序章 : はじまりのはじまり。
その日は、僕にとってきっと特別になる気がしていた。
別にだれかやなにかの祝日でもなければ、 嫌いな人が不幸になったということでもない。
ただ、まるで世界そのものが慈愛に満ちて、僕を祝福しているかのように輝き映えていた。
佳として青く、限りないほど広がる空。
固く強く、アスファルトで舗装された快適な道路。
深緑に身を染め、風と戯れささやきあう木々。
その枝先に停まり賛美歌を歌う小鳥たち。
世界平和が実現したかのような、全てが優しさに満ちていたのだ。
こんな日は行きつけのカフェの殺伐とした空気に触れるより、行くあてのない散歩をする方がいいに決まっている。
そう思った僕は、財布だけもって家から飛び出したんだ。
今思えばそれは、世界が僕との別れを愁傷する「送別会」のようなものだったのかとさえ思える。
家から出て少し歩いたとき、突然足場が消え、黒が下から視界を覆った。
落ちているという表現が一番近いのか、しかし感覚はそれとは別物だった。
重力やら空気抵抗やらの衝撃は全くなく、しかし上に広がる青空はどんどんと遠くなっていく。
なにが起きてるのか、これは夢なのか、と。
考えているうちに、空は、もうどうしようもないほど高い場所まで昇っていた。
予感的中だった。
この日から、僕はかつて得られなかった称号『救世主』を獲得するための、長い戦いの日々が始まった。