被告を実験刑に処す。
今回もSFを書きましたが、SF要素的に空気感がしますが、そこはご了承を……では、お楽しみに!!
「被告人、前へ」
裁判長の声が静かに響く裁判所で、また一人輝かしい将来を自ら潰した者が、裁かれようとしている。
青年、門村駿介もまた、就職活動の失敗による腹いせで三人を立て続けに斬り殺した殺人鬼として有名になった。
悪い意味で。
今、彼は法廷の真ん中に立ち、裁判長が読み上げようとしている判決主文を待つ。それは、自分の人生に終止符を打つ言葉を待つ為である。
駿介は、この日が来るまで《自分が何をしたのか?》《遺族が自分をなんと思っているのか?》を考えていた。
法廷の真ん中に立つまでに周りを駿介は見渡した。
傍聴席には、記者や法廷画家、被害者遺族にそして駿介の判決を自らの目で見ようと傍聴券を獲得した興味本位の一般人達で一杯だった。
駿介は法廷の真ん中で裁判長の顔をずっと見つめる。
裁判長は駿介を見ず、老眼鏡をかけて静かに一枚の紙を読み上げる。
「まずは理由から言います。あなたは罪もない人を一人ずつ包丁で殺し、三人の罪もない将来のある人を殺した。その殺し方は残虐的であり……」
駿介は裁判長の言葉を聞いて理解した。自身が死刑であると。駿介の弁護人、検事、被害者遺族、一部の記者は裁判長の発言で分かっていた。
《主文後回し》
主文後回しは、死刑の際に被告人を動揺させない為に使われる方法の一つである。
駿介はその発言を今、両耳で感じ取っていた。
裁判長の言葉は理由を言い終え、裁判の中でも最も大事な所に入る。駿介にとっては決まったようなものだが……
「判決を言い渡します。主文、被告人を実験刑に処す」
裁判長が判決を言い渡した瞬間、静かな時間が数秒流れる。
「えっ!?」
駿介は何の事だか、理解できていなかった。
傍聴席ではどよめきが起きている。弁護士は裁判長の顔を見ていた。
「静粛に。なお、刑の執行は本日、即日執行とする以上。閉廷」
裁判長は漆塗りの木槌を振りかざし音を立てた。
実験刑という今までの人生で聞いたことのない言葉のインパクトに負けたせいか駿介は何が何やら分からず、そのまま法廷は閉廷した。
駿介はそのまま数人の執行官と共に刑場へと連れて行かれる。
「実験刑って何ですか?」
執行官の一人が答えた。
「最近できた刑だ。死刑と同等のレベルだよ」
「……」
死刑と同等のレベル? 駿介はそれすらわからなかった。普通なら死刑か無期懲役のどっちかだったはず。
実験? どんな? 駿介自身の心でずっと問いかけていた。
「どういう刑かは来たら分かるさ」
そう言われながら、駿介はある刑場へと連れてこられた。そこは真新しく、最近、設置された施設だと理解した。
奥には人が一人、入れるぐらいの大きな円型の機械作りの柱が1つある。
執行官に連れて行かれ、奥で白衣を着た研究員達が出迎える。
「お待ちしておりました。準備はできております。早速サインを……」
一人の研究者が、一枚の赤い紙を刑務官に手渡した。
赤い紙を刑務官に渡した研究者は研究員達を取りまとめるいわばリーダーの存在らしく、どの研究員の証明バッジよりも大きなバッジを白衣の胸に付けていた。
刑務官はボールペンでサインし、赤い紙を駿介に見せた。
「門村駿介。今から法務省大臣の命により、今から刑の執行を行う」
駿介は、何もわからないまま。進んで行く時間を感じた。黙ったまま頷いた。
研究者は駿介に向かって微笑みながら言った。
「今から君にはあるところの中に入ってもらう。こっちだ」
駿介は研究者と刑務官に連れて行かれ、先ほどの大きな柱に案内される。
「これだよ。今から君にはここに入ってもらう。なぁに心配はいらない」
「何ですか? これは?」
「申し訳ないが、それを教える事はできない。だが、入ってもらう。いいね?」
と研究者が言って、柱についた扉を開いた。
研究者は首で合図し、刑務官と研究員達が駿介を4、5人がかりで、柱の中へ押し込める。
「うわっ! やめてくれ。離してくれ! いやだ。入りたくない。助けて!」
駿介の言葉を聞く者は誰一人いない。駿介は無理矢理、柱の中へ押し込また後、扉は閉まり、完全に中は外の光のない真っ暗な空間へと変わった。
「出してくれ! 出せ! 何だ、実験刑って!?」
研究者は駿介に告げた。
「じゃあ、教えよう。今から行うのは転送だ。転送」
駿介は、研究者の言葉を聞こうとしない。
「何だよ! いいからこの中から出してくれよ!」
研究員は、駿介の言葉を聞かずに柱について説明する。
「これは、今、国家が大々的に行っている研究でね。これが成功すれば、国に大きな利益をもたらす事ができる。君にはその礎だよ」
駿介は、研究者や刑務官の言っている事が理解できなかった。
「えっ?」
「最後に言いたいことはないかね?」
刑務官の顔は常に厳しい。
「はっ?」
駿介は刑務官の言葉は変わらず。
「最後に言いたい事は?」
「出せー!!」
「よし始めろ!」
駿介の柱は大きく宙に浮き、大きな光を放つ。
「うわっ!? 何!? 何だ? 出してくれ!!」
研究者や刑務官達は、サングラスをかけて大きな光から目を防ぐ。研究者が見るパソコンの画面には転送装置の%が表示され、既に数値は100%を超えていた。
柱の揺れと光を駿介を襲った。体が焼き付けるような激痛を感じ、声を上げることもできなかった。
薄らと目を開けながら、手を見ると、中指からゆっくりと砂状になって下へと落ちていくのが分かる。親指で触ると、余計、砂状のように落ちていく。
激痛は依然として襲いかかってきた。
「うわああああ」
今までの過去の過ちを顧みる。
就職失敗した瞬間、殺した相手の苦しむ顔、警察官の取り調べ中の顔、両親の顔、小さい頃に遊んだ記憶。全てが走馬灯の様に思い出す。しかしここは光の包まれた柱の中。激痛が走馬灯の思い出を覚ます。
遂に、駿介の体は両手がなくなり、頭の毛も落ち始め、意識は既になかった。ただただ、柱の中で駿介の体は砂になってサラサラと下に落ちていった。
柱の管理PCからは、危険《danger》の表示が出ていた。
「これは危ない。逃げてください」
「全員退避!!」
研究員達や刑務官達は駿介の入った柱を置いて、逃げていく。数分して、研究所の電源が落ち、光は消える。
―――――――――――
駿介は目を開き、辺りを見渡す。一面が真っ白の空間。
「ここは……」
床も白。すべてが白い世界。
「助かったのか?」
駿介は急いで、手を見た。ちゃんと指が5本ともある。体も五体満足で存在しているのが分かり、胸をなでおろして安堵する。激痛も感じない。
「やった。助かった……でも、ここはどこだ?」
辺り一面が白い事に駿介は疑問を持った。奥のほうへ進んでみるが、誰もおらず、一向に真っ白い世界が広がっているだけ。
「ここはどこなんだ。ずっと続いてる真っ白な世界。一体何だここは!?」
駿介は数分、走り回っていくが、ずっと白一色の世界が一面存在しているだけだった。
「誰か! いないのか!!」
叫んだが、なんか自分の声がこもっているような感覚で聞こえた。しかし駿介の声に反応する者はおろか影すら見当たらない。
駿介が味わっているもの。それは地球とは違う別世界への孤立だった。
《転送装置の失敗》
駿介の頭には、そうよぎった。
「ここはどこなんだ! 助けてくれ!!」
再び駿介は、苦しむ事となる。一人この白い別の世界に居続けるのだから……
―――――――――――
電源が復旧したあとで研究者達は実験室に再び入る。駿介が入っていた柱型の転送装置は、外面が電気によるショートで少々外装が剥がれて、内部の配線が露わになっていた。
研究者は、一つの考えを示した。
「転送装置内での実験対象物が異常な電器分解を起こしたのか!?」
「分かりません。電気分解ではないかもしれません。内部での電気が滞ってショートし、転送装置に以上が起きたのかも……
「いずれにせよ実験は失敗ですね……」
と一人の研究員が呟いた。
研究者達の心の奥底は落胆しかなかった。刑務官の一人は、一人の凶悪な殺人犯を抹消し、仕事が成立しているので満足していた。
そんな心の格差社会が起きてる中で研究室の電話が鳴った。
電話の表示は、《転送装置の着地点A》
「着地点Aからです」
研究者は急いで、電話を取って右耳に当てる。
「はい、もしもし」
『ご苦労様です! こちら着地点の真山です。こちらの転送装置で強い光反応をキャッチしました』
真山が告げた内容が研究者達の目と耳に興味を持たせた。
「本当か!? 転送装置にカメラはあるかね? 中身が届いてるかよく見たいのだが……」
『分かりました』
遠隔用のカメラを起動させて、真山は、着地点の柱にゆっくりと歩く。
「カメラをスクリーンと接続してくれ。大画面で見たい」
研究者の一人が、画面を切り替えた。画面は一本の柱が写っている。映像で観る限り、研究室で駿介が入った柱と同じ設計で同じ色の柱が、置かれている。
真山はゆっくりと歩いて柱を確かめる。
危険性があるため、安全な手袋をつけて柱のドアを握った。
『扉を開けます』
研究者達は集中し、スクリーンに写されるカメラの映像を見入っている。
真山は思い切り扉を開け、中を確認した。
『これはっ!?』
「うわっ!?」
明らかに失敗だった。
柱の中にあるもの。そして真山が持ったカメラに写し出されたもの。それは、砂状の物体だが、それは明らかに人間のもので、色は肌色。小さく、赤や黒、ピンクが混じっている。
映像を見ながら、研究者の一人が呟いた。
「まだまだ実験が必要だな」
実験刑。いつかは、導入される可能性が出てくるかもしれないが、それはずっと遥か未来の事だろうと思う。
もしかしたら、この転送実験だけでなく、新薬投与実験等の高度な危険を伴った実験に囚人が利用される。そんな日がいつか来るかもしれない……
END
はい、いかがでしたか?
今回は、もし死刑に変わる刑で考えるならどういう刑がいいのかな?と感じながら書いてみました。
言い方は悪いですが、「有効活用する」という言葉がずっと脳裏によぎって書いてましたね。
ここまで読んでいただきありがとうございました!