第14話 魔法の雨
エルフィーとウアやエルフ達のおかげで、川の中のあるという白い岩を岸まで運び出す事は出来た。
次は此処まで運んでこなければ。
聞いた話から推測すると、此処から岩の場所までの距離は1kmとちょっとはある。
現代の様に大きくて重い物を運ぶための車や重機などはは無いし、人力のみで運ぶしかないんだよなぁ。というか人力以外の物が何もないんだが……
魔法も人力の内に入るのかな?まぁ、それはいいとして。
俺は皆が川と森まで行ってる間に、岩をここまで運搬してもらう力と持久力を併せ持ったメンバーの選定をしていたのだが、これは力持ちの者のみでやらせるよりも、人間と獣人とドワーフの大人の男達全員で、短い距離をこまめに交代して運ばせた方がいいかもしれない。
というわけで、大人の男達に呼びかけて参加してくれる者は全員招集する事にした。
だが、参加を呼び掛けてみると、何故か大人の男達全員どころか女子供まで手伝いたいと拙い言葉と仕草で伝えて来てしまった。
さすがに赤子を抱いた女性には危険だと思ったので、子育て中の者には子供の面倒を見る事は大切な事なので、そちらを優先するように言い聞かせた。
それでも参加者は総勢150人ほどになってしまったわけだが……
手伝える少年少女や女の者達には、別の作業を考えて割り振る事にした。
大人の男達には大きな岩を運ぶという重労働をさせるのだし、お腹が減ったり水分補給が必要かもしれないとも思っていたので、丁度良いのでそれらの事を頼むとしよう。
「そうだな……エルフィーより背が低い者は私の葉を拾い集めて、岩を運んでる者達に届ける役目を頼む」
食事に関しては体力回復などの効果もあると思う世界樹の葉を、少年少女に拾い集めさせて運んでもらう事にした。
問題は水分補給なのだが、この島は気温的には暑くもなく寒くも無い場所なので、そこまで大量には必要ないと思うが、やはり水は用意してやりたい。
だが、まだ道具や器などはさっぱり無いので、水を運ぶ器の代わりになる物は何かないか?と探すと、近くの池にハスらしき植物が生息しているのを見つけた。
「残った女達は、近くの池に有る丸く大きい葉を取って、それで水を汲んで岩を運ぶ者達に飲ませてやりなさい」
手伝える女性達には、あの葉を取ってきてもらいコップ代わりにして、皆への水分補給担当になってもらおう。
皆の担当が決まったので、ケガなどに気を付けて急がず慌てず慎重にと注意して皆を送り出した。
後は無事に此処まで運んでくるのを祈ろう。
皆の帰りを待っている間、少し暇になったので、エルフィーから聴取して判明した魔法の使い方を試してみようと思う。
たしか言葉に魔力を乗せて、イメージしながら放つんだったっけ?
まだ魔力の感覚という物が分からないのだが、GPと似た様な物なのだろうか?
下手にやって間違ってGPを消費したら怖いし、焦らずに魔力の感覚を探るとしよう――
――小一時間、体内に有るらしい魔力を感じようと頑張ってみたが駄目でした。
どうにも体内に感じるGPの力にばかり気が行ってしまい、他の力が感じられない。
なんというか、強い光があるせいで、近くに在る他の物が見えなくなる感じに似ているな。どうしたもんか……
……少し気分転換でもしてくるか。
てなわけで天空?天界?何処に在るのか疑問なパソコンの前に戻って来た。
何時もの流れで供物の果物を取出し、モグモグしながら地上の様子を眺めてみると、岩が順調に運ばれて来ているのが見えた。
んー、特に怪我人も居ないみたいだし大丈夫そうだね。
しかし、魔力ねぇ……
なんとか判別できる方法は無いものか……
せめて、有る状態と、無い状態を体感できれば、判別も付きやすいんだがなぁ。
世界樹の体で、神語を早口で喋りまくって減らしてみるか?
……ダメだな。
なんせ世界樹のMPは5800も有る。
しかも回復速度も尋常ではないのだ。
言葉を発しながらでも回復してしまうだろうし、何より独り言を地上の者達に聞かれるというのも恥ずかしい物がある。
この案は却下だ。
「こっちで独り言を言う分には安心なんだけど……」
と声を出してみたが、やはりこの生身の体の時は、普通に喋っている感じだ。
こちらで神語を使えれば魔力が減るのを感じ取れるかもしれないと思ったのだが、そもそも世界樹の体では無意識に使ってるので、この生身の体で意図的に使う感覚が分からない。
ん……?
生身の体と世界樹の体?
そうか、この生身の体と世界樹の体で比べればいいのだ。
今、この生身の体でもGPの力の有無は感じている。
でも世界樹に宿っている時とこっちとでは、GP以外に感じる物はかなり違う気がする。
身体構造や生物的な面でも違うのだから当然ではあるが、それでもGPという不思議パワーはどちらの体でも同じ量で同じ性質の力として感じているのだ。
なら、それ以外の感じる力を一つずつ比べていけば、魔力を特定できるかもしれない。
だがしかし……
この方法って、こっちと地上を何度も行き来しなければならないな……
……仕方ない。
まだ地上にダイブする感覚には慣れて無いけど頑張ろう……
ファイト俺!
少しだけ気合を入れて地上に降臨する。
近くに居た、岩の搬送作業に従事していない者達に、少しの間ピカピカ光るけど気にするなと告げてから、世界樹の体に感じる感覚を確かめて、また生身の体に戻り、体内に感じる物を選り分けていく。
何度か繰り返すうちに、体に宿る力の分布と存在する場所が分かって来た。
GPの力はかなり強く、自分自身の精神的な頭の中にあり、その精神の中の一点に集中して凝縮されて、強い光を放っている感じだ。
それとは別に、生身の体では殆ど感じられない物だったが、世界樹の体の時は自身の体の中心から循環するように広がり、体の隅々まで薄く広く行き届いている力の様な物があった。
これが魔力なのか?
双方の力の性質的な物は似ているが、完全に切り離されているし別物のようだ。
この魔力らしき力を、言葉に乗せて出せばいいのか?
声に込めるにしても、体内で魔力を集めたり動かしたりの方法が分からなかったので、色々と試行錯誤していると、何となくだが体内で循環している力の中心付近に集める事が出来た。
この集めた力に、イメージを籠めながら声と共に出す……
……でも、何をやってみよう?
ファンタジー世界ではお約束なファイヤーなアローやボールがいいか?
イメージもしやすいし……
だめだ、失敗して火事とかになったら危険すぎる。
攻撃魔法系のはボツだな。
何か変な被害を出さない感じの物がいいな……と、俺が世界樹に宿り試す魔法を考えていると、視界にちらっと白い物が映った。
周囲に広がる森の東側から、うっすらと喧騒が聞こえてきて、白く大きな物が動いてくるのが木々の間から見える。
どうやらあの白い岩が、見える所にまで来たようだ。
おぉ? 大きいぞ。
あれなら成人男性くらいの大きさの彫像なら充分作れそうだ。
遠目ながら、やっとこの目で、エルフィーの言っていた白い岩を見る事が出来て、ちょっとテンションが上がって来た。
あと2~300mくらいか?
10mくらいで次に運ぶ者達と交代して運んでいる様だ。
近づくにつれ、皆の様子も色々と見えて来た。
全員、体のあちこちに擦り傷や切り傷が出来ていたり、岩の運搬で疲労がたまっり地面にへたり込んでいたりと、慣れない森の中を行き来したせいで足を怪我している者もいる。
だが、それでも皆は岩を運ぶ為に頑張っていた……
皆をこんな大変な目に合わせるとは思っていなかったので、俺は申し訳ない気持ちで、上昇していたテンションも下がってしまった。
いや、気落ちしている場合ではない、ここは皆を応援ねば。
『皆! もう少しだ! がんばれ!』
俺は、大きく力を込めて言葉を発して、皆を応援した。
その瞬間、先程まで試行錯誤をしていて体の中心に貯めていた、魔力と思われる力が解き放たれ、それが周囲に広がり、皆の体を包み込むのを感じた。
すると、汗だくになりながら、ゆっくりと岩を運んでいた者達が、急に力が漲った感じに変わり、運ぶ速度も徐々に上げていったかと思うと、駆け足にになり、あっという間に俺の目の前まで岩を運んできてしまったのだった。
これはもしや……魔法か?
皆を応援する声と気持ちに反応して補助魔法みたいな物が発動した?
これが……魔法を使う感覚か。
力を体の中心に集めてはいたが、皆に気を取られている間に殆ど散ってしまっていたというのに……
……それでもこの効果か。
世界樹の持つ魔力の桁が違う所為かもしれないな。
岩を運んできた者達も驚いているのか、岩をその場に置いた後、自分の体を確かめている様子が見てとれた。
遅れて他の者達も岩の近くまで来て、岩を運んでいた者達と自身の体の変調に驚いているようだ。
使った俺自身もびっくりだ。
とりあえず落ち着いて、皆を労おう。
「皆、私の為によく働いてくれた。感謝する」
ちょっと混乱していたので簡素な言葉になってしまったが、感謝の意を言いながら皆を見渡すと、全員何故か嬉しそうな表情をしていた。
その中からエルフィーが進み出てきた。
「大樹様。この白い岩が欲しかった物でよいですか?」
そう尋ねて来たエルフィーを見ると、彼女も腕や足に小さな傷を色々と付けていて、顔や手足も泥などで汚れていた。
皆も全員、似た様な状態だ。
今までやった事も無い作業を、慣れても居ない森の中で頑張ったのだし、仕方のない事だろう。
だが、これは何とかしてやらねば俺も心苦しい。
「ああ、これで私の希望が叶うかもしれない。
皆、ありがとう」
そう言いながら、俺は魔力を胸に集めた。
イメージするのは皆の傷と疲れを癒し、汚れた体を綺麗にする物。
『癒しの雨よ!皆の体の傷と疲れを洗い流せ!』
集めた力をイメージした物と一緒に解き放つ。
解き放たれた魔力は皆の頭上で淡く光りながら広がり、そこから雲も無いのに、薄く緑や青に輝く雨が降り始めた。
その雨水が皆の体に触れると、あちこちに出来ていた傷が消えていき、顔や体についていた汗と泥に汚れも綺麗に洗い流されていく。
最初は皆も驚いたようだが、その雨が心地よいのか、だんだんと気持ち良さそうな表情になり、そのまま頭上から降り注ぐ雨を浴びるのだった。
その様子を見ながら俺は、心の中で皆に再度感謝の言葉を言った。