第15話 夜の炎と知恵
皆のおかげで無事、雪花石膏の大岩を此方まで運ぶ事が出来た。
そして、皆の疲労と傷と汚れを洗い流す為に俺が使った癒しの雨が止むと、その頃には日は傾き夕方となっていた。
大仕事を終えたであろう皆は、疲れて直ぐに眠りに……つかなかった。
どうやら癒しの雨の疲労回復の効果の所為で、元気一杯になってしまい、巨大な岩を皆で協力して運んだという興奮もあり、なかなか寝付けないとの事だ。
「なので、何かお話してください!」
と、俺の根本で元気いっぱいのエルフィー達が騒いでいる。
そうは言うけどね君達、もう日が暮れて夜になりそうなんだが……
それに次のアレンジ昔話はまだ出来て無いんだよなぁ。
あのモモタロウの話のせいで、色々とヤバげな知識(主にエルフィーにだが)を与えてしまった事が判明したので、次に話すのは穏便な物にしようと考えていたのだ。
なので、まだ次の話の構想が出来ていない。
うーん、この目が冴えて眠れない者達を程よく疲れさせて、おねむにさせる方法は無いものか……
さすがにもう夕方なので肉体的な事をさせるのは危ないし……
こんな時は、逆転のマリーナントカネットさんの発想が大事だな。
体がダメなら頭を疲れさせればいいじゃない。
と言う訳で、俺は皆に指示を出すことにした。
「わかった。
御話では無いが、少し皆で出来る余興を催そう。
まだ眠たく無い者は、小枝を1人1本だけ探して持って来なさい」
そう言いつけ、皆が枝を取りに行っている間に俺も魔法の準備もする。
もう日が落ち始め辺りが暗くなりかけている。
何かをするにしても明かりが必要になるので、俺は火の玉を中空に浮かべるイメージをして、火事などが怖いので大きくなりすぎない様に慎重に調整する。
『火の玉よ、辺りを照らせ』
言葉と共に魔法を放つと、少し離れた所に小さな火の玉が浮かび、直径1m程まで大きくなると、辺りを爛々と照らし始めた。
暫くするとエルフィーが小枝を拾いこちらに戻ってきて、空中に浮かぶ火の玉を見上げながら
「これは……火ですか?
なんでこの火を出したの大樹様?」
と、その火球を見て困惑する者達の代弁をするように尋ねてきた。
「もう暗くなるからな、周囲を明るくするための太陽の代わりだ。
使い方を誤ると危険だから、まだ皆には必要無い物なのだが、今日だけは特別だ。近づきすぎると熱いから気をつけなさい」
そう説明すると、皆は素直に従い、火の玉から少し離れて、キャンプファイヤーの時の様な感じで、火球を囲むように集まり始めた。
森の周辺から全員が枝を持って戻って来たのを確認してから、これから行う事の説明を始める。
「よし、皆集まったな。
皆は今まで他の者と揉め事や喧嘩が発生した時、主に力の強さで勝ち負けを決めてきた。
今日は、人には力を使わなくても優劣を決める方法が有るという事を教えよう」
そう説明すると、皆は火球の光に照らされながら不思議そうな表情をし始めた。
だが、エルフィーには驚愕の内容だったようで、意気込んで聞き返してきた。
「た、大樹様! そんな事が出来るの!?」
彼女は種族的にも年齢的にも、皆の中で力に関しては貧弱な部類なので、ことさら驚いたみたいだ。
「うむ。ここ最近、皆は言葉を覚え始めたな。
その言葉を覚えるのと同時に知識も獲得し始めた。
これから行う遊びは、その知識を活用していく為に必要になる、知恵という物を使う。
普段は無意識に行っている行為だが、それも鍛えると一種の力になるのだ。
これから、その知恵を他の者と競い遊ぶ、知恵比べを行う」
皆にこれから行う目的みたいな事を説明すると、エルフィーは思案気な表情で考え込み始めた。
他の者とは違いGPによって知識を与えられていて、頭の中に色々と情報が埋まっている彼女にとっては思う所が有るのかもしれない。
「なに、難しい事では無い。今回は1対1で行う簡単な遊びだ。
先ずは、そうだな……
ウアよ、足元の地面に拾ってきた小枝で、縦に少し間隔をあけて同じくらいの長さの2本の線を引くのだ」
ちょうどペアになっているのが見えたウア夫妻に、遊び方の説明の手伝いを頼む事にした。
突然指名されたウアはコクコクと頷いてからしゃがみ込み、地面に二本の線を描いた。
「次にその二本の線に重なるように横の線も少し間隔を空けて二本描いてくれ。
……そう、それで大丈夫だ。
皆、ウアの描いたように近くの地面に枝で描いてみなさい」
ウアと皆に漢字の「井」の様な図を地面に描かせる。
そう、今回皆にやらせるのは〇×ゲームだ。
マスの数を増やしたり、色々とアレンジすれば奥行きも広がる遊びだが、今回は基礎となる3×3の一番簡単な物から教える。
「これはマルバツゲームと言い、その線で描かれた9マスの――」
俺は全員にルールの説明をしてから、近くの者や好きな者同士で組ませて、先攻と後攻で交互に対戦させてみる。
ちょいちょい居るペアになれない者達には、俺が相手を見つけて組ませたりして遊ばせた。
なんだろう……学生時代の嫌な記憶が一瞬フラッシュバックした気がするな……いや、気のせいだろう。
負けたり悩んだりで癇癪を起こした者達を、たまに叱ったり宥めたりしながら、皆が〇×ゲームで遊んでいるのを眺めていると、俺の近くにエルフィーがやってきて、俺と遊びたいと言ってきた。
どうやら彼女は、他の者とでは勝負にならないらしい。
ふふん、俺に勝負を挑もうなどと小癪な奴め。
返り討ちにしてくれるわ!
そんなこんなで、皆でわいわいと遊びながら、その夜は更けていくのだった。