆の魔法の得意な属性も、その判別方法も何となくだが分かってきている。

 どうやら髪の色と瞳の色が、その者の得意とする属性らしく、髪か瞳の色が青系なら水、緑系であれば風、茶色ならば土といった感じである。


 そこに居るエルフィーは青い瞳で白の髪なので、水の魔法とおそらく光属性の魔法が得意なはずだ。


 少し離れた所で、レイディアとバハディアに水をぶつける様に魔法を放っているシルティアは青い髪と金の瞳なので、今使っている水が得意なのだろう。

 てか、レイディアとバハディアがなんか「止めてくれ!」とか言ってる気がするが……まぁ、それはいいか。


 目の前のリーティアは綺麗な赤髪をしているので火が得意なのは分かるが、それ以外の魔法が使えないだと?


 他の種族の者達は、不得意な属性でも、ある程度は使えている。


 しかし、竜人達のこの様子を見るに……


「シルティアも水しか魔法が使えなかったりするのか?」


「はい、彼女も水以外は使えません」


 聞いてみるとエルフィーがそう答えてくれた。


 やはりか。

 どうやら、竜人は得意属性以外の魔法が使えないらしいな。


 だが、このリーティアの反応はなんだろう?

 落ち込んでいるというか、怯えているというか……


 人には得手不得手が有り、それは悪い事では無いと教えてきたはずだが……

 火の魔法しか使えないのが、そんなに――……火?


 ……思い出した。


 前にGPを使い言葉を覚えさせたドワーフの一人、ドグが魔法で炎を出して火事を起こしかけた事があったのだ。


 彼は、俺が明かりの代わりにと出した火球を真似たらしいのだが、まだ魔法の使い方の練習段階だったので一気に全魔力を使って火球を生み出し、その結果、魔力を使い果たして昏倒してしまった。

 その出した火球が制御を失って周りに四散し、周囲に引火してしまったのだ。

 それを見た俺は、慌てて大量の水を出して鎮火し、その後に彼を強く叱りつけた覚えが有る。

 それ以降、皆も火の魔法は危険だと認識して使わなくなっていたのだった。


 あの出来事を見たリーティアは、火しか使えない自身の力を悪い事の様に認識してしまったのかもしれない……


「リーティア。お前が火の魔法しか使えないのは悪い事では無いのだ。

 落ち込む事も気に病むことも無いぞ」


 そう言い、俺が彼女の頭を撫でてやると


「ほんと……? 主様?」


 と、少し震えた声でリーティアは聞き返してきた。


「あぁ、本当だとも。

 ふむ、丁度良い物も有る事だし、今日は火の素晴らしい使い方を教えてやろう」


「主様、その前にこちらの御召し物をどうぞ」


 俺がリーティアを安心させるようにと力強く言ったは良いが、その直後にエルフィーから、お前まだ裸のままだよと教えられたのだった。



 俺は服と改良したらしい草履を受け取り、それをそそくさと身に着け準備に取り掛かった。


 水浴びが終わったレイディアとバハディアと、何故か満足そうな表情をしたシルティアも合流し、皆で乾いた木片を集めて地面にこんもりと盛り付け、その前にリーティアを連れて来る。


「こんなものか……

 よし、リーティア、この木片の山に火を付けてみなさい」


 俺がそう言うと


「い、いいの?主様?」


 と、彼女は不安げに聞き返してきた。


「大丈夫だ。ここには私も居るしな。

 魔力を多く使う必要はない、小さな火で木に着火するんだ」


 そう言いつけると、リーティアはおずおずと手を木片の小山に向けて『火よ』と唱えて木の切れ端に火をつけた。


 燃え移ったのを確認し、少しの間火が消えないで順調に燃えるか観察してから、俺は魔法で出していた光球を消した。

 そして、彼女に一つ目の説明をする。


「これで明かりが出来たな。

 魔法を使わなくても、火を正しく使えば、この様に辺りを照らす事が出来る」


 次の準備は火が弱まるまで出来ないので、その間に今日採ってきたそのまま食べる事が出来る果物やクルミを出して、外皮が固い物はレイディアとバハディアに渡して食べやすい様に割ってもらった。


 簡単に食べやすい部分の説明をして皆に食べさせてみると、エルフィーはアケビとザクロを気に入り、リーティアはクルミを、シルティアはパイナップルを気に入った様だった。


 暫くして焚火の火が弱まってきたので、俺は今度は大きな栗を取出した。

 レイディアとバハディアに爪を使ってその栗の殻に少しだけ切り込みを入れてもらい、それを火が消えそうになっている所にポイポイと入れていく。


「主様、それも燃やすの?」


 と不思議そうに聞いてきたリーティアと、その他の者にも二つ目の説明をする。


「これは、この『栗』に火で熱を加えているのだ。

 簡単な方法ではあるが、これを『料理』という。

 こうして火などを使って熱すると、食べやすくなったり美味しくなったりする物が色々とあるのだ」


 おき火の中で熱せられているこの栗だが、森の中で色々と物色している最中にバハディアが見つけて持ってきた物だ。


 最初見た時は、茶色く柔らかい毛みたいな物が密集している、拳大のボールの形状をした謎な物体だった。

 今まで見た事も無かった代物だったので、割って中身を確認してみると大きな栗が数粒中に入っていたのだ。


 鋭い針のようなイガイガが無いので取るのが簡単ではあったが、流石に調理しないと食べるのは難しいと感じ、後で試してみようと集めておいたのだ。

 まぁ、美味しいかどうかは賭けなんだけど……


 素手で食べるのは難しそうだったので、焼いている間に人数分の木の枝の先端をレイディアとバハディアにへら状に加工して貰い、栗が焼けるのを暫く待っていると、辺りにサツマイモを焼いている時の様な、砂糖を焦がしたような甘い香りが立ち込め始めた。


 あぁ……これは石焼き芋屋とかから漂ってくると、我慢できなくなる系統の匂いだな。


 待っている間、雑談をしていた女性三人も匂いに気が付くと、会話を止めてそわそわし始めたので、木の棒を使い1つ焚火の中から取出してみる。


「バハディア、その栗を2つに割ってみてくれ。

 熱いなら無理しないで良い」


「は、はい」


 熱くてまだ俺には触れそうにないので、竜人の強靭な手を持つ彼に頼んだ。


 彼が慎重に触ってみると大丈夫だと感じたらしく、手に持って二つに割ってみせた。

 その割れた栗から、甘く美味しそうな匂いが湯気と共に解き放たれる。


 そのまま持っててもらい、割れた部分に軽く木の小枝を刺してみると、中まで火が通って柔らかくなっているのが確認できた。


「大丈夫そうだな。

 よし、全部火から取り出して、少し冷ましてから食べよう」


 皆にそう言って、消え入りそうな焚火の中から全部の栗を取り出し、竜人の男二人に全部割ってもらい、手で持てる程度の熱さまで冷めるのを待つ。


「主様! まだ?まだなの?」


 と、リーティアや他の者達が捲し立ててくる。


「まて。もう少ししないと手や口を『火傷』をするぞ」


 なんか餌を前にお預けを食らっている子犬みたいな反応してるな。

 まぁ、抗いがたい匂いではあるから、その気持ちも分かる。


 暫く待つと、断面から立ち上る湯気の量も減って来たので、少し触ってみると大丈夫そうな熱さまで冷めた様だった。


 俺は、レイディアからへら状に削った木の枝のスプーンもどきを受け取り、少し掬い取って口に運ぶ。

 その栗の実を頬張ると、しっとりとしてほくほくとした食感と共に程よい甘みが口の中に広がっていった。


 美味い……

 なんでこんなに美味いんだ?


 あぁ……これは、炭水化物の感覚だからかもしれない。


 この世界に来て食べるのは初めてだもんなぁ……


「……ッ……様!主様! ねえ! もう食べても良いの!?」


 と、急かすリーティアの声で俺は我に返った。


 どうやら、懐かしい感覚に少しボーっとしていた様だ。


「あ、あぁ、もういいぞ。

 少し熱いかもしれないから気を付けて食べなさい」


 そう言うと、皆、我先にと栗を取り匙で掬って食べ始めた。


「これはッ! 暖かい感覚もそうですが、今まで食べた事が無い食感ッ!」


 とは、レイディアの言である。


「むぅ……クルミの様な歯応えはありませんが、これもなかなか美味いですな」


 バハディアも気に入ったみたいだ。

 彼は木のへらなんか使わず、もう手で食べている。


 女性陣の反応を見てみると、皆幸せそうな顔をして味わいながら食している。


「果物とは違い、甘いは甘いのですが違う甘さです。

 これは美味しい……」


「不思議な感じ……噛めば、噛むほど、甘みが増していくような感じもしますぅ」


 エルフィーとシルティアも満足そうに感想を述べて来た。

 噛むほど甘みが増すのは、ご飯と一緒ででんぷん質が多いからかな?


「リーティアはどうだ?

 美味しいか?」 


 と、肝心のリーティアに感想を尋ねると


「主様! これ美味しい! すっごく美味しいよこれ!」


 と、彼女は飛び跳ねん勢いで喜びを表したのだった。

皆さんも、たき火で栗を焼くときは少し切れ目を入れましょう

でないと昔話の様に、焼き栗が破裂して襲ってきます。

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