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あのようなドタバタが朝にあった日の放課後…気づいた時には僕は学校へ取り残されていた。
別に担任から強制的な苦行を強要された訳じゃない。
その原因ーー
後切 結実。
確か昼休みのこと、朝寝坊したが故に自作弁当は持ってこられていなかったので購買部で塩パンを購入、優雅に外で食し、優雅に昼寝に更けようと目を瞑ったその時だった。
余談でもない余談だが、真紘が料理当番の日は『真紘特製愛妹(仮)弁当』を作ってくれるが、中々の絶品と言える。弁当で僕に対する感情を表現されることもあったっけ、一度滅多にしない兄妹喧嘩をしたことがあったがその時にはリングに出てくる『貞子』と起用に「呪い」の文字を海苔で表現された事もあった。
うん、実の妹としてこれは怒る気力も失うし、感嘆の声しか出ない。
勿論凄すぎて、だ。
もう天晴れというしかない。
あんな事も出来て頭も滅茶苦茶良い。
ーー僕の師匠でもある。
まあそんな時。僕にとってはいつも通りの陽気な日。それを打破するが如く終止符は直ぐに打たれる。
「あ、こんな所に居たのね、あんた探したのよ!」
時間を重ねるごとに僕の呼び名は変わっていくのか。それは後切流の接し術とでも言うのだろうか。そして、後切は僕の隣に座る。
「ねぇーー私が校長になる為の記念すべき第一歩に誰も思いつかないとても素晴らしい事を考えんたんだけど聞いてくれる?」
「・・・・・・(またか)」
「とっても凄いんだからっ!」
「・・・・・・(自分の学校の校長目指す以上に凄い事ってんのは、そんなの本当にあんのか?)」
「もし、コレが行われたら、世界は大いに変貌を遂げるわね、ビフォーアフター並の奴!」
そんな事が可能なのだろうか。
アレを可能にするにはかなりの匠のセンスが必要になるな。
でも、後切ーーという一人の少女。
いや。
多分、僕も手伝わせられるから二人なのか…そうであるとすれば彼女の行き過ぎを抑圧する、牽制する別の誰かの存在は必要不可欠だ。
そうーーこの僕。
後切 結実。
その存在は謎が多い。
彼女がいることによって僕の生き甲斐が見つけられる気がする。そんなことを言った。
ーー言ってしまった。
しかし、生き甲斐というものはこんなつまらない人生に変革を起こす為の、言って見ればただの口実でしか無い。そのためにも彼女がしてみたいこと、やりたい事をやらせてあげ
感謝でも無いがそれに近い事をしてあげなければいけないと無意識に思っているのだろうか…真相は知らないし、無理は出来ない、僕が出来る許容範囲を超えなければ何でもとまでは言わないが手伝うのが義理というものなのだろうか。
とても言いづらいが僕は後切に「偉大なる夢を手伝って」と言われ微量の好奇心を抱いていたのかもしれない。
いや、本当にまだハッキリとは分からず断片的としか言いようはないが。
もう無視するのは辞めだ…
「その誰も考えないような凄い事って一体どういったもんなんだ、そもそも、そんな事がお前に出来んのかよ。」
「出来るわよ、確実にね」
そう言って後切はーー
「詳しい内容は放課後にて話すわ、絶対に帰らない事!もし帰ったりしたら、石抱の刑に処するから」
と、そう悪どい捨てゼリフを残しバイバーイと言って僕の元から徐々に遠くなっていった。
そして僕は彼女の発言の中にあったある言葉を、ある言葉だけを整理してみようと思う。ただ、自分が纏めたいだけ。そんな単なる理由。
だってこんな事考えるのおもしれぇじゃん。まずはじめに、
石抱。
みんな大好き江戸時代ーーそしてこれは言わずと知れた江戸時代の拷問である。
まず囚人は後手に緊縛され、囚衣の裾をはだけて脚部を露出させ、十露盤板と呼ばれる三角形の木を並べた台の上に正座させ、脚上に石を何段も積み重ねて置く。
あとは、見せられないよ、ってとこ。
只々、苦痛との戦い。終わりも見えず…
ってーー僕はサイコパスでも何でも無いのでそこら辺はどうか僕を冷たい目線で見らないで欲しい。
解説終了。
閑話休題。
「はあ、しかたない。行ってあげよう」
足を上げ、体を起こす。次のまた退屈な50分の授業へと移行するため教室へと足をゆっくりと進めていった。
…
そして今に至るというわけである。
僕は途轍もなくーー暇だった。かと言ってここで帰ろうというものなら、容赦ない、一寸の慈悲もない彼女が待っている予感がする、それを想像するだけで弁慶の泣き所の箇所が悲鳴を上げている、そんなようだ。
僕はーーする事もなく上半身の体重を机に預け、両腕を組む形にその上から頭を載せる。言うなれば学生の為の授業中に睡眠を確保する姿勢だ。
後は目を瞑って、授業中なら教科書でも立てれば尚更良い。
ーー僕のオススメは音楽の教科書だな、分厚くもなく小さくも無い。
数学は一番駄目だ、教科書自体が小さいくせに中身がぎっしり詰まったーーまるでシンガポールみたいだ。
用もなく僕はその態勢を維持し続ける。寝付こうとも寝付けないーー寝たくても眠れない。
眠るーーそれは夢を見る事、体に安らぎを与える唯一無二の行動。
夢といえば…今日僕が見た夢は一体何だったんだろうか。その場所は暗い、星の薄暗い光が微かに地上を照らすー一夜。
僕はその誰かと激しい争いを繰り広げ、それは壮絶で、熾烈で、烈火の如く、でも何があってもそいつとは戦いたくなかった。
傷つけるつもりも勿論なかった。
でも。
僕はそいつを殺めてしまう。
腹をひと突き、それで勝負は決着はつく。
当然の如く飛び散る鮮血は僕の顔にも微量についていた。
「うーん・・・」
僕はーー机に上半身の体重を預け、両腕の中に自らの顔を埋め、そこから思惟の声を呻いている。
『5時32分』もう終業して1時間は立つ、という事は1時間もこの体勢をキープして寝付けづにもいたこととなる。
そこでーーなんとなくだが、僕は彼女ーー後切を探しに行こう、とそう思った。
本当になんとなくである、なんとなくでなんとなくでなんとなく。
そこに大それた様な意味合いなど生憎だが持ち合わせてなんかいない。
只、あいつはあれでも、どれだけ幼稚な事を言おうとC組のーー委員長なんだ。
席を立つ。
当然の如く教室の至る所まで響く擬音語、別に僕一人だけのこの空間で誰も咎める訳でもなく椅子は最後まで、僕の脚が床と垂直程度になるまで引くことが出来た。
そして、扉へと手を掛け、開け、職員室にでも居るのかと階段を降りようとしたーーまたその時。
階段下、踊り場。
其処でまたあいつの姿を見かける事となる。
言わなくても分かる。
後切 結実。
僕が今朝初めて出逢った少女。
やや小柄で黒髪のロングヘアー、肩の間から出た触覚と呼ばれるはみ出髪。
『人を魅せる』そんな力を持った少女。
その顔はーー今朝見た希望の字を権化とさせた様な表情とは一転変わって、少しだけ怒ったそんな表情を僕に見せた。
「何してるのかしら〜、貴方は〜」
少しだけ笑みを浮かべる。しかし、その笑みが僕に対して敵対意識がガッツリ働いている事を僕は容易に想像できた。
「いや、待て、待て、待て、後切!僕はお前をただ探しに行こうとしただけなんだ。お前、来るの滅茶苦茶遅かったから、言うなれば僕は人間としての慈悲でお前を探しに行ったんだよ!」
「なんだ、そうなのね、てっきり貴方が帰ろうとしたのかと思うところだったわ。もし帰ろうとしてたなんて言ったら、土に還らせてあげる所だったけどね♪」
後切は平気で狂気の言葉を口にする。
後切特有の軽快な話し方で。(僕はそれに警戒していた)
僕の生死は彼女に活殺自在だった。
彼女の背後から擬音語でゴゴゴゴッと聞こえる筈の無い音が聞こえてきそうな勢いであった。
ーーコレが俗に言う北斗の拳の、ケンシロウの激怒のシーンの再現だったんだろうか。
か、アレは絶対スタンドが付いていたな。
そして、僕はまた教室へと入る。
今度は後切と二人で、だ。
それで僕らは机に二つの椅子を付け会話を…とはいかなかった。何故なら、後切は教卓の上に両手をつけ如何にも教師風に、僕に。
「着席!」
と、一言。
近くにあった席に「はいはい」と小さく声を漏らしながら確かーー那加杉さんの椅子に腰掛ける。その席は厳密に言うと右から3列目、前から2列目の席そこが那加杉さんの座席である。
「今から、私達のセンシティブな問題について議論するから。コレは私達受験生にとって一刻を争うとても肝要な事項で、最重要懸案事項なの。質問などがある場合は挙手!」
センシティブって…そんなに重要な事柄なのかよ。
別にこんな形で、しかも議論するまでの話題でも無い気がするけども僕は声に出さず、言葉に表さず彼女にある質問をする。
「はい、質問!」
僕はーー勿論、すかさず挙手した。未だ分からない事だらけだ。
「はい、そこの毎日が暇過ぎて、あどけなさ過ぎて自分探しに精神を集中させながら零落した人生を送っている暇過 死走君どうぞ」
「人を重ね重ねに小馬鹿にしたような呼び方
と後、勝手に名前を都合よく改変しようとするな!僕の名前は、片桐 霧矢だ!!」
つい声を張り上げてそう言う。
僕はーー落ちこぼれではあるが、愚劣で無ければ、酷い為体でも無く、将又惨めで不埒などでは断じてそんな事ーー無い。筈。
そんな僕の必死の抵抗を、
「貴方、霧矢って言うのね!」
「人の名前をあからさまにトトロみたく言うな!!」
僕のツッコミが、後切目がけて炸裂する。
それもそのはず。
何処のーートトロだよ。
言うなれば後切は単純にメイちゃんである。
じゃあ皐月ちゃんは何処の何奴だって話だ。
「だって名前教えてくれなかったじゃない。女子の方から名乗らせておいて、何処の不届きものよって話よーー片桐くん」
「………」
ふてくそうに僕の苗字が呼ばれる。
でも、この際さっきまで名を名乗らずの謎の男子高校生と仮定された僕が居たとすると何か腑に落ちない話なんだよなあ。
「あーもう、この呼び方少し変だわ!何で苗字と名前の文字合わせて7文字も有るの?並木 道とか5文字でスッキリ収まるタイプにしなさいよ!」
その方の名前の方が余程奇妙なのだが…
「人の名前に一々いちゃもんをつけるんじゃない!悪かったなこんな呼びづれえ名で!そういう事は来世の僕にでも言ってもくれ!」
名前のトークでここまで熱くさせたのは後切が初めてだ。
てか、僕の名前自体をそんなに言われたことなどは無かったからそんな内容の話はしたことが無いか。
「そこまで言うならこうしましょう、霧矢って名前から一文字取って霧っていうのはどう?」
それなら多分無難だ。僕の名前が変革される恐れもーーない。
「それなら…いい」
「なら、決定ね!」
決まってしまった。僕に対する彼女の呼び名が。
もういっそ、この際後切が僕を違った名で呼ぶのなら僕も後切を結って呼んでもいいんじゃないか。
ーーおかしいか、名前が変わっちまう。
滑稽だし。どう考えても。
それはもういいとして。
さあ本題に戻ろう。
「あ、そうだ。さっきの質問だけどよ。如何してそんなに後切は人とは違う異様なまでの夢を追い求めてるんだ?」
僕は聞く。
朝から急であり、唐突な後切からの要望は一応承諾はしておいたが、彼女が何故そこまで理想を追求し、現実でその夢を実現させたいのかがどうしても分からなかったからだ。
「いい質問ね。それにおいてはっていうより寧ろ限定だけど」
僕の質問は彼女に効果的だったらしい。
「私ね、一度だけ本当に自殺しようとした時があったの」
その声はーー悲しみと哀しさが交互に入り混じった様な、感じがして。
とても憂愁だった。
「はっ…後切お前…何言って…」
僕の声ははっきり言って後切のその言葉の余波で震えていた。
「私のパパ。パパはとっても優しくて、とっても愛情深かったの。でもね、私がこの高校に入ろうとした時にパパ……船の事故で亡くなって…」
「…………。」
なんだよ、何なんだよ。
何でお前まで僕と同じ境遇なんだよ。
「でね、私思ったの。人間って一人じゃ何も出来ない臆病な生き物なんだって。だから、私がこの世界を変革させようって思ったわけよ。その為には仲間の力が必要不可欠だし、私一人じゃ何も出来ないでしょ?だからまず始めにあなたを誘ったってわけ」
後切は何事もなかったような口調で僕に淡々と語った。
「まず手始めにこの学校の校長になって、次は市長になって、次は…」
僕は彼女が凄いと思った。こんな事を平気で人に話せる。そんな姿が僕の目には映し出されていた。
「女性初の総理大臣になる!」
「お前は何処までも夢見がちな女子高校生なのかよ」
「いいじゃない夢見がちでも。そんな人の夢を一瞬で幻滅させてしまような発言を平気で言えるから女子にモテないんじゃないの?」
「…………」
痛い所をピンポイントで突かれる。
僕には彼女、恋人、愛人全てが一度も付き合ったことも無い領域であり未知の存在で僕の人知では到底考えることは出来なかった。
ーーこんな感じなのか会心の一撃食らった時って。
「それにこの世界は諸行無常で盛者必衰で有為転変なの。存在や現象は様々な原因や現象によって必ずと言っていいほどに移り変わって行くものなの。こんな世の中だからこそ変革が必要なのよ。」
僕は彼女の威圧に圧倒され、ただ黙って、座って話を聞く事しかできなかった。
「こう世界に変革を来す為に、まずこの学校で部活を始めましょう」
マジか。偉大なる夢まで手伝わされるのに部活もなのか。我田引水、得手勝手、独断専行、好奇心旺盛…キリがない。
「部活って…もし始めるにしたって、決して生半可な気持ちだったら教師を説得できやしないぞ」
「分かってるわよ。私が生半可な気持ちで事を行うって思う?」
後切は自慢げに僕に答える。
ハッキリとーー思えない。
「いや……思えないが」
「でしょ?でも本当の問題は今からなの、担任の藤井先生の所に行くから霧、あなたも来てっ」
ーーやれやれ。
と心で思いながらも、席を立ち「はいはい」と続けながらもまた彼女のいいなりと成る僕だった。
…
僕達の教室は3ーC。
生徒校舎棟の4階にあたる。
僕達は教室を出発し、教員棟2階を目指す。勿論藤井先生の部活動承諾を得るため。
僕は無理矢理、後切に右腕を引かれ廊下、階段を歩かされる…もう殆ど強制である。
そんな僕はーー手を引かれながら後切の後ろ姿を見ていた。今朝からも思ってはいたがやはり華奢な身体をしている。
後ろ髪は背中の下辺りまである黒髪だし、前髪は片方だけ肩から長く伸びた垂髪である。
途轍もない美人としか言いようがない。
ほんと、もうなんかのモデル会社にスカウトされるかってぐらい。
それも全て『性格を除けば』って話だけど。
正に自我の権化とでも言っておこう。
ーー僕の右腕はグイグイ引っ張られる。でも、そこまで痛くはない。ただ、体重が持ってかれるだけ。
覚束ないとまではいかないが、そんな後ろ姿で、気が強く身体と反比例を成している。
そこで僕はまたふと思う、なんとなくでなんとなくでなんとなくってやつ。
「なあ、後切」
ーーなんとなく。
「なに?」
後切は僕の腕を引っ張りながら前だけを向きそう返事する。
「お前って、思いの外、可愛いんだな」
言うと、彼女の足は止まって、僕も咄嗟のことであって自分の足に急ブレーキをかけ多少前のめりになりながらもやっと止まった。
そして彼女も僕に振り向く。
「…アンタそうやって、私の気を引いて此処から逃げ出そうと画策してるんじゃないの!」
彼女は必死に答える。顔を滅茶苦茶赤らめて。
ーー怒ったところも少し可愛い。
…自分が傍から見たら変に見られそうだ。
「そうじゃねえよ。でも普通にお前、可愛いから(普通ってレベルじゃねえけど)なんつーかこう…僕の考えてた事が僕自身の暗黒面の悪戯によって無理矢理引っ張り出されたと言うかまあそんなとこだ決して逃亡を図ろうなんて思っちゃいない」
「…嘘をつかないで、魂胆が見え見えよ!
…それでも私のエスコート役なの?…私を導く役なの!?」
後切の顔の赤らみは止む気配を知らない。
「絶対に逃げないし、絶対に逃げられないだろうから十分安心しろ」
同じ学校で、同じクラス、しかも同じ列の席。
ーー正に四面楚歌、逃げれる筈が無いだろう。
そこからの判断だ。
「…信用していいのね?」
「ああ、そうしてくれ」
「そうするわ」
又、ニコッと笑って僕が絶対服従(仮)を誓うと同時に彼女の僕への連行は再開される。
この剪灯高校は、A棟、B棟、C棟、D棟から成り立っている地域一の私立高校。
職員室はA棟の2階にポツリと存在している。
そして担任の藤井先生に部活動承諾の認可をして貰うべく今この場に居る。
そうーー藤井先生の目の前。
後切が前で、一方の僕は背後で見守る陣形。
ーー藤井 弥生。男性。
藤井先生は今朝初めて担任として存在を知ったワケだが、この先生は妙に生徒と接したがる。(変態という意味でなく、寧ろ変人)
3のCのクラス全員の名前は一日目だっていうのにもう覚えてるし、白の長いコットンパンツに長袖白Tシャツの生地に『天誅』と縦に文字入り、そして如何にも『天誅』を見せびらかしたかの様な佇まいな白の白衣。
白好き過ぎだろ。
そしてそして、ボサボサの茶髪。
そしてそしてそして、何歳なのか詳細は知らないが多分30何代である事。
ほんと何もかもが、怪しい、なんか絶対裏がある感じ。
然も、クラスでのあだ名は
『活きの良過ぎる関西人』
そんな警戒心の念を表面にモロに出さず少し少しずつ出す感じで放課後迄過ごしていた。
「藤井先生、話が有ります!」
後切が先に先制して話を持ちかける。職員室全体に響き渡ったんじゃないかって声だった。
「おう、後切やないかい、どないしたん、こんな時間に?って、その後ろに居るんは高三初日から遅刻して肝のようさん据わった片桐君ちゃうか?え、なして二人一緒に……あっ、そうかそう言う事やな!
いやぁ〜お二人さん揃って一緒とは感心、感心。青春を謳歌して満喫しまくっとるやんかええでええで〜その調子!」
「「ち、違うわ!!」」
やはり藤井先生の軽快で、警戒が必要で、一本調子な口調がそこにはあった。
そして、その一本調子に僕達二人は口を揃えて否定する。
でも幾らその言葉でも誤りはある。
てか、有り過ぎる。
それは禁句事項だろ。
僕が後切と…って考えるんじゃない!
煩悩に囚われるな。
まずこれは煩悩なのか?
「なんや、すっかり意気投合しよんやないか?」
「先生、そんな事より、私は部活の開設の重要事項の話をしに来たんです!」
藤井先生の揶揄った質問は後切によって掻き消されてしまう。
なんだかこの光景、絵に出来そう。
「部活?部活ってあの部活のことなんか?」
「そうです。あの漫画とか、アニメとかでよくやる友情、努力、勝利を彷彿とさせるあの部活です。」
(ジャンプっ!?)
まさか此処でジャンプネタが出て来るとは思いもよらなかった。完全に不覚だ。
やはり後切ーー不思議に見えて仕方がない。
そういった所は一瞬の抜かりもないのだから。
「部活か〜俺も高校生なんかの時はようやりはったわ。つい物心で好意持っとったん女の子に「バスケせんか」言うて誘われてなあ、
いやぁ〜あん時は最高の思い出やった」
(いや、スラムダンク!?てか、お前もかよ!)
「てのは、嘘。でもバスケしとったん言うのはホンマやけどな」
ハッハッハッと軽快にその場を盛り上がらせる藤井先生。後切といい、この陽気な関西人といいなんか色々とカオス。
「だから先生その部活を始めたいので承認と承諾をお願いします」
「後切君、中々君も積極的に行動するやん。
で、その部活の名前はなんちゅうんや?」
ーーそれは僕も気になる。
そして後切は甲高い声で
「生徒楽園計画部を作成しようと思います!」
ーー生徒楽園計画部?そんな斬新な部名聞いたことないぞ。
何をするのが目的かも分からんな。
「後切君、一応聞くけどその、生徒楽園計…っていう部活は言わんでも分かりきってはおる言うねんけど何を目的とする部活なんや?」
ーーイイぞ、『活きの良い関西人』!
「何って、この学校を生徒、教師、生きとし生ける者全ての楽園へと変貌させる事です。言うなれば天国です!」
後切は恥も躊躇いも何も見せず堂々と関西人の目だけを見つめその台詞を口にする。
後切…お前…スゲーよ。
感嘆の声しか出ねえよ。
拍手喝采だよ。
でも、普通そんなのが通じるのか?普通に過ごして、普通に生きるってんのが社会の通念ってもんかも知らねえけど。
「楽園か…楽園…楽園…この剪灯高校、楽園にしたら給料上がって1ヶ月の休暇も貰えるってんのならやってもええよ」
「1ヶ月と言わず、1年の休暇も貰えるようにします」
…普通1ヶ月休みあるのって無理矢理生徒の家に押しかけて得意の弾丸トークで朝まで世間話でもしてから寝させず免疫力を落とさせるぐらいだろう(途轍もなく非人道的だが)。それを1年って……仕事しろ。
「よっしゃ、のった!」
僕達3年C組の担任はアホだとその言葉で確信した。
それで先生は、引き出しから部活動決定届けの一枚の紙を後切の前に出し名前を書く。
「霧、アンタも書きなさい」
勿論、僕も強制的に書かされた。
ーー僕って本当に人権があるのだろうか。
熟々そう思う。
そして部活動の施工を取り決させられた僕は職員室を出た。そしてもう帰ろうとする僕をまた閃光の如く後切はやって来て引き止める。
「霧、一緒に帰りましょ!生徒楽園計画部について色々と相談や見解を聞かせて貰わないといけないから!」
やれやれ。
と言いながらも、帰りまでの道のりを一緒に足を進める二人の姿がそこにはあった。
お待たせしました。
やっとの想いでKLaRoa2話を書くことができました。今回は部活が出来ましたね〜。