第17話 新しい体
GPを使いウア達20人に言葉を覚えさせてから二日後。
彼らも言葉を使えるようにはなったが、エルフィーと同様に神語のみで会話を行うとMPを消費してしまう問題が起きた。
だが、彼らは先に普通の喋り方を学んでいたおかげか、思いの外すんなりと普通に会話出来る様になった。
そして今日は、ついに彫像の作成開始だ。
最初の工程は岩の形を整える為に、竜人と獣人の男達に頑張ってもらう。
先ず、四角い長方形に近い形に加工して、それを横に寝かせる。
最初は立像を作ろうかと思っていたのだが、学校の教科書などで見た古い彫像などは、腕や脆い構造の部分が折れたり壊れたりしている物が多かったのを思い出し、この雪花石膏も強度的には柔らかいので、寝かせた状態の彫像を作る事にしたのだ。
最初の作業は単純な物だったので、言葉を覚えていない他の獣人達にも少し手伝ってもらう事が出来たので、思いの外早く終わった。
途中から、猫系の獣人達が爪とぎ代わりにやってた様に見えたけど……
まぁ、無事に終わったしいいか。
とりあえず、一ヵ月程で第一工程は終了し
高さ1.8m、幅と奥行きは1.3mほどの綺麗な立方体が出来上がった。
次は大まかに人の形に似せていく工程になる。
今回の作業は主に竜人の二人、バハディアとレイディアと新たに人間のウアに頼む事になった。
なぜ獣人のガウとバウがこの作業から外れたのかは、彼らの性格的な問題が前の作業で露呈したからだ。
彼らは、力とスピードと持久力に優れていて、大雑把な作業には素晴らしい適性を持っていたが、細かで慎重な作業には向いていない性格をしているらしく、ここから先の作業は難しいと判断した為だ。
だが彼らのおかげで。前の工程では大助かりだったので感謝している。
今回、新たに参加するウアには、彫像のモデルになってもらう。
さすがに何の見本も無い物を作らせるのは難しいと思ったのと、身長が175cm程度の彼なら丁度良い大きさだろうと感じたからだ。
彼を元に、大きさに余裕を持たせた輪郭を、竜人の二人に彫ってもらう。
第一工程と第二工程の間、暇をしているドワーフとエルフには、他の雪花石膏の石や岩に木の枝や他の石を使い、細かな加工や仕上げ段階の練習をしてもらっていた。
その練習を観察していると、手で持てる程度の石への微細な加工はエルフの四人が向いており、形を整える加工はドワーフの四人の方が向いている事が分かった。
その後、加工の方法に慣れ始めたのを見計らって、彼らにウアの体を隅々まで観察させた。
頭のてっぺんから足のつま先まで、念入りに見て触ってもらい、肉の付き方や顔の造形などを把握させる。
エルフとドワーフの女性二人も、ペタペタと色々な所を触るので、男の反応してしまうウアの様子をアーウが見て、彼の頭を叩くという微笑ましい光景だった。
「すまんなウア。
わざとじゃないのは分かっている。
程々にするようにアーウに言っておくから頑張って耐えてくれ」
と、適当にウアを慰めながら皆に指示を出していき、細部まで観察し終わった8人には、竜人の二人の工程が終わるまで、手頃な石や岩でウアの体の色々な所を再現できるように練習を繰り返していてもらう事にしたのだった。
そして、五ヵ月が経過した頃、竜人の二人が輪郭部分を彫り終り、最後の工程へとたどり着いた。
ここからは、エルフとドワーフの8人に得意とする部位を担当してもらい、慎重に作業を進める。
さすがに8人全員で同時に作業をするのはスペース的に無理なので、午前中はエルフ達に作業を行わせ、午後はドワーフ達に交代して行う事にした。
慎重に作業を進めている為、進行速度はかなり遅くなりはしたが、彼らは根気よく作業を進めてくれた。
木の枝や尖らせた石で細かく少しづつ削り、木の皮などを使い磨き上げていく作業を繰り返し繰り返し行い、やがて月日が経ち……――
――……雪花石膏の大岩を川から運んで来てから三年後。
ついに待望の石像が完成したのである。
この島に最初に生まれた人であるウアの姿形を元にして作られたその彫像は、白い台座に寝かされ、陽光を浴びて輝いている様に見えた。
今のウアの様な長髪でなく口元に蓄えた髭も無いが、その他は細部に至るまで生き写しの様な造形をしている。
ようやく準備が整った。
やっと世界樹とは別の体を持てるかもしれないと思うと、ワクワクとドキドキが混ざった複雑な気持ちになってくる。
「皆の者。彫像が完成した。
長い間頑張ってくれた事に感謝する。
これで私の望みが叶うはずだ……」
皆を集めて完成の報告と感謝を述べると、ウアが不思議そうに聞き返してきた。
「望み……ですか、大樹様?
この石像を作る事が目的だったのでは?」
あれ?
今まで俺の新しい体を作る為だって言ってなかったっけ?
思い返してみると、石像を作る事だけに傾注していて、その辺の事は伝えてなかったかもしれない……
まぁ、それでも無事に完成したんだし些細な事だな。
「うむ。この彫像は私の新しい体となるのだ」
「「「えぇ!?」」」
俺が答えると、皆は驚きの声を上げて驚愕の表情になり固まってしまった。
そんな驚く事言ったかな?
いや、そういえば、俺の事なんて何も話してなかったか。
でも何て説明しよう?
この世界における俺の存在って……やはり神様になるのか?
でも神様って、その本人が神様だと言ったからって神様になるってもんじゃない気がするんだよなぁ。
そんなこと言う奴はペテン師だと思うのだ。
うーん……
まぁ、俺の事を説明だけして、あとは皆が決めさせよう。
「丁度良い機会だ。
この彫像を体にするという事も含めて、私の事も皆に説明をしておこう。
私は、この世界の天上にある……――」
パソコンやら現代知識やら、皆が理解しにくい事は抽象的な表現にして、俺自身にも分からない事はぼかして、ここに至るまでの事をかいつまんで説明した。
「――……そうして私はこの世界樹に降臨して宿ったのだ。
其処からは皆も知っている通りだ」
俺が話し終えると、説明した内容をいち早く理解したらしいエルフィーが尋ねてきた。
「えっと、それでは大樹様、いえ世界樹様?
大樹様は世界樹様では無くて、その体の……
世界樹は大樹様が地上に植えた物で……」
うん、前言撤回、まだ混乱しているみたいだね。
まぁ、いきなり理解しろなんて無理な話か。
「落ち着きなさいエルフィー。
この世界樹は地上で活動するための体として使っているだけで、私自身と言う訳では無いのだ。
この樹木の体では色々と不便に感じていたので、その彫像を皆に用意してもらった訳だ」
「なる……ほど?」
まだエルフィーも皆も不思議そうにしているが、説明も一通り終わったので、さっそく彫像へ乗り移ってみようと思ったのだが、一つ問題が発生した。
どうやって乗り移ればいいの?
たしか世界樹に初めて降臨した時は、上の世界でパソコンの画面に突然表示が現れたはずだが……
あの時は皆に地震や火山の噴火で危機が迫っていた。
もしかして、皆に何か起きないと神体は生まれないのか?
ちょっと謎パソコンの方で降臨出来る様になってないか調べて来るか。
「では、私は彫像に宿る事が出来るか試してくる。
皆も上手く行くように祈っててくれ」
そう皆に言い残し、俺はパソコンの前に戻った。
この3年間で、この謎パソコンで出来る事は色々と把握しているのだが、何かを神体にする方法などは判明していない。
色々と彫像を調べてみたのだが、石像だという情報と素材名程度の事しか表示されない。
これは、GPで何とかするしかないのだろうか……?
GPはそれなりに溜まっていて、今は18くらいある。
しかし、パソコンでの操作だとツールなどを使用した画一的な事しか出来ないんだよなぁ……
これは、一旦地上に戻って――
と、方策を考えながら地上に戻ろうとした時
画面に『オブジェクトが神体になりました』とポップアップ表示が現れた。
神体No.2 座標:XXX.XXX.XXX オブジェクト名:石像
表示された内容に下には『閉じる』と『降臨』のボタン。
やった! 出たぞ! さっそく降臨……
いや待て、ノリや勢いだけでやって色々とやらかしている事を思い出すんだ俺!
世界樹とは違い今回のは鉱物なんだし、動ける体にならず石像のままだった場合は、意識などが影響を受けない様に気をつけねば。
ちゃんと失敗した時の事も考えておけば、落胆も少ないはずだ。
そう……ダメだったら別の方法を考えればいいのさ……
3年で俺も成長したなぁ。
よし! 心に保険もかけたし、さっそく降臨だ!
俺はドキドキする胸の鼓動を感じつつ降臨のボタンをクリックした。
すると、今までと同様に白い光に包まれ、不思議な感覚と共に地上に向かって急降下して行った。
向かう先は、世界樹のすぐ近くに在る石像だ。
石像に衝突すると思った瞬間、視界が光で真っ白に染め上げられ、その光が消えると、世界樹に宿った時とは違い、真っ暗闇の世界になった。
いや……違う。
これは暗闇などではなく瞼を閉じているだけだ。
体に生身の時と同じ感覚がある。
ゆっくりと瞼を開けるとそこには――
――「天井は無いが、世界樹が見えるな……」
起き上がり周りを見てみると、皆が跪き驚きの表情で俺の事を見ていた。
どうやら、皆は俺の為に祈っていてくれたらしい。
俺は自身の体を見ると、あの雪花石膏の像ではなく生身の肉体になっていた。
「無事、新しい体になれた。
皆の者よ、感謝する」
そう告げると、皆も歓声を上げて喜んでくれたのだった。
――第一章 創世編 終――
GP:18
これで第一章、創世編は終わりです。




