表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ショート集  作者: 七氏野
6/11

惚れ薬

 Aは優秀な科学者だった。

 しかし、誰しも欠点が存在するように、Aにも女にモテないという欠点があったのだ。

「金もある、頭もいい、どうして私はモテないんだ」

 Aはその悩みにずいぶんと悩まされていた。しかし、Aにはとうにわかっていたのだ。彼の顔は、パッとしなかった。それだけは、彼も認めていたのだ。

 巷にはびこるカップルは、とにかく美男美女だらけだった。そして、そんな彼らに自分が到底勝っているとは、自信家のAにも思えなかった。


 ある日、Aはある薬を開発した。惚れ薬だ。

「この薬さえ飲ませれば、どんな奴にでも惚れる。これを女に飲ませれば、私でもモテるぞ」

 そう言ってAはいささか不気味な笑みを浮かべた。


 Aは、さっそく薬をもって、近くのレストランへと助手のCを誘った。彼女は、Aが惚れ薬を完成させていることを知りもしていなかった。

「どうしたんです、Aさんが急にこんなとこでランチしようだなんて」

「なに、日頃のねぎらいの気持ちだよ。今日は私のおごりだ」

 Aはそう言って笑顔を浮かべた。もちろん、ねぎらいというのは嘘だ。当然、彼は薬の効果を確かめようとしたのだ。

 Cが席を立った隙に、Aは彼女の水に惚れ薬を入れた。薬はすっかり水に溶け込んで、目立たなくなった。

「それにしても、今日は暑いね」

 Aはそう言って水を飲む。

「確かに、暑いですね今日は」

 そう言うと、今度はCも水を飲んだ。Cが行動をよくまねる人間だと、Aは気づいていた。

 Cが水を飲むと、目がうつろうつろとしだした。

「あれ、なんだか今日のAさんは魅力的に感じます」

 Cはそう言ってまじまじとAを見つめてきたのだ。

 成功だ、薬の効果が効いてきてるのだ。Aは嬉しそうにCのことを見つめ返した。

「そうかい、それは嬉しいな。私も今日の君はずいぶんと綺麗に感じるよ」

 そう言ってAはCを見つめた。

「Aさん、なんだか私……」

 Cがうっとりとした目線で、Aの手を取る。よし、これはいけるぞ、Aは心躍らせ、彼女の目を見つめる。

 そんな時だ。

「あれ、Aじゃないか、久しぶりだな。元気にやってたか」

 突然Aに声をかけたのは、旧友のBであった。

「おや、久しぶりじゃないか」

 Aは返事をする。しかし、内心では邪魔が入ったとAはいらついていた。

「まあ、Aさんのお友達ですか」

 そう言って、CはBの方を向いた。

「なんとまあ、なんて素敵な人。私と付き合ってください」

 そう言って、CはBに抱きついてきた。


 やれやれ、薬は失敗作か。Aは渋り顔で落胆の息を漏らす。

 そう、誰にでも惚れてしまう薬では、Aには使いこなせないのだ。それ以上の人間に会えば、薬を飲んだものはそっちに好意を向けるのだから。

 Aは、そのまま目の前でまんざらでもない笑みを浮かべる、顔の整ったBを眺めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ