第18話 贈り物
―― 第二章 出楽園編 ――
優しい風と日の光を全身に感じる。
身体が世界樹だった時にも感じてはいたが、それでも人の体を手に入れ、新たに体感してみると感動を抑えきれない。
周囲には、この新たな体を手に入れ、新生した俺を歓喜して迎えてくれる者達が集っていた。
寝かされていた台座から降り、足を大地に着け、胸いっぱいに空気を吸い込む。
その何でも無い行動の一つ一つに、俺自身の中の喜びの感情が沸き立つ。
ついに、下界で自由に動ける体を手に入れたのだ。
皆から受ける祝福の声に答えながら、自身の体の具合を確かめていると、一人のエルフの女性が俺の前へと進み出て来た。
瞳の色は澄んだ水を湛える湖の様な青をしており、陽光を浴び輝く長い銀髪の間からエルフ特有の長い耳が伸びている。
彼女はここ数年で背も170cm程まで伸び、体も細身ながら女性らしく成長して、その細くしなやかな肢体を、柔らかい草や蔓などで編まれた衣服を纏い着飾っていた。
そう、彼女は今年で17歳を迎えたエルフィーである。
「大樹様……いえ、主様。
新しい御身体への降臨お喜び申し上げます。
こちらがご要望の御召し物になります」
彼女は片膝をつき、手に持っていた彼女達特製の衣類を俺に差し出しながら、祝いの言葉を述べてきた。
俺の呼び方は主様にしたのか。
なんかむず痒い気がするな。
「ありがとう、エルフィー」
俺は彼女に返礼をし、彼女の差し出してきた衣服を受け取った。
驚いた事に、その衣服を手に持った瞬間、供物を受け取った時と同様の感覚がし、この服を作るのに協力した者達の心の力が流れ込んできた。
なるほど……手で直接受け取ってもGPの増加が起きるのか。
受け取った服を広げてみると貫頭衣の様な形状をしており、皆の衣服同様に草や蔓で編まれていて、随所に花々や妙な形の葉っぱが飾り付けられたメルヘンな雰囲気な服だった。
形状は石像に着せる物をと注文していたので、上から被せて腰辺りを蔓や蔦の紐で結んで着る形の貫頭衣にしたのだろう。
だが、この草花での飾りつけは最近の流行りなのだろうか?
たしかに周囲の者達の服装を見ると、多少の飾りつけはしてあるが、俺のはてんこ盛りな感じだ……
いや、文句は言うまい。
彼女達が丹精込めて作ってくれたのがひしひしと感じる衣服だし、皆に囲まれてる最中、いつまでも素っ裸で居るのも恥ずかしいしな。
俺がそそくさと服の穴に頭部を通して被ると、エルフィーが近くへ寄って来てしゃがみ込み、腰の辺りに丁寧に縒り合せて作ってある腰紐を結び始めた。
若干、気恥ずかしさを感じながら結び終わるのを待っていると、今度は竜人の女の子の二人が進み出てきて、白いローブ状の布を二人で広げて見せて来た。
「それは……布か?」
これには俺もびっくりした。
良く見てみると少し緑掛かった白色をしているが、何かしらの糸を織って作られている。
それは、まごう事無き布だったのだ。
「エルフィーとぉ、竜人の皆で作りましたぁ」
と、真っ青な髪のシルティアが微笑みながら答え。
「飾りつけは間に合わなかったけどね!」
と、真っ赤な髪のリーティアが満面の笑みで答えた。
二人は、エルフィーが腰紐を結び終えると、その布を此方まで持って来て俺に羽織らせてくれた。
先程の草の服を受け取った時にも感じたが、この布のローブからも彼女達の温かな心の力が流れ込んで来る。それも相当な量だ。
触ってみた感触は麻か亜麻で織られた布の質感に似ている。
彼女ら三人がここ数ヵ月の間、森の奥の方で何かやっているのは知っていたが、これを作っていたのか。
布の知識はエルフィーが知っていたのだろうが、こんな道具も何もない状態で手作りするとは、そうとう苦労しただろうに……
このローブは大切に着よう。
ちょうどメルヘンチックな服も少し覆い隠せるし気に入った。
「三人とも……いや、長い間この体を作り上げる事に従事した者達、そしてこの衣服を作り上げた者達、そしてそれらの者達を支えた全ての者に感謝する」
俺は集まっている皆にそう言い、心の底から感謝をした。
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