第23.5話 不安
※エルフィー視点のサブ話
主様が帰ってきません……
私達と昼食を終えた後、バハとレイをお供に森の奥へと素材を取りに行かれたまま、そろそろ日が暮れようとしているのに、未だに帰って来られないのです。
もしや主様の身に何かあったのでは!?
いえ……さすがに、それはありませんね。
どのような事でも対処なされてしまわれる主様の事ですから、迷子になったり怪我などして動けなくなっているなんて事は無いでしょう。
一瞬、焦りで駆け出しそうになりましたが、もう私は子供では無いのです。
主様に御忠告頂いた通り、落ち着きと深慮を以って行動しなければ。
お優しい主様の事ですから、おそらくバハとレイの頼み事でも引き受けて、解決する為に行動をなさっておられるのか、二人にトラブルが起きて手助けをなさっているのでしょう。
私が、落ち着いて主様の御帰りを待とうと心に決めていると
「主様達、帰ってくるの遅いですねぇ……
レイ達がご迷惑をかけて無ければ良いんですけどぉ」
「レイは大丈夫でしょ。
あたしはバハが何か仕出かしてないかの方が不安」
と、一緒に居たシルティアとリーティアが言いました。
二人も私と同じく、帰りの遅い主様とレイとバハの事が気がかりなのでしょう。
とはいえ、私達以外の者達は先に帰らせましたし、今私が出来る事は、主様へと新しく御作りした履物を携えて静かに待つ事だけです。
しかし、主様が近くに居ない時に感じる、この胸のざわめきは一体何なのか……
一昨日、主様が新しい御身体に乗り移った時は驚きました。
主様が世界樹に宿っておられた頃。
あの樹木の御身体の為に、感情を表す表情や仕草は有りませんでしたが、主様が何かを切望していらっしゃるのを私は感じていました。
その答えがあの日、目の前に現れたのです。
あの石で出来た体が光り輝き、その神々しい光が収まると、主様は私達と同じ生身の体になっておられました。
それから、私は主様への理解を深めるべく、御側で主様を拝見しておりました。
皆と接している時は、努めて穏やかな表情をしていらっしゃるのですが……
昨夜、私が不意に目覚めた時に見た主様のあの御顔は……優しく皆を見守っている様でした。
ですが……とても寂し気で……
そして暫くすると、遠くを見つめて決心した様な凛々しい御顔になり……
その主様を見た時に私は確信しました。
主様には、あの御身体でやるべき事が何か御有りなのだと。
あの後、眠気に負けて私はまた寝入ってしまいましたが。
恐らく、私達にご所望された履物なども、主様の目的に必要な物なのでしょう。
そして今日も、何事かを確認するかの様に色々としていらっしゃるご様子で、まるで何かの準備をしているかの様に私は感じました。
先日、朝起きると主様が傍におらず探し回った時に思った事……
何故か主様が遠くに行ってしまったのだと勘違いして焦った気持ち……
あれが、今感じている不安と同じ物なのでしょうか?
もしや……主様は私達の元から離れる準備をしておられる?
そんな……まさか――
「あ! 帰って来たみたいだよ!
おーい! バハー! 主様ー! レイー!」
私が物思いに耽っていると、隣に居たリーティアが大きな声を上げて主様達の帰りを教えてくれました。
彼女が指さす方を見ると、木陰から白い光がチラチラと見えます。
あれは! 主様の魔法の光です!
よかった……主様もレイやバハ達もご無事な様で……?
いえ、三人とも泥だらけですね……
「三人とも待っていてくれたのか?
すまない、遅くなった」
駆け寄った私達に、主様は何時もの様に優しい御声を掛けて下さいました。
その御声を聞き、私は、ほっと安心を感じました。
でも、ほんの少し……
安心と相反する気持ちも、私の心の片隅には残ったままでした。




