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ファーストコンタクト

姫様が安堵の雫で顔を濡らしていると、突然少年の目が開きました。

寝起きのまどろみも無く、しっかりとした意識の目で空を少し眺めると、なにか安心したような顔をしました。


ああ、やっぱり夢を見てたのか、俺は生きてるし、空もあんなに青いじゃないか。

少し長めのジャーキングってやつかな、ああ冷や汗かいた。

......空って、おかしいな僕はしっかりベッドで寝たはずなんだけどな。

まだ夢の中なのか。もう一度寝よう。


状況を把握できない少年は、そんな合理的思考を巡らすと、再び目を閉じました。


「あの......」


姫様は、再度寝つこうとする少年に、申し訳なさげに声をかけます。

少年はその声に反応し、姫様を一瞥しますが「僕の夢の中なんだから僕の自由させてくれないか」と意味不明な台詞を吐き捨てると、腕で目を隠し、頑なに眠ることを主張します。いわば臨寝態勢です。


「話だけでも聴いていただけませんか......」


いまにも泣きそうな震え声で姫様はお願いしました。

少年は思案しました。


幼い女の子の声がする。なにかの暗示なのかな。

僕は確かに昨日、ベッドで眠った。

その前に風呂を入った。

その前に飯を食べた。

その前にネットで遊んでいた。

......うん。間違えない。

だいいち、こんな空気のおいしい森を知らないし、こんな綺麗な鳥のさえずりを聞いたことはない。なによりあんな洋ロリ知らない......。

やっぱり夢だよなぁ。まあ夢ならいいか。実際疲れるわけじゃないだろうし。


少年は腕の隙間から姫様を確認すると、仕方なさげに答えました。


「どうせ夢の中だし、レム睡眠が続く限りは聴いてあげるよ」


「ありがとうごうざいます!」


それは姫様にとって、およそ1年振りの純粋な笑顔でした。


態勢を変えようとしない少年をよそに、姫様は話を始めました。

これは夢ではなく現実であること、ここは少年が住む世界とはまた別の世界ということ、この世界へ呼び寄せたのは自分ということ。

この二人が少しでも似ていれば、仲の良い兄妹の妹が、兄に空想を話しているようにも見えたでしょうが、姫様は霊妙な雰囲気全開で、一方少年にはそういったものは全く備わってなく、返ってそれが不思議な人でした。


「じゃあ僕は君のせいでここの世界へ来たと。それは一大事だ」


少年はいまだ夢気分なのか少し口元をニヤつかせながら答えました。


「しかしなんでまた僕を呼んだんだい」


少年は当然思うことを投げかけました。

すると姫様はゆっくりと言葉を選びながら答えました。


「それはですね.....異界転生するには召喚するものを思い描きながら祈らないといけないんですがね......なんといいますか、異世界のことなんて知らないもので、かなり抽象的に祈ってしまいまして」


ごめんなさいと、姫様は謝ります。


「どう祈ったら僕が呼ばれるんだい」


少年がそう尋ねると姫様はすぐに答えました。1年以上も渇望していたわけですから、すぐに答えられます。


「救世主様」


少年とって、どれだけその言葉に思い入れがあるか姫様にはわかりませんでしたが、それがそうとうなものだということは、すぐに理解できました。

少年は長いため息と、一滴の涙をこぼしたからです。少年は感極まっての涙と悟られないようにあくびのふりをしましたが、まったくもってバレバレでした。


これが夢だとしたら、悪夢に違いない。それにしてもまだあの言葉にこだわっていたんだな。


「救世主」


意外とメンタル弱いんだな僕。感情が顔に出すぎるってマスターに怒られるもんな。

どうせなら、夢の中くらい救世主になりたいな。


「俺はただの学生だけど、それでもいいのかな」


少年は腕ですこし目元を擦ったあと、勢いよく上半身を起こしていいました。


「十分です、あなたは選ばれたんですから」


初めて二人の目が合いました。二人と笑顔です。

姫様と少年は神様は実在すると、この時改めて感心しました。

救世主を渇望する姫様と、救世主になることに執着する少年、幾つも存在するであろう世界から、この巡り会わせが起きるんて、神様のいたずらとしか思えなかったからです。まあ少年の方は半分ほど自分の想像力に賞賛していましたが。


「よろしければ、名前を教えていただけませんか」


姫様が尋ねると、少年は少し間を空け答えました。


「スメル」


偽名でした。

姫様はそれに気づいていましたが、追及はしませんでした。ただ一言「かわいい名前ですね」と。


「私は......ユウです」


こちらも偽名でした。姫様が身分を偽るとき、よく使う名前でした。


「よろしくお願いしますね」


涙がほとんど渇いた姫様は、スメルに手をさしのべます。

汗ばんだその手を掴み、固く握手を交わしました。

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