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KLaRoa  作者: 仲乃 陣
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仲乃 陣という者です。

処女作。







ーー誰かは言った


「この世界は残酷で退屈に満ちている愚劣な世界だ」と。



――何もない無の空間から、相対する二つの魔力が派手にぶつかり合う



――その一方の勢は闘いに敗れた



――そして徐々に色が、形が消滅していく



「――コレが僕達の運命……なのか……?」



彼は問う、彼は恨む。この世に存在しないもの、姿・形も持たないものに。



殺したくは無かった


これが最後だと知っていれば、僕は君の声を君の話を何度でも永遠に聞いていたと思う


僕はそんな時間が何よりも好きだった


君と話す時間


君と一緒に過ごせた時間


全てが一瞬で消え去った


今にも消えてしまいそうな程の君の体を僕は強く抱きしめる


もう出会う事はできない


君の姿を見る事も出来ない


心の奥底で我慢していた悲しみが抑えきれず

一気に僕を深い哀れみの感情にさせた


僕は泣いている


号泣していると言ってもいい


これで君が帰ってくるのなら


ーーもうどうにでもなれ。


あの日君と僕はそこに居た


あの日僕達を照らしていた星の光が一筋の線を描き暗黒へと消えていった。




覚醒。テロリズム的な電子音に無理矢理起こされた。


「…………ん、んっ」


酷く悲しい夢を見ていた。僕が人を殺す?そんな夢。理由は分からない。

ただ分かる事が一つある。それはその人は僕にとって大切な人・掛け替えのない人であるという事。

見た夢は思い出そうとするも必ずというか、記憶を失っていく。もう何も考えきれない…

あの夢の回想のせいで目覚ましの爆音がなっている事を完全に忘れていた。瞬発的に携帯を見る。


『八時三二分』


時間はいつも冷酷で冷淡。


「……やっべ」


高二は昨日で終わった。即ち、今はもう四月一日。それと四月最初の朝八時。何かと神秘的。何かと未知的。

今日から高三という未知の領域に足を踏み入れようとしているのにであった。

また退屈な日常が始まるのかと思うと嫌気が刺してくるが、劣等生を超越し今や落ちこぼれの典型的例にまで達した自分にはこれ以上に嫌という現実は存在しない。

僕は布団を目にも留まらぬ速さで蹴る。次に壁掛けの制服へと手を伸ばす。

何も考えずに。

朝食は食べない。

愛しの妹(虚偽でも無く、事実でも無い)の真紘は…もう行ったか。

そして今日は僕が朝昼夜の料理を作る日。

真紘怒ってっかな。

ーーまあいい夜は僕が作るから。

その一言を言い放ち玄関のドアをとてつもない程の力で開ける。

朝の眩い陽射しに目を背けた。

朝は好きだ、理不尽な事でさえも全て取り去ってくれる。ーーしかし今回は別だ。

今から全力疾走約一五分の坂と平坦な道のりを自らの足で一歩また一歩と足を踏み進めていかなくてはならない。

そう、僕が通学する高校、通学を唯一許された高校。

私立剪灯高等学校は並大抵の人間では入学は許されない。それはというと、この高校は頭脳が人一倍の者 五割、スポーツで記録を残している者四割、そしてそのどちらでも無い者一割が推薦と一般入試、選抜という形で構成されている。


ここで疑問を抱いた方に解説しよう。


本当にあり得ないと思う事だがココ剪灯高校ではどんなに知能が無くどんなに最底辺であっても中学を卒業したならばその時点で選抜というシステムが発動する。

それに通過した超中学級の幸運の持ち主、六名だけがここに入学できる訳である。

その理由(わけ)は、実に単純明快。


【健全なる学生の、健全なる学生による、健全なる学生の為の平等的且つ民主的決定による奉仕】


要するに新高校一年全員に入学出来るチャンスを与えようとのこと。

何故、どうして、この落ちこぼれの典型的な例の僕が此処に入れたかというとそれえも実に簡単な話であって僕はその選抜で偶然にも幸運が舞い込み、学費も免除されるこれまでに例を持たない優遇に期待した僕はすんなりと受け入れ

ーー騙され、やって来た中学生だったというお話。

これで童話なら感動のフィナーレとして原作、脚本、作画、そして最後に監督の名前のテロップ達が流れおしまいおしまい。(僕は全く以って違ったが)

勉強の進度は清流の上流の川の流れの如く、土日通学はほぼ当たり前、それであっても部活動には力を入れているらしく地域一の部活動の種類というだけあってあまり知られていないが『学園生徒支援部』という変わった名の部活も存在していた。

こんな日常を送っていた僕は…勉強は高一の夏辺りで全く以て理解不能となった。

その結果これだ。中三受験時、親の仇の様な、鬼の形相で生徒指導部教師数名から一人で言葉の投げナイフの一斉砲撃を受けた思い出もある。今思ってもあれは言葉の集中爆撃とでも名付けられそうだ。

そんなこともあり学校を週三のペースで休みはじめ、別にこれと言った理由は無くただの仮病で休んでいた事を察知されたのか僕に浴びせられる教師からの非常に殺伐とした目線は日に日に悪化していった事は僕も十分にも理解していた。


学校までの緩やかで所々桜の葉が春風になびかれ舞い散った後がある坂道を一気に駆け上る。

校門を通り越す。

玄関扉をなんとかこじ開ける。

階段を一気に駆け上がる。

静寂とした空間に僕だけの足音と焦った吐息の周期的な音だけが響く。

その音は純白の校舎の壁へと徐々に吸い込まれていった。

そんな時だったっけ彼女と出会ったのは。


「遅いっ!17分遅刻してるわよ!急ぎなさい!!遅刻魔!!」


九時二分

彼女は両の拳を裏にし横腹につけ仁王立ちして僕より七段程高い階段上に居た。

そして僕は急に、唐突に彼女に人間の力ではどうしようも出来ない不可抗力の如く出会った。

ーーそれは運命とも言えるもの。

でも、その中で彼女にしかないもの、彼女にしかあってはならないものがある。

艶やかで背中辺りまで伸びた黒髪はまるで目を奪われそうだった。

片方の肩から垂らされている髪はおそらく彼女のチャームポイントというものだろう。

そう思った。

僕は彼女を見ていた。

ただひたすらに…それはそうと

何故、鞄も何も持っていないのか。

僕はとても気になった。

ーーこんな時間なのに、遅刻しちゃうぞっ。

それより彼女の右肩に着けている赤い、よく生徒会長とかが、つけている腕章に無性に目が行ってしまう…いや待てよ、彼女が今年の生徒会長なのか…?

仮に、だとしたらだ、彼女は地位的な意味で僕と雲泥万里の差がある事になる。

確かに生徒会長に有りがちなお嬢様口調ではあるが。


「ほら、ボサッとしてないでさっさと自分の教室に行きなさい!全く」


彼女は腕を前に組み始め、深いため息を吐く。益々何処ぞの令嬢に見えてきそうだ。


「な、なあ一つ聞いていいか。」


「何?」


こいつが生徒会長だか分からないが聞きたい事はその時沢山あった。


「そのお前の肩に着けてるその腕章は何なんだ?」


彼女に問う。

率直な、端的な何の抑止力もない質問を言う。別に何の益体がある訳でも無いが僕は自分の聞きたい事をただ聞く。

彼女の返事はこうだった。


「んっ、ああこれ。これは私が貴方と同じC組の学級委員を任命された証拠となるものよ、宜しくね。」


何だって。

少しだけ彼女の声は和らいでいた気がした。

僕と同じクラス?そして僕のクラスの学級委員だと?

ーー余りにも御都合主義なんじゃ無いのか?

まあ、いや、な訳ないか、これも偶然、偶発的に起こった事。

いわゆるDestinyである。

ぼくはこれを自生活において享受する必要がある様だ。

もちろん嫌という意味では無い。


「へぇお前俺と同じクラスなんだ。宜しくな」


ーー気軽に接してくれ。

と、そう言わんばかりの話し方をした。

通じただろうか。


「宜しくね。」


通じたらしいのか僕に笑顔を見せてくれた…のだが。


「あ、そうだ。ねえあなたって部活動とか何かやってる?やってないって言ってくれたらとっっっても嬉しいんだけど、勿論やってないわよねっ!」


勿論やってなどいなかった。やっていないがーーなぜ分かったんだ?

エスパーか?超能力者なのだろうか?

って一体全体何を考えてんだ、僕は。この現代社会においてそんな事があり得る訳無いじゃないか。(少し興味はあるが)

そんなことより、

僕の脳は真実を言うか、言わないかの葛藤で複雑に絡み合って。

そして出た答えとは…


「ちょっと待てよ、初対面の人間にいきなりそんな唐突な事を言われても困るぜ。しかも僕がもしその部活に入っていないってんならどうするつもりなんだ」


彼女が僕をどうするつもりかは知らないが僕にだって人権はある、はずだ。

それがどんな落ちこぼれであってもだ。

だから今少しでも彼女の本心に触れてみようと思ったのかもしれない。


「そうだったわね。申し遅れたわ、私、後切って言うの名前はゆみよ。後輩の後に切るの切で後切って書くんだけど切るの切は殺すとかの意味じゃないから覚えててね。」


あとぎり、アトギリ、後切、後切 ゆみ・・・

彼女の名が頭で永遠にループしていく感じがした。何処かで聞いた事あるような…無いような…駄目だ、朝の壮大で幻想的な夢のお陰でそこまで過去のことまで振り返れない。


「それでね、いい、このミッションはあなただけにしか成し遂げられない重大事項なんだから。他の人なんて以ての(ほか)だわ」


僕にしか出来ない(ミッション)・・・


「はあ・・・意味わかんねーんだが・・・ミッション・・・?」


終始僕の頭上で大きな?マークが浮かぶ。

それはまるでアニメの主人公の如く。


「そう、その内容はとても簡単!」


大きく振りかぶり、人差し指以外を全て折り曲げたその手は虚空に風を切るという名の名目で地球の引力に忠実に従いながら真っ直ぐ僕に振り下ろされる。


「この私の、偉大なる夢を叶えるまで私をエスコートしなさい!」


その目は自信に満ち溢れ、瞳の奥でさえもその透き通った色を連ねていた。

エスコートって…。一体なんだ?どんな理由で?どんな経緯があってなんだ。


「・・・スマン、言ってることが1mmも理解出来ないんだが。つーかその偉大なる夢ってんのは何なんだ?もう普通の夢じゃダメなのか?」


今の僕には彼女のしたい『夢』というものが分からなかった。


「普通の夢でいいわけ無いじゃない。そんなんじゃこの世界じゃ通用しないわよ!」


僕の困った顔はまだ収まらない。

ココは異世界か何処かか、と一瞬でも困惑してしまった自分が恥ずかしい。


「ふふん・・・その夢とはね・・・ゴホンッ」


一瞬のわざとらしいとしか言いようがない咳払い。


「ズバリ、この学校の校長にまで上り詰める事よ!」


その言葉は余りにも平然とし、余りにも端的に僕の耳に届く。

校長か…随分と大きく出たもんだ。

僕には彼女の言っていることがーー「新世界の神になる」と同等の事を言っている様に聞こえて他ならない。


「どうして僕がお前のそんな凄まじい夢に手を貸さなきゃならないんだ」


さっき彼女がした様な、呆れた声の低いトーンで切り出した。

誰であってもこうなると僕は思う。


「どうしてって、決まってるじゃない。

あなたが、あの噂で言ってた''受験いらずの高校生''でしょ?しかも学校の成績は常にワーストランク、部活動にも参加していない。という事はあなたは毎日が暇してるってことになるでしょ。こんな絶好のチャンスを逃すわけにはいかないって思っただけ、ただそれだけよ」


彼女の存在が恐かった。正確に言えば僕も彼女に興味を抱き始めていたかもしれない。

後切という存在事態が今日初めて知った事だし、僕に何の因果関係があるのかなどは一切分からない。しかし、底はかとなく彼女の存在に興味を惹かれていた事に間違いはない。

てか、僕の個人情報は一体どう管理されてるんだ。

闇でどっかの国にでも売られてるんじゃないのか。

ーー198円くらいで。

あと一つ、彼女の意見で一つ誤りがあった。

僕が部活動に参加しない理由はきちんと有る

僕には父と母がいない。



母は真紘を出産するまでは僕と毎日のように遊んでくれたり、何度褒められたかについては数え切れない程だ。そんな順風満帆とも思える生活にも嫌気がさす時は必ずと言っていい。

ーーその原因は父だった。

元々何処かの名門社主の御曹司だったらしい、それに(のっと)り父はその会社の後を継いだ、そこまでは良かった、しかし、そこまでだった。父が後を継いで以降、会社の株は一気に堕落。倒産寸前の会社ーーそこで出逢った一人の女性、それが僕の母だ。

二人は一つ屋根の下に住み、僕が産まれ円満な暮らしを普通の家庭の様に、普通に送っていたーー真紘が生まれる前までは、だ。

母が亡くなってからは、父は部屋へ閉じこもり、あまり出てくる事は無く僕達は殆ど二人だけの生活となり、その時代を僕達は必死に生きた。

そして。

僕達を何も助けてくれない父のことが心底嫌いだった。

中三の夏、父はある病にかかる。

ーー白血病。

病にかかり寝たきりの父を無菌病室の外からずっと眺めていた。しかし、それを見ているうちに、僕に生まれてきた気持ちは今まで自分を苦しめてきた者への優越感とは程遠い

ーー自分の無力さ。ただそれだけだった。

そして、ある日、無菌病室の外から見ていた僕を懸命に生きて病と必死に戦う姿の父から久し振りに見ることが出来た笑顔を見せてくれた。それも他界する一日前だ。

僕は泣いた。

生まれて初めて父の事で泣いた。

自分はこんなにも愚かでちっぽけな存在だと痛いほど痛感した。

それから、僕と真紘は誰の手も借りず、生きてきた、深夜0時から5時までは毎日土木のアルバイトをしていた。

収入が多く出た時には真紘に誕生日プレゼントをあげたりもできた。

そして今はーー土木も辞め、やっと複数のバイトで雇って貰える事になって贅沢、奢侈を出来るまででは無いが安定した生活を送っていると言えよう。



彼女の存在そのものが不可思議。

僕はそう思った。いっそ彼女の全てを理解してしまいたい、そんな興味を引く力を彼女は有しているのだろうか。

『人に興味を抱かせる力』

『人を取り込む力』

『人を魅せる力』

こんな事を昔聞いたことがある。

ある一定の人間にのみ特別な力を授けられるーーそれがあったとすれば彼女が適任者なんじゃ無いか?僕は彼女を知らないといけない必要性がある。自然とそんな気がした。


「なあ、後切さんよ」


「なに?」


「お前はーー」


その時だ。校舎中、一斉には響く昔ながらの鐘の音。確かイギリスの音楽がモデルになったような…ってこんな事してる場合じゃなかった。

足早に階段を7、8段上る。

これでやっと後切と同じ高さとなった。

と、なると後切の身長が理解できたわけだが、これがまた、僕の首の所までで後切の身長は終わっていた。案外低い…想像と違う、そしてーー案外可愛い。階段下から見ていたから実身長が高く見えていただけであって実際のところ僕より低いじゃないか。

ここ(まで)のことは僕の頭の中の消しゴムで消しておくこととして、


「ちょっと待って」


「なんだよ、もう行かねえと間に合わねえーー」


後切は僕の言葉にのっ掛かるように話を進める。


「返事を聴かせてもらおうかしら」


「考える時間は無いのか?」


そんなこと簡単に決められることでは無…


「無いわ。」


アッサリ言われた。キッパリ言われた。断言された、明言された。ほとんど秒速で。

後切 ゆみは自我が強いと断言出来る。

別に嫌いでは無い。

かと言って、自我が弱い子も嫌いなわけはない。

彼女に少しばかり手を貸してやるのも悪くはない。今は高3、最後の一年、受験勉強ばかりの毎日の何が楽しいのか僕には到底体得出来はしないーー


「・・・分かったよ、そのお前の偉大なる夢つーのの手伝いをしてやるよ」


僕は決めた。残りの高校生活を「暇だった」では終わらせたくないと。


「本当に!?ありがとう!この恩は一生忘れないわ」


「但しだ、もし僕がお前のその夢を叶えて上げらんなくても、末裔まで恨んだりすんじゃねえぞ」


「そんな事するはず無いわーー場合によってはだけどね。本当にありがとう」


……んっ?

今何か後切の発言に違和感を覚えた気がしたが、

気のせいよ、ハハハッーーと、後切は軽快に笑い飛ばした。


後切ゆみの存在が如何やら僕に生きがいを与えてくれそうな、そんな予感がする。







































最後までご鑑賞頂き誠に有難う御座います。


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