第13話 報告と説教
「大樹様! あの白い岩を川から出せました!」
お昼過ぎ頃に皆と戻って来たエルフィーは、喜色満面な表情でそう告げて来た。
「おぉ! 皆の者、よくやった!」
俺は嬉しい第一報に喜び、皆を褒めた後、岩の大きさや事の経緯を聞いたのだが、何か……妙な点というか、ツッコミどころが色々と有った。
まず岩の大きさが、大人8人程度で持ち上がるのか疑問に思える大きさだったのだが……
ウア達みたいに体格が良く、力持ちそうな連中なら可能なのかな?
と、一応納得はした。
水による浮力なども作用して持ち上げる事が出来たのかもしれない。
それでも無茶な気がするが……
次に、岩を岸へと運んでる最中に、ウアの孫のウーアムが川の中に倒れてしまい、それを助けようとしたウアと共に岩の下敷きになったらしい。
エルフィーもそれを見て、慌てて川の中に助けに行ってしまったと言うのだ。
だが、帰って来た者達を見ると、特に居なくなってる者も居ないしケガなどもしてない。
事故などが起きたら、知らせに来なさいと言ったはずなので、たいした事は無く、ウア達が自力で解決できたのかな?と考えながら聞いていたら、報告を続けているエルフィーが言った。
「そこでわたしは大樹様のお話を思い出したの!」
お? なんだ、ちゃんと憶えていたのか。
「二人を助けるには、わたしが川の水をどうにかしなければと!」
あれ……?
たしか何か起きたら知らせに戻れと言ってなかったか?
小さな手で握りこぶしを作り、力強く報告するエルフィーの話を聞きながら、俺は遠い目(木だから目は無いんだけど)をしていると、続きの報告内容が一瞬何を言っているのか理解できなかった。
「それで大樹様の教えの通り魔力を使い、二人の周りの水を退かしたんです!」
魔力を使って川の水を退かした?
え? 俺そんな事を教えたっけ……?
エルフィーは魔力……魔法を使ったというのか?
気になったので、詳しく聞くことにした。
「エルフィー、お前は魔法を使ったのか?」
するとエルフィーは、一瞬きょとんとした顔になった後、驚いた様な表情に変わり
「まほう……魔法と言う物なのですね!」
と、納得と喜びの表情をしながら答えた。
あ、なんか、いらん知識を与えてしまった気がする……
こんな楽園みたいな場所で、魔法みたいな物騒な物はまだ必要ないのだが。
神語でしか話せないと、こんなうっかりが起きやすいな。
気を付けよう。
気を取り直して、どうやって使ったのかを聞かねば。
「それで、エルフィーよ。
どの様に力を使い、あの二人を助けたのだ?」
それとなーく、方法を探ってみる。
俺の教えで使える様になったと言っていたので、その教えた俺が使えないなどと言うと、なんというか、ほら? 威厳的なものがね?
それに、俺だって使えるのなら使ってみたいのだ。
この木の体で使えるのかは不明だが、ステータスにMPの表記が有るのだし使えるはずだ……使えるといいなぁ。
「えっと、大樹様のお話で出て来たウラシマンの真似をしたんです。
体に感じてた魔力を神語みたいに言葉に乗せて、水を退かすイメージをしながら……えーい!って。
そしたら川の水がはじける様にウアさん達の所から退きました。
その後は魔力切れで眠っちゃったので判らないです」
ふむふむ、なんとなく方法は分かった。
後で俺も試してみよう。
というか、エルフィーは魔法を使える様な技能を持っていたか?と思ったので、彼女のステータスを確認してみる。
名前:エルフィー 性別:女 年齢:15 種族:エルフ
SID:178 Lv:17 状態:健康
HP:73 SP:28 MP:93
STR:12 DEF:13 VIT:16 DEX:15
AGI:17 INT:59 MND:34 LUK:20
技能:神語10 偽神語3 水魔法2 補助魔法1
いつの間にか水魔法と補助魔法というのが増えていた。
これは使ったから追加されたのか?
でも補助魔法なんてどこで使ったんだ?
Lvも少し上がっているし、それで覚えたという可能性もあるが……
その可能性は低いか。
それなら他の者も覚えていても良いはずだし、ざっと見た限り他の者達は神語以外の技能を持っているのは、竜人達がブレス1を持っているくらいだ。
その辺は後でのんびり考えてから検証するか。
報告の続きを聞くと、その後エルフィーが起きると、森の調査を頼んだエルフ達も近くに居たので皆で帰って来たとの事だった。岩はエルフィーが寝ている間に合流したエルフの皆が手伝ったのか、岸まで運んであったらしい。
しかし、無事に済んだから良かったものの、一歩間違えればウアと孫のウーアムが溺れて死んでいたかもしれない。
下手をすればエルフィー自身もだ。
やはりここは注意をしておくべきだろうか?
しかし、さっきまで褒めて褒めてオーラ全開のワンコの様な表情で話す彼女を叱るのは少し気が進まない……
いや、彼女の今後の為でもあるのだ、ここは心を鬼にして叱らねばなるまい。
「エルフィーよ、そこに正座しなさい。正座はわかるな?」
そう告げると彼女は「はい」と言い不思議そうに、その場でちょこんと正座をした。
「今回、私がお前に頼んだのは、皆への説明や緊急時の私への連絡だ。
それは言葉や神語を自在に操れるのが、お前しか居なかったからだ。
決して危険な真似や無理をしてまで、事態の解決をして欲しいと望んだわけでは無い。
今まで使ったことも無い魔法を試して上手くいったのは良いが、魔力が足りなかったり、きちんと発動しなければ、お前も溺れていたのかもしれんのだぞ」
ちょっと強めに言っていると、だんだんと彼女はしょんぼりしてきてしまった。
「だが……人が危機に陥っているのを見て、真っ先に助ける事を望み、そしてそれを思いつける賢さは、エルフィーお前の素晴らしい資質だ。
今回は反省点もあるが、よくやったぞエルフィー!」
やっぱり鬼にはなれなかったよ……
エルフィーを褒めると、彼女は驚いてからピョンピョンと飛び跳ねながら喜んだのだった。
まぁ、今後、気を付けてくれればいいだろう。