第19話 容姿と朝食
新たな体と衣服を手に入れた次の日の明け方。
俺は世界樹の近くの池の畔へと来ていた。
昨日は皆とどんちゃん騒ぎをしていて、自身の体の容姿などを調べる機会が無かったので、池の水面を鏡代わりにして見てみようと思ったのだ。
水面に映った俺の姿は、造形に関してはモデルとなったウアとそっくりだったが、色に関しては少し違っていた。
ウア自身は青み掛かった白髪で緑の瞳をしており肌は少し浅黒い。
だが、この体は真っ白な白髪で目は黒眼となっており、肌は少し明るめの色をしていた。
髪や皺などの再現は彫るのが大変そうだったので、皺の表現は少な目にして、髪も短めにし、髭も無い造形にさせたので、ウア本人よりかは幾分若く見える。
髪は不思議な事に大まかな造形をしていたにも関わらず、ちゃんと髪らしく細くしなやかな毛の集合体へと変わっていた。
一通り変な所が無いかのチェックを済ませ体の出来に満足していると、この体のモデル本人が寝起きに水を飲みに来たらしく、池の前に居た俺に気が付き挨拶してきた。
「おはようございます大樹……えー、あー……」
「呼び慣れた方でいいぞ」
数年間呼んできた呼び名をいきなり変えるのは、若い者ならともかく八十近い彼には難しかろうと、俺は助け舟を出した。
「そう……ですか。
すみません大樹様。
では改めて、おはようございます」
「おはよう、ウア」
互いに挨拶を済ませるとウアは水辺で、葉で作ったコップらしき物で水を汲み飲み始めた。
なにそれ?と、俺はその葉のコップが気になり彼に尋ねた。
「その器はどうしたのだ?作ったのか?」
「これですか?
これは先日……ひ孫ですな、そのひ孫が作ってくれた物です。
最近は、服以外の物を作るのが流行っているらしいですぞ」
と、ウアは答えると、どうぞと見せてくれた。
手に取り見てみると、なかなか良い作りをしている。
大きい葉をコップの形状にして、その外側を草などの茎で型が崩れない様に巻いて補強をしてある。
「こんな物が作られ始めていたのか……
ありがとう、ウア。良い物を見せてもらった」
俺はそう言い、彼に葉のコップを返した。
最近は半数近くの者が衣類を纏う様になってきたが、他にも色々と変化が起きてそうだな……
後で様子を見に行ってみるとしよう。
ウアと別れた後、周辺を散策しながら自身の体の確認を続ける。
天界の方の肉体と比べても良い感じだ。
筋肉質で引き締まった体をしているせいか、体が軽く感じる。
それと、やはりと言うか、生理的な反応や欲求は起こらないらしく、五感は問題なく機能してるが、眠気や食欲その他諸々の体調の変化がこの体でも起きない。
まぁ、まだこの肉体になってから1日も経っていないのだし、もう少し様子を見よう。
地上でならステータスの確認が出来るかと思ったので、さっそく見てみると。
名前:神像 種:石像
Lv:1 状態:神体(+憑依)
HP:125 SP:44 MP:44
STR:0(+22)DEF:15(+22)VIT:0(+22)
DEX:0(+22)AGI:0(+22)INT:0(+22)
MND:0(+22)
技能:偽神語4(+神技)
となっており、ステータスに関しては世界樹の時とは違い、石像のステータスに一律22が加算されていた。
これは保持しているGPの数値分が上乗せされているのか?
他に22という数値には見覚えが無いし、おそらくそうだろう。
という事は、体の感覚が良好に感じていたのは、加算分のせいかもしれないな。
技能の偽神語は魔力を使わずに言葉を話しているうちに、上がったか獲得したのだろう。
技能を取得する事が出来るなら、Lvも何か行動すれば上がるのだろうか?
Lvの上昇で他のステータスも上がるのか、その辺の事も要チェックだな。
考え事をしながら、ぶらぶらと歩いていると、何時の間にか世界樹から少し離れた森の付近まで来ていた。
世界樹を囲む様にある森の木々には様々な果物が実っており、中にはメロンやらスイカやら、木に実る物では無いような物まで実っている。
食べられる物なのだし問題は無いが、植生が色々と謎だ……
そんな事を思いながら、近くに実っていたオレンジを木の枝からもぎ取って眺めていると
「おはようございます主様!」
と、突然、背後から大きな声で挨拶され、俺はびっくりして振り返ると、そこには少し息を切らせた様子のエルフィーが立っていた。
「お、おはようエルフィー。
どうしたのだ?そんな慌てた様子で?」
「起きて、朝の、ご挨拶をと思い、ましたら、はぁはぁ、近くに主様が、いらっしゃら、なかったもので、探しに来たのです……」
あー……、いつもは俺が世界樹に宿ってたからなぁ。
そう言えば、根元で寝起きする彼女から毎朝挨拶されるのが日課みたいになっていたっけ。
「すまない、動ける体になったので少し散歩をしていたのだ」
「そう、だったのですか。
私はてっきり……いえ、なんでもありません」
ん?何を言いかけたのだろう?
訊いてみようかとも思ったが、野暮ってもんかな?
まぁ、それよりも、皆もちらほらと起き始めたようだし朝食にするか。
「そうか。日も登り明るくなってきた、そろそろ朝食にしよう」
「はい、主様!」
と、彼女の元気な返事を聞き、美味しそうに実る果物を眺めどれにするか悩みながら、新しい体での俺の新生活が始まった。
水が有るって素晴らしい!
手がベタベタになる系の果物は、今まで天界の方では忌避していたのだが。
なんと!
地上なら世界樹のすぐ傍に有る池で手が洗えるので、気にせずに食べる事が出来るのだ!
それと、皆がたまに食している世界樹の葉も試しに食べてみたのだが、これがかなり美味しかった。
葉皮の中はアロエやサボテンなどの食感に似ており、味はマスカットなど葡萄系の物に似ているが酸味は少ない。
あと食べていると力が漲り、意識も覚醒してくる様な不思議な感覚があった。
この効能が、魔力や体力が減少している者の体を癒していたのか……
これは何かやばい物でも入っているのだろうか?
カフェインたっぷりとか?
うーん……別に、皆が中毒みたいに貪り食ってる訳でも無いし大丈夫かな?
などと得体も無い事を考えながら世界樹の葉を食べていると、何時の間にか近くに来て一緒に朝食を食べていた竜人のリーティアから話しかけられた。
「主様。今日は何するの?」
「ん? 何をか……
そういえば、ウアが葉で作った器、コップを持っていたのだが、服以外で何か作ってる物が有るのならそれを見たいと思っていたな」
「それなら私達も作ってるよ!
後で主様に見せてあげるね!」
「おぉ、そうか。ならばぜひ頼む」
俺の今着ている服やローブを作った彼女達の腕前なら期待できるな、楽しみだ。
世界樹の体の時は眺めているだけだったが、こうやって一緒に食事をしながら話をするというのも久しぶりだ。
この世界で覚醒する前の記憶は、未だに定かではないので何年ぶりかは分からないが、それでも心の中の残滓がこれは良い物だと伝えて来る。
そして、心温まる和やかな朝食も終わり、俺はさっそく果物の果汁でべとべとになった手を池に洗いに行こうと立ち上がった時だった。
『水よ』
と、魔法を唱える声がして、その魔法を唱えた竜人のシルティアの方へ目を向けると、そこでは彼女が魔法で水を出して近くの者達の手を洗ってあげていた。
あ……そうか……
わざわざ池に行かなくても、魔法で洗えば良かったんだね……
世界樹に宿っていた時もこの光景を見ていたし、彫像を掘る作業をしていた者達を俺が魔法で洗ったりしてたというのに、生身の体になったせいか、少し常識的な考え方になってたみたいだ。
いや、世界樹の体に慣れ過ぎていた所為か……?
皆が魔法を有効活用している様をみて、少し気恥ずかしい気持ちで、俺も自身で魔法で水を出して手を洗うのを試すのだった。
現GP:23




