3
後切 結実と足を進める。
そして悠長に閑散とした緩やかな坂を一緒に足を揃え其々の家へと帰宅しようとしていた。家へ帰ってしまうと十中八九妹に叱られる事になると思う。しかも、コイツーー僕の師匠。要するに僕と知能において雲泥万里の差が生じていると言う事、師弟関係が生じている。
しかもだ、今日寝坊し、今日の朝御飯を作っていなかった身の僕にとって帰宅する事=死を意味する。
だから…。
家へ帰宅するのに少々の嫌悪感を抱いていた。何も話さないのか、と少々僕が心配を抱き始めた時、急に唐突に後切は話を持ちかてくる。
「ねえ、霧。正直に言って欲しいの生徒楽園計画部についてどう思う?」
此方を向き少し笑った顔で聞いてくる。そんなに生徒楽園計画部の施工が決定され嬉しかったのだろうか。
ここ剪灯高校からの帰り道の緩やかな坂。
まあ、今日は色んな事があったし、初めての出逢いも確かに沢山あった。部活動申請をしたのもお前だ後切。帰りくらいは楽しく行こうじゃないか。
「どう思うって、別にお前が取り決めた事なんだから僕は悪くは思ってない。強いて言うなら如何して楽園計画をしたがるんだ」
「如何してって、学校は楽しくもなく行っても誰からも褒めて貰える事もない非常にアンニュイな場所でしょ。そんな所に通い続けても日頃の鬱憤や不満が募る一方なの。だからね、私がこの学校を丸々楽園みたく作り変えようと思ったわけよ」
確かに言う通りなのかも知れない。
僕は今までずっとと言っていいほど劣等生として位置付けられて、成績は常にワーストクラス。普通なら学校は不満が募って当然だ。
そこで僕は一言。
「後切、序にもう一つだけ聞いていいか?」
「なに?」
「お前成績はどうなんだ?」
僕は何の抵抗も無くあえて聞く。
普通なら教えてくれないんじゃないか?という不安を抱えて。
「そりゃあ1位に決まってるじゃない」
「っ…………。最後の最後にもう一つだけいいか?」
「一体如何言う風の吹きまわしなの。
霧、私の個人情報がそんなに知りたい?」
そんなつもりは微塵もーーない。
ただ、聞きたい事があるだけ。
それだけ。
「いやあ、そんなつもりは甚だ無いんだ。後切スポーツもやって無さそうだし。僕の単なる憶測だけど普通に受験してきたんじゃねえのかって」
「スポーツもやって無さそうって失礼ね!
これでも中学の時、弓道部では主将を務めたんだから!」
僕は怒られ、後切はえっへんと威張る体勢で言う。でも意外だった。
弓道ーー弓の道。
後切が弓を引いて的を軽やかに射抜いている姿…なんかカッコ良さそうだし、とても派手にしてそうだ。
「でも、悔しいけど普通に受験して来たって言うのは正解よ」
「だよな。で、ここで重要な質問何だがその受験戦争でお前は何位合格してきたんだ?」
学年1位のお嬢様的…深窓の令嬢…。
まさかな。
そんな事はあるはずーーある。
「勿論、それもトップよ。無論、不正行為はしてないわ。純粋に自分の実力だけで入って来たんだから」
後切は何の躊躇も無く、そう続けた。
正に自信の塊、自信の権化そう言っても過言では無い、だって学年1位の女の子と学年ワーストクラスの僕がこうして肩を並べて歩いているんだから(ここで言う肩を並べると言う事は決して僕と後切が比肩しているという訳じゃない)。
「……………」
僕は黙り込む。ーーというより考えている。
「何?自分で質問を持ち掛けておいて、一人で黙り込む気なの?」
「いや、ただ後切。お前がこんなにも聡明で
僕とは比べ物にもならないくらいなのに、何でこの町の、田舎の私立高校なんかに来たのかって気になったんだよ」
普通ならば私立高校程度で1位合格しても余り世間では相手にされない。しかし、この私立高校で1位と言うのでは訳が違う。
高2の頃に一度だけ聞いた事が有る噂だが全国模試第2位の実力を持った子がいると言う話を耳にしたことがある。それをぶっちぎっての学年1位では根本的に考えると公立高校の方に行っても1位程度の実力を有し続けるはずだ。
それなのに。
何故、この自我の権化と言ってしまっても過言でない少女はこの私立高校にやって来たのか。
僕にはーー理解できない。
「単純な話よ、私がこの高校に来た理由。
それは、ただひたすらに大学進学だけを目指して勉強して、友達を作って、少しだけ恋愛して卒業していく。私はそんな事で3年間の貴重なうえに、2度とは戻らない時間を無駄には絶対にしたくは無いと思ったの」
それに比較的自由に行動の場が広げられる
私立高校に決めた、と後切は付け加えた。
それも言われるとそう思ってしまう。公立、公共性のある場。最終目的は生徒の大学進学、出来ずとも専門学校。
それはそうと私立に行ったら絶対行動の場が広げられるとも限らないと思うんだが、それは端に後切がうぶで世間知らずなのかは分からない。そんなの知る必要もない。
てか、待てよ
「なら、何で1年の時からお前は行動を起こさなかったんだ?普通偉大なる夢とか考えてたら最初から一人でも何らかの用意はしておくだろ。唐突に3年から始めるってどう言う事なんだ」
後切がその偉大なる夢の事業を大成させたければ自分で始めから何か行動を起こすべきだっただろう、高3になってから始めるのでは少し遅かった気がする。
「仕方ないじゃない。この学校、入部には何の支障もきたさないんだけど、いざ設立ってなったら却下されるんだから。なんか地域一の部活量って事もあって部活を新規に作成するなら細心の注意と厳密な審査が要するから高3までは設立出来ないなんて言うから。全く!騙されたわ」
僕の疑問を彼女は難なく解決に導く。
やはり彼女は僕と同じ境遇かーー勿論、入学して騙された方の。
そんな彼女の話を聴いていたら自然と笑みが溢れてきた。
「フフッ、ハハハッ」
「ハハハハッ」
後切も僕につられて一緒に笑っている。
笑った表情、何処と無く可愛いかった。
気付けばもう緩やかな坂も終わり、平坦な白色のコンクリートへと変わる頃。
突然後切は、
「ねえ霧。こうして70億分の1の確率で出逢うことができた仲じゃない。だからこの出逢いをきっかけに約束しない?」
約束ーー人として破ってはいけない物。破る事は道理に反する。
「どんな約束なんだそれは」
「これから私を支えてくれるっていう約束ーー」
それは恋のフレーズにも聞こえ、そうでもない風にも聞こえた。
真実は…知る必要も無い。
僕はーー了承する。
「分かったよ」
「ありがとう」
フフッ
後切はーー笑った。
それで、帰りの坂道は終了を迎えた。
見慣れた風景、見慣れた外観、そして見慣れた匂い。到底、朝に見た光景とはかけ離れていた。
僕の家。僕と真紘のたった二人暮らしの二人暮らしには似合わない程の少し大きい家。18年間住んでいる家。未だ未だ綺麗だ。
僕は外の空気を肺胞一杯に溜め、一気に吐き出す。
「…入りたく無い…」
つい本音が溢れる。
この扉の向こうには可愛い可愛い妹が腹を空かして待っていると言うのに。人として有るまじき行為。怖い訳…無い…筈。
玄関扉を開けた。
それは閃光の如く、俊敏な隼の如く僕の左頬のすぐ隣を瞬時に掠め玄関扉に勢いが良過ぎるほどに突き刺さる。
牛刀。
牛の肉を切る際によく使われる西洋包丁、フレンチナイフと一度は聞いた事が有ると思う。それがこれ。
全体的に細長く、先端は見惚れるぐらい鋭く尖っていて、刃がしっかりと反った設計になっている。こんなの頭に突き刺されば頭蓋骨にヒビが入る程度じゃ済まされない。
全くこんな事誰が好き好んでやるっていう…
「随分と帰りが遅かったじゃない。お兄ちゃん。いいえ、この際人生において既に没落してしまったお兄ちゃんって 呼んだ方が妥当かなぁ?」
その声、恐怖の響き。
正しく不協和音。
僕より低い身長。中3。ミディアムヘアの肩までの水分のあるお洒落髪。お決まりの赤カチューシャ。
「もう一層のこと没お兄ちゃんって呼んでもいいよね♪」
そして、満面の笑みである。
「人を勝手にカイジ見たく言うな!!ていうか、危ないだろ!包丁なんて投げてきたら!本当にお前は実の兄を殺める所だったんだぞ!」
「知らないよ、そんなの。今日の御飯当番をサボるような怠惰で、怠慢で愚かな為体を晒すお兄ちゃんなんて牛刀なんか相応してないからパン切り包丁ぐらいで頭から一刀両断した方がマシだよ」
おい、それもうただのジェイソンだよ。
ジェイソン・ボーヒーズだよ。
殺人鬼だよ。
無差別だよ。
怖えよ。
「本当、お兄ちゃんの実の妹として生まれてきた事が断腸の思いだよ!」
酷い!
「待て、真紘。じゃあ今から僕がお前の大好物のパエリアを作ってやるからそれで和解したらダメかっ…って危ねえだろう!」
有りとあらゆる種類の包丁が僕目掛けて瞬きの間に一つ、また一つと飛んでくる。
が、僕が話し終えた所で一旦妹による意図的な犯行に終止符が打たれた。
「本当!?お兄ちゃん、いつもは全く真紘の事考えてくれないから、全然作ってくれなかったよね。そうだよ、そういう所だよ!お兄ちゃん!その大義名分にもとっている所は嫌いじゃ無いよ」
断腸の思いとか言ってたじゃん。
さっきまで包丁を何のためらいもなく兄に投げまくっていた妹は一変し顔から般若の表情は一切無くなり、実の妹ながら母似の中々の美人顔に戻った。
実際の所は僕が朝寝坊し御飯当番の日を完全にサボったのが悪いのだが、その一件は妹の大好物を比較的高価な食材で作ると言う事で一件落着した。
僕はこう見えても知能指数は格段に低いが、料理の腕前ぐらいなら高校一と呼べる。かも知れない。
僕が調理を終え、パエリアが妹の前の食卓の上にのる。勿論、調理に先程の包丁の数々を使用したやつだ。
綺麗に洗ってからーー僕の血は一切付着していない。ていうかまず当たらないよう全て華麗に僕が交わした。若干焦り気味だったけど。
「ハァムッ。パクパク、パクパク」
真紘は僕特製パエリアを次から次へとほうばる。こっから見ると、本当に幸せそうだ。
ここで僕が真紘を師匠と呼んでいる事について説明したいと思う。
…
話をしよう。アレは今から2年前…いや、3年前だったかまあいい、僕にとってはつい昨日の出来事だ。妹には6通りの呼び名がある。
真紘、妹、妹ちゃん、真紘ちゃん、師匠、主君、なんて呼べばいいのか。
それもいいとして僕がもうそろそろ高校受験の歳になろうとした時。元々僕は頭が悪く高校受験何ぞに対処出来るレベルでは無かった。然し、我らが妹ちゃんは僕とは断然桁外れ!!その歳、15歳にして僕の習った高1・高2の範囲を全て習得してしまっている。
いわゆる天才少女?
よって僕は受験期に入ると同時に真紘に何度も頭を下げ、土下座までして何とか勉強を教えて貰った。その際、妹の呼び名は強制的に主君か師匠の何方かに限定され、今でもその名残が少々残っている。
今年から又、真紘に軍隊式勉強法とか言ってミッチリ締め上げられそうだ。
ーー朝3時起きのやつ。就寝は朝1時。
もう此処まで来ると軍隊でも無くただの非人道的行為。倫理もクソも無い。
ここらで妹の様子に切り替えよう。
閑話休題。
…
「はぁ〜、美味しかった。ありがとうねお兄ちゃん」
パエリアを食べ終えると真紘は何とも可愛らしい笑顔を僕に向けて来る。
「…美味しそうで何よりだよ。ハハッハハッ…」
はっきり言って出費が凄かった。僕のバイト5日ぶんの価値はあったな。
それから、真紘はバッ!といきなり立ち物凄いスピードで洗面室へ走っていく。
そして、約4分後またこのリビングへ戻って来て僕の前に勢い良く正座で着席する。
「お兄ちゃん!」
「なんだ」
いきなり真紘は僕の代名詞を口にする。
如何にも何か聞きたそうな口調。
「お兄ちゃん、料理とか家事とかさあ自分で一通り出来るんだからそろそろ彼女でも作ったら?」
突然の真紘の不意を突く様な発言によって僕は一瞬困惑した。
彼女ってーー僕は生まれてこのかた18年、女の子と付き合った事、手を握った事、一緒に映画を見る事などそんな経験僕には皆無と言っていいだろう。
しかし!
「いきなり何を言いだすんだ、妹ちゃんよ。確かに僕は彼女やそんな女の子と触れ合った経験がほぼ無いからって人を奥手だったり、純朴で味っけの無い平凡的な男子高校生と勘違いしてないか?」
率直に僕の心情を伝える。恥ずかしいぐらいのドストレートに。
「だって考えてみてよお兄ちゃん。普通、思春期に直面する男子高校生って同期の女の子か後輩のそれはそれは可愛らしい女の子を家に連れて来たりするもんだよ。お兄ちゃんなんて見てよ。「僕も真紘と同じで母さんに似てそこそこ格好いい」って我見を自負してた割にはこの家に入って来た女の子って私だけじゃない?折角そこそこ格好いいのならもっと迷わず人に自分を認めさせるべきだよ」
確かにそれは事実、家に女の子など妹以外侵入した事がない。多分此れからも…と、そこで僕はある人物を思い浮かべる。
後切 結実。
今朝初めて会ったばかりの気の強い少女。
『人を魅せる力を持つ少女』
まだまだ謎だらけ、まず僕達はそんな関係では無いはず。なんだっけ、僕がエスコートするんだっけ。偉大なる夢の。真面目に考えれば冗談としか思えないのだが彼女が老成していて考え方が世間一般と懸け離れているのかも知れない。
ーー今この考えさえも机上の空論として成立するかも知れない。
「じゃあ、お兄ちゃん。考え方を変えてみようよ」
そう言うなり真紘は両膝をついたまま腕をだだっ広く広げる。抱き付いていいよと言わんばかりの風貌、それと同時に胸元も少し見える。
「一体何の真似だ」
「シミュレーションだよ、シミュレーション。一種の。いや、心理テストって言うのかな、お兄ちゃんが好きな異性ともしも付き合ったりした時にお兄ちゃんが異性に対して蛮行をするか、それともその時の正しい対処法を実行するのかどうかのね」
「おいおい僕が18年間どの女子とも付き合った事が無いからってそれは舐めすぎじゃないか?それに僕は18年間妹となら毎日の様に接してきたから経験は豊富な方だと思うぞ」
僕は18年間本当に誰とも付き合った事が無い。女性との付き合いにとことん嫌われてきたのだろうか。
僕はーー熟考する。委細な所も全て。
「では実践に移りたいと思います。お兄ちゃんには既に彼女さんがいます。それはこの私、妹です」
突然の切り出し、いきなりの敬語使い。
というか、何故僕が妹と…と、なったがーー
恋は盲目。理性さえ奪い去る。
あくまでもコレはーーだとしたらな筈。
然し、僕の彼女が妹とは何とも粋な計らいとは行かないな。
悪く無いかも知れないが。
「片桐 霧矢は世界中の誰よりも片桐 真紘を愛していたとします」
「…………。」
憂鬱だ。
「そして、私達はお兄ちゃんの言葉「僕達二人だけの特別な家族を作ろう」という言葉によって私達は兄妹の一線を……」
「ストップ!ストップ!!待て待て待て!」
そこで僕は妹の言葉に言葉を上乗せしシャウトする。
「何よ、お兄ちゃん!これから話は佳境を迎えそうだったのにー!」
「いや、お前自分の立ち位置を十分把握した上で話をしているか!?付き合うとはいっても実の、血の繋がりの深い妹なんかと何故付き合わなけりゃ行かないんだ!」
「18年間誰とも付き合えなかったからお兄ちゃんは私に手を出してしまった設定だよ!」
「僕はどんなに貪欲なんだ!」
「それがお兄ちゃんじゃないの?」
「本当に分からないような疑問顔でそんな事聞くな!お兄ちゃんは本当に妹にまで手を出すようなそんなお兄ちゃんじゃない!」
話自体が全般的にエロゲ風に傾いているのは何故だろうか。エロゲ業界でも沢山出回ってるよな。
妹と兄が一線を越えて……。
是非、辞めておきたい。
「全く。仕方がないなあ、お兄ちゃんは。
じゃあ話の主要点の所を掻い摘んでいくよ」
「ああ。是非そうしてくれ」
「はあっ…。ある日、私が「お兄ちゃん…抱いて…」と言ってこのような情景となります」
と言って真紘は呆れた顔でまた腕を広げ直す。
「さあ、お兄ちゃんならどうするの?」
どうするのって…実の妹に………。
僕は、そんな事して良いのだろうか。
「遠慮はいらないよ♪」
よし、その言葉で決めた。
コレはシミュレーション。
言わば、検査。
言わば、実験。
言わば、妹による僕の詮索。
僕に彼女ができた場合どうするのか。それがもしも妹であっても容赦なんかしない!
くっ……。
次の瞬間僕は華麗に、俊敏にスタートダッシュを決める。勿論妹の腕を広げた中に包み込まれる様に、豊満な身体を押し倒す。
「ぐはっ……!!」
妹の短く、鈍った呻き声。それでも僕は衝動を抑える気はめっぽう無い。
そして、自身の両手で妹の両手を掴む。コレで僕に一切反抗出来ないだろう。
「どういうつもりなのお兄ちゃん!まさか、本当の本当に兄妹の中の一線を超えちゃう気なの?」
「容赦しちゃいけないんだろ?じゃあ僕も思う存分やって良いってことだよなあ」
「遠慮しなくていいって確かに言ったけどバカのお兄ちゃんが本当にそこまでやるとは意表を突かれたよ!」
「意表って何だ?ていうか、お兄ちゃんって何の話だ?僕はバカで不躾だからそんな言葉知らん!!」
「まぁ、それはあり得るかもしれないけど…それとこれとは全くの別物だよ!」
「スマン!日本語まで分からなくなってきた!」
「それ重症だよ!お兄ちゃん!病院行こ!病院!今ならいい精神科紹介してあげるからさ!」
と、妹とのゴチャゴチャは続き、ふと時計に目をやる。
『8時32分』を指していた。どういうことかといえば…始まるのだ。バイトが。そんな僕の事情を察したのか妹は僕から逃れようと必死の抵抗を見せる。
「あっ、そう言えば、お兄ちゃん。9時ぐらいからバイトの時間じゃないの?また学校みたいに遅刻すると厄介だから早く行きなよ」
そんな事を提案してくると同時に体勢をうっかり戻してしまう。完全に不覚だった。
僕のバイトは大体いつも夜9時から始め、朝の5時に終了する。だから朝はどうしても起きられない。それに、親父が貯めた借金と生活費が上乗せだ。何処の世界に居るんだよ、こんな境遇の奴が。
確か親父の借金ーー残り92万。到底払える額ではない。然も、高3だ。受験を控えた高3だ。
「真紘、僕がいなくなるのを良い機会だと捉えてないか?」
「そんな事微塵も思ってないよ〜」
「じゃあ、お前の一番嫌いな人は?」
「ズバリ!お兄ちゃん!」
「じゃあ、逆にお前の一番好きな人は?」
「ズバリ!それもお兄ちゃん!」
「言っていることが矛盾してるぞ」
丸尾君と化した妹はさておき僕は早々に準備を始める。
そして、僕は簡単な用意を済ませ颯爽と家から出て行こうとする。
と、
「お兄ちゃん」
玄関辺りで急に妹からの声が掛かる。その声は些か恥ずかしみが入っていて。
「完全にじゃないけど、5分の4は好きだからね」
僕の頬に暖かく、柔らかい唇が触れる。
その感触に戸惑いを感じつつも少しだけその感触に妹の感情が詰まった感じがした。
3話目投稿です。まだまだ文章が不肖で不憫だと感じられますでしょうが、そこは皆さんの善の心と御慈悲で何卒よろしくお願い致します!!
いや、キャラクター達の個性と特徴を出すのは中々にキツイものですね。ではまたの機会で。