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KLaRoa  作者: 仲乃 陣
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両親がいない。

それは僕と真紘にとって嫌という程理解出来る感情だ。考えたくもない。僕は両親との思い出が少しだけならある、しかし、(やまい)にかかりながらも必死になって自分を生んでくれた母親の顔を真近で見たことがない真紘にとっての悔しさは兄妹であっての僕でさえも拭うことが出来ないだろう。

同じ境遇に置かれた人物がもう一人いた。


「雪乃 夢月…」


後切は確かそう言ったか。

人・動物・植物。生きとし生けるものだけでなくすべてを照らし出す月。

夜の暗き絶望の世界を祓う唯一の存在。

良い響きだ。

月に敵など存在しないーーそれは誰であっても彼女を傷つけてはならない。

そんな彼女に…何故。


僕と後切はその子の真相を探索すべく担任ーー藤井先生に尋ねることとした。

いつも通りの格言Tシャツにそれをわざと目立たせる様に開けた白衣。

今日の文字は漢字を縦に一直線。

漢の中の漢の字。

日本男子であれば一度は使いたい、

【第六天魔王】と書いてある。

けど

もう意味が分からない。

因みに天魔とは仏教で言う修行を妨げる悪魔である。

そして最後にお喋りな関西弁。いつも余計に一言多く、非常にもったいぶった話し方をするところが益々癪に触る。


「おう!後切と片桐やないかい。どないした?また二人揃って?仲良さげでなぁ。あ、そうや休暇の件どないなった?部顧問にもなってやったんやからそれくらいの奉仕はしてくれんと。あ、でも待てぇよ、部室用意してへんわ」


ハハハッと僕達を嘲笑するかのような悪い方を後に残した。

もしも、教師ではなかったなら……。

そんな事は主題では無い。

脱線してはいけない。


「あのですね!先生。私達はこの学校の制度の『選抜』で選ばれてきた女生徒がいるって話を風の噂で聞いたんですけれどその子は今いったい何処にいるというんですか…」


先に話し始めるのは定着してきたのか後切。というか、固定してきている。

すると、奴はまるで今迄の威勢を失ったかのように。


「……世の中にはな、知らなくてもいい物ってのが存在するんだよ。別にお前らが気にする問題でもねぇ…」


その時は、その時だけは得意の方言を使ったような喋り方を全面的に封じ込めまるで、何かを隠す様に、何かに恐れる様に…封ずる様に…僕達に言葉を発す。

なんだろう…。

一体。

おかしい、普通じゃない。

一人の女生徒じゃないか?何故そこまでの嫌悪を染み出させるんだ。


「あのなぁ………」


「どういう意味ですか。それは、一体」


キレそうになる僕が奴に話しかける所に後切は素早く静止させるように言葉を発した。


「何故彼女は先生にとってそんな敵対するかのような言葉の発し方をするんですか。何か……あるんですよね、、?先生」


「………」


「………」


奴は呆然と椅子によりかかり無視を決め込む。

雪乃 夢月……。柔らかく響いてそれにしっとりとした感触。そこに、何故こうも言われる理由があるのか。

両親がいない。

親がいない。

親がーー居ない。

僕と境遇が同じだ。

実に…滑稽な話だよな。

でも、そんな…女の子が…そんな事ってあってはならない。


「………」


僕はいいんだ。

でも妹はーー母親の顔を写真越しにしか見た事がないだろう。それに関しては妹がどの程度の闇を抱えているのか、僕には到底検討がつかない。

それって…

可哀想だよ。

実にーー不憫だよ。

理不尽だよ。


「…その雪乃ってのはな、この世で生をうけて空気を吸った瞬間からなぁ両親に見捨てられたんだよ。つまり…棄てられたんだよ」


僕にはソレがハッキリ言って、力強く明言できるほどに許せないと感じた。

否、言葉では言い表せなかった。


ダッ


僕は勢い良く奴の胸倉を思い切り掴む。

自分でもあまり感情のコントロールができなくなっている。


「おい…その雪乃ってのは今何処に居るんだよ」


声が震える。其れが空気を伝わって振動し奴の耳にも届く。


「そいつは…両親に棄てられた後に近くの孤児院に拾われた。こっからそう遠くはねえ。なんたって、病院に親の居なくなった赤ん坊なんか置いておけねぇからな」


その言葉には一切の優しさとかそんな、甘怠れたものは含んでいなくて、ただ事実を淡々と、なんの脈絡もなく語るそれだった。

そこで奴は、性懲りも無く煙草を一本小箱から取り出し、口に咥える。

火はつけない。

つけられてたまるかーー。


「けど、まあ。お前らの気持ちは分かった。知ってること、少しだけやったら話しても構わんけど…なあ…場所…変えようや?」


職員室。

藤井は腐っても教員。

僕がやった胸倉を掴む行為など到底許されるわけもなく、いざとなってよく周りを見てみると、その場にいた教職員が僕たち(特に僕)を睨みつけていたり、最近入った女性の新米教師なんかは、僕らのこの一触即発の状態を危惧して慌てふためいている様子だった。

だから、素直に

僕は、それに応じることにした。



予備教材保管室。

僕たちが入った部屋はそんな名前の部屋だった。そこに後切と僕、対面する形で藤井の配置。そこで、藤井は待ってましたと言わんばかりに咥えていた煙草の先端を光らせ始める。

そして、椅子に深くもたれ掛け、煙を僕たち生徒には直接かけないようにしているのか、頭を上げ、真上に白煙を放出する。


「なあ、窓…開けてくれへんか?」


この部屋に窓らしきものは一つしかなかった。しかも、藤井の背後にーー。

自分で開けた方が何倍も早く済むはずである。

けど、藤井は僕らに頼んだ。

そんな態度に、辟易していた僕らは椅子から一歩も動くつもりはない。


「まあ、ええわ。自分でやった方が早え」


藤井は存外僕らの意向を目でキャッチしたようだった。

椅子から立ち上がり、ロックを解除し、窓をゆっくりと開けていく。

全て開け終えた所で窓の淵に体重を預け一服。


「あれは…2年ほど前やったかなあ。

俺が雪乃 夢月の担任に配属された時、学校に一人来てない奴がおる思て、そいつの家に電話しようとした。そしたらそいつの住所が孤児院やて。俺も呆れて笑うてしもうたわ」


雪乃 夢月。

その名前は全てを照らす月であり、人間の真実、心をも照らし出す月である。

真心を与える存在。


「それで、俺は早速電話をかけた。

そしたら、今はもういねぇんだと、俺もそん時は里親に拾われたんやないかと思うて、聞いて見たけどもそんな事実はないそうや」


「じゃあ…その子は何処へ」


「ーー自分から離れていったーーいや、この場合逃げていったって言った方が通じるか」


ハハッ。

と、最後にこちらの事情を一切無視し、焦燥感を嘲笑するかの様に、野暮ったい笑いを挟む。

そんな、勿体ぶった話し方をする藤井に、僕は尋ねる。


「離れていったって、、どういう意味だよ。犯罪とか起こしたってわけでもねぇんだろ?なら、離れる意味とかない筈だ!まず、どうして生まれた瞬間から、棄てられなきゃなんねぇんだよ!」


頭に血が上って行く感触が嫌という程感じられた。

両親がいて、両親から愛情を貰う。

そんな当たり前の事すら受けることができないのだ。

そんなのって、ねぇよ。

ーーねぇよ。

人権ってのは何の為にあんだよ。

人が一日を幸せに生きる為にあるんじゃねえのかよ。


「犯罪とか犯したってのは生憎、案外間違っちゃいないぜ」


「雪乃の両親からしてみりゃ、生まれてこなくてよかったのに生まれてきた。欲しくもないのに、欲しがられた。それはもう、その時点で、両親からしてみりゃとんだ犯罪だと思うんや」


限界だった。

僕は、勢いよく両手で卓上を叩く。


「じゃあ、お前はそういうことだと決め込んで、雪乃に対してなにもしてやんなかったのかよ!!お前はそれでも、雪乃の教師なのかよ!!!」


「ーーしたさ。」


か細い声で奴は声を挟む。

次の瞬間、僕たちは軽快な笑いを飛ばす陽気な関西人の印象とは全く似ても似つかない、本気でキレている藤井をみた。


「奴ら両親の住所を調べ上げて、家まで乗り込んだ。けど、奴らは雪乃を棄てたことに対して微塵も悪意を感じてなかった。俺はその時ーーあいつらをぶん殴ってやろうとしたさ!!そしてーー殴った」


藤井の拳には途轍もなく力が入っている様に思えた。こいつもこいつで苦労していたんだと今になって思った。


「ーー心の中でだ…殴って、殴って、殴りまくった。二度と立てないようになるまで殴りまくった。ーー俺にはこうする事しか出来なかったんだ」


ーー俺は、臆病者だ。

最後にそう付け加える。


「だから、お前らも雪乃に関わるのはもうーー辞めろ……なんて、甘ったるい言葉を言ったってお前らには今のお前には通じない事は十二分に理解してる。だから、片桐」


ああ、そうだ。


「お前がーー雪乃を救ってやってくれ」


僕はーー言われなくてもそうしてやる。

親に棄てられ、本当の愛を知らない無垢な女の子を、僕はーー必ず、救って見せよう。

人を笑顔にさせて見せよう。

人の涙を僕が受け止めよう。

それがーー僕に出来る罪滅ぼしなのだから。


そうして手渡された二枚のメモには孤児院と両親のものかと思われる住所が2つ書かれていた。

僕はそれを無造作に受け取る。僕はもうーー雪乃を探し、学校に来させるようにさせる事しか考えていなかった。いや、それしか考えられなかった。

僕は、馬鹿だから人の事情とかいう情緒や、機微までは分からない。

だが、

人が幸せになれない理由なんて存在しないはずだ。


「行こう、後切。」


空は何処までも透き通り、太陽は全てを照らす。

やはり、春だ。

出会いの春、別れの春。

それを僕たちが決める事はできない。

ーーでも、それでも、僕はやってみせよう、

それを、たとえ神様が決定した既定事項だとしても。

春風とともに桜は散っていく。

それはまるで、親元から一斉に巣立つ小鳥のようだった。

どうも皆さんお久しぶりです。

冨元です。

大変長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。小説家になろうログイン用のパスワードを忘れてしまったり、携帯にメールが届かなかったりしてグダグダが続いておりました。

これからは少しずつ上げていくかもしれません(飽きが来なければ…)。

では、失礼します!

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